出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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剣を持った修道女ってカッコイイかもって思わされたです

庭師のジュゼッペです。

 

ワシは薄暗い地下牢の中で目を覚ましたです。

 

周りを見回しても窓や明り取りは一つもなく、

 

鉄格子越しに廊下の壁に設けられた燭台からのぼんやりとした明りが差し込んできていたです。

 

ワシは身じろぎしようとしましたが、体中をグルグルに縄で縛られていましたです。

 

ですが、こんな縄などワシにとっては糸と同じです。

 

ワシは両腕に力を籠めると、無理やり縄を押し広げていきましたです。

 

ブチブチブチっと音がして、とうとう縄が引きちぎられたです。

 

ワシは溜め息をつくと上半身を起こして床に座り込んだです。

 

身体中がヒリヒリと酷く痛みましたです。手で顔を触れてみると、毛という毛がチリチリで、皮膚に指が触ると飛び上がるほど痛みましたです。

 

あのジョバンニの旦那の偽物にやられたのだと思い出しましたです。

 

ワシはおもむろに立ち上がると、鉄格子の方に歩いて向かっていきましたです。

 

すると、廊下にいたゴブリン二匹ほどのうち一匹がそれに気づいて、仲間に警告の声を上げたです。

 

ですが、ワシは構わずに鉄格子に両手を掛けると、思い切り力を込めて押し開こうとしたです。

 

慌てたゴブリンどもはそれぞれ剣を抜いたです。一匹がその切っ先を格子越しに突き入れてワシを鉄格子から引き離そうとしたです。

 

ところが、もう一匹が思惑ありげな顔で仲間に何か言いましたです。そうするとゴブリンどもは剣を納め、ニヤニヤしながら腕組みしワシを観察し始めたです。

 

ワシは怪訝に思いましたが、もう一度鉄格子に力を込めましたです。

 

ワシは自分の頭に血が上り顔が真っ赤になっていったのがわかりましたです。

 

口からは声にならない声が上がったです。

 

ところが、驚いたことに鉄格子は一ミリも動かないのです。

 

ワシは一旦手を離し、鉄格子を改めて見ると、あることに驚かされましたです。

 

その鉄格子は普通より倍も太いだけでなく、部品と部品に継ぎ目が見当たらないのです。

 

ワシは鍛冶屋もやったことがあるのでわかりますが、こんなものを作るのには途方もない時間と金がかかるです。

 

ワシはもう一度だけ鉄格子に手を掛けて力を込めました。

 

ですが、やはり結果は変わりません。

 

ワシを見ていたゴブリンどもはやがて堪え切れなくなったように笑い始めました。

 

魔物語なので意味は分かりませんでしたが、ワシを指さしながら腹を抱えて笑うゴブリンどもが口にしているのは侮蔑と嘲弄であることはワシにも見当がついたです。

 

ワシはカッとなって、鉄格子を思い切り叩きながら怒鳴りましたです。

 

「卑怯者のゴブリンどもめ!ワシをここから出せ!それかお前らがここに来てワシと勝負しろ!」

 

しかし魔物どもは相変わらず笑い転げ、涙まで流し始める始末です。

 

「開けろ!開けろ!ワシが怖いのか?コソ泥どもめ!」

 

ワシは怒鳴り続け、鉄格子を叩き続けました。

 

ところが、だんだん息が切れてきたワシが叩くのをやめしばらく口を閉ざしていると、

 

廊下の隅のほうから呼び鈴のような音が鳴ったのです。

 

ワシは何気なくそちらのほうに視線をやりました。

 

廊下の突き当りにあった両開きの引き戸が開き、そこから人影がこちらに歩いてくるのが見えましたです。

 

小柄で、シルエットから女性と見えました。

 

ワシは目を疑いました。

 

それはルクレティアお嬢様だったのです。

 

彼女はしかも右手に抜き身の長剣を持っていました。

 

その顔は緊張のためか青白く、しかし口元は真一文字に引き絞られていました。

 

ゴブリンどもはようやく気付いたのか、二匹とも慌てて剣を抜き放ちました。

 

ルクレティアお嬢様は剣を振りかぶり殺到していきました。

 

そして一匹目の武器を剣先で逸らしバッサリと胴を払うと、二の太刀で首筋を断ち切り、最後に心臓をひと突きにしたです。

 

まるで何年も修行した剣士のような見事な動きだったです。

 

二匹目が喚きながらルクレティアお嬢様に斬りかかりましたです。ですが彼女は上半身を反らして斬撃を躱すと、逆小手を放って相手の獲物を取り落とさせ、狙いすました突きで喉を突き、前蹴りでゴブリンを蹴倒したです。

 

ルクレティアお嬢様は長剣を逆手に持つと、相手の心臓を一気に刺し貫いたです。

 

呆然として眺めるワシの目の前で、二匹のゴブリンが痙攣しながら息絶えていき、ルクレティアお嬢様は服にかかった返り血を気になさりながらもご自分の髪を整えておられましたです。

 

「ご機嫌いかが?男性陣のみなさま」

 

ルクレティアお嬢様は身支度が終わると仰いましたです。

 

「お....お嬢様....」

 

ワシはそう言うのがやっとでしたです。

 

「修道女会は無料の学習プログラムが充実してますのよ。わたくし、『ドナテロ師匠に学ぼう!本格剣術コース』をずっと受講しておりましたの」

 

「ルクレティアちゃん、あんたなの?」

 

ジョバンニの旦那の声が隣の房から聞こえてきたです。

 

「皆さま、今出して差し上げますわ。鍵を探してまいりますから」

 

「待って。たぶん鍵はそこにはないわよ」

 

ジョバンニの旦那がルクレティアお嬢様に仰いましたです。

 

「ルクレティア嬢...よく来てくれた」

 

ラファエロの旦那も意識を取り戻したのか、苦し気な声を上げながらもその隣の房の中から言ったです。

 

「わたくし、こういうのって鍵は大抵番兵が持っていると思いましたわ。もしかして甘かったかしら」

 

ルクレティアお嬢様が剣の刀身を布で拭いながらも心配そうな顔になって仰ったです。

 

「ちがうのよ。鍵式じゃなくって四ケタ番号なのよ、ここの錠前」

 

ジョバンニの旦那がそう言うと、鉄格子の中から手を突き出したです。

 

「ルクレティアちゃん、これ使って?」

 

見ると、ジョバンニの旦那の手から宝玉がルクレティアお嬢様に手渡されましたです。

 

「おじいちゃん、お願い。ちょっと出て来てくれる?」

 

ジョバンニの旦那がそう声を掛けると、宝玉が光輝き、それを持つルクレティアお嬢様の目の前に白いローブを来た老魔法使いの姿が現れましたです。

 

「うん?ここは地下牢か?見たところ王都刑務所とは違う場所だの」

 

老魔法使いは周囲を見回しそう呟いたです。

 

「驚かないで。ここ、なんとヴァルグの城の地下牢なのよ」

 

ジョバンニの旦那が言いましたです。

 

「お主らも無茶しようのう...ま、用事は言わんでもわかるわい。開錠じゃな」

 

メルリヌス殿はそう苦笑いすると、まずワシの閉じ込められている房の前に来られたです。

 

「おじいちゃん、四ケタ番号のダイヤル式なんだけど開け方分かる?」

 

心配そうに尋ねるジョバンニの旦那に老魔法使いが言い返したです。

 

「老いぼれ扱いするな。鍵が四つに増えたに過ぎぬわい」

 

言い合っているうちに小さな金属音がして、ワシの房の鉄格子がゆっくりと開いていったです。

 

ところが、メルリヌス殿はその隣にあったジョバンニの旦那の房の鍵に取り掛かり始めると、途端に声を上げたです。

 

「こんなもの見たことがないわい。一体なんじゃなこれは?」

 

「どうしたのおじいちゃん?」

 

「機構が対魔法素材で密封されておる。内部がまるでわからん」

 

「やっぱりそうだったのね」

 

ジョバンニの旦那が溜め息をついたです。

 

「さっきあたしが自分で開錠しようとしたけど全然できなかったもの。おじいちゃん、ラファエロの奴を先に逃がしてやって」

 

老魔法使いがラファエロの旦那の房の鉄格子を開け、ワシと旦那とルクレティアお嬢様は喜びあいましたが、ジョバンニの旦那だけが出られないとわかってその喜びも半減してしまったです。

 

「あんたたち、あたしはいいから早く逃げて。それからルクレティアちゃん、その宝玉はあんたに預けるわ。あいつらにバレて悪用されたくないから」

 

「待てジョバンニ。皆で考えよう。何か全員で逃げる方法はないのか?」

 

ラファエロの旦那が、ルクレティアお嬢様から受け取った剣を腰に差しながら言いましたです。ワシはといえば、廊下を探し回ったら運のよいことに自分の斧が無造作に放り出してあったのを見つけられたです。

 

「やるだけ無駄よ」

 

ジョバンニの旦那は鉄格子に身をもたせ掛けながら呟くように言われたです。

 

「あんたたち見たでしょ?この城、セキュリティーに掛けてる予算ケタ違いよ。三人逃げられただけでもラッキーじゃない」

 

旦那は溜め息をつくと首を振りましたです。

 

「あたしはいいの。人生やりたいことはまあまあできたし、悔いはないわ」

 

「ジョバンニ...しかし...」

 

「いいから早く逃げて。ここでグズグズしてて見つかったらおじゃんになるでしょ?」

 

「わ..わかった....俺が必ず陛下に救出部隊を派遣するよう要請するからな。それまで耐えてくれ」

 

ラファエロの旦那はようやく折れると、ワシとルクレティアお嬢様の顔を見たです。

 

「三人で脱出しよう。まずは地上に登って...」

 

「わたくしも残りますわ」

 

ルクレティアお嬢様が唐突にそう言われたです。

 

ラファエロの旦那は一瞬言葉を失ってしまった様子でお嬢様の顔を見つめられましたです。

 

「...ル...ルクレティア嬢...今、何て言ったのだ?」

 

「わたくし、ここに残りますわ」

 

お嬢様は目を伏せると静かに仰ったです。

 

「追っ手がかかった状態では女のわたくしは足手まといになりますわ。お二方はわたくしを庇って戦われるでしょう?そうしたらいずれ三人とも包囲されてしまいますわ。それに三人が脱獄し一人だけが残された状態でしたら、敵の怒りはジョバンニさん一人に向いてしまいます。ですが....」

 

ラファエロの旦那が何か言おうとする前に、お嬢様は畳みかけられたです。

 

「わたくしが残ればそれは避けられますもの。男性お二人がここにあるゴブリンの服を着て変装し全力で逃げればチャンスはありますわ。さあ、お急ぎになって」

 

ルクレティアお嬢様はそう仰ると、足元に転がっていた魔物どもの死体から鎧を引き剥がして、ワシとラファエロの旦那に着るよう促し始めましたです。

 

さらにお嬢様は、ゴブリンの血を手に取るとそれをワシらの顔に塗りたくられましたのです。

 

「わたくし、上層階の窓から見ましたら、魔物たちは前庭で全体集会を開いているところでしたわ」

 

お嬢様はワシらの顔を魔物風に整えながら仰ったです。

 

「ああいった集まりでは、お偉方の訓示が終わるまで誰も動けないはずですわ。言い換えれば今が絶好のチャンス、逃す手はないということですわ」

 

支度が終わると、ワシらはジョバンニの旦那とルクレティアお嬢様に別れを告げましたです。

 

「ルクレティア嬢...どうか....」

 

「お嬢様...ご無事で....」

 

「ご心配には及びませんわ。わたくし知りましたの。あのディオさん、わたくしにご執心でいらっしゃいますから、簡単にわたくしを殺させることはしないはずですわ」

 

最後にお嬢様はワシとラファエロの旦那に手を置いて治癒祈祷をしてくださいました。

 

全身の火傷が全快し体に力が漲りましたが、その反面ワシの心は二つに引き裂かれそうに痛かったです。

 

ワシとラファエロの旦那は、お嬢様が入ってきた扉を開けて昇降機に入ると、『①』のボタンを押したです。

 

扉が徐々に閉まるなか、ルクレティアお嬢様はワシらに向かって静かに微笑んでおられましたのです。

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