出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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王都への帰還の途中でとんでもないことを発見してしまったわけで

てなわけで、俺、ラファエロは、

 

ヴァルグの城の地下牢からジュゼッペとともに抜け出した。

 

ルクレティア嬢とジョバンニを残していくのは本当に気掛かりだった。

 

だが、ルクレティア嬢は俺たちの治療を終えると急げと促した。

 

それで俺とジュゼッペは昇降機に乗って一階に昇ったのだ。

 

幸いなことに城の建物内には魔物どもは一匹もいなかった。

 

ルクレティア嬢の言ったとおり、前庭に集合して指揮官の訓示を聞いていたのだ。

 

だが、高い壁で囲まれた城の敷地から脱出するには、前庭を横切らなければならない。

 

俺たちは、変装が見破られないことを祈りながら、遅れてきた振りをして、整列しているゴブリンたちの後ろにさりげなく並んだ。

 

すると、鎧のサイズが合っていない俺とジュゼッペをゴブリンどもがチラチラ見てくる。

 

なにしろ、ゴブリンの鎧は俺にとっては縦のサイズが短かすぎ、ジュゼッペにとっては横のサイズが細すぎるのた。

 

俺たちは必死で平静を装ってはいたが、内心気が気でなかった。もしもバレたら逃げ場はない。

 

だが幸いなことに、訓示を聞いている間は彼らは声を発することさえ禁じられているらしく、

 

結局長々とした訓示の間誰も俺たちを指さして警告を発する者はいなかった。

 

解散が告げられた瞬間、俺たちは人(ゴブリン)込みに紛れて城門を目指した。

 

だがそれと同時に、竜人が剣を抜いて背中の翼を広げこちらに向かって飛来してきたのだ。

 

あの時はもうダメだと思った。ところが、彼は俺たちに目をつけたのではなく、俺たちに気づいてチラチラと後ろを振り返ってきていたゴブリンたちに目を付けたのだった。

 

竜人が剣の平でゴブリンどもを打ち叩いて懲罰を加えている間、騒ぎが巻き起こり、俺たちへの注目が逸れた。

 

それで、俺とジュゼッペはどうにか城門の間をすり抜けて外に出たのだ。

 

だが、城の外にもゴブリンやオークたちは大勢いた。

 

なので俺たちは急いで表通りから外れて茂みに入った。

 

「旦那、どうやら逃げおおせたみたいですな」

 

ジュゼッペが囁いてきた。

 

「まだ安心するのは早い。人間がいる場所まで移動して変装を解こう」

 

俺たちは慎重に藪の間を縫って前進し続け、やがて夕暮れ近くになって寒村に出た。

 

そこは魔物たちではなく人間の集落だった。

 

村中央の水場に行くと、仕事を終えた村人たちがちらほら集まっていた。

 

俺たちが顔についたゴブリンの血を洗い落とし、鎧を脱いでいると、皆訝し気な目で見てくる。

 

間が悪いのを堪え、俺は村人の一人に辻馬車を捕まえられる場所はないかと尋ねた。

 

「辻馬車?とんでもねえ。この田舎にそんなモノは通ってねえですよ、旦那」

 

村人は笑いながら答える。俺は彼に顔を寄せて尋ねた。

 

「相談なんだが、小舟で西に下れる川は近くにないか?その‥‥家が遠いものでね」

 

「ははあ、旦那がた、はては祭りで羽目を外し過ぎたんですな?」

 

村人は面白そうな表情で言った。

 

「まあそんなところだ。仲間は俺たち以外先に帰っちまってね」

 

「そいつはいけねえ。今ごろ嫁さんの頭に角が生えてますぜ」

 

「全くだな。どうだ?小舟屋を紹介してくれたら金は弾むぞ」

 

俺が村人と相談していると、ジュゼッペが心配そうに耳打ちしてきた。

 

「ラファエロの旦那‥‥ワシは一文無しだし、旦那も財布は奴らに取り上げられてるんでは?」

 

「心配ないよジュゼッペ」

 

俺はウィンクした。村人は川魚を取る漁師の家に俺たちを連れていき、俺は彼らと交渉して金貨二枚で古びた小舟を買い取ることにした。

 

俺は舟の場所まで案内させると、靴の底に一枚づつ隠しておいた金貨を彼らに渡した。そして王都方面の本流に出る分岐の場所を教わると、舟に乗り込んだ。

 

「さすが、ラファエロの旦那は抜け目がないです」

 

ジュゼッペは感心した。

 

「よし、二交代で舟を進めよう」

 

既に日は沈み始めていたが、俺は到底休む気になれなかった。残ったルクレティア嬢とジョバンニのために一刻も早く救出部隊の編成を国王陛下に進言しなければならないからだ。

 

俺はジュゼッペと交代で櫂を操り、両岸に葦の生えた小川を下っていった。

 

幸いなことに、頭上に明るい月が昇ってきたので視界は悪くない。静かな川面か櫂で搔き乱され、銀色の波紋を広げてゆく。

 

俺もジュゼッペも殆どしゃべらなかった。

 

ジュゼッペが櫂を操るときは俺は周囲を警戒した。だが、自分の番になったときは俺はジュゼッペを休ませた。長丁場になるからだ。

 

ジュゼッペのイビキを聴きながら、俺は櫂を漕ぎ続けた。

 

あれほど悩まされた彼のイビキが今は心地よく聞こえる。

 

俺はまた、頼んでもないのにルクレティア嬢がしてくる頭の痛くなるような法律の講義や、目玉の飛び出るような値段の食材ばかり使うジョバンニの贅沢癖をも、懐かしく思い出した。

 

いま彼らを見捨ててしまったら、もう二度とあの日々は戻って来ないのだ。ルクレティア嬢の要らぬ指摘をスルーしたり、予算を巡ってジョバンニと口喧嘩したりする日々は。

 

俺は、庶務騎士団というものが自分にとってどれほど重要なものだったのかを今更ながら痛感した。

 

数時間が経過しただろうか。川幅が徐々に広くなっていることがわかる。

 

それにつれて川の流れが次第に緩やかになっている。本流に近づいているのだろうか。

 

ジュゼッペは腕を枕に気持ち良さそうに寝ている。俺は少し迷ったが、あまり根を詰めると自分も持たないので、彼を起こすことにした。

 

「ぐおおおお‥‥スピッ‥‥‥‥ぐおおおお‥‥ですのですのです‥‥」

 

「おい、ジュゼッペ。交代だ。起きてくれ」

 

「ぐおおおおお‥‥‥‥お?‥‥‥‥旦那。もう朝ですのです?」

 

寝ぼけたジュゼッペが目を擦る。

 

「まだだが、夜明けは近いはずだ。かなり進んだぞ」

 

「さすがラファエロの旦那。ワシばかり寝ていて申し訳ないです」

 

ジュゼッペがムクリと起き上がって櫂を握った。俺は入れ替わるように横になると、首を曲げて白み始めた東の空を眺めた。

 

ルクレティア嬢。ジョバンニ。必ず助ける。俺はそう念じながらいつしか眠りに落ちていった。

 

* * * * * *

 

「旦那、起きてください。ラファエロの旦那」

 

俺はジュゼッペに揺さぶられて目を覚ました。

 

寝入ってから一時間ほどしか経っていないようだ。太陽は昇っているが、まだ肌寒い。舟は川岸に接岸して停まっている。

 

「どうした?何かあったか?」

 

俺がそう言って身体を起こそうとすると、ジュゼッペは慌てて俺を押さえつけた。

 

「旦那、お静かに」

 

庭師は珍しく深刻な表情をして、人差し指を口の前に立てる仕草をした。

 

そして彼は、今度はその人差し指を葦の繁った川岸の向こうに向けた。

 

だが葦に視界を遮られ何も見えない。俺はジュゼッペの顔を見た。彼は人差し指で、もう少し左、と合図した。

 

葦の間に目を凝らすと、二十メートルほど先に木立に挟まれた小道があるのがわかった。

 

そこから足音が聞こえる。何者かが歩いているのだ。いや、何者かの群れだ。

 

その者の姿がやがて目に入ってきた。周囲の枯れた葦に溶け込んで最初は見えづらかったのだ。

 

それは二本足で歩いてはいたが、姿は完全にトカゲかワニに見えた。

 

それが列をなして小道を移動しているのだ。彼らは手に手に粗い造りの槍や棍棒を持ち、

 

中には金属製の鎧や兜を身に着けている者たちもいた。

 

「リザードマンだな」

 

俺はジュゼッペに囁いた。

 

異形の怪物たちの行列は長く続いている。やがて腐った沼のような彼らの体臭までがこちらに漂ってきた。

 

「ワシは初めて見るです」

 

「奴らは主に水辺に棲んでいるんだ。一匹の戦闘力は大したことないが、それにしてもえらい数だな」

 

俺はジュゼッペに答えながら目を凝らし、奴らの向かう先を確かめようとした。

 

小道は向こう側にカーブして川から離れていっている。

 

奴らの進軍は止まらない。俺は目を凝らしながら、川の流れとヴァルグ城の門前から西に伸びる街道の位置を頭の中で重ねて呟いた。

 

「あいつら街道に向かってるな」

 

「でも....奴らが水辺の魔物だとしたら、どうしてわざわざ慣れた住処から離れるのです?」

 

ジュゼッペが言う。

 

「ああ。普通ならあり得ない。しかも重武装だ。まるで戦さに出かけるみたいだな」

 

俺はそこまで言ってから、あることに思い至って急に背筋が寒くなった。

 

昨日まで捕らわれていたヴァルグ城には、ゆうに二千は超えようという数のオークやゴブリンたち、さらにはトロルどもまでが集結していたのだ。

 

そもそも一か所にそんな兵力を集めているという時点で異常事態だったのだ。

 

しかも、その集めた勢力を整列させて指揮官による訓示まで行っていた。

 

これは............何かが起こる。それも、あと数日のうちに。

 

「......まさか」

 

俺は思わず呟いた。

 

「まさかヴァルグ城の連中と合流する気じゃないだろうな」

 

ジュゼッペが目を見開いた。

 

「合流です?」

 

「街道だ。もしあの水蜥蜴どもが街道に向かっているのだとしたら......ヴァルグ城の主力が街道を南西に進むと同時に、ああいった魔物どもが合流していく、という寸法じゃないか?」

 

俺は言葉を切った。その先を口にするのが、怖かったからだ。

 

ジュゼッペが顔を上げた。

 

「旦那.....つまりあいつらは.....」

 

「........王都に攻め寄せる気だ」

 

俺はためらいながらも口を開いた。ジュゼッペは黙り込んでしまった。

 

俺たちはリザードマンの群れが通り過ぎるまで待った。しばらくして魔物どもの姿が消えると、俺はジュゼッペに舟を進めるよう言った。

 

川幅は広く水量も増している。数時間ほど舟を進めると、両岸の風景が変化してきた。荒涼とした葦だらけの河原から、それなりに整備された田園の中を流れる河川の風景に変わりつつある。

 

俺はジュゼッペから櫂を引き取って漕ぎ始めた。僅かな時間しか眠っていなかったが、到底これ以上眠る気にはならない。

 

するとジュゼッペは、岸に舟を停めるよう俺に言った。彼は斧を持って岸に上がると、畑を掘り返し、土くれを両手に持って戻ってきた。

 

「見てください、旦那。こいつが役に立つのです」

 

彼の両手を覗き込むと、ミミズやら芋虫やらがウネウネと動いている。

 

俺が顔をしかめるのも構わず、彼はそれを舟の底にあけて、再び舟を進めるよう俺に言った。

 

俺が櫂を操りながら見ていると、ジュゼッペは服のほつれから作った糸とベルトの金具を使って釣り糸を造り、その先端にミミズをつけて水面に垂らした。

 

やがて彼は川魚を釣り上げた。俺はこの男の器用さに心底驚いた。

 

「待っててください。旦那の分も確保するです」

 

ジュゼッペは軽く鼻歌を歌っている。俺はどんな場合にも自分のペースを崩さない彼を少し羨ましく思った。

 

やがてジュゼッペは数匹の魚を釣り上げた。俺たちは川岸に舟を止めると焚火を起こし、魚を炙って食べた。時刻はもう夕方だ。

 

焚火の火が夕暮れの風に揺れる。俺たちは黙々と食事した。

 

「バター焼きならもっとうまいのですがな。残念です」

 

ジュゼッペがぽつりと呟いた。

 

「まあいいさ。王都に戻ったらご馳走してくれ」

 

俺は火を見つめながら少し笑った。焚火の火がゆっくりと小さくなっていく。

 

食事が終わると俺たちはまた出発した。今度は夜半までジュゼッペが櫂を握り、俺は途切れ途切れの睡眠を取った。そして交代すると、月が昇るなか俺が舟を漕いだ。

 

ジュゼッペが寝息を立てる中、俺は一心に櫂を操った。水の流れがあるからさほど漕がなくとも舟は進む。だが、ルクレティア嬢とジョバンニのことを思うと気が逸った。

 

夜通し櫂を漕ぎ続けると流石に疲労が溜まった。だが、もはや川は王都に向かう本流に入ったことが明らかだった。滔々と流れる水の中、時折出くわす橋の橋桁に衝突しないよう気を付けながら櫂を操っていると、やがてジュゼッペが目を覚ました。

 

再び交代して舟を進める。ジュゼッペが櫂を操っている間に夜が明けた。俺が何気なく前方を見回していると、奇妙な風景に気づいた。両岸に広がる田園にポツポツと建つ家から煙が昇っている。

 

そしてその家の周辺には蠢く人影があった。目を凝らす俺の脳裏に危険信号が鳴った。

 

「ジュゼッペ!伏せろ!」

 

俺はジュゼッペに言った。庭師は何事かと驚いた顔をしたが、俺は彼の腕を掴んで強引に身を低くさせた。

 

舟の縁からそっと顔を上げて村落のほうを見ると、家々の周囲にいるのは魔物どもだった。ホブゴブリンだ。ゴブリンより体格が大きい。

 

彼らは家の扉を蹴破ったり、納屋から財物を運び出したりしていた。夜明けの空に魔物どもの哄笑が響く。

 

俺たちは見つからないようひたすら身を縮めていたが、やがて獲物にあぶれたらしき数匹の魔物どもが小舟に気づいた。

 

奴らは喚き声を上げながら川沿いを走って追いかけてくる。何匹かが矢を放ってきた。幸い腕が悪く、矢は届かなかった。

 

だが俺はジュゼッペの手から櫂を取ると、全速力で舟を漕いだ。

 

ジュゼッペが顔をしかめた。

 

「旦那、あのぶんだと....村人たちは....」

 

「わからん。だがあの様子じゃ....」

 

略奪の騒音が遠くなっていく。俺はもう一度、煙を上げる村落を見やった。

 

「もう始まってたんだ。奴らにとっては前祝いってところだな」

 

俺はジュゼッペに櫂を渡すと、忌々しげに呟いた。

 

「旦那、急ぎましょう。王都までどれくらいです?」

 

「わからん。だが市街地が見え始めたら近い」

 

数時間ほどジュゼッペが漕ぐと俺たちは再び交代し、ジュゼッペが魚を釣り上げ、川岸に舟を止めて食事をし、また出発した。

 

結局、そこから二昼夜ほどかけて舟を進めると、やっと俺たちは王都に辿り着いた。

 

俺たちは川岸に舟を乗り捨て、大通りで辻馬車を捕まえて王城に急行した。

 

王城の門を通ると顔見知りの衛士たちが声をかけてきた。

 

「ラファエロさん!」

 

「無事だったんですか?」

 

「ああ、何とかな」

 

俺は衛士たちの顔を見まわした。

 

「急ぎ報告があるんだ。陛下は今おられるか?」

 

衛士たちの表情が曇った。

 

「それが....」

 

「おられるといえばおられるのですが、ここのところ会議ばかりで....」

 

俺は首を振った。もはや事態は会議どころではないのだ。俺はジュゼッペと頷き合うと城の建物内に入っていった。

 

会議が開かれている大広間の前に立つ衛士たちに声を掛ける。

 

「済まない。緊急の報告事項だ。陛下にお目通りしたい」

 

「ダメです。一般職員レベルでは会議中の出入りは許可されていません」

 

「緊急事態なんだ。一刻を争う」

 

「いいえ、許可できません。規則です」

 

ジュゼッペが苛立った表情で前に出た。

 

「すまんが、道を開けて欲しいです。もし開けないなら無理にでも開けさせてもらいたいです」

 

「よせ、ジュゼッペ」

 

俺は慌てて庭師の肩に手をかけて下がらせた。

 

その時だった。

 

「ラファエロさん!ジュゼッペさん!」

 

誰かが廊下の向こうから声をかけてくる。

 

見ると、調理助手のフレデリコだった。

 

「フレデリコ!」

 

「良かった!二人とも無事だったんですね!」

 

フレデリコは走ってくると、俺とジュゼッペの肩に手をかけ、涙ぐみながら俺たちの顔を見た。

 

「済まん。フレデリコ。ジョバンニとルクレティア嬢は.....」

 

俺が言うと、フレデリコは憂い顔で首を振った。

 

「ジョバンニさんがまだ捕まってるのは知ってます。でも....」

 

少年は顔を上げた。

 

「でも聞いてください。ルクレティアちゃんは無事に戻ってきたんです。今自宅で療養中です」

 

「本当か!」

 

俺は声を上げ、ジュゼッペと顔を見合わせた。この状況下で唯一の良いニュースだ。

 

「フレデリコ、相談がある。王陛下に給仕するとき、メモか何かを渡してもらいたいんだ。至急報告したいことがある」

 

「わかりました。任せてください!」

 

フレデリコは元気よく答えた。

 

だがその時、ハイヒールが床を打つ音と共に近づいてくる者があった。

 

顔を上げると、レティシア嬢がこちらに歩いてくる。

 

「ラファエロ主任、無事だったのですね」

 

彼女は俺の前で立ち止まると、俺の恰好を眺めまわしながら言った。

 

「どうにか生き延びました。だがジョバンニは敵に捕らわれたままです」

 

俺はそう言うと彼女に向き直った。

 

「ジョバンの救出のため、王陛下に救出部隊編成を進言したい。それだけじゃない。あと数日のうちに王都に向かって....」

 

「ラファエロさん、あなたの自宅謹慎処分は解かれてはいませんよ。ジュゼッペさん、あなたもです」

 

レティシア嬢は冷たく答えた。

 

俺は一瞬意気を削がれたが、辛うじて答えた。

 

「レティシア嬢、それどころじゃあないんだ。緊急事態なんだ。早く王都の防備を固めないと....」

 

「聞こえませんでした?自宅謹慎に戻って下さい。謹慎破りは更なる処分を招きますよ」

 

彼女の返答に俺は言葉を失った。大広間の戸口に立つ衛士たちを見ると、肩をすくめている。

 

俺は溜め息をつくと考えた。こうなったらフレデリコだけが頼りだ。俺は声を上げた。

 

「いいか、あと数日のうちにヴァルグの軍勢が王都に向かって進軍してくる。その本体は二千は下らない。それに各所からの別動隊が合流しつつある。俺とジュゼッペはこの目で見たのだ」

 

レティシア嬢は眉ひとつ動かさない。俺は続けた。

 

「俺はこのことを今伝えた。いいか、これを聞いた君たちにはそれぞれ責任が生じる。そのことを忘れるな」

 

俺は踵を返すと、ジュゼッペに合図した。俺たちは王城の建物から出た。

 

「旦那....ワシら、もう完全に蚊帳の外ですな」

 

「まだ諦めるには早いぞ。なんとかしなきゃならん」

 

苦笑まじりに言うジュゼッペに俺は答えた。

 

「旦那、ワシには考えがあります」

 

ジュゼッペが思いついたように言う。俺は庭師を見た。

 

「考え?なんだ?」

 

「旦那、ワシの仕事は庭を造ることです。だから......」

 

その時、城の建物の扉が大きく開かれ、身なりの良い壮年の紳士が出てきた。

 

「ラファエロくん、ジュゼッペくんだな?」

 

紳士が声を掛けてくる。俺たちが振り向くと紳士は真っすぐこちらに歩いてきた。どこかで見たことのある顔だ。その後ろにフレデリコが付き従っている。

 

「私はディアナ伯爵だ。よく戻ってきてくれた」

 

俺たちは慌てて膝を曲げ挨拶した。ディアナ伯爵は俺たちに顔を寄せると小さな声で言った。

 

「ヴァルグ城の軍勢は私も見た。だから私は君たちの話を信じる.....だがこの国は外側だけでなく内側にも大きな問題を抱えている」

 

俺が怪訝な顔をして伯爵の顔を見ると、彼はこう言った。

 

「貴族会議の多数派がヴァルグとの和解を試みようとしているんだ」

 

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