てなわけで、俺、ラファエロは、
庭師ジュゼッペとともに王都の入り口であるアッピア街道の起点に陣取って作戦を練った。
時刻は夕方が近づいていた。街道の続くはるか遠くの北西方向を見やると、真っ黒い魔物どもの群れがゆっくりと進軍してきている。
作戦が決まると、俺は食事を届けに来てくれたフレデリコに声を掛けた。
「フレデリコ、もう行くんだ。あとは俺たちに任せてくれ」
「でも...ラファエロさん、ジュゼッペさん...ボクは...」
少年は言葉に詰まっていたが、やがて口を開いた。その目には涙がいっぱいに溜まっていた。
「ボクはもう一度来ます。食事を届けに。だって、戦ったらお腹が空くでしょう?」
「確かにその通りですな」
ジュゼッペが笑った。
「じゃあ....二人とも、ボクがまた来るまで絶対に生きててくださいね?約束ですよ?」
「わかった。それと頼みがある。国王陛下にジョバンニの救出を要請したいんだ。折りを見て伝えてほしい」
俺は少年に頷くとこう言った。すると彼はこう答えた。
「それは大丈夫です。もうディアナ伯爵が陛下に言いましたから」
「そうか....。陛下はなんと?」
「ただ頷かれただけで何とも....でも何かお考えがある様子でした。でも、ボクからももう一度言ってみます」
フレデリコはそう言うと、踵を返して王城のほうへ駆け出していった。
俺は彼の後ろ姿を見送ると、ジュゼッペと肩を並べて改めて敵軍のほうを観察した。
「あのペースだとここに到達するのは明日の午後か明後日ですな、旦那」
「本体はそうだろうが、もしかすると先遣隊を送ってくるかも知れない。残り時間は少な目に見積もっておいたほうがいいぞ」
ジュゼッペに対し俺は答えた。
「ならすぐに取り掛かりますです」
庭師はそう言うと、盛大なゲップをしてから足元にあったツルハシを拾い上げた。
「手伝うことはあるか?」
「なあに、ワシにとっては朝飯前です。旦那はゆっくりと休んでいてくださいです」
庭師は坂を下りていきしばらく歩くと、凄まじい勢いでそこらじゅうに穴を掘り始めた。まるで巨大モグラだ。
そうこうしているうちに、街道の三か所に馬車を丸ごと入れられそうな大穴が完成した。
「これで進軍を遅らせるわけだな?」
俺が声をかけると、庭師は額の汗を拭きながら答えた。
「それもありますが、もう一つの仕掛けに使うです」
彼はそう言うと、スコップを使って街道の坂道に広く浅い溝を三つほど掘り始めた。
「もう一つ?」
「それはあとのお楽しみです」
やがて作業が終わって一休みすると、ジュゼッペはそれまで掘り返した土を坂道の上り口の左右に積み上げ始めた。坂道を降りた場所が、ちょうど隘路のような形になり、馬車一台がやっと通れるくらいの広さになっていった。
ところが、街道の向こうから馬車が一台のんびりと走ってくる。
「いったい全体なんだってんだ?こんなところに大穴を開けやがって!」
馬車が速度を落として穴を迂回しながら進んできた。気の荒い辻馬車の御者が路面を見ながら罵声を上げている。
「すまない。今工事中なんだ。明日か明後日には終わる予定だ」
馬車が近づくと俺は声をかけた。
「まったくこっちの身にもなれってんだ。埋蔵金でも探してんのか?」
「まあそんなところだ。見つかったら一杯奢るからそれで勘弁してくれないか?」
俺は御者を宥め、走り去る馬車に手を振った。ところがジュゼッペの姿を探して何気なく坂の上を見たとき、俺は肝を潰すほど驚いてしまった。
崖状になった坂の上の縁に、直径五メートルはあろうかという巨石が二つほど置かれている。見ていると、ジュゼッペは唸り声を上げながら、もう一つの巨石を持ち上げて運んでいるところだった。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫です、旦那。これで最後です」
庭師は大きく息をつくと答えた。既に日は暮れかけている。
俺とジュゼッペは崖の上に陣取ると、焚火を焚いた。フレデリコの置いていったワインの栓を開け、二人で回し飲みした。
「旦那、明日は長い一日になりそうですな」
「そうだな」
庭師に俺は答えた。すると彼は珍しくしんみりした口調でこう言った。
「ワシの唯一の気がかりは息子のことです。あれはワシを嫌って家を出ていきましたです。きっと今でも.....」
「嫌う?それは君の思い過ごしじゃないのか?反抗期の少年が親に生意気な態度をとるのはよくあることじゃないか」
俺が言うと、ジュゼッペは溜め息をついた。
「ワシは.....女房が病気になった時、何もしてやれなかったです。文字も書けず学もないワシは、女房を医者に連れていくための金策もできなかったです。息子はそんなワシを見てきっと軽蔑したに違いないです」
俺は答えに窮したが、やがて庭師の肩を叩いてこう言った。
「人は皆完璧じゃあない。だけど、しばらく君から離れて暮らすことで君の息子が君の背中の大きさに気づく日がきっと来る。それに君は王国を守る戦いを何度も戦い抜いたじゃないか」
「ワシの背中は....女房を背負うことができなかったです。そのワシに王国の安全を背負うことなどできるのでしょうか?」
俺は彼の顔をしばらく見つめていた。庭師はじっと焚火を眺めていて、その双眸に揺れる炎が映っている。
「もちろんさ。そもそも俺一人では何もできない。せいぜい魔物を十匹かそこら倒すのがやっとだろう。だが君さえいてくれれば....」
そこまで話したところで、俺は誰かの視線を背中に感じた。
俺はジュゼッペに顔を寄せて小さな声で囁いた。
「誰かがこっちを見てるみたいだな。気づかれないように後ろを観察してくれないか?」
庭師は驚いた顔をしたがすぐに頷いた。
彼はさりげなく俺の背後に視線をやったあと、こう囁き返してきた。
「向こうにご婦人が立っていますです。ワシらのほうをずっと見てるです」
「ご婦人?歳の頃は?」
「薄暗くてよく見えませんが...」
俺は少し考えたあと一計を案じ、大きな声で庭師に言った。
「ちょっとワインを飲み過ぎたみたいだ。小便に行ってくる」
俺は立ち上がると、後ろを見ないようにして街道の横の木立に入った。
そこで木の背後に回ると、静かに木の幹の陰から顔を出しジュゼッペが見ていた方角を見やった。
中背の女性が、俺たちが座っていた場所から二十メートルくらいの場所に立っている。
手元に手帳のようなものを持ってしきりにメモを取っている様子だ。その足元には、動物の入っているらしき籠のようなものが置いてある。
俺は木立の中を大きく迂回すると、女性を見失わないようにしながら街道の王都方面に回り込み、それから距離を詰めていった。
すると、女性はメモを取る作業を終わったらしく、手帳から紙を破り取ると、それを畳んで丸め始めた。
俺は木立から飛び出すと走って距離を詰めていった。すると、気づいた女性が鋭い悲鳴を上げて身を守る仕草をした。
「驚かして済まない。だが君は一体ここで何を...」
そこまで言ったあと、今度は俺が驚く番だった。
なんと女性は総務課主任のレティシア嬢だったからだ。
「レ...レティシア嬢?」
俺は信じられない思いで呟いた。背後からは、斧を持ったジュゼッペも駆け寄ってきたが、彼女の姿を見ると息を呑んで立ち止まった。
「わ...私は何もしていないわよ。勘違いしないで」
彼女は顔を逸らすとそう言った。俺は彼女に歩み寄るとその足元にあった籠に視線をやった。どうやら蝙蝠が入っているようだ。キーキーと鳴く声が聞こえる。
「武装なんかして私のところに来てどういうつもり?だいたいあなたたちはまだ謹慎処分中のはずよ?」
「それは認める。だがレティシア嬢、あなたこそ我々を観察していたのはどうしてなのだ?」
彼女は何も答えない。すると、ジュゼッペはおもむろに籠の蓋に手をかけてそれを開け放ってしまった。蝙蝠は鳴き声を上げながら飛び出し、夕暮れの空に飛び去ってしまった。
「ちょっと、何をするのよ!」
レティシア嬢が叫んだ。
「動物を狭い籠に閉じ込めておくのは可哀そうですです」
ジュゼッペが平然と答える。レティシア嬢は怒りに顔をゆがめた。
「でもあれは私の大事な伝令....じゃなかった、ペットなのよ!どうしてくれるのよ!」
「もしも愛情を注いでいることが伝わっていれば、動物はいずれ戻ってくるです」
二人が言い合っているところに俺は割って入った。
「レティシア嬢...考えたくないことだが、ひとつ聞きたい。君はヴァルグと通じているのか?」
するとレティシア嬢は忌々しそうな表情で答えた。
「さあ、ご想像にお任せするわ。でもあなたたちのやっていることは最初から無駄なのよ。始まりからして、たった四人だった。今ではたった二人よ?どうやって魔物に立ち向かうっていうの?」
ジュゼッペは斧を握り直すとこう言った。
「二人でもやるです。誰もやらないなら、ワシらだけでも。覚悟はできてるです」
レティシア嬢は鼻で笑った。
「覚悟?覚悟で軍勢が止まるなら苦労しないわ。もうすぐ一万の魔物がここに押し寄せるのよ。あなたたちの穴掘りや石積みなんて、子供の遊びにしか見えないわ」
「遊びかどうかは、明日になればわかる。だがその時が来るまで余計な真似はしないでもらいたい」
「私を脅す気?」
彼女は俺を睨んだ。
「俺は剣士だが人間に危害を加えたことは一度もない。ただ、君がヴァルグに何かを報告するなら実力で阻止せざるを得ない。そんなことはしたくないが....」
「お笑い種ね。あなたたちはどうせ明日死ぬのよ。この国はヴァルグ様のものになる。そうなればこの私は....」
「本当に残念だのう」
その時、聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
なんと、そこに立っていたのは国王陛下だった。
俺とジュゼッペは少しの間呆気に取られていたが、我に返ると慌てて跪いた。
「よいよい、畏まらんでも。寛いでいてくれ」
陛下はそう言うと、レティシア嬢に向き直った。
「長い間働いてくれてご苦労だった。退職金はあとで明細を送るからのう」
レティシア嬢は目を丸くしていたが、やがてその口からヒステリックな笑いが漏れ始めた。
「退職金…? 私を追い出すつもり?」
レティシア嬢は笑いながらも、声が震えていた。
「私はヴァルグ様に選ばれたのよ! この国が滅びても、私は新しい秩序の中で生き残るのよ」
彼女の笑いはやがて悲鳴に変わっていった。レティシア嬢は半狂乱の様子で叫びながら街道の闇へ走り去っていった。
「しばらく内偵しておったのだが....思った通りじゃった。これも儂の不徳の故じゃ」
陛下はしばらくその背中を見送りながら誰にともなく呟くと、やがて俺たちに言った。
「ラファエロ、ジュゼッペ。お前たちの覚悟は聞いた。だがお主らだけにこの重荷を背負わせはしない。儂は必ずや主力軍を編成しここに戻ってくる」
そう言うと陛下は俺とジュゼッペの肩に手を乗せた。
「だから、ほんの一日。いや、半日の間、持ちこたえてはくれぬか?無茶を言っているのは承知の上だが」
俺とジュゼッペは顔を見合わせると、微笑んで陛下に頷きかけた。
* * * * * * * * *
陛下が立ち去ったあと、俺とジュゼッペは交代で睡眠を取った。焚火に薪をつぎ足しながらジュゼッペのいびきに耳を傾けていると、夜風が心地よく顔を撫でていく。ジュゼッペは夜明けよりだいぶ早くに目覚めてくれた。
「ふわあああ....随分よく寝かせてもらったです」
「君は昨日重労働をしたから当然の報酬だ。じゃあ、ちょっと俺も寝かせてもらうぞ」
俺が横になると、ジュゼッペは身体を起し、斧を手に敵陣のほうを眺め始めた。
遠くからかすかに、鬨の声と太鼓の音が聞こえてきている。距離が縮んでいるのだ。
「旦那、気にせず寝ててください。なんならワシ一人で最初の千人くらいは相手しますですから」
庭師が冗談めかして言うのを笑って聞き流すと、俺は浅い眠りに入っていった。
俺は眠りの中で、遠くの太鼓の音を夢のように聞いていた。
だが、やがてその音は夢ではなく現実のものとなり、次第に近づいてきた。
鳥の鳴き声と夜明けの風に混じって、魔物の鬨の声がはっきりと響いてくる。
「旦那....旦那....起きるです」
ジュゼッペの声で目を覚ますと、夜は既に明けていた。
崖の向こう、街道の遠方に黒い影が動いている。
先遣隊だ。数百の魔物が、こちらに向かって進んでくる。
俺は身を起こすと剣を抜いて刀身の状態を確かめた。
「庭仕事の続きを頼むぞ」
刀身に問題がないことを確認すると、俺はニヤリと笑って庭師の顔を見た。
「任せるです」
ジュゼッペもニヤリと笑う。
俺は坂を下りてジュゼッペが隘路に造り変えた場所に立った。
街道の先を見据えながら待つ。やがて一時間もしないうちに、敵の先遣隊の姿がはっきりと見え始めた。俺は剣を抜くと身構えた。
遠くから、調子をそろえて足を踏み鳴らし行進する音が聞こえてくる。
目を凝らすと、どうやらオークたちだ。手に手に武器を持ち、黒光りする甲冑に身を固めている。
ふと空を見上げると、蝙蝠のような大きな翼を広げた人型の魔物が三匹ほど上空を旋回している。昨日会議の間に現れた鱗男と同種の魔物のようだ。
しかし、そこで俺は異変に気付いた。
オークの先遣部隊の背後に別の集団がいる。
次の瞬間、その集団のいる場所から何かが空中に打ち上げられるのが見えた。
俺は反射的に叫んだ。
「ジュゼッペ!隠れろ!」
俺は急いで街道の左右に積み上げられた土の壁の後ろに回り込んで身を低くした。
思った通りだ。空中を高速の矢が切り裂く音が近づいてくる。
土の壁の隅からそっと顔を出すと、大量の矢がこちらに飛来してきているのが見えた。
目の前の空が暗くなるほどの数の矢だった。
俺は慌てて顔を引っ込めた。
その刹那、矢が地面に次々と刺さり始めた。矢が突き刺さる音が雨のように続く。
「ジュゼッペ!大丈夫か?」
「問題ないです!」
庭師に呼びかけると返事が聞こえてきた。どうやら崖の上の巨岩の後ろにいるようだ。
矢の雨が続いている間、俺は土の壁の後ろでひたすら身を縮めていた。
だが、矢の攻撃は突然途切れた。その刹那、オークどもが雄たけびを上げるのが聞こえてきた。
もう一度土の壁の縁から顔を出すと、オークの先遣部隊が突撃し始めているのが見えた。距離はもう百メートルもない。
俺は緊張に荒くなる呼吸を必死で鎮めると、立ち上がって隘路の真ん中に立ち、剣を高く掲げた。
「来るがいい!魔物どもめ。ルーラル王国が大人しく貴様らの支配に服すると思ったら大間違いだぞ!」
俺は声の限りに叫んだ。オークどもは我さきに突進して来る。距離が縮み、その先頭にいる何匹かが嗜虐と略奪への期待に歪んだ笑みを浮かべているのさえ見えてきた。
「庶務騎士団はまだここに生き残っているぞ!来い!いざ太刀を交えん!」
俺はそう言うと、剣を両手で上段に構えた。
敵の先頭集団との距離がみるみる縮む。
やがて彼我の距離が十メートルを切った。
その時だった。
「旦那!今です!」
庭師の叫び声が聞こえた。
俺は身を翻して退避すると土の壁にぴったりと身を寄せた。
ジュゼッペの叫び声とともに、崖の上の巨石が地響きを立てて坂道に落下する音が聞こえた。
巨石が街道の真ん中を転がる。俺の目の前まで到達したオークの先陣が三匹ほど、岩を避け損ねて轢き潰されるのが見えた。
再び庭師の唸り声が聞こえる。二つ目の巨石がドスンドスンと音を立てて転がっていく。
後続のオークたちの悲鳴が聞こえる。跳ね飛ばされたか轢き潰されたらしい。
「これで最後です!」
庭師が叫んだ。さらにもう一つの巨石が街道に落下した。
最後の巨石が目の前を転がっていき、再びオークどもの断末魔の叫び声が響く。
それと同時に俺は隘路の真ん中に飛び出した。
目の前にはオークの死体がそこらじゅうに転がっている。庭師が転がした三つの巨石は、彼が街道に掘っておいた三つの穴にぴったりと嵌っていた。
辛うじて巨石の直撃を避けた生き残りが五・六匹、うろたえながら周囲を見回している。
俺は手近にいた一匹に走り寄るとその首を刎ねた。
ようやく我に返った連中が手に手に武器を構える。
だが俺は立ち直る暇を与えず、右端にいたオークに殺到し、相手の刀を剣で叩いて逸らすとその胸を刺し貫いた。
側面から新手が来て刀を払ってくる。俺が身を沈めると、そいつの刀が今しがた心臓を貫かれた個体の首筋に当たった。黒い血が飛び散る。
俺はもはや死体となったオークから剣を引き抜き、味方に誤爆した新手の胴体を逆袈裟斬りで払った。さらに身を回転させもう一度胴払いを掛けると、前蹴りで蹴倒した。
完全に立ち直った生き残りが三匹同時に襲ってきた。
俺は辛うじて身を反らしてその先頭の斬撃を躱すと、下から内小手をかけて手首に深手を与え、腹に深い突きをくれた。
だが二匹が左右から斬りかかってくる。避けられない。俺は咄嗟に後ろに倒れ込んだ。
二匹が払った刀が互いにぶち当たって火花を散らした。敵が一瞬戸惑った隙に俺は片手を突いて立ち上がりざま剣を払い、一匹の足首を切り裂いた。さらに返す刀で脛に斬りつけた。
だが無傷のほうの一匹が我に返り、武器を振りかぶりながら向かってくる。辛うじて膝立ちになり、長剣を掲げ相手が振り下ろす刀を受けた。だがそいつは全体重を刀にかけてくる。オークの血走った目と舌なめずりした口が目の前に迫る。俺は咄嗟に左手を手刀にすると相手の目を思い切り突いた。相手が怯んだ瞬間に長剣の柄でその顎を打ち、こめかみにもう一打を加える。
だが片足に深手を与えたほうの個体が、足を引き摺りながら刀を振り下ろしてきた。俺は横に転がった。さっきまでいた地面に刀が振り下ろされる。
俺は息を整えて立ち上がった。長剣を振り上げ目の前のオークの肩口に左右袈裟斬りを放つ。さらに頭上で剣を回してその首を刎ねた。
だが最後の一匹が打撃から立ち直り突進してくる。俺は辛うじて半身になり相手の突きを回避すると、その腕を抱え込んで足払いをかけた。倒れたところで鎖骨目掛けて踵蹴りを放つ。骨が折れる嫌な音がした。だがオークはこれくらいで怯む種族ではない。
俺は身を引いて相手が立ち上がるのを待つと、渾身の胴払いをかけ、袈裟斬りで深手を与えた。さらに拝み打ちで頭頂部を撃った。ふらついたところに胸に突きを入れると、ようやく相手は倒れた。
俺は息を整えながら戦況を確認した。三つの巨石が目の前を塞いでいる。
巨石と巨石にある隙間から向こう側が見えた。まだ数え切れないほどのオークの群れがいる。だが、その群れは悲鳴を上げながら逃げまどっていた。
その時俺はふと空を見上げ、目に入った光景に驚いて言葉を失った。
直径一メートルほどの岩が空を飛んでいる。
その岩は、街道の塞がれた箇所の向こう側に派手な地響きを立てて落下すると、勢いよく転がって数匹のオークを巻き込んだ。
庭師が唸り声を上げるのが背後から聞こえる。また一つ岩が空中を飛んでいき、オークの群れのただ中に落ちていった。
魔物たちの怒声、断末魔の声、逃げまどう悲鳴が混然一体となって空に響き渡る。
「旦那!もう少し持ちこたえてください!」
ジュゼッペの声が聞こえた。
前方を見ると、それでも生き延びたオークたちが巨石の間から出てくるのが見えた。
俺は敵に包囲される前に動いた。街道を挟む崖と左端の巨石の間に殺到すると、出てきた先頭のオークの武器を長剣で弾き、前蹴りを加え、後続もろとも真っすぐ刺し貫く。
だがその頃には他の隙間からもオークたちが進入してきた。俺は振り返ると剣を上段に構えた。
進入してきた敵が刀を振り下ろしてくる。上体を反らして回避すると小手を撃ち武器を取り落とさせた。返す刀で撫で斬りにし、首筋に深手を与える。
だが背後に回り込んできた新手がいた。俺は咄嗟に剣を背中まで振りかぶった。振り下ろされた敵の刀が長剣の刃と火花を散らす。振り向きざまに大きな軌道で袈裟斬りを放って敵の肩口を鎧の
だが後続が次々と巨石のこちら側に入ってくる。俺が中段に構えている間、十匹以上が散開して包囲網を築き始めた。
剣から滴り落ちる血が柄まで濡らしているが拭う時間がない。
もはや長くは持たないだろう。俺は覚悟を決めた。