やあ、ボクだよ。
フレデリコだよ。
ボクはラファエロさんとジュゼッペさんにサンドイッチやワインや果物を渡したあと、
ラファエロさんの勧めに従って王城に戻ることにした。
とても気掛かりだったよ。
だって、街道のはるか向こうに物凄い数の魔物たちの群れが見えたから。
ボクは、「もう一度来るまで絶対に生きててくださいね?」と二人に言ってから、
道を駆け出した。
でも、しばらく走っているうちに自分の情けなさが胸に込み上げてきて、
走るのをやめて、すっかり日の暮れた街道をトボトボと歩き始めた。
あの小柄なルクレティアちゃんでさえ、勇敢にゴブリンと戦ったんだ。
それなのにボクにはサンドイッチをつくることしかできない。剣一つ振ることができない。
そんなことを考えていると、ボクの横を通った馬車が急に止まったんだ。
何事かと思って顔を上げると、
馬車の扉が開いて、なんとなんと国王陛下が顔を出していたんだ。
「乗らんかのう?歩いては時間がかかるからのう」
ボクは呆気にとられて、次に焦っちゃったけど、
陛下が鷹揚に手招きして下さったから、お言葉に甘えて乗せてもらうことにしたんだ。
「あの二人に食事を差し入れたのじゃな。ディアナから聞いたぞ。ご苦労じゃった」
馬車が発車すると王様はそう言ってくださったんだ。
「いえ...ボクにはそれくらいしかできませんから...」
ボクは恐縮しながら答えた。
そこでボクは急に思い出したんだ。
ジョバンニさんのことだ。まだ牢に捕らわれているんだ。
「あの...陛下...」
ボクは恐る恐る口を開いた。
「なんじゃな?」
「あの...申し訳ありません...差し出がましいことですが...」
ボクは思い切って頼んだんだ。
「陛下...ジョバンニさんがまだヴァルグの牢屋に捕らわれてるんです。助けてあげられないでしょうか?」
ボクは心臓がドキドキだった。ボクみたいな小僧が陛下に頼み事をするなんて身の程知らずもいいところだってわかってたからさ。
でも、陛下は静かに腕組みすると目を閉じてこう仰ったんだ。
「うむ...手は打ってある」
その陛下のお姿を見て、ボクは気づいたんだ。
陛下は国という重荷を背負ってるんだ。だから軽々しく何かを口にすることはできない。
でも、きっとジョバンニさんのことも思っていてくれるって。
ボクは陛下にお礼を申し上げると、それ以上は何も言わなかった。
そして、王城の前庭に着くと、馬車を降りてすぐに厨房に向かったんだ。
家に帰る気にはなれなかった。何よりも、明日の朝一番にラファエロさんとジュゼッペさんにお弁当を届けたいと思った。だから、ボクは食堂に泊まることにしたんだ。
ボクは食堂の椅子を並べてその上に毛布を敷いて横になった。
ラファエロさんとジュゼッペさんは生き延びていてくれるだろうか。
心配で仕方なかったけど、それでもしばらくすると眠気が襲ってきたんだ。
* * * * * * * * * *
「デヤァッ!!」
「テイッ!!」
物凄い叫び声が聞こえてきて、ボクは跳び起きてしまった。
窓を見ると、既に夜は明けている。
ボクは寝ぼけた頭を振った。一体何が起こったのか、把握できない。
「セイヤッ!!」
また叫び声が聞こえる。それも、一人とか二人じゃあない。まるで千人の人間が一斉に叫んでいるみたいだった。そんな叫び声が、前庭から聞こえてくるのだ。
ボクは食堂を出ると、廊下の窓から前庭を見下ろしてみた。
ボクは肝をつぶしてしまった。
前庭にズラっと、甲冑を着て剣を持った人たちが並んでいる。数え切れないほどの数だ。
その人たちが、気合いの声を上げながら剣を振っているのだ。
そして、彼らの前には講壇が一つ用意されていて、
その上には国王陛下と、同じくらいの歳の男性とが並んで立っていた。
ひとしきり皆んなが剣を振ると、
講壇の上に立った国王陛下ではないほうの男性が、おもむろに剣を抜いて型を披露し始めた。
ボクは剣術は素人だけど、その人の型はとても美しく、ああ、一流の剣士なんだなってことがすぐにわかった。
すると陛下が声を張り上げられた。
「皆の者、よく見よ!これが王国の剣だ。ドナテロが示す型こそ、戦いの礎となる!」
前庭に集まった剣士たちは一斉に「オオッ!」と声を上げた。
よく見ると、年齢層もバラバラで、若者もいれば白髪交じりの老人もいる。中には女の人もチラホラ混じっていた。
ドナテロと呼ばれた男性が型の披露を終わると、整列していた剣士たちは再び一斉に気合いの声を上げながら教わった型を練習し始めた。
ボクはハタと気づいた。こうしちゃいられない。
厨房に飛び込むと、ボクは出入り業者が置いていってくれたパンの包みを破り、薄く切ってサンドイッチを作り始めた。
たくさんのサンドイッチを作ると、缶詰や、ワインや、干した果物とかを手当たり次第に籠に入れて、ボクは階段を降りて前庭に出た。
すると、ちょうど練習が終わったところらしく、前庭に集まっていた人たちは汗を拭いたり腰かけて休憩しているところだった。
「フレデリコ、今朝も精が出るな」
声を掛けてくる人がいたので振り向くと、ディアナ伯爵が立っていた。彼も甲冑に身を固めていた。
「ディアナ伯爵...いえ、旦那さま。旦那さまも稽古なさってたんですね」
ボクは笑顔で挨拶したあと、周囲を見ながら尋ねた。
「旦那さま、この人たちは一体?」
「義勇兵だ。陛下の呼びかけに応えて集まったんだ」
伯爵は剣を鞘に納めるとそう言った。
「もう訓練を始めて一週間になる。普段は別の仕事をしているから、早朝に稽古せざるを得ないんだ」
「そうだったんですね...全然気が付かなかったです」
ボクは籠を持ち直しながら伯爵の言葉を聞いた。
「もともとは農夫や商人、職人たちだ。だが、王国の危機に立ち上がった。彼らは剣の腕ではラファエロやジュゼッペには及ばない。だが心は同じだ」
ボクは胸が熱くなった。
「……すごいです。ボクなんか、サンドイッチを作ることしかできないのに」
ディアナ伯爵は微笑みを浮かべて、ボクの肩に手を置いた。
「それでいい。いや、むしろ君の働きは今この時にこそ不可欠なんだ」
そう言うと、伯爵は気づいたように顔を上げた。
「そうだ、今日も私の馬車を使うといい。あの二人も腹を空かせているころだろう。一刻も早くサンドイッチを届けてやれ」
「あ...ありがとうございます!」
ボクは礼を言った。伯爵が合図すると、義勇兵たちの間を馬車がゆっくりと近づいてくる。ボクは乗り込むと御者のアントニーオさんに行き先を告げた。
馬車は城門を出るとスムーズに加速していく。
「坊や、危険な戦場に食事を届けに行くなんて勇気あるじゃあねえか」
アントニーオさんがそう言った。
「いえ...ラファエロさんたちに比べたらこれくらい。アントニーオさんは平気なんですか?」
「アッシぁもとはと言えば辻馬車上がりだからよぉ。辻馬車ってなぁ金さえ貰えりゃどこにでも行くのさ。地獄でも天国でもな」
よもやま話をしている間に、すぐに崖の三本松のところに着いた。
アントニーオさんに礼を言って馬車を飛び出し坂の上に立つと、ボクは目の前の光景を見て思わず息を呑んだ。
ラファエロさんとジュゼッペさんは坂の途中で倒れていた。足元には武器が転がっている。
そして、坂を下ったところに魔法使いが立っていた。それも二人だ。
ボクにはすぐにわかった。
ジョバンニさんとディオだ。
「ジョバンニさん!」
喜びに突き動かされてボクは叫んだ。生きていたんだ。無事でいたんだ。そして今、ディオの奴と戦おうとしてるんだ。
ボクはラファエロさんたちが倒れているところまで坂を下った。
その時、信じがたい言葉が聞こえてきたんだ。
「...っつったく誰かと思ったら。クッソガキが戦場に何の用なの?怪我しないうちにさっさと消えなさい!」
向かい合った二人の魔法使いのうち、向こう側に立っていたほうがそう毒づいた。
「坊や、兄さんの言うとおりさ。巻き添えにならないうちに逃げるんだ」
こちら側に背を向けたほうがそう応じる。
ボクは酷く混乱した。
一体どうなってるんだ?
ジョバンニさんがあんなことを言うなんて信じられない。
「フ...フレデリコ」
ラファエロさんが苦し気に呻きながら身じろぎした。
ボクは籠を地面に置くと慌てて助け起こした。
「ジョ...ジョバンニは洗脳されている...元のあいつじゃあないんだ」
ラファエロさんの言葉を聞いて、ボクは頭を殴られたような衝撃を受けた。
「洗脳……?じゃあ、今のジョバンニさんは……」
杖を構えるジョバンニさんの顔を見ると、その目は虚ろで何の感情も浮かんでいない。
違う。別人だ。
「あたしを舐めると後悔するわよ。何しろ魔力も技も以前とはケタ違いよ?」
ジョバンニさんはディオに視線を戻すと低い声で言った。
「さあ...?ボォクは今までの人生を魔法に全振りしてきたって言ったろ?ニワカ仕込みの技術を兄さんがどれくらい使いこなせるか見せてもらおうじゃあないか」
二人の魔法使いは距離を測り合うように摺り足で移動し始めた。
まるで湖面に薄く張った氷の上を歩いているかのような用心深さだ。
その場の空気がピンと張り詰めるのがわかった。
次の瞬間、ジョバンニさんが杖を僅かに傾けた。
途端にその先端から奔流のように炎が迸り出た。
だがディオも杖を掲げた。その先端を中心にまるで壁が出来ているみたいに、炎が左右に逃げていく。
「ハッ...‥パワーが上がったのは本当みたいだな兄さん!」
ディオはそう言うと、杖をいっそう掲げた。すると、ジョバンニさんの杖から発射されていた炎が今度は押し返され、彼のほうに押し迫り始めた。
「いつまで余裕面していられるのか、見ものね!」
ジョバンニさんも負けじと杖を掲げる。炎と炎のぶつかり合いから生じる熱気がこちらに迫ってきて、ボクは思わず片手で顔を覆った。
指の間から辛うじて戦況を見ると、炎の奔流は互いに押し合っている。
魔法使いたちの足元では、街道の石畳が次第に赤く焼けただれていった。周囲に転がっていた魔物たちの死骸が激しく燃え上がり、数秒のうちに炭になってしまった。
それなのに二人はまるで首相撲をしているかのように、向かい合って円を描きながらジリジリと移動している。
二人の位置は最初と入れ替わり、今度はジョバンニさんがこちらに背を向けディオが向こう側に立った。
「兄さん……その炎、もう限界だろ!」
ディオが叫ぶと同時に、杖をさらに振り上げた。
その瞬間、炎の均衡が崩れた。
炎の塊がたちまちジョバンニさんに押し迫る。
ところが、その瞬間ジョバンニさんは杖を持っていないほうの手を上げた。
地面が割れ、のたうつ蛇のような形をした炎が姿を現す。
「フン!だから舐めるなって言ったのよ!」
ジョバンニさんが手を振ると、側面のほうから蛇型の炎がディオに襲いかかった。
ディオは片手を地面に向けた。同時に彼のマントがまるで蝙蝠の翼のような形に広がった。爆風のような風が発生し、彼は飛び上がった。不自然なほど高い跳躍だ。
蛇型の炎がディオの背後にあった巨岩に当たる。炎の中に走る一筋の稲妻が直撃し、巨岩は真っ二つになった。
だが、ボクはディオがいなくなったことに気づいた。
本当に姿が消えてしまったのだ。
「光学迷彩ってわけね。あんたにできることがあたしにできないって思う?」
ジョバンニさんはそう言うと、自分のマントを身体に巻き付けフードを頭から被った。
ボクはますます驚かされた。ジョバンニさんの姿も消えてしまったからだ。
街道は一瞬、静まり返った。
路面のそこここに残る炎の残滓が赤く揺らめき、割れた巨岩から煙が立ち上る。
だが、二人の姿はどこにもない。
次の瞬間、空気が裂けるような音が響いた。
雷の鞭が突然、空中から走り抜け、石畳を砕く。
すぐに別の方向から光の閃光が応じ、雷を弾き返す。
ほんの一瞬、ほんの一瞬だけど、残った二つの巨岩の間に、何かが見えた。
向こうの風景が、人の形に歪んで見えるのだ。それが二つ。
だがそれはすぐに見えなくなってしまった。次の瞬間、再び雷が迸る。
今度は一本の鞭ではなく、無数の稲妻が連射された。
まるで弓兵の連隊が一斉に発射した矢のように雷が石畳を蜂の巣にしていく。
連射は左から右へ、手前から奥へ、発射元の場所を変えながら途切れることなく続いていく。
ボクは必死で目を凝らした。どっちが優勢でどっちが劣勢なのか、まるでわからない。
でも、ジョバンニさんに死んでほしくない。だからといって勝って欲しくもない。
「ジョバンニさん!」
ボクは立ち上がると呼び掛けた。
「目を覚まして!元のジョバンニさんに戻って!」
「よ‥‥よせ、フレデリコ!」
ラファエロさんが痛みに呻きながらもボクの腕を掴んで身を低くさせた。次の瞬間、数本の雷がすぐ頭上を通り過ぎて背後の坂道にぶち当たった。
路上に身を伏せながら、ボクは戦いを見守った。
二つの巨岩の間に、また後ろの風景を透過した人影が見えた。
敏捷に身を躱しながら、互いに雷を撃ち合っている。
逸れた雷が巨石に当たり、また一つの岩が割れた。そしてまた一つ。
街道をふさいでいた巨岩がなくなると、こちらから百メートルほどの距離を置いて立っていた魔物たちの群れが見えた。手を振り上げ声援を送っている。
雷の撃ち合いはいっそう激しくなっている。目を凝らしていると、二つの人影が足を止めて攻撃しあい、同時に互いの攻撃を捌いているのがぼんやりと見えた。
やがて一本の雷が命中し、片方のマントが燃え上がった。それと同時に、光学迷彩とジョバンニさんが呼んでいた仕掛けが壊れたらしく、本人の姿が露わになった。
だがそのやられた方も同時に杖を振ると、一度に二十発ほどの小さな雷が杖の先端から飛び出した。そのうちの数発がもう片方のマントに命中した。
今や、二人の魔法使いは火のついたマントを素早く脱ぎ捨て、互いに杖を構えて対峙していた。
ボクはどちらがどちらだろうと目を走らせた。
背丈も顔も服装も同じ。
だけど、目が違う。片方は目が死んでいる。もう片方は、その目の中に苛立ちと、興奮と、そして哀しみが見えた。
二人は同時に杖を振り上げた。
雷と雷がぶつかり合い、火花が散る。
しかし次の瞬間、ふたりは互いに距離を詰め、杖を打ち合わせるように向かい合った。
「兄さん……!いい加減にしろよ!無理し過ぎだぞ!」
ディオの声には焦りと怒りが混じっていた。
「黙れ!あたしはもう昔の自分じゃない!」
ジョバンニさんの声は冷たく、目の光が死んでいる。それなのにその語調には残酷さと憎悪が溢れている。
いまや、ディオとジョバンニさんは杖と杖をぶつかり合わせていた。
不思議なことに、双方の杖と杖はほんの数センチ離れている。
それでも、ふたりは渾身の力を込めて押し合っているのだ。
「結界魔法の応用であたしをねじ伏せようってわけ?」
杖に力を込めながらもジョバンニさんはせせら笑った。
「あたしを傷つけずに取り押さえようなんて考えてるんなら甘すぎるわよ、ディオ。あたしを止めたければ殺す気でやることね」
「.....ボ....ボォクらは兄弟なんだ。殺すわけないだろ....」
ディオも力を込めながら応じる。
「ハハハッ、なんていうおバカさんなんでしょね。ヴァルグ様に従わないあんたを兄弟だなんてあたしは認めないわ」
二人の魔法使いは再び首相撲をしているかのようにじりじりと回り始めた。
だがジョバンニさんは歯をむき出しにして力を入れ、次第にディオが押されていく。
やがて結界の力が溢れ出てきたのか、二人の周囲に転がっていた石が真っ二つに割れて吹き飛び始めた。弾け飛んだ石が街道を挟んだ崖に衝突してめり込んでいく。
二人の顔が近づく。荒い呼吸が交じり合うように聞こえてきた。
ディオの額には汗が滲み、歯を食いしばっている。
対するジョバンニさんの口元には残酷な笑みが浮かんでいた。
「ほぉら、力の差が出てきたじゃない……」
ジョバンニが低く囁くと、杖の間隔がさらに狭まり、ディオの腕が震え始めた。
「兄さん...やめろ...!その力...使えば使うほど飲み込まれるぞ!」
ディオが叫んだ。
その瞬間、ジョバンニが杖を捻るように回転させた。ディオの杖が弾かれ、火花を散らしながら地面に転がった。
街道に再び静けさが戻った。離れたところから声援を送っていた魔物たちでさえ、いまや固唾を飲んで見守っている。
「生まれつきの魔力持ちといえども杖無しじゃあ不利ね。どうするの?」
ジョバンニさんが勝ち誇ったように言い放つ。
ディオは荒い息を吐きながらも、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「さあ?ボォクは人生を魔法に全振りしてきたって言ったろ?見てみたいかい?」
ディオは相手の足元に転がった杖をちらりと見やった。だが拾おうとはしなかった。
代わりに彼は懐から何かを取り出した。長さ三十センチほどのミニサイズの杖だ。
「ちょっと、ふざけてるの?そんな玩具で戦おうってわけ?」
ジョバンニさんは鼻で笑った。
だがディオはミニ杖を相手に向けた。その先端から細い雷が飛び出す。
ジョバンニさんは余裕の笑みを浮かべながら杖を振り払った。ディオの雷はいとも簡単に弾き返された。
「これで終わりよ!」
ジョバンニさんは目を見開くと、杖の先端から数倍もの太さの雷を発生させた。雷の槍が奔流のようにディオに襲い掛かる。
ディオは間一髪で横跳びに逃れた。だがジョバンニさんは杖を振り上げると、雷の流れを操作した。蛇のようにのたうつ雷が、転がりながら逃れるディオを追いかける。ジョバンニさんは哄笑しながら杖を操作した。
「ほらほら、だから言ったでしょ!」
もはや回避できないと見るや、ディオは膝立ちになり自分のミニ杖で相手の雷を受け止めた。
「バカね、そんな杖で受けられるわけないじゃない!」
ジョバンニさんが叫ぶ。凄まじい雷を受けて、ディオの杖がビリビリ震えた。ディオは歯を食いしばって耐えていたが、その髪の毛もまた逆立ち始め、杖で受け止め切れなかった電流が数本彼の腕に走った。
だが、ディオは苦しげな表情で耐えながら左手を上げた。
すると、ジョバンニさんの背後に転がっていたディオの杖がひとりでに立ち上がった。
「これが...答えさ」
ディオが呟く。その刹那、ディオの杖から雷が飛び出してジョバンニさんの背中を直撃した。
白い稲妻がジョバンニさんの身体を貫いたように見えた。
彼は硬直して杖を取り落とすと、驚愕の表情で大きく口を開け、悲鳴を上げた。
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」
本当はたった数秒間の間だったのだろう。だがボクには長い時間が経ったように感じられた。
やがて、ジョバンニさんは目を見開いたまま膝から崩れ落ち、そしてドウとうつ伏せに倒れた。
街道に静寂が戻った。
さっきまで轟いていた雷の弾ける音も、炎の唸りも、すべて消え去っている。
ただ、ジョバンニさんの身体から立ち上る煙だけが、戦いの余韻を残していた。
「兄さん....さあ、目を覚ますんだ」
ディオは、自分の体についた汚れを手で払うと、荒い呼吸を鎮めながらジョバンニさんに近づいた。
「ディオ!...ま...まさか...殺したりはしてないよ...ね?」
ボクは思わず声をかけた。するとディオは溜め息をついた。
「ったく素人はこれだからイラつくんだよなァ。坊や、このボォクが手加減しなかったと思うかい?」
彼はジョバンニさんの傍らに膝をつくと、身体の下に手を入れて助け起こした。
「さあ、兄さん。もう終わりだ。起きろよ」
だが、その途端にディオは何かに気づいたかのように顔をこわばらせた。
ボクは立ち上がると、ふたりのところに駆け出していった。
「ジョバンニさん!ジョバンニさん!」
ボクもディオの傍らに座り、ジョバンニさんに声をかけた。そしてジョバンニさんの顔を覗き込んだ。
だが、彼は目を大きく見開いたまま固まっていて、呼吸さえもしていなかった。