出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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たとえ微力でも守護者としての役割を果たさんとしたのだが

私はレオナルド・ヴァン・ディアナ伯爵だ。

 

魔物側の使者、ノクスが我らに最後通牒を突き付けてきた翌日、

 

国王陛下によって招集された義勇兵たちの訓練に交じり城の前庭で汗を流したあと、

 

私は料理人のフレデリコを馬車に乗せて送り出した。

 

剣士ラファエロと斧使いジュゼッペに食事を届けさせるためだ。

 

馬車が城門を出るのを見送りながらも、私の心は騒いでいた。

 

どれほど優秀とはいえ、たった二人が長い間軍勢を止められるものではない。

 

休憩を挟んで稽古の続きが終了したあと、私は講壇から降りてきた国王陛下に近づいた。

 

「陛下....お願いがございます」

 

「なんじゃな、ディアナ?」

 

私は言葉を探すと、口を開いた。

 

「私に先兵として出撃する許可を頂けないでしょうか。少なくとも貴族とその配下含め20騎は集められます。ラファエロとジュゼッペの二人を支援したく....」

 

「うむ....」

 

陛下は腕組みをされたが、やがて講壇から降りてきたドナテロ師範のほうを向いた。

 

「ドナテロ、今いる戦力はどれくらいじゃったかな」

 

「義勇兵が818名。うち、私の門下生が94名。衛士が211名です」

 

「うむ.....」

 

陛下は少し考えたあと、言葉を継がれた。

 

「これに加えて儀仗兵が200余名参戦する。だが、各地に送った伝令により、今日の昼には増援が到着する予定なのじゃ。できれば戦力を小出しにはしたくはないが....」

 

「はっ...陛下。しかしながら、騎兵による突撃は歩兵に大きな脅威を与えられます。本体到着までの間に王都侵入を許さず時間を稼ぐことが可能かと」

 

陛下はしばし沈黙された。前庭に集う兵たちのざわめきが、朝のすがすがしい空気に溶けていく。

 

「……よかろう。ディアナ、そなたに先兵を任せる。だが忘れるな、これは王国全体の戦さだ。蛮勇は許さぬ。深入りせず、すぐに戻って参れ」

 

私は深く頭を垂れた。

 

「はっ。必ずや、ラファエロとジュゼッペを支え、王都を守って御覧に入れます」

 

私は踵を返すと、傍らに連れてきていた執事に命じて馬屋から戦馬を引いてこさせた。

 

「騎兵、ここに集まれ!」

 

私は声を上げた。

 

以前から有事の際には立ち上がると示し合わせていた貴族たちとその配下の者たちが集まってくる。

 

武装に身を固めたロッシ男爵が近づいてきた。ボチェッリ男爵、アレッサンドリ男爵、ベネッリ男爵およびモレッティ男爵も一緒だ。

 

これらの少壮貴族たちは貴族会議のメンバーではないが、私が作った剣術サークルで共に汗を流した仲だった。また彼らの使用人たちのうち腕に覚えのある者たちも集められていた。

 

「いよいよ出陣ですか、伯爵」

 

「ああ。先兵として主力に先んじて敵を牽制する」

 

私は兜を被ると、馬に跨り、執事が差し出した槍を手にした。

 

馬上に身を起こすと、冷たい朝の風が兜の隙間から頬を撫でた。

 

「命名しよう。わが隊は『貴族騎士団』だ。異存はないな?」

 

次々と馬に跨り準備をする仲間たちを振り返りながら私が言うと、彼らは笑い声をあげた。

 

「一興ですな。貴族とは腑抜けの集まりではないことを知らしめてやりましょうぞ」

 

ロッシ男爵が応じる。

 

私は馬を回し、槍を掲げると声を張り上げた。

 

「諸君、我らは王国の盾であり、矛でもある。今こそ領民の守護者たる矜持を示そうではないか!」

 

騎兵の隊列が一斉に鬨の声を上げる。総勢二十騎だ。朝日を浴びた甲冑が銀の光を放った。

 

気勢を整えると、我々は馬を進めて城門を出た。

 

速度を上げ、行きかう馬車を次々と追い越していく。ただならぬ雰囲気に驚いたのか、通行人も馬車の御者たちもギョっとした顔で我々を見た。

 

大広場を横切り、三本松に続く街道に入る。しばらく走ると、前方から見覚えのある馬車が走ってくるのが見えた。

 

私の馬車だった。フレデリコを送り届けて戻ってきたのだろうか?だがそれにしては時間がかかり過ぎている。

 

その馬車とすれ違うとき何気なく客車の窓を見た私は一瞬だが目を奪われた。

 

娘のルクレティアの横顔が見えたのだ。

 

私はすぐに前を向いたが、今見たものが何だったのかを思いめぐらせた。

 

娘は命からがらヴァルグの城門の前から脱出したあと、自宅で療養していたはずだ。

 

妻は彼女が回復してももう二度と家から出さないと息巻いていたが、私は様子を見るべきだととりなしたものだった。

 

もしや、再び窓から抜け出したのだろうか?

 

だが私には心配の念よりも苦笑が先に込み上げてきた。

 

あれは、昔からお転婆で親の言うことを聞かなかった。

 

それに、あれの性格からすると、戦乱の時こそ聖女としての働きが求められるのだと心を固めているに違いない。

 

私は首を振った。娘は自分の生きる道を見つけたのだ。ならば、親としては見守るしかない。

 

だいいち、この私もまた戦場に身を投じようとしている。家族の心配はもはや背後に置いていくしかない身なのだ。

 

思索を続ける間もなく、隊列は三本松の坂上に近づいてきた。

 

その時ロッシ男爵が叫んだ。

 

「伯爵!魔物どもです!」

 

目を上げると、坂の頂上を越えてオークどもの群れが姿を見せている。

 

やはりラファエロとジュゼッペの守りは突破されたのだ。

 

私は槍を構え直すと号令をかけた。

 

「会敵!一掃しろ!」

 

我々は馬の速度を上げると、槍を突き出しながら敵集団に突進した。

 

先頭にいたオークに私の槍が突き刺さる。勢いで押し込むと、敵を貫いた槍がさらにその後ろの個体に突き刺さった。

 

二体のオークが崩れ落ちる。だが槍を抜く暇がない。私は槍を手放し剣を抜くと掲げた。

 

「斬れ!斬れ!」

 

坂には数えきれないほどのオークが群がっている。

 

私は馬を進めながら右に左に剣を振り回した。奇襲を受けた体の魔物たちは驚愕の表情を浮かべ、刀傷を受けた連中は倒れたり悲鳴を上げて逃げまどったりした。

 

肩越しに振り返ると、ロッシ男爵も槍が折れたらしく剣を抜いていた。刀身の上を陽光が煌めき、オークの首が飛んだ。

 

坂の上の魔物どもは思わぬ敵襲に浮足立っていた。下方で坂を登ろうとしている連中も困惑の表情を浮かべ互いに顔を見合わせ始めている。

 

頑強に抵抗すれば奴らは引き下がる----

 

私はあの剣士ラファエロの言葉を思い出していた。

 

やれる。先兵としての役割を果たせる。私がそう思った瞬間だった。

 

不吉な角笛の音が鳴り、私は顔を上げた。

 

坂の上のオークどもは潮が引くように退却していった。だが、馬を止めた私の視界に魔物軍の本体が入ったとき、私は驚愕した。

 

魔物の群れは、見渡す限りに広がっていた。

 

街道の上だけではなく左右に散開し、まるで大河が堤を破って溢れ出したかのようだ。

 

彼らは退却してきたオークたちの群れを吸収しつつも、仲間の失態を少しも気に留めていない様子だった。

 

しかも、ふと右手を見ると、かつてあったはずの崖が完全に崩れ落ちている。

 

その後ろから何者かの巨大な影がゆっくりと頭をもたげていた。トロルだ。

 

坂の下にずらりと並んだオークの咆哮、ゴブリンの甲高い叫びが地鳴りのように響く。

 

この敵軍を前にしたら、二十騎の隊列など、洪水の前に浮かんだ木の葉も同然だ。私は剣を握り直した。退くべきか、踏みとどまるべきか?

 

その時、再び角笛の音がした。

 

見ると、敵の集団の真ん中の先頭に輿に乗った人物がいる。

 

オークたちによって支えられていた輿がこちらに進み出てきていた。

 

その上に座していたのは黒い鎧を着たヴァルグ伯爵だった。

 

「お父様!ディアナ伯爵!」

 

左手から呼びかける声が聞こえた。その方角を見やると、なかば崩れた崖の上に魔法使いの杖を手にした若者が立っていた。

 

ディオ青年だった。私は少なからず驚いた。

 

「ディオ!もしや、君は我が方に立って戦ってくれたのか?」

 

青年は恥ずかしそうに笑った。

 

「そうです...ルクレティアさんに頼まれたのが断り切れなくて...」

 

私は言葉を失った。魔法の力があるとはいえ、たった三人でこれほどの大軍を食い止めるとは。だが、青年の顔を見ると色濃い疲労が見えた。

 

「すまない。育ての親と戦うのは辛かったろう。ここからは我々に任せるんだ」

 

だが青年は微笑んだ。

 

「お父様、これはボォク自身の決断です。後悔はしてません」

 

その時だった。

 

「ほほう、ディアナ伯爵のお出ましとは。貴族は専ら政治をこととし庶民の営為には関わらないのではなかったか?」

 

魔物の陣営からヴァルグ伯爵が叫ぶ声が聞こえた。

 

坂の上から魔物たちはすっかり撤退している。私は馬を進めると、輿の上のヴァルグ伯爵に近づいた。

 

「ヴァルグどの、私は貴殿を尊敬していた。真に王国を愛し民のため心を砕く名君と見上げていた。今の私の失望がいかに深いか、言葉では到底表せまい」

 

私が呼びかけると彼は冷笑した。

 

「失望だと?儂のほうこそお前には失望した。今まで取り立ててやった恩を忘れるとは犬畜生にも劣るわ」

 

彼我の距離は二十メートルほどに近づいた。ヴァルグの顔を見上げると、それは仮面のように冷たく、大理石のように硬かった。

 

「貴殿に従っていたのは貴殿が人を思い国の安寧を心がけていると思えばこそ。貴殿の正体が分かった今、なぜ私が貴殿に従えよう?貴殿は私と、国王陛下と、そしてこの国を欺いたのだ」

 

「人を思うだと?儂以上に人を思っている者はおらんぞ」

 

ヴァルグの意外な言葉に私は目を剝いた。

 

「人は常に縛られておる。世間に、規則に、宗教に、法律に。そして自らが欲するものと外側から押し付けられた規制の板挟みになり苦しんでおる。まったく惨めな生き方ではないか」

 

彼はそう言うと、手を広げて声を張り上げた。

 

「ならばと儂は考えた。儂は人を自由にしよう。全ての者が欲することを欲するままに行い、何も止めるもののない世界を作ろう。これこそが人類の幸福そのものではないか」

 

私は息を呑んだ。

 

「……それが人を思うことだと?規律も秩序もなく、ただ欲望のままに生きる世界は、弱き者を蹂躙するだけではないか」

 

だがヴァルグは冷笑を浮かべた。

 

「では弱き者を守るために強き者が縛られよというのか。それこそ不自然ではないか。動物の世界を見よ。喰う者が喰われる者を喰う。喰われる者もまた、子を設け増え広がることで生き延びる。そこには何の制限もない。それぞれがそれぞれのできることを十全に行っておる」

 

「違う!人はそのように生きるべきではない!」

 

私は叫んだ。だがヴァルグは傲然と私を見据えた。

 

「ならばどう生きる?貴様ら人間の秩序は弱者を救えているのか?たった今お前が否定した動物界の(ことわり)は貴様らの社会にも見てとれる。貧者は虐げられ、富む者はますます富む。そもそも....」

 

彼は人差し指を上げて私を指さした。

 

「ディアナよ。貴様自身もまた貴族として不正の利と豪奢な生活を安穏と貪る身ではないか。貴様のその富はどこから来ているのか?使用人を酷使し領民から搾取する貴様に何が言える?貴様らの社会はうわべだけを取り繕った鶏小屋に過ぎぬ。強い鶏が弱い鶏を突き、蹴り殺し虐げる、あの鶏小屋だ」

 

「ち....違う!そうではない!」

 

私は歯を食いしばるとヴァルグを睨み返した。私は声を張り上げた。

 

「我らの社会には不正も欠点もある。だがそれを正すために法があり、王があり、我ら貴族がいる。我らの社会は必死で荷車を押して坂道を上る人夫たちのようなものだ。ある時は押し手が疲れ果て、下がってしまうかも知れぬ。だが、皆が力を合わせ、正義の行われる世に向かってたゆまず押し続けるのだ。だがヴァルグ...貴殿は」

 

私もまた剣の先を相手に向けて叫んだ。

 

「貴殿はその人間の営為の歴史を否定するのか!だとすれば貴殿は敗者に過ぎぬ!勝利とは力で圧倒することにあらず。人間自らの弱さと欠点を知り歴史を前に進めることだ。私は諦めぬ。貴殿とは違うのだ!」

 

ヴァルグは一瞬、冷笑を止めた。

 

「……敗者、か。面白い。ならば勝者の定義をこの場で示してやろう」

 

再び角笛が鳴り響いた。ヴァルグを乗せた輿はゆっくりと方向を変え、大海のような魔物どもの群れの中に戻っていく。

 

「伯爵...いかがいたしましょう?」

 

追いついてきたロッシ男爵が囁いてきた。

 

敵には騎兵はいない。どれほど多数といえど歩兵のみ。

 

そしてその大将は目の前にいる。

 

「突撃!ヴァルグを討ち取れ!」

 

私は剣を上げて叫んだ。

 

だがそれと同時に後方から鬨の声が上がった。

 

いつの間にか背後にオークの群れがいる。崩壊した崖を登っていた連中が次々と飛び降りてこちらに向かってくる。

 

後衛を務めていたベネッリ男爵とモレッティ男爵、および彼らの部下たちがたちまち包囲された。

 

「伯爵!我らに構わず!」

 

ベネッリは剣を振り回しながら叫んだ。

 

私は再び前を向いた。ヴァルグを乗せた輿は去りつつある。距離が開いている。

 

「進め!」

 

私は拍車を馬に当てた。嘶いた戦馬がたちまち走り始める。ロッシ男爵を始めとする残りの騎兵が続いた。

 

目の前は数え切れないほどのゴブリンの群れだ。だが、彼らは背も低く、力も弱い。剣を振り回すと、たちまち刀傷を負い逃げまどっていった。

 

逃がさぬ。絶対に。

 

私はヴァルグの背中を見つめながら馬に拍車をかけ続けた。

 

だが次の瞬間だった。戦馬がまるで穴に足が嵌ってしまったかのように動きを止めた。

 

視線を落とすと、無数の鎖が馬の脚に巻き付いている。

 

周囲から次々と鎖が飛んできて私の身体に絡みついた。鎖には先端に鉤がついており、投げつけられる度にそれが固く絡みつくのだ。

 

私は呻きながら抵抗した。だが鎖で雁字搦めにされ、動けなくなったところで、鎖を飛ばしてきたゴブリンどもが一斉に引っ張り始めた。

 

馬は嘶きを上げながら倒れ、私は落馬した。地面に叩きつけられた衝撃で息が詰まった。

 

「伯爵!」

 

ロッシ男爵の叫びが聞こえた。だが目をやると、彼も今や身体中に鎖を巻き付けられて身動きがとれなくなっていた。

 

私は立ち上がって必死に剣を振ろうとしたが、腕も脚も動かない。ゴブリンどもが再び鎖を引き、私はドウと地面に倒れた。

 

次々と馬が倒れる音と悲鳴のような嘶きが聞こえる。視界の隅に、後続の騎兵たちがまるで蜘蛛の巣に捕らわれた蝶のように鎖に絡め取られているのが映った。

 

だが、私の周囲はすでに黒い波に呑まれつつあった。鎖を持ったゴブリンどもが私を動けなくしている間、他の連中が周りにたかってきて私を棍棒で袋叩きにし始めた。頭と言わず手足と言わず身体中に打撃を喰らった私はとうとう剣を手離した。

 

もはやされるがままになるしかなかった。

 

視界が揺れ、血の味が口に広がった。

 

ゴブリンどもの罵声が遠くに響き、意識が薄れていく。

 

その時、頭上に影が差した。

 

黒い鎧をまとったヴァルグ伯爵が、輿の上から私を見下ろしていた。

 

「ほう……王国の盾もこの有様か」

 

彼の声は冷たく、石のように硬かった。

 

「殺さずにおけ。鎧と服を剥ぎ取って木に吊るすのだ」

 

ヴァルグはそう魔物たちに指示した。輿がゆっくりと方向を変えて離れていくと同時に、歓声を上げたゴブリンどもが私の鎧を剥ぎ取り始めた。

 

兜や胸当てを持った小鬼たちが戦利品を誇示するようにそれを高く掲げる。やがて数匹の小鬼たちが宝石のついた私の帯や剣の鞘を巡って争い始めた。

 

他の小鬼たちが私を地面に押さえつけ服を剥ぎ取った。私が抵抗しようとするたび、容赦なく棍棒の打撃が襲ってくる。

 

裸に剥かれると、今度はゴブリンが私の頭に袋をかぶせてきた。そして私を後ろ手に縛って座らせると、彼らは私の顔を殴ってきた。

 

視界が塞がれているので打撃に備えて首をすくめることもできない。鼻が砕け、歯が折れるのがわかった。

 

ゴブリンどもの笑い声が反響する。世界中が暗闇と嘲笑に満ちているかのようだった。

 

しばらく暴行が続いたあと、彼らは私に被せた袋を取り去った。血と腫れ上がった瞼で視界が狭まる中顔を上げると、彼らは長い槍の柄を運んできた。

 

やがて彼らは私を槍の柄に縛り付け、数人がかりで掲げた。

 

ゴブリンの嘲笑とオークの雄たけびが轟音のように響くなか、目を上げると崩れかけた崖の上でディオ青年がこちらを見ていた。

 

彼は大きく口を開いて何かを叫んでいた。だが距離も遠くその声は轟音にかき消されてしまい、言葉は聞き取れない。

 

視線を下に移すと、二人の人間が凄まじい数の魔物たちに包囲されながらも戦っていた。

 

ラファエロとジュゼッペだ。

 

しかし、横を見ると私は息を呑んだ。

 

ロッシ男爵が同じように裸に剥かれ槍の柄に縛り付けられている。彼の顔はもはや人間と思えないほど腫れ上がっていた。他の騎兵たちも同じようにされてズラリと並べられていた。

 

その時、雷が一筋、崖の方面から飛んできて、私の足元にいたゴブリンたちに当たった。

 

数匹のゴブリンが気絶する。だが他の魔物たちは意に介さなかった。彼らはディオ青年の方に向かって拳を振り上げ罵声を上げると、方角を変えて私を魔物陣営の中心に向かって運んでいった。

 

再び雷が飛ぶ。ゴブリンが倒れた。何度もそれが続いた。しかしやがて雷は遠くなり、そしてこちらに届かなくなった。

 

私は天を仰いだ。

 

ルクレティア、許してくれ。不甲斐ない父親を。

 

だが、その時だった。

 

遥か彼方、王都方面の空から、高い角笛の音が聞こえてきたのだ。

 

それを聞いた瞬間、浮かれ騒ぎをしていたゴブリンどもが沈黙し、ギョッとした顔で音のした方向を見た。

 

眼を王都方面に移すと、坂道と崩れた崖を魔物の群れが退却してくるのが見えた。

 

ほうほうの体で逃げまどうオークやゴブリンの後を追うようにして、旗印を掲げた騎兵たちとその左右に付き従う徒歩の剣士たちが見えた。彼らの武具に陽光がきらめき、眼を射る。

 

再び角笛の高い音が響く。

 

軍勢が坂を下ってくる。崩れた崖の上にいた魔物どもを追い散らした徒歩の剣士たちが、崖の下に生き残っていたトロルに次々と飛び付いていくのが見えた。

 

まるで蟻にたかられた芋虫のような体でトロルが倒れ、地響きが聞こえる。

 

軍勢の列に終わりが見えない。彼らは退却する魔物たちと入れ替わるように平原にまで降りてきて散開した。

 

その中心にいる真っ赤な鎧とマントを纏った一人の騎士が私の眼を引いた。

 

それは国王陛下だった。

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