出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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第八章: 魔王、正体を現す
我が養父ながらとんでもない人だってことがわかったわけさ


「ボォクら二人でパパに魔法合戦を挑むって?」

 

ボォクは思わず大声をあげたよ。

 

あ、言い忘れてたね。ボォクの名はディオ。

 

ヴァルグ伯爵家の養子であり跡取りだけど、今は一人前の男を目指して家出中さ。

 

そして、なんと成り行きで国王軍に味方してパパの軍勢と戦うことになっちゃったんだ。

 

そしてボォクの想い人、ルクレティアちゃんのお父様がゴブリンに捕まっちゃったので、

 

ルクレティアちゃん本人が囮となって兄さんの仲間たちと救出作戦を実行したところだったんだ。

 

なんとか成功したけれど、本当に危ないところだった。

 

それで、ボォクと兄さんは魔物軍の陣営を眺めながら今後のことを話し合った。

 

折しも、相手方のほうから強い魔力を感じ始めたところだったんだ。

 

まあ、当然と言えば当然さ。ボォクのパパは生まれつき恐ろしい魔力の持ち主だから。

 

「いや、それは絶対無理だよ。パパの魔力は半端ないもの。普通の魔法使いじゃ歯が立たないよ」

 

ボォクは兄さんに答えたよ。

 

「でもね、ディオ、ちょいと聞いてちょうだいよ」

 

すると兄さんが嬉しそうな顔で言ってくるのさ。

 

「何だよ兄さん唐突に」

 

「あたしさあ、洗脳されたときヴァルグにめっちゃ魔力注入されちゃってさ、魔力もスキルも爆上がりなわけよ。信じられる?」

 

「へえ。ま、今朝戦ったとき確かにパワーは上がってたね」

 

「ルクレティアちゃんのお陰で洗脳解けたけど、強くなった部分はそのままなわけ。これって超お得じゃない?」

 

「兄さん、それ危ないよ。魔力は使い慣れてないと暴走するぜ?」

 

ボォクは注意した。魔力はあればいいってもんでもない。使いこなせなければ自分に跳ね返ってくることもある。

 

「だからさぁ、そこをあんたとあたしで上手くやるわけよ。あんた知ってるでしょ?生まれつきの魔力持ちの双子が力を共鳴させると恐ろしいパワーになるって。足し算じゃなくて掛け算になるって」

 

その時、馬車の中で休んでいたルクレティアちゃんが扉を開けて出てきた。

 

ボォクは目を丸くしてしまった。なんと、彼女は甲冑姿だったんだ。真鍮のプレートを施した肩当てと胸当てが光り輝く。草摺も金色で、腰には剣を下げ、兜を小脇に抱えてたんだ。

 

あまりの美しさと凛々しさに、ボォクは思わずポカンとしちゃったよ。

 

「ちょっとちょっと、あんたどうしちゃったの?」

 

兄さんが聞くと、ルクレティアちゃんはちょっと恥ずかしそうに笑ったよ。

 

「修道女服が破けてしまったので代わりにと思ったのですけど、ちょうどいいですわね」

 

彼女は腕を曲げ伸ばししたりして、鎧のフィットを確かめた。

 

「わたくしの双子の弟の遺品の鎧をアントニーオに命じて持ってこさせましたの」

 

「へへ、奥さまにバレないように物置きから運び出すのも一苦労でしたぜぃ」

 

横で御者が得意そうに言ったよ。

 

するとフレデリコが呟いたんだ。

 

「弟さん...がいたんだね。知らなかったよ」

 

「幼い頃、一緒に剣士ごっこをして母に怒られたものですわ」

 

ルクレティアちゃんは微笑んだ。

 

「わたくしにとっては一番の友達でしたわ。十五の時に流行り病で天に召されましたの」

 

「そうだったんだね‥‥」

 

フレデリコがしんみりした口調で相槌を打ったよ。

 

「でも今はわたくし悲しんではいませんわ。いつか天国で会えると思ってますから。それより‥‥」

 

ルクレティアちゃんは自分の剣を抜くと大声を上げた。

 

「皆さま!わたくしも戦いますわ!ご一緒に勝利いたしましょう!」

 

「ウオオオオオオオオオオ!」

 

それを見た周りの兵士たちの盛り上がるの盛り上がらないのって。歓声と鬨の声で耳がつぶれるかと思ったよ。

 

魔王軍は既に一キロ後退したところで陣を張っていた。対する国王軍はついさっき到着した援軍を組み入れて再編成しているところだった。

 

「待て待て!きみ聖女だろ?聖女が剣を持って戦うなんて聞いたことないよ!」

 

ボォクはやっと我に返るとそう言ったよ。どう考えても危険すぎると思ったしね。

 

するとルクレティアちゃん、澄ました顔で言ったんだ。

 

「あらディオさん、聖女が人畜無害な存在だなんて誰が決めましたの?わたくし悪と戦うなら絶対勝たないと気が済まない性分ですのよ」

 

そうこうしてるうち、馬車の後部トランクでごそごそやっていた御者が出てきた。槍を手にしてたよ。

 

「あっしぁお嬢さまの行くところどこにでもついていきますぜ。ディオの旦那、ご安心くだせぇ。こう見えても酒場での喧嘩は百戦無敗ですぜ」

 

ボォクは溜め息をついたよ。あまりにも短慮過ぎる。庶民はこれだから困るんだよなぁ。

 

「諸君ら、ご苦労だったのう」

 

するとルーラル王がやってきて声をかけてきた。

 

庶務騎士団のメンバーとフレデリコと御者は一斉に直立不動になったよ。

 

ボォクは、まあ、ちょいと膝を曲げて礼をしただけだけどね。

 

すると、あの‥‥‥ええと確かラファエロとかいったかな?ボォクと一緒に戦った剣士が、

 

国王の近くに付き従っていた白髪交じりの禿げたおじさんを見て叫んだんだ。

 

「おい!親父!」

 

すると、声をかけられた禿げの老剣士が応じたんだ。

 

「おお、倅か」

 

老剣士は嬉しそうにラファエロの肩に手を置いて言ったよ。

 

「陛下から聞いたぞ。ようやく剣士になる決心がついたようだな、んん?」

 

だがラファエロはうんざりした顔で答えたよ。

 

「冗談はよせ。俺は戦さが終わったら経理屋に戻る。言っとくが剣士にはならんぞ、絶対に」

 

「頑固な奴だな。ちっとも変わっとらん」

 

「それより親父、どうしたんだ?顔が傷だらけだぞ。誰にやられたんだ?」

 

ラファエロはちょっと心配そうだったけど、老剣士はどうってことない様子だったさ。

 

「ああ。ノクスと一騎討ちしてな。面白かったぞ。またノウハウが溜まったから弟子に教えるのが楽しみだ」

 

「呆れたな。どんだけ剣術と道場が好きなんだよ。お袋は元気なのか?亭主関白に嫌気が差して出ていったりしてないだろうな?」

 

ラファエロが言うのに自信たっぷりに老剣士は答えた。

 

「母さんは若い頃からわしに惚れとるんだ。そんなことあるわけないだろう」

 

すると、国王が咳払いして口を開いたんだ。

 

「親子の久しぶりの再会に水を差して悪いが、作戦会議といきたいんじゃがの」

 

「はっ‥‥失礼いたしました」

 

老剣士が畏まって答えた。

 

「援軍を合わせて我が軍はいま三千五百。魔物軍は八千強。しかし、偵察隊の報告によれば精強なオーク軍はほぼ全滅。ゴブリン工兵部隊も同様とのことです。休息後決戦を挑むのが得策かと」

 

「そうね、陛下。あたしも洗脳されてたとき見たんだけど、あいつら後ろのほうは寄せ集めのグールとかホブゴブリンとかリザードマンとかばっかよ。数の割に訓練はできてないわね」

 

「ボォクも同感さ。でも、心配なのは‥‥」

 

兄さんが言うのでボォクも口を挟んだよ。

 

「心配なのはパパさ。パパは魔力が強いなんてレベルじゃあないんだ。化物級さ」

 

「ヴァルグ卿はどのような技を使うのだ、ディオ殿?」

 

老剣士が尋ねてきたよ。

 

「技?そうだなあ...」

 

ボォクは答えたよ。

 

「例えばボォクらが普段使う炎魔法とか雷撃とか、あれの十倍くらいの威力かな?でももっと気になるのは、さっきパパの魔力が上がったような感じがしたんだよなぁ」

 

すると一同は緊張した面持ちで黙っちゃったよ。

 

「魔法使い十人分かそれ以上となると‥‥正面からぶつかったら犠牲は避けられんな」

 

ルーラル王が最初に口を開いた。

 

「ドナテロ、対決を避け兵糧攻めにすることはできぬか?奴ら遠路の行軍で蓄えは尽きているはずじゃ」

 

「敵の周囲を完全に封鎖するには、残念ながら我が軍の数が足りませぬ」

 

老剣士が言ったよ。

 

「では攻撃と退却を繰り返して敵を削るのはどうじゃろう?」

 

「恐れながら‥‥いまの義勇兵の練度ではそこまで複雑な機動はできかねるかと」

 

「ううむ‥」

 

国王が唸っていると、兄さんが口を開いたよ。

 

「ねえ、陛下。あたしたち生まれつきの魔力持ちの双子じゃない?だから力を合わせるととんでもないパワーが出るらしいのよ。だからそれがうまく行けばヴァルグの力も封じられるんじゃないかしら?」

 

でもボォクはすぐこう言った。

 

「兄さん、そんなこと言ったって具体的にどうやるんだよ?それって伝説とか言い伝えの類いだろ?ホントかどうか怪しいもんじゃないか」

 

「あら、見くびらないで頂戴よ。メルリヌスおじいちゃんから聞いたんだから」

 

「おじいちゃん?誰だいそれ?」

 

ボォクは尋ねたよ。すると兄さんは答えた。

 

「あたしたちのご先祖よ。あんたにも会わせたげるわ。ああっ..でも今はダメだわ。太陽とか月の光が出てるうちは呼び出せないのよ」

 

「ジョバンニ、そしてディオ。いずれにせよそなたらの力を借りる必要がありそうだな。よろしく頼むのう」

 

ルーラル国王はボォクらに軽く頭を下げてきたよ。

 

兄さんは畏まっちゃってたけど、ボォクは軽く頭を下げ返して言ったもんさ。

 

「ま、乗りかかった舟って奴だからね。一つ確かなのは.....」

 

ボォクは前髪を掻き上げるとルクレティアちゃんのほうをさりげなく見ながら続けた。

 

「ボォクは常にルクレティアちゃんの味方をするよ。たとえ天地がひっくり返ってもね」

 

「感謝いたしますわ、ディオさん」

 

ルクレティアちゃんが微笑んで答えた。その微笑みだけでボォクにとっては百万馬力が湧いてくるんだよなぁ。

 

すると国王はルクレティアちゃんに向き直った。

 

「ルクレティア、お前は後方に下がるのじゃ。最前線にいるのは危険過ぎるでのう」

 

するとルクレティアちゃんは驚いた顔で声を上げたよ。

 

「..で...でも陛下。わたくしは常に庶務騎士団の一員として戦いに参加してまいりましたわ。なぜいけないんですの?」

 

「ルクレティア、戦場はそこらのダンジョンとは違う。いつどこから矢が飛んでくるかわからん。どれほど熟練の戦士でも危険は避けられんのじゃ」

 

国王は自分の娘にするように彼女の肩に手を置いたよ。

 

「お前には聖女としての役割があるではないか。後方に下がり、負傷者の手当てをしろ。例えばお前の父とその部下たちじゃ。わが軍の損害は軽いとはいえ、治療を必要としている者はそれでも数多い」

 

「でも...わたくし皆さまの前で一緒に戦うと誓ってしまいましたわ」

 

「お前のその心意気だけで皆には十分じゃ。お前が後方に下がったとて文句を言う者はおらんわい。悪いことは言わん」

 

「でも....」

 

それでもルクレティアちゃんが食い下がると、国王は厳しい顔になってこう言ったよ。

 

「お前は後方に下がれ。これ以上親に心配をかけるようなことをするな。これは命令じゃ」

 

さすがにこうまで言われちゃうと、頑固者の彼女もシュンとなっちゃったよ。

 

「...わかりました...陛下」

 

ボォクもそれを見て安心したよ。だって彼女が最前線で魔物と戦うなんて心配で気が気じゃないもの。

 

ルクレティアちゃんは渋々馬車へ戻っていった。フレデリコも付き従ってね。御者のアントニーオは、なぜか残念そうな顔だったよ。でもこれで良かったのさ。

 

上に立つ者は常に皆の最善を考えて決断するものだからね。

 

「さあて、じゃあまずあたしたち二人で共鳴魔法の練習しましょ?」

 

兄さんが言った。でもボォクは答えた。

 

「練習って、どうやるんだよ。デタラメにやって暴走したら危険だぞ?」

 

「そりゃそうだけどリスクがあるからって何もしなかったら何も変わらないじゃない。だから例えば.....」

 

兄さんはボォクの手を握った。

 

「例えば、魔力をちょっとだけやりとりしてみるのよ。『共鳴』っていうからには互いの波長を合わせるわけでしょ?だからまずあたしからあんたに魔力を注入して、あんたからもあたしに注入する。それを繰り返して...」

 

「ホントにそんなのでパワーアップするのかなぁ」

 

ボォクは疑いの声を出しながらも兄さんの手を握り返した。

 

「行くわよ?」

 

兄さんは目を閉じると、魔力を注入し始めた。

 

魔力が手から流れ込んでくる。そこでボォクも受け取った魔力を返し始めた。

 

ボォクらの身体の中を、魔力がグルグル回っていくのがわかった。

 

「大丈夫そうね。もうちょっと上げるわよ?」

 

「わかった。やってくれ」

 

すると、手から流れ込む魔力の流れが強くなった。ボォクもすかさず同じ量を返す。

 

...その途端だった。ボォクも兄さんも目を見開いた。

 

感じたんだ。

 

まるで無尽蔵の魔力の源が腹の底に湧いてくるような感覚。

 

「....ねえ、今のヤバくない?」

 

「...た...確かにね」

 

兄さんは額に冷や汗をかきながらもその目が輝いている。

 

「じゃあもうちょっと上げてみるわよ?」

 

「わかったけど、慎重にやってくれよ?」

 

兄さんはまた目を閉じて集中し始めた。ボォクもそれに倣った。

 

魔力がどんどん流れ込んでくる。ボォクもそれを返していった。

 

魔力の流れが急に強くなった。

 

自分の意志とは関係なく、どんどん魔力の流れが加速している。

 

すると、ボォクらの周囲に自然に小さな雷が発生し始めた。

 

周りの草がざわめき、小石が弾け始めた。周囲の兵士たちがただならぬ雰囲気を察したのか、会話をやめてボォクらに注目し始めた。

 

「まだいける?大丈夫そう?」

 

「ああ。やってみよう」

 

兄さんが出力をさらに上げる。

 

その瞬間だった。

 

ボォクらの着ている服が強風に煽られたように激しく振動し始めた。

 

目を開けると、兄さんの髪の毛が完全に逆立っている。

 

雷が四方八方に飛び始めている。一人の兵士の持っていた槍に雷が当たり、彼は慌ててそれを放り出した。

 

「おい...兄さん...ヤバイ!ヤバイ!止めろ!」

 

ボォクは叫んだ。だが兄さんは自分でコントロールできないのか、怯えた顔をしてボォクを見返すばかりだった。

 

ボォクは握り合った手にもう片方の手をかけて引き剥がした。

 

その途端、ボォクらの周囲に集まっていた雷が減っていった。風も弱まり、やがて消えていった。

 

周囲の兵士たちはあっけに取られていたけど、やがて囁き交わし始めた。

 

「……今のは何だ?」

 

「双子魔法の力...か。凄そうだな...」

 

険しい顔をして黙っていたルーラル王は口を開いた。

 

「危険ではある。が……これならヴァルグに抗えるかもしれんのう」

 

ボォクは肩で息をしながら兄さんを睨んだ。

 

「兄さんはまだ強力な魔力に慣れていないんだ。次はボォクがリードする。いいな?」

 

それを聞いた兄さんはニヤっと笑った。髪の毛はまだ逆立っている。

 

「いいわよ。でもわかったでしょ?掛け算の力ってこういうことじゃない?」

 

その時だった。

 

魔物軍のほうから低い角笛の音が聞こえてきた。

 

それと同時に、大きな鬨の声が上がってくる。

 

それは先ほどまでの二度に渡る敗走の直後とは思えないほどの勢いを感じさせる声だった。

 

「総員戦闘用意!」

 

老剣士が叫んだ。周囲の兵士たちが食べかけのパンを捨て、慌てて武器をとった。

 

「奇妙だ。なぜあれほどに気勢を上げておるのだ?」

 

国王が呟いた。老剣士が答える。

 

「わかりませぬ。ですが、ジョバンニ殿とディオ殿の証言が確かなら、雑兵どもは恐るに足りません。わしは庶務騎士団とともにお二方を援護して...」

 

その瞬間だった。

 

魔物陣営のほうから何かが空に打ち上げられた。

 

夥しい数の矢だ。百本はある。それが群れとなって空中に昇っていく。

 

「矢だ!総員頭部を保護しろ!」

 

老剣士が叫ぶ。ラファエロも罵声を上げた。

 

「クソッ....まだ弓兵があんなに残ってやがったのか」

 

その時兄さんがボォクに言った。

 

「ディオ!やるしかないわ!」

 

「やるって...何を?」

 

ボォクは杖をかざして防護壁を出す準備をしながら兄さんを見た。

 

炎壁(フレイムウォール)で防ぐのよ!」

 

「何だって?あんな広範囲、無理だよ!」

 

「やるったらやるしかないのよ!」

 

兄さんは強引にボォクの手を握ると叫んだ。

 

矢の群れはみるみるうちに近づいてくる。兵士たちのうち盾を持つ者はそれをかざし、持たない者は頭に手をやって逃げまどった。

 

「行くわよ!」

 

「わかったよ!」

 

ボォクは兄さんの手を握り返すと思い切り魔力を注入した。帰ってきた魔力が体内を循環する。途端に凄まじい力が身体に満ちた。破裂しそうなほどだ。

 

ボォクと兄さんは杖を掲げると同時に呪文を詠唱した。その瞬間、国王軍の上空一面が炎に包まれた。オレンジ色の光に照らされて兵士たちは呆然と空を見上げた。

 

数秒後、ボォクと兄さんは杖を下げて魔法を解除した。

 

激しい炎熱に焼かれた矢の矢柄が燃え尽きて推進力を失い、矢尻だけがパラパラと落ちてくる。

 

あっけに取られていた兵士たちは、やがて歓声を上げ始めた。

 

歓声は波のように広がっていく。それが鬨の声になり、魔物陣営から聞こえてくる鬨の声と競うように大きくなっていった。

 

だが魔物陣営から再び角笛が聞こえた。見てみると、真っ黒になった群れがこちらに進軍し始めていた。

 

「角笛を鳴らせ!」

 

国王が叫ぶ。近くにいた吹き手が高い音色の角笛を吹き鳴らし、各部隊の隊長たちが叫んだ。

 

「進軍せよ!」

 

「進軍だ!」

 

周囲が慌ただしくなってくるとラファエロがボォクらのほうに近寄ってきた。

 

「ジョバンニ、お前は魔力源を感じることができるって言ってたよな。ヴァルグの居場所はわかるか?」

 

「まあ大体はわかるわよ。いよいよ出動ね?」

 

兄さんが答えてボォクを見た。ボォクは溜め息をつくと答えた。

 

「....わかったよ。ボォクも行く。気が乗らないけどね」

 

「親父、ここは俺たちに任せてくれ。ジュゼッペ一人で一個中隊に相当する戦力だし、魔法使いも二人いるからな。俺たちでヴァルグに接近して奴を止める」

 

ラファエロが老剣士に言うと、彼も頷いた。

 

「頼んだぞ倅。わしは陛下をお守りする」

 

* * * * * * * * * * * * * 

 

ボォクらは剣士ラファエロを先頭とし、

 

その次が斧を使うひげもじゃ男(後でジュゼッペという名だと知った)、

 

そしてその後ろがボォクと兄さんというフォーメーションを組むと、

 

国王軍と魔物軍とがぶつかる最前線に向かって進んでいった。

 

「クソッ、なぜだ?敵の勢いが今までにも増して強いぞ」

 

兵士たちが押し合いへし合いしている中を進みながらラファエロは言った。

 

確かに言う通りだった。両軍がぶつかっている地点に姿が見えるのは、装備の整っていない野生のホブゴブリンやリザードマンばかりだった。

 

だが、どの個体も勝利を確信したかのような勢いで武器を振り回し、一人が倒れてもまたその後ろから新手が出てくる。

 

迎え撃っている国王軍の兵士たちはその勢いに少しづつ押されていた。

 

「もう少し左よ、ラファエロ!」

 

兄さんが叫んだ。ボォクも同じ方向に魔力を感じていたからこう言った。

 

「あと百メートルくらいだぜ!注意しろよ剣士、出会いがしらにパパに雷撃を打たれたらイチコロだからな!」

 

「了解した!」

 

ラファエロは剣を構えると頷いた。

 

鬨の声、罵声、剣を振る気合いの声、そして倒れた者の悲鳴が入り混じり混沌となる中、

 

ボォクらは兵士たちを掻き分けて前に出ていった。

 

やがて魔物軍の先頭の様子がはっきりと見えてきた。それと同時に、国王軍の兵士たちの悲鳴も聞こえてくる。

 

「クソッ!...なんて化け物だ!」

 

「これは普通の人間じゃあ太刀打ちできないぞ!」

 

魔力の気配が近づいてくる。ボォクにとっては慣れたパパの気配だ。

 

そのはずだった。だが何かが...何かが違う。

 

唸り声とともに、重い何かで人が跳ね飛ばされるような音が聞こえてきた。

 

かと思うと、五人ほどの兵士たちが空中に高々と放り上げられ、地面に叩きつけられていく。

 

ボォクらはとうとうほかの兵たちを掻き分けて国王軍の一番先頭に出た。

 

その瞬間、ボォクは驚きのあまり息を呑んだ。

 

そこにいたのは確かにボォクのパパだった。

 

だが、いつもの上品な服装をして威厳に溢れたパパではなかった。全く別の生き物だ。

 

頭部に角が生えていて、服を着ていない。

 

筋肉が異様なほど隆々としていて、皮膚が黒みがかっている。

 

「怯むな!討ち取れ!」

 

国王軍の兵たちが叫びながら剣を振り上げて殺到する。

 

だが、その生き物が片手を上げると、坂道を全力で下る荷車に撥ねられたかのように兵士たちが全員吹き飛んだ。

 

「パ....パパ...!」

 

ボォクは思わず足を止めて呟いた。

 

その生き物はゆっくりと顔を上げるとボォクらのほうを見て、ニヤリと笑った。

 

その口からは鋭い牙が何本も突き出ていた。

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