出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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やっぱりわたくしって親の言うことを聞けない不良娘でしたのね

お久しぶりですわね、皆さま。

 

わたくし、ルクレティア・ヴァン・ディアナですわ。

 

わたくし、魔物軍の人質になった父を救出する作戦中にゴブリンたちに襲われて服が破れてしまったものですから、

 

代りに亡き弟の鎧を着たのですわ。それが皆さまに好評のようでしたから、剣を抜いて宣言しましたの。

 

「わたくしも戦いますわ!ご一緒に勝利いたしましょう!」って。

 

白状すると、本当はゴブリンたちに襲われた嫌悪感とトラウマで心が押しつぶされそうだったんですけども、

 

敢えて勇ましく振舞って自分を鼓舞いたしましたの。

 

ところが、国王陛下はわたくしに厳命しましたの。後方に下がれ、前線には出るなって。

 

わたくし抗弁しましたけれど、厳しく言い渡されたので仕方なく引き下がりましたわ。

 

だってあんなに怖いお顔をした国王陛下なんて初めてだったんですもの。

 

それでわたくし、御者のアントニーオと料理人のフレデリコさんと一緒に、馬車に乗って後方に下がりましたの。

 

父たちはすぐ見つかりましたわ。アッピア街道の起点のあたりに天幕が張られていて、その中に負傷兵たちが寝かされていましたから。

 

忙しく立ち働いている看護婦たちに挨拶すると、わたくしは天幕に入っていきましたわ。すると、父はすぐわたくしに気づきましたわ。

 

「ルクレティア...!」

 

「父上...今治療いたしますわね?」

 

わたくし、父の横に跪いて祈祷を開始しましたわ。すると、見る影もないほど無残に変形していた父の顔が少しづつ元通りになっていきましたわ。

 

「ルクレティア...これがお前の生き方だったんだな。私はもう降参だ。自由に生きるお前を見守るしかないと分かったよ」

 

治療が完了すると父はそう言って苦笑いしましたわ。でもわたくし、すぐに次の負傷者のところに向かいましたの。

 

「お父様、積もる話は横に置いておいてくださってよろしいかしら?」

 

わたくし父にそう言うと、次にロッシ男爵の横に座って治療を開始しましたわ。

 

「お嬢様....お嬢様...このご恩は一生...」

 

男爵は涙を流してそうおっしゃいましたけど、わたくしはこうお答えしましたの。

 

「聖女の働きは神へのご奉仕ですわ。感謝は神に捧げてくださいな」

 

ようやく二十名の騎兵全員の治療が終わると、今度は天幕の中に運び込まれていた他の負傷兵たちに一人ひとり手を置きましたわ。幸い瀕死の重傷者は少なく、治療は短時間で終わりましたの。

 

「それにしてもお前、なぜミケランジェロの鎧など?まさか前線に出ようというわけではあるまいな?」

 

わたくしが一息つくと父が尋ねましたわ。

 

「修道女服が破けてしまいましたの。元々、弟に見守ってもらおうと思ってアントニーオに取ってこさせたんですのよ。もちろん他意はありませんわ」

 

わたくし、父を安心させるためそう答えましたわ。でも、わたくしの腰の剣を見咎めて父が言いましたの。

 

「だが剣を提げているじゃないか。戦いに出ないならなぜ剣など?」

 

「ただのコスプレですわ。どうせなら本格的にと思って...それだけですわ」

 

わたくしたちがそんな話をしていると、天幕の入り口に立って戦線を観察していた兵士たちが顔を見合わせて囁き交わし始めましたの。

 

「おい、押されてないか?」

 

「どうも奇妙だな。午前中はあんなに国王軍が進撃してたのに」

 

「そんなはずあるか?援軍が加わって数が増えたはずだろ?」

 

わたくしたちも立ち上がって天幕から出ると、数キロ先の戦線に目をやりましたわ。

 

真っ黒な魔物の軍勢が、まるで浸食するように国王軍を押し返している様子が目に入りましたわ。

 

「まずいな...こうしちゃいられん」

 

父はそう呟くと、周囲の兵士たちに声を掛けましたわ。

 

「悪いが武器を貸してくれないか。加勢しに行く」

 

「そんな...伯爵様は十分戦われたではありませんか」

 

度肝を抜かれた兵士たちがそう答えましたわ。

 

「我々も行こう。治療も終わったし、ここで寝ているわけには行かない」

 

ロッシ男爵を初めとする父の部下の皆さまも患者服のまま続々と天幕から出てこられましたの。

 

「国王軍の破竹の勢いが止まったのには何かわけがあるはずだ。少なくともそれを突き止めて対策を講じなければ」

 

父もまた患者服のまま、兵士から借りた剣を振って具合を確かめていましたわ。

 

「おい!見ろ!」

 

その時、兵士の一人が空を見上げて叫びましたわ。

 

わたくしたちは一斉に空を仰ぎ見ましたの。

 

すると、どうでしょう、太陽がゆっくりと黒い影に覆われていくではありませんか。

 

わたくし、本で読んだことはありましたけど、そんな光景を実際に見たのは生まれて初めてでしたわ。

 

「日食...だと?」

 

「不吉だ....」

 

「これは災害の予兆だ!」

 

次々と声が上がりましたわ。横に立っていた父を見ると、その額には脂汗が浮かんでいましたわ。

 

「太陽が光を失い...月が血のようになる...」

 

父が呟きましたの。わたくし、その内容に気づくと愕然としましたわ。

 

「終末に関する...聖典の一節ですわね?」

 

「...そうだ。それが本当に実現する預言なのかどうかは私にはわからん...だが...」

 

あたりはみるみるうちに暗くなりましたわ。看護婦たちは怯えてしまい、互いに抱き合って震え始めましたわ。

 

しかも、前線のほうからは魔物軍の鬨の声と低い角笛の音が立て続けに響いてきましたの。

 

その時でしたわ。

 

わたくし、胸元に振動を感じましたの。それと同時に、か細い声で誰かが話しかけてくるのが耳に入ってきましたわ。老人の声でしたわ。

 

「...む....娘さ...ん......娘さ...ん..」

 

わたくし顔を上げましたけど、周囲に声の主らしき老人など一人もいませんでしたの。だから戸惑いましたわ。でもその声は続いてこう言いましたの。

 

「娘さ...ん...わ...儂...を...早く...」

 

その時、わたくしの脳裏に電撃のように浮かぶ名前がありましたの。

 

あの方ですわ。

 

「メルリヌスさま?メルリヌスさまですわね?」

 

わたくしは声を上げましたわ。すると父を始め周りの人たちは一斉にわたくしを見ましたわ。でもわたくし、構わずもう一度言いましたの。

 

「メルリヌスさま、わたくし聞いておりますわ。お話しになって?」

 

そう言ってからわたくし目を閉じて耳を澄ましましたの。

 

「...む....娘さ...ん....」

 

「おい、ルクレティア。どうしたのだ?誰と話しているんだ?」

 

父がそう話しかけてきましたわ。でも、わたくし無礼とは思いましたけど片手を上げて黙らせ、引き続き耳を澄ませましたの。

 

「儂...を..早く....ジョバンニ...の..ところ...へ..」

 

「わかりましたわ。ジョバンニさんのところに行けばよろしいのですわね?」

 

わたくし、そう言ってから顔を上げましたわ。

 

「お父さま。わたくし行かねばなりませんわ」

 

「行くって...どこへだ?」

 

父はそう問うた後、愕然とした顔になりましたわ。

 

「お前....まさか...」

 

「前線ですわ。届けなければならないものがあるんですの」

 

でも、父は蒼白な顔でわたくしを見つめましたわ。

 

「駄目だ!危険過ぎる」

 

父はわたくしの腕を掴むと続けましたわ。

 

「そんなことは私が許さん。母さんのためにも絶対に許可するわけにはいかん!」

 

あんなに感情を剥き出しにした父を、わたくし初めて目の当たりにしましたわ。

 

「ミケランジェロを失ったあと、お前まで失うわけにはいかんのだ!絶対に...絶対に行かせはしない!」

 

「お父様...お許しくださいね」

 

わたくし、悲しくなってしまって俯きましたわ。でもすぐに顔を上げて続けましたの。

 

「でも...わたくしは行かねばなりませんわ。チームメイトのためにも、王国のためにも、ですわ」

 

「駄目だ!」

 

父はいっそう強くわたくしの腕を掴みましたの。でもわたくし決意を固めましたわ。

 

わたくし、前腕を回転させて父の手から自分の腕をすり抜けさせると、逆にこちらから腕を掴んで足払いをかけ、父を地面に引き倒しましたわ。

 

そして全力で馬車のほうに走っていきましたの。

 

「ルクレティア!」

 

父の叫び声が背後から聞こえてきましたわ。でもわたくし、馬車に飛び乗るとアントニーオに命じましたの。

 

「さあ、出しなさい!」

 

「で...でも...旦那様が...」

 

「いいから出しなさい!」

 

わたくし、きっと物凄い剣幕だったのでしょうね。アントニーオは怯えた顔をすると、鞭を振るって馬に当てましたわ。

 

「ルクレティア!ルクレティア!戻って来い!」

 

父が走ってくるのが馬車の窓から見えましたわ。でも、馬車が加速するとその姿も段々と遠くなっていきましたの。

 

* * * * * * * * * * 

 

馬車を操縦しながらアントニーオは溜め息をつきましたわ。

 

「お嬢さま...これであっしもクビ確定ですぜ。その日暮らしの辻馬車に逆戻りってぇわけか...トホホ...」

 

「そんなことはさせませんわ。仮にそうなったら修道会で雇ってもらえるようわたくしが口を利きますわ」

 

「へッ....修道会ってなぁ、酒もタバコもギャンブルも禁止って聞きましたぜぃ。そんな苦行者みたいな暮らし、あっしにできるたぁ到底ぇ思えねぇんですがねぇ」

 

「それも慣れですわ。それに神に身を捧げる暮らしの喜びを知ればそんなもの不要になりますのよ?」

 

アントニーオは肩をすくめて笑いましたわ。

 

「へッ……まあ、お嬢さまがそう言うなら信じてみますかねぇ」

 

窓の外はどんどん暗くなって、まるで真夜中さながらでしたわ。魔物陣営から低い角笛の音が何度も聞こえてきましたわ。

 

馬車は兵士たちの群れの中に入っていきましたわ。それにつれ、前進する速度が遅くなっていきましたの。

 

それは兵士たちが密集していたからだけではありませんでしたわ。

 

なんと、国王軍の兵士たちは次々と逃げ出して逆方向に走り始めていたんですの。

 

その一方で、わたくしの胸元の宝玉はますます強く振動していましたわ。

 

「お嬢さま!もうすぐ最前線ですぜ!」

 

アントニーオが叫びましたわ。矢が一本飛んで来て御者席の上の庇に命中し、彼は思わず首をすくめていましたわ。

 

「メルリヌスさま!方向は正しくって?」

 

わたくしは叫びましたわ。すると宝玉が呼応するように断続的に振動し始めましたの。

 

「このまままっすぐ走ってくださいな!」

 

王都方面に向かって撤退していく国王軍の兵士たちと次々すれ違いながら、わたくしたちは草原を疾走していきましたわ。

 

宝玉が振動する間隔が、進めば進むほど短くなっていきましたわ。

 

そして、とうとう目に入りましたの。

 

ごくわずかの数の国王軍兵士たちが、一体の人型の魔物を先頭とする敵の群れと対峙しているところが。

 

「ジョバンニとディオの旦那がただ!着きましたぜ!」

 

アントニーオが叫ぶと、馬車をドリフトさせて国王側の兵士たちの後ろにつけましたわ。

 

わたくし、扉を開けると、兵士たちの群れの中にいたジョバンニさんに駆け寄りましたわ。

 

「ル...ルクレティアちゃん!」

 

最後尾にいたディオさんが驚きに目を丸くしていましたわ。

 

「あんた...ちょっと一体何やってんのよ!」

 

隣にいたジョバンニさんも叫びましたの。

 

「お届けものですわ!」

 

わたくしは胸元に手を入れると、宝玉の鎖を首から外してジョバンニさんに渡しましたわ。

 

矢がそこらじゅうを飛び交っていて、近くに飛んでくるたびにディオさんとジョバンニさんの杖から雷が出てそれを弾き飛ばしていましたわ。

 

ラファエロ主任とジュゼッペさんは味方たちの右と左に位置しながら、それぞれ武器を振るって魔物どもをなぎ倒していましたわ。

 

稲妻から発する眩い光が辺りを照らすほかは、周囲は暗く、ただ魔物たちの光る目が一面に浮かんでいましたわ。

 

そして魔物どもの陣営の先頭にはひと際背の高い人型魔物が立っていましたの。

 

その周囲には夥しい数の王国軍兵士が倒れていましたわ。

 

そして、まだ生き残っている兵士たちも武器を構えたまま怯えた顔でジリジリと引き下がっていましたわ。

 

「クックックックッ.....」

 

その魔物は含み笑いを漏らしましたわ。そこでわたくしハッと気づきましたの。

 

その魔物の顔は、ヴァルグ伯爵にそっくりでしたわ。

 

「この圧倒的力....軍勢がまるで虫ケラの群れのようだ。最初から策略など弄さずこうしておればよかったのかもしれぬな」

 

ヴァルグ伯爵は自分の手を見つめるとそう呟きましたわ。

 

「ちょいと!ずいぶんと好き放題やってくれるじゃないのよ!」

 

ジョバンニさんが宝玉を首にかけ終わると、ヴァルグ伯爵に向かって叫びましたわ。

 

「あんた、こないだはよくもやってくれたわね。あたし執念深いたちなのよ。悪いけど倍返しさせてもらうわよ!」

 

するとヴァルグ伯爵は目を剥いてジョバンニさんを睨みましたわ。

 

「愚かな奴だ。儂の下で働いておればいくらでも力を与えてやったものを...」

 

「あんたみたいなキモ親父が上司なんてお断りよ!いまお仕置きしてあげるから覚悟なさい!」

 

でもヴァルグ伯爵はひと差し指をこちらに突き付けて言いましたわ。

 

「貴様ら双子は儂のために働くはずだったのだ。儂とともにハデスの門を開き、黄泉から二億の同胞たちを呼び出す。そうして魔物の国を建設した暁には、お前たち二人を儂の王座の右と左に座らせてやったものを!」

 

「パパ!」

 

そのときディオさんがわたくしを庇うように杖を構えながら叫びましたわ。

 

「パパ...聞いてくれ!ボォクはパパをずっと尊敬していた。広い領土を治め、領民からも使用人からも敬われているパパを見るのは誇らしかったよ...だけど....」

 

ディオさんは悲し気に続けましたわ。

 

「こんな姿のパパは見たくなかったよ!欲望を剥き出しにしたパパの姿を....」

 

「欲望の何が悪いというのだ?」

 

ヴァルグ伯爵はディオさんをねめつけましたわ。

 

「欲望こそが進歩の根源。これは魔物にとっても人にとっても同じだ。そして儂は両者をしてその欲望を解放させるために来たのだ」

 

「ボォクが尊敬していたパパは違う....そんなんじゃない」

 

ディオさんはやや声を落としながらも続けましたわ。

 

「パパ!お願いだ!田舎に帰ってくれ。そこで穏やかに暮らせばいいじゃないか!」

 

彼はまた声を上げると訴えましたわ。

 

「貴族の中で最も広大な土地を持ってるんだろ?途方もない額の財産と、誰よりも巨大な城も持っているんだろ?誰かから奪う必要なんてどこにもないじゃないか!」

 

「黙れ!何も知らぬ愚か者め!」

 

ヴァルグ伯爵は叫びましたわ。

 

「貴様は何も知らぬのだ。この土地はもともと我ら魔族の土地。その当然の権利を奪い返そうとしているに過ぎぬ!」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ。あんたの戯言なんか誰が信じるっての?」

 

ジョバンニさんが叫ぶと、ディオさんの手を握りましたわ。

 

「いま目に物見せてやるから覚悟なさい!」

 

「兄さん...でも...」

 

「ディオ!躊躇ってる場合?」

 

ジョバンニさんは片手で魔法使いの杖を掲げましたわ。

 

するとディオさんも従うようにして同じことをしましたの。

 

「フフフ...面白い。虫ケラどもがどれだけ抗えるか見せてもらおう」

 

ヴァルグ伯爵はそう嘲笑いましたわ。

 

すると、わたくしの目の前に立っていたディオさんとジョバンニさんから、突然風のようなものが生じ始めましたの。

 

同時に、お二人の髪が逆立っていき、周囲には小さな雷が発生しましたわ。

 

「ルクレティアちゃん、離れててくれ!」

 

ディオさんが肩越しにわたくしに言いましたから、わたくし慌てて後じさりしましたわ。

 

すると数秒後、お二人の杖の先端から炎の塊が生じ始めましたの。それはみるみるうちに膨らんでいきましたわ。

 

それだけではありませんでしたわ。その炎はよく見るオレンジ色ではなくって青色でしたの。

 

わたくし、化学の授業で教わったことを思い出してゾッとしましたわ。だって、その色の炎は凄まじい高温だって教わりましたもの。

 

「思い知りなさい!」

 

ジョバンニさんが叫ぶと、お二人は一斉に杖を振り下ろしましたわ。

 

途端に凄まじい光が発生して、わたくし思わず両手で顔を覆いましたわ。

 

指の間から見えたのは、その青白い炎が奔流のようにヴァルグ伯爵に向かって押し寄せていくところでしたわ。

 

少し離れていたところで戦っていたラファエロ主任とジュゼッペさんも、急いで地面に伏せておられましたわ。

 

ジュッ....という何かが蒸発する音が聞こえてきましたわ。普通なら、熱した鉄板に水滴を垂らしたとき聞こえる音ですわね。でも、その同じ音が、異様に大きく聞こえてきたって申し上げたらわかるかしら。

 

しばらくして顔を上げると、目の前の草原が数メートルの幅で焦げているのが目に入りましたわ。そして煙が立ち込めていましたの。

 

ジョバンニさんとディオさんは油断なく杖を構えておられましたわ。ラファエロ主任とジュゼッペさんも、恐る恐るといった様子で身体を起こしておられましたわ。

 

でも、煙が収まってくると、皆さま驚愕した顔をなされましたの。

 

ヴァルグ伯爵が仁王立ちしているんですもの。

 

伯爵の後ろには、炭化した魔物たちの死骸が累々と横たわっていましたわ。

 

それなのにヴァルグ伯爵本人は、まったくの無傷でしたわ。

 

「愚か者が!死ね!」

 

そう叫ぶと、ヴァルグ伯爵が右手を振り上げましたわ。

 

「ルクレティアちゃん、伏せろ!」

 

ディオさんが杖を掲げながらわたくしを庇うように立たれましたわ。

 

するとヴァルグ伯爵の右手から白い稲妻が発射され、こちらに真っすぐ飛んできましたの。

 

ジョバンニさんとディオさんは杖を差し上げて防御しましたわ。

 

それなのに、まるで雪崩か地震でもあったかのような轟音がして、

 

次の瞬間、わたくしたちは全員が吹き飛ばされてしまいましたわ。

 

背後に停めてあった馬車も、まるで玩具のように転がっていきましたの。

 

草原の上をしばらく転がったあと、わたくしはやっと顔を上げましたわ。そして御者の姿を探しましたの。

 

「アントニーオ!」

 

「お嬢さま...ご心配なく...あっしぁ生きてますぜ...」

 

アントニーオの苦し気な声が聞こえてきましたわ。見ると、御者席から放り出されて倒れていましたの。わたくし、急いで彼に手を当てて治療しましたわ。

 

「と...とりあえず一旦退却ね...」

 

ジョバンニさんが苦痛に顔を歪めてビッコを引きながら歩いてきましたわ。

 

「兄さん、危険だ。もう撤退しよう。人間がパパに勝てるはずがないんだ」

 

ディオさんはジョバンニさんに肩を貸しながらそう言いましたわ。

 

ラファエロ主任もジュゼッペさんと一緒にこちらに駆け寄ってこられましたわ。

 

「おいディオ!待て!何か...何か策はないのか?」

 

「剣士は黙っててくれ。どうせ魔法のことなんか何もわからないだろ!」

 

主任が言うのを、ディオさんが乱暴に遮りましたわ。

 

「ジョバンニさん!ディオさん!」

 

わたくしは弾かれたように顔を上げましたわ。

 

「メルリヌスさまが...まだメルリヌスさまがいますわ!」

 

「メル....誰だって?」

 

ディオさんが尋ねられましたわ。

 

でも、その時ヴァルグ伯爵の声が聞こえてきましたの。

 

「虫ケラどもめ。いくら愚かな貴様らでも分かっただろう。もはや貴様らに勝機はない。観念して平伏すれば楽に死なせてやってもよいぞ」

 

もうもうと立ち込める煙の向こうから、彼がゆっくりと歩いてくるシルエットが見えましたわ。

 

わたくしたち、全員で馬車の陰に隠れましたわ。

 

「でも太陽とか月の光が出てる限り呼び出せないって言われたじゃない。どうやって...」

 

ジョバンニさんはそう言った途端、何かに気づいたように目を見開きましたわ。

 

「そう、今は皆既日食ですわ。わたくし、さっきメルリヌスさまに話しかけられましたのよ?」

 

「おじいちゃん!おじいちゃん!出てきて!」

 

それを聞いたジョバンニさんは必死で宝玉を手に取って呼びかけられましたわ。でも、何の反応もありませんでしたわ。ジョバンニさん、泣きそうな顔で言われましたわ。

 

「ルクレティアちゃん、やっぱ無理よ!自然光がないわけじゃないもの!」

 

「遮ればよいのですわ!」

 

わたくし、叫びましたわ。発動の条件が揃わなければ人工的に揃えればいいのですもの。

 

ジョバンニさんはわたくしがそう言うのを聞くと、両手でぴったりと宝玉を覆いましたの。

 

一瞬、そこにいた全員が沈黙しましたわ。

 

すると、白く淡い光がジョバンニさんを覆い始めましたの。

 

「な....何?何よこれ?」

 

ジョバンニさんは戸惑った様子でしたけど、白い光がその身体をすっかり覆うと、やがてそれがある人の姿を取りましたの。

 

それは年を経たあの魔術師、メルリヌスさまでしたわ。

 

「久しぶりじゃの...わが子孫よ。そしてその仲間たちよ....」

 

それは世にも不思議な光景でしたわ。ジョバンニさんの身体とメルリヌスさまの幻影が重なって、まるでひとりの人間になったように見えましたから。

 

「そして、お主とは初めて会うのう?ディオとやら」

 

「お...お前一体誰なんだ?何者だ?」

 

流石のディオさんも面食らってらしたみたいですわね。

 

「儂はメルリヌスじゃ。お主ら双子の先祖じゃよ」

 

メルリヌスさまはそう言うと、自分の依り代となったジョバンニさんの身体を操作して杖を拾い上げながら続けられましたわ。

 

「これでよし、と。ジョバンニよ。左手で儂をしっかり握っておるんじゃぞ」

 

「出て来い虫ケラども!この世の地獄を味わわせてやるわ!」

 

その時、ヴァルグ伯爵の声とともに、重い足音が聞こえてきましたわ。

 

メルリヌスさまは立ち上がると、馬車の陰から出てこう仰いましたわ。

 

「ヴァルグよ。儂とは初対面じゃろうが...初めて会ったという気はせんな」

 

すると、煙の中から出てきたヴァルグ伯爵が足を止めましたわ。そしてしばらく沈黙していましたけど、やがて憎悪の籠った目で歯を剥き出しにしながら呟きましたの。

 

「メルリヌス...貴様か。丁度良いわい...昔日の恨みも込めて八つ裂きにしてくれよう」

 

こうしてわたくしたち、全員で固唾を飲むようにして成り行きを見守りましたの。

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