出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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まさかこの戦争にこんなに深い因縁があるなんて思ってもみなかったです

庭師のジュゼッペです。

 

ワシは、ラファエロの旦那と一緒にオークに変装してディアナ伯爵と部下の騎兵たちを魔物どもから救出したあと、

 

桁違いの魔力を持つヴァルグ伯爵に対抗するべく、

 

ジョバンニとディオの旦那がたに同行して両軍の衝突する最前線に向かったのです。

 

そこでワシらが見たのは、角が生えて皮膚が黒ずんだ化け物に変身したヴァルグ伯爵の姿でした。

 

そして国王軍の兵士たちが果敢にも彼に斬りかかっていくと、

 

まるで見えない巨大な棍棒で殴られたかのように全員が一挙に吹き飛ばされていったのです。

 

しかも、時を同じくして、太陽がみるみるうちに暗くなっていきましたです。

 

後で聞きましたが、『カイキニッショク』という珍しい出来事が起きて、太陽の光が一時的に消えてしまったということなのです。

 

ともあれ、ジョバンニの旦那はワシとラファエロの旦那にこう言われたのです。

 

「ヴァルグはあたしたちが相手するわ。あんたたち二人は邪魔が入らないように周りの魔物たちをお願い!」

 

そうしてワシらが戦っていると、ジョバンニとディオの旦那がたが杖を高く掲げたのです。

 

真正面にはヴァルグ伯爵が立っていました。丁度、国王軍の兵士をひと群れ吹き飛ばしたばかりのところでした。

 

ワシの耳の中でジョバンニの旦那の声が聞こえました。

 

---二人とも伏せて!超高温炎槍(フレームランス)を出すわよ!---

 

ワシは慌てて両手で頭を抱えて地面に伏せたのです。

 

そうすると恐ろしいほどの熱気が傍らを通り過ぎていったのです。

 

顔を上げると、煙が立ち込めていて、目の前の草が黒焦げになっていました。

 

さらに敵陣のほうに目を凝らすと、黒焦げの魔物たちの死骸がいくつも転がっていました。

 

それなのに、それなのに、

 

ヴァルグ伯爵はまったくの無傷で立っていたのです。

 

そしてヴァルグ伯爵が手を一振りすると、これまた凄まじい雷が飛んでいき、

 

ジョバンニとディオの旦那方はたまらず吹き飛ばされてしまったのです。

 

---一時退却よ!戻ってきて!---

 

耳の中でまたジョバンニの旦那の声が聞こえたのでワシは急いで旦那がたのところに走りましたです。

 

そこにはいつの間にかルクレティアお嬢さまもいて、

 

これまたいつの間にか御者のアントニーオが負傷して横たわっているのを治療されていたのです。

 

そしてワシらは全員で馬車の陰に隠れたのでした。

 

すると、ルクレティアお嬢さまは胸元からネックレスを取り出してジョバンニの旦那に渡したのです。

 

そしたら実に不思議なことに、ジョバンニの旦那の身体が白い光に包まれ、

 

次にその身体を覆うようにして、あの魔術師、メルリヌスさまの幻影が現れたのです。

 

「久しぶりじゃの...わが子孫よ。そしてその仲間たちよ....」

 

初対面のディオの旦那は面食らった様子でした。

 

「お...お前一体誰なんだ?何者だ?」

 

「儂はメルリヌスじゃ。お主ら双子の先祖じゃよ」

 

そう自己紹介すると、メルリヌスさまはジョバンニの旦那の身体を操りながら魔法使いの杖を持って馬車の陰から歩み出て行かれたのです。

 

そうして、ヴァルグ伯爵の前に立ちはだかると、こう告げられたのです。

 

「ヴァルグよ。儂とは初対面じゃろうが...初めて会ったという気はせんな」

 

すると、煙の中から出てきたヴァルグ伯爵が足を止めて、メルリヌスさまを睨みながら言ったのです。

 

「メルリヌス...貴様か。丁度良いわい...昔日の恨みも込めて八つ裂きにしてくれよう」

 

「ちょっと...おじいちゃん...本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

メルリヌスさまに身体を操作されているジョバンニの旦那が不安そうに言われましたです。

 

しかし、メルリヌスさまが何かを言う前に、ヴァルグ伯爵が右手を上げたです。

 

その掌のひらからはさっきのと同じくらい凄まじい雷が発射され、メルリヌスさまに向かっていったです。

 

ところがメルリヌスさまが杖を軽く払うと、その雷は硬いものに当たったかのように逸らされて、明後日の方向に飛んでいきましたです。

 

そして、遠くに立っていた背の高い木に当たり、その木がたちまち炎上して真っ二つに折れ倒れていったです。

 

「小癪な!」

 

ヴァルグ伯爵は続けて何度も雷を発射したですが、メルリヌスさまはそれら全てを絶妙な角度で逸らしたです。

 

「単調な攻撃じゃな。久しぶりの転生で腕が落ちたのではないか?」

 

メルリヌスさまはそう言うと、杖を前に突き出したです。すると、ヴァルグ伯爵の目の前の地面が盛り上がったです。

 

次の瞬間、信じられないことに、ヴァルグの回りで暴風が生じて、地面の土が一斉に襲いかかるように吹き付けていったのです。

 

「ぬおおっ?」

 

ヴァルグは両手を上げて身を庇ったですが、土がどんどん堆積していき、彼は埋もれてしまったです。

 

「おじいちゃん...凄いわ!凄いじゃないの!」

 

メルリヌスさまに身体を憑依されたままジョバンニの旦那が叫んだです。

 

「力ばかりで押そうとするからいかんのじゃ。戦いは頭じゃよ。ア・タ・マ」

 

メルリヌスさまは自分のこめかみを指すと続けてこう言ったです。

 

「ま、とはいえ今の儂は今までにないくらい力も充実しておるからな。なにしろここ数日の間、うら若き乙女の胸の谷間に挟まれておったのじゃから。これ以上はないほどの至福じゃったわい」

 

「あらそう。良かったじゃないの」

 

ジョバンニの旦那は何気なくそう答えた次の瞬間、嫌悪感で激しく顔を歪めたです。

 

「.....おじいちゃん...今なんて言ったの?」

 

「うん?じゃから、うら若き乙女の....」

 

「ギャアアアッッ!不潔!キモッッ!信じらんない!」

 

答えを聞き終わる前にジョバンニの旦那は絶叫されましたです。

 

「オエェェェッ!スケベジジイ!最ッ低!あんたなんかどぶ川に捨ててやるわ!」

 

「仕方なかろう。儂の生前そのままの人格を移行したからのう」

 

メルリヌスさまは一向に反省した様子もなく答えられましたです。

 

ワシは思わず気恥ずかしさで口を押さえてしまったです。

 

横にいたラファエロの旦那も、ゲンナリした顔でワシに言われたです。

 

「おい、聞いたか?今の....」

 

「聞いたですが、聞きたくはなかったです....」

 

ワシが答えた瞬間、凄まじい爆発音が聞こえたです。同時に爆風が吹きつけてきて、ワシらは思わず首をすくめたです。

 

見ると、地面に大きな穴が開いており、その中からヴァルグが姿を現したです。

 

「こんな陳腐な技で儂を封じられると思ったか?メルリヌスよ。貴様も儂の力を見誤ったようだな」

 

ヴァルグは憎々しげに微笑むと、こちらに指を突き付けてきたです。

 

「さあ、全員まずは皮膚を焼けただれさせてやろう。そして『殺してくれ』と儂に哀願するまで痛みを味わわせてやるのだ」

 

「相変わらずじゃのう。そのネチネチした性格が敗北を呼ぶのじゃ。気づいておらんのか?」

 

メルリヌスさまは全く臆した様子もなく言われたです。

 

「それに儂は元より死んだ人間じゃ。死んだ人間を脅したところで何にもならんわな」

 

それを聞いたヴァルグは一瞬悔し気に黙りましたが、すぐに喚き声を上げたです。

 

「黙れ!いずれにせよ儂の邪魔は誰にもさせん。わが王国は今こそ再び建て上げられ、とこしえまで支配するのだ。貴様は夜明けの露のように消え去ってしまう。その運命は変わらん!」

 

「貴様の王国...か。それはつまり...1700年前のことを言っておるのだな?」

 

メルリヌスさまの言葉に、ワシらは戸惑って顔を見合わせましたです。ヴァルグは残忍な笑みを浮かべると答えたです。

 

「フフフ...良く知っておるではないか。ならば貴様は我らの恨みがどれだけ深いかも分かっていよう。そしてそれこそが儂の転生してきた理由でもあるのだ」

 

「ど...どういうことおじいちゃん?1700年って...ヴァルグと何の関係があるの?」

 

ジョバンニの旦那が戸惑って尋ねられましたです。するとメルリヌスさまが言われたです。

 

「1700年前のことじゃ。この国は魔物たちに支配され、人間は皆その奴隷として暴虐と搾取の下に置かれておった。だが、ある時現れたのだ。『光の剣士』が....」

 

その名を聞いた瞬間、ヴァルグは怒りに顔を歪めたです。

 

「『光の剣士』...奴こそが我ら魔族の国を奪った極悪人!この恨み永遠に忘れぬと儂は誓ったものよ!」

 

「『光の剣士』は剣を取って立ち上がり、多くの民が彼に続いた。そして魔物たちは倒され、この国は『自由の民の国』となった。耕した者が地の実りを享受し、自らが誇りを持って自らの国を守る。それがこの国の始まりじゃ」

 

「黙れ!都合の良いことを言いおって!」

 

ヴァルグは荒々しくメルリヌスさまを遮ったです。

 

「忘れはせぬぞ。それこそが貴様ら人間による暴虐と殺戮の始まりの時だったのだ。儂は以来、転生し復讐を遂げる機会を虎視眈々と狙っておったのだ!」

 

息を荒くしながらヴァルグは言葉を継いだです。

 

「そこへきてあの魔女、ベネディッタが幽界にいた儂に接触してきたのだ。権力を得る方法を求めてな。だから儂はその娘を王妃にするよう知恵を与えた。そして王との間に出来た赤子と儂が入れ替わる。これが儂の目論見だった。だが...忌々しいことに貴様がそれを邪魔したのだ」

 

「策略にしては見え透いておるじゃろ。魔法使いなら誰でも見破れるわい」

 

「だが儂は諦めなかった。それでベネディッタに教えたのだ。血の犠牲の儀式を行えば、儂は受肉できるとな。それで、あの女はその長女を犠牲にし、次女の腹の中に儂を受肉させたのだ」

 

「な...なんておぞましいことを!貴様、邪悪にも程があるだろう!」

 

ラファエロの旦那が叫んだです。しかしヴァルグは平然と言い返したです。

 

「フン...貴様ら人間に何が言える?同じくらいの無法と暴虐を貴様らは働いてきた。これまで殺された魔族の数を数えてみよ。そしてその恨みがどれほど深いかを考えてみるのだ!何も言えまい!」

 

「ヴァルグよ。ならば儂は聞こう」

 

メルリヌスさまは静かに問いかけたです。

 

「お主に知らぬとは言わせぬぞ。魔族の起源がどこにあるかを....」

 

それを聞いた途端、ヴァルグは口をつぐんだです。ジョバンニの旦那はますます戸惑って呟いたです。

 

「ま....魔族の起源って何よ?どう関係あるの?」

 

「魔族の起源はこうじゃ。かつて、神は人間を造られ、それを愛し慈しみ、地の実りを与えられた。じゃが、人間より先に造られた霊たちのうちには、それを妬み羨んだ者たちがいたのじゃ」

 

メルリヌスさまは指をヴァルグに突き付けてこう畳みかけたです。

 

「そしてその霊たちはやがて受肉し、魔族となった。それ以来、魔族は人間を襲い、傷つけ、奪い、恐怖を与えることのみを目的として生きてきたのじゃ。哀れなものじゃな。それ以外の一切の生き方を知らないのじゃから。だが...ヴァルグよ」

 

そこまで言うとメルリヌスさまは声を張り上げられたです。

 

「貴様はその魔族の始祖であり長。貴様こそが、霊たちを唆し反逆させた者。貴様は時が来れば地の底知れぬところに閉じ込められ、やがて永遠に消えぬ炎で焼かれる運命にあるのじゃ!」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」

 

ヴァルグは絶叫すると、手を一振りしたです。すると暴風が吹き荒れて周囲の土が吹き散らされましたです。

 

「黙れ!この死にぞこないが!儂の支配と王国は誰にも止めさせん!」

 

ヴァルグは進み出ると両手を高く掲げたです。

 

「愚か者が。儂が今まで本気を出していなかったのに気づかなんだか?今こそ儂の本当のパワーを見せてやるわい」

 

ヴァルグの両手から禍々しい色をした炎がボウッと浮かび上がったです。

 

その途端地面が震え始め、ヴァルグの背後で生き残っていた魔物たちが悲鳴を上げながら逃げ散り始めたです。

 

振動は次第に激しくなり、やがて空気までもが震えているのが感じられたです。

 

「おい、ディオとやら、儂の横に立つんじゃ」

 

メルリヌスさまはやおらそう指示されたです。

 

「え?...な...何をしようってんだよ?」

 

戸惑ったディオの旦那はおずおずと進み出ながらも尋ねたです。

 

「パパがああなったら誰にも止められないぜ?消し炭になるのが関の山さ」

 

ディオは溜め息をついたです。

 

「ああ...せめてルクレティアちゃんと一度だけでもキスできたらなぁ...」

 

「いいから言うことを聞くんじゃ、ディオよ。儂には策がある」

 

ディオの旦那が横に立つと、メルリヌスさまは少し後ろに下がったです。

 

「ディオよ。合図したら最大出力で雷槍(サンダージャベリン)を放つんじゃ」

 

「そんなの弾き返されるに決まってるじゃないか」

 

「わかっておる。それは触媒に過ぎん。儂はここで奴の攻撃を待つ」

 

メルリヌスさまは落ち着いた声で言われたです。

 

「ちょっとおじいちゃん、待つってどういうこと?そんなんでどうやって勝つの?」

 

「そうだよ、黒焦げになるか、ガードできても吹き飛ばされるのがオチだよ」

 

「儂を信じろ。言ったじゃろ。戦いはアタマじゃと。儂はアタマはしっかりしとるぞ。若いモンと同じくらいな。あとは経験じゃ。これは誰にも負けん」

 

ディオとジョバンニの旦那がたは戸惑いと恐怖を顔に浮かべながらも指示に従って構えたです。

 

「グフフフ....絶望に震えるがいい....圧倒的な力を前にしてな」

 

ヴァルグの両手の間に滞留していた禍々しい色の炎が膨らみ、密度と温度を増していっているのが見えたです。

 

「い...い...いつでもいいぜ?」

 

震えながらディオの旦那が言ったです。その杖の先端には白い雷が集まり、球体を形成し始めていたです。

 

「うむ」

 

「あ...あたしはどうすればいいの?」

 

「お主は儂に委ねればよい。儂が身体を操作するでの」

 

すると、ヴァルグが唸り声を上げながら一層両手を高く挙げたです。急激に炎の塊が大きくなっていったです。

 

「よし、こんなもんでいいじゃろ。そろそろじゃな」

 

「ちょっと...おじいちゃんってば何そんなに落ち着いてるわけ?」

 

「ま、儂はもともと死人じゃからな、怖がる理由がないでの」

 

平然と答えるメルリヌスさまに、ジョバンニの旦那は慌て始めたです。

 

「ちょっと、無責任じゃないのよ!あたしたちはまだ生きてるのよ!人生まだまだ楽しみたいのに!」

 

「よし、ディオ。ぼちぼち行くかの」

 

「おじいちゃん!まさか騙したんじゃないでしょうね!」

 

ジョバンニの旦那は身体を憑依されたまま泣き叫びましたです。

 

「三.......二........一.......」

 

メルリヌスさまが数を数え始めましたが、ヴァルグは哄笑しながらこちらをねめつけたです。その目には嗜虐の喜びと勝利への確信が浮かんでいたです。

 

「グハハハハハ!何をやっても無駄だ!」

 

「今じゃ!」

 

合図を受けたディオの旦那が決死の形相で杖を振り下ろしましたです。そこから極太の雷の槍がヴァルグに向かって飛んでいきましたです。

 

「愚か者が!」

 

その瞬間、ヴァルグはせせら笑いながら両手を前に出したです。ディオの旦那の雷が到達する前に、ヴァルグの手から凄まじい密度の炎が迸り出ていったです。

 

ディオの旦那の攻撃はたちまち呑み込まれ、ワシらの前に洪水のような炎が押し寄せてきたです。

 

「ルクレティア嬢!」

 

ラファエロの旦那は背後にいたルクレティアお嬢さまに覆いかぶさったです。

 

ワシも両手で頭を覆い、出来るだけ低く地面に伏せたです。

 

しかし視界が真っ赤に染まったです。その時、ワシはもう駄目だと思ったです。息子のことが頭をよぎったです。

 

ところが、数秒たっても、予想していた高温も火傷の痛みも襲ってこなかったです。

 

ワシは呆気に取られて思わず顔を上げたです。

 

目の前には、さっきと同じようにディオとジョバンニの旦那がたが杖を構えて立っていたです。

 

そして、十メートルほど向こうにはヴァルグもまた立ち尽くしていたです。両手を前に突き出し、攻撃を終えた体勢のままでしたです。

 

しかし、ヴァルグは狐につままれたような顔をしていたです。

 

「な....なぜだ?....わが炎はどこへ消えた?.....」

 

「終わりじゃ。幽界に戻るんじゃな。そして二度と戻ってくるでないぞ」

 

メルリヌスさまが言うのが聞こえたです。

 

ヴァルグは驚愕の表情で辺りを見回していたです。すると次の瞬間でした。

 

ヴァルグの目の前に凄まじい炎の奔流が発生し、彼自身に向かって押し寄せ始めたのです。

 

不意を突かれたヴァルグはたちまち高温高密度の火炎に覆われました。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!」

 

凄惨な悲鳴が響き渡りました。ヴァルグの後ろにいて逃げ遅れた魔物たちもまた炎に包まれて燃え上がり、数秒で燃え尽きて倒れていきましたです。

 

ワシも、傍らにいたラファエロの旦那も、ルクレティアお嬢さまも、御者のアントニーオも、

 

目の前の光景を信じがたい思いで見つめていたです。

 

炎が過ぎ去って勢いが弱まると、ヴァルグはゆっくりと膝をつき、次いでうつ伏せに倒れたです。軽い地響きがしたです。

 

「お...おじいちゃん、これどゆこと?」

 

ジョバンニの旦那はまだ信じられないといった様子で呟きましたです。

 

「空間転送魔法じゃよ。儂の得意な研究ネタでな」

 

メルリヌスさまが答えられましたです。

 

「これはまだヴァルグが現役魔王だった時代には発見されておらなんだ。そして儂はこれを完成させたあと、封印したのじゃ。悪用されると厄介じゃからな」

 

「く....空間転送って...そんなこと一体どうやってやるんだい?」

 

驚いたディオの旦那が杖を下げながら尋ねたです。

 

「空間に穴を空けて、別の空間に繋げるのじゃ。ま、詳しい原理は一言では難しいんじゃがの」

 

すると、周囲に光が差し始めたです。どうやら『カイキニッショク』というものが終わったようで、太陽がみるみるうちに明るく輝き始めたです。

 

「お...終わったのか?本当に?」

 

ラファエロの旦那が身体を起こしながら呟いたです。

 

「おそらくな。あるいは奴はまた復活するかも知れぬが...その時はお主ら、しっかりやるんじゃぞ」

 

メルリヌスさまが言うと、ジョバンニの旦那は慌ててこう尋ねたです。

 

「ちょっとおじいちゃん、まるでこれでお別れみたいな言いかたしないでよね。あたし、まだまだ聞きたいことがあるんだから」

 

「....どうやら、まさにその時が来たらしいのじゃ」

 

メルリヌスさまが答えられましたです。

 

「だ...だっておじいちゃん、元々死んでるんだからこれ以上死にようがないじゃない。違うの?」

 

「どうやら、いまの魔力の出し入れに宝玉が耐えきれなかったようでの」

 

宝玉を握ったジョバンニの旦那の左手の中から、硬いものに亀裂が走るような音が聞こえてきたです。それと同時に、旦那の身体の周囲を覆っていたメルリヌスさまの幻影が細かく点滅し始めたです。

 

「なっ...おじいちゃん、そんなの嘘でしょ?嘘だって言って!」

 

ジョバンニの旦那は杖を放り出すと、宝玉を両手で包んだです。でも、宝玉が割れていく音は止まずに続いたです。ジョバンニの旦那はたまらなくなったように泣き叫んだです。

 

「嫌よ!嫌よ!行かないで!おじいちゃん!」

 

「ジョバンニよ...強く生きるのじゃぞ。お主ならきっと、悪に負けずに人生を全うできよう」

 

「おじいちゃん!おじいちゃん!」

 

ディオの旦那も傍らに駆け寄って叫んだです。

 

「おじいちゃん!ボォク...ボォク...やっとわかったよ。偉大な魔法使いになるってどういうことだったのか」

 

ディオの旦那は目に涙を浮かべながら続けたです。

 

「おじいちゃん、約束するよ。ボォクは絶対におじいちゃんみたいな偉大な魔法使いになるよ。絶対に」

 

「ディオよ。お主には才能がある。きっとなれると儂も信じておるぞ」

 

メルリヌスさまの声がどんどん小さくなっていったです。

 

「最後に聞け、二人とも.....魔法使いは...決して権力を求めてはならん....」

 

ディオとジョバンニの旦那がたは一心に耳を傾けていたです。

 

「魔法使いは貴族になってはいかん....貴族は魔法使いになっては...いかん...これは家訓じゃ.....よく...心得よ...」

 

そこまで言うと、ひときわ大きな亀裂音が聞こえてきたです。ジョバンニの旦那が思わず両手を開くと、そこには粉々になった宝玉の残骸だけがあったです。

 

そして、その上に白い光がボウっと浮かび上がって、しばらくとどまっていましたが、

 

やがてそれはフワっと浮かび上がりどこかに飛び去っていってしまったです。

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