ハァイ、あたしよ、ジョバンニよ。
で、どこまで話したかしら?
あ、そうそう。あのデッカいオークが逃げたところまでね。
.....ちょっと溜め息だったわ、あんときは。
流石のあたしもラファエロが可哀そうになっちゃったわよ。
ま、ちょっとだけだけどね。
ラファエロの奴、あのオークに致命傷負わせたあと止め刺そうとしたんだけど、何を思ったかルクレティアちゃんが邪魔しに行ったのよ。
それでそのオーク、二人が言い争ってる間にヨロヨロしながら洞窟の奥に逃げちゃったわけ。
そんときの気まずさったらなかったわぁ。
ラファエロの奴マジでブチ切れ寸前になってたもの。
あいつ、しばらく下を向いてじっとしてたけど、やがて顔を上げてルクレティアちゃんにこう言ったわ。
「ルクレティア嬢、これだけははっきりさせておく」
あいつ、剣先を地面に突き立てて柄頭の上に両手を預けながらもっともらしい口調で言いだしたの。
「このパーティのリーダーはこの俺だ。少なくともダンジョンの中にいる間は俺の指示に従ってもらおう。それぞれがそれぞれに好き勝手に動いていたら危険度は倍増する」
あの子が理解できるようにと思ったのか少し間をおいてからあいつもう一度こう言ったわ。
「俺は立場を振りかざすつもりはない。俺が主任だからといって、あるいは先輩だからといって俺の意見を押し付ける気はない。だが魔物と戦っているときに議論している暇はないんだ。そして俺は戦闘職で君は治癒職だ。俺は治療について口出しはしない。だから戦闘のことについては君は今後一切手を出すな。わかったか?」
そしたらそれ聞いてたルクレティアちゃんってば最初、涙ぐんでたの。
それを見たラファエロの奴、ちょっと厳しく言い過ぎたかなと思ったらしくて、猫なで声でこんなフォローしだしたのよ。
「いや、気を悪くしたら謝る。あ..その...なんだ。君は間違いなく一流の人材だ。治癒職としても法務職としても。その点疑問はない。ただ......その..」
するとルクレティアちゃん、顔を上げてこう答えたのよ。
「あの方には最後の最後に救いのチャンスを与えましたわ。わたくし、あの方の魂を救いに導くことができなかったのは悲しいけれど............」
あの子ってばハンカチを取り出して目の下を拭ったあと、少し微笑んでこう言ったワケよ。
「でも、できることはすべて行いましたの。もう悔いはございませんわ」
それを聞いてラファエロの奴、もう額の静脈が破裂して血が噴き出すかと思うくらいの顔してやがったわ。
「きっ......聞...い..て...な...かった...ん...か...い........」
そしたらジュゼッペのおじさん、ちょうどいいタイミングで満面の笑み浮かべながらこう言ったの。
「ワシは難しいことはよくわからんのです。ですが、ワシの怪我はお嬢様が治してくださったから、すぐにでも探索を再開できるです」
こういう時は空気読まない奴の勝ちね。
あたしは尻馬に乗ることにしたわ。これ以上事態が悪化しないうちにと思って、ラファエロの肩をポンって叩いてこう言ってやったの。
「さ、さ、行きましょ!きっとあの怪我じゃあいつ何もできやしないわよ。とっとと片づけて明日は一日オフを楽しみましょうよ。ね?」
そんなわけであたしたちは洞窟の奥へ向かって前進したわ。
そしたらよ。途中でまた細い通路になったかと思ったら、それが二股に分かれちゃってるわけよぉ。
あたし、さっそくやる気なくしちゃったのよね。
だってダンジョンの分岐をいちいち調べるなんてあたしみたいな芸術家のやる仕事じゃないものぉ。そう思わない?
あたしも昔ぁし駆け出しのころならやったことあるけどさ、突き当りまで進んで、「はい何もなし」って確認するだけ確認して、また分岐まで戻って、隣の通路を進んで.........
そんなバカみたいなこと、何回も何回も繰り返すなんてウンザリよ。ラファエロみたいな社畜ならともかくあたしはお断りぃ。
そう思ってたら、なんとよ、あのジュゼッペおじさんが床を見てボソっと呟いたのよ。
「血が落ちてるです」
そう言われてあたしたち床をよぉく見たわ。
あたしは杖の先の灯りをちょっと増量しながらね。
そしたらよ、確かに床にオークの黒っぽい血が落ちてるのよ。
その血の痕、うまい具合にポツポツと続いてて、目で追ってくと片方の分岐に入っていってるわけ。
あたし、ジュゼッペのおじさんの髭もじゃのほっぺにキスしちゃいそうになったわよ。
だって、繰り返しばっかりのバカみたいなルーティンワークしなくて済むもの。
そうしてあたしたち、血の痕を辿りながら洞窟を奥へ奥へと進んでいったのよね。
そしたらとうとう出たわよ。もう怪しい匂いがプンップンする場所に。
あたしが杖の先の灯りを思いっきり増量したら、高さ三十メートル、差し渡しニ百メートルくらいの広い空間に着いたってことがわかったわ。
その突き当りには、なんだかいわくありげな石像が飾ってあんのよ。
薄暗いから遠近感がバグって最初よくわからなかったけど、近くに寄ってみると高さ十メートルはありそうなデカい石像よ。同じような石でできたバカでかい玉座に座ってたわ。
で、よく見るとさっきのオークがその足元に倒れてたの。
最後の力を振り絞って自分の神さまのところに戻ってきたわけね。
ちょっと哀れを誘う光景だったわ。
そしたらラファエロの奴こんなこと言いだしたの。
「まずはこのフロアの内部を徹底的に捜索しよう」
「捜索?なんでよ?もうオークの親玉も死んでるしあたしたちの仕事ほぼ完了じゃない」
あたしが言ったんだけど、あいつってばまた余計な記憶力発揮しやがったのよ。
「いや、行方不明になった冒険者たちのうち生存者がいないかを確認する必要がある」
あいつが言うもんだからあたし言い返してやったわ。
「じゃあそれはあんたとルクレティアちゃんでやればいいでしょ。言い出しっぺなんだから。あたしはそろそろ村に帰るわ」
「待て、全ての危険が去ったと確認できたわけじゃないだろう」
ラファエロの奴がまだ言ってくるのよ。あたし本ッ当にうんざりしたわ。
「あのね、あんたも冒険素人じゃなければ知ってるでしょ?オークとかゴブリンって連中は自分の群れのボスが死ぬと一気に戦意なくすのよ。どうせもうこのダンジョンはもぬけの殻......」
その時、なんか嫌な予感がよぎったのよね。
背筋がゾクってするっていうか。
あたし、思わず周囲を見回しちゃったわよ。
「どうした?」
ラファエロの奴が聞いてきたわ。
あたし、一言でうまく答えられなくって口ごもっちゃったわよ。
「ジョバンニ、一体どうしたんだ?何か感じるのか?」
ラファエロの奴もう一度聞いてきたわ。
「.......教えて欲しい?」
あたしは周囲を見回しながらそう返したの。
「教えてくれ。何を感じる?」
ラファエロの奴、ジュゼッペのおじさんとルクレティアちゃんに合図して集合させながらそう言ったわ。
「魔力......よ。それもむっちゃクチャデカいやつ」
あたし真顔でそう言ったわ。
その途端、小さな地響きがし始めたの。
床が細かく震えてるわけよ。
で、その地響きがだんだん大きくなってって。
本当に地震?って思ったら、あたしやっとその魔力の源がわかったのよ。
「あの石像!ほら!」
あたし杖の明かりで石像のほうを照らしたわ。
そしたら石像がゆっくりと立ち上がったのよ。
あたし目を疑ったわよ。
そんな仕掛けのある像なんて今まで一度も見たことないもの。
石像はどっかの王様か知らないけど、魚を逆さにしたような帽子を被って、右手に王笏を持ってたわ。
それで、その石像がこっちのほうに足音立てて歩いてくるわけ。
「ちょっとこれやばいわよちょっとこれやばいわよちょっとこれやばいわよちょっとこれやばいわよちょっとこれやばいわよ」
あたしそう言いながら後退りし始めたわ。
こんなときってさ、ケツまくって逃げる、の一択でしょ?
だって、あたしたちが手を伸ばしても膝くらいまでしか届かないようなデカブツよ?
そしたらさぁ信じらんないことによ?
ラファエロの奴言ったワケ。
「こいつがここから出て行って村に向かったらまずい!食い止めるんだ!」
あたし、本当に耳を疑ったわ。
社畜もここまで来るとあっぱれと思ったくらい。
あいつあたしたちの前に出ながらこう言うわけよ。
「ジュゼッペ、奴の足を攻撃して少しでも動きを鈍らせられるか?」
「ワシは難しいことはわかりませんが、石でもちょっとなら斧で斬れると思うです!」
ジュゼッペのおじさんがこう答えたんだけど、そっから先がさらにもっと凄いわけ。
想像できる?
ルクレティアちゃん、こんなこと言いだしたのよ。
「ラファエロさん!石像を破壊した場合その所有者から訴訟を受けるリスクがございますわ!」
石像がのしのしこっちに向かってきてる状況でよ?
そしたら、ラファエロの奴、もうやけくそみたいになって叫んだわ。
「その時は.........俺が全責任を取る!」
それで、ラファエロとジュゼッペのおじさんが前に出て、石像を待ち構える体制を整えたわけ。
あたし、もうルクレティアちゃんを連れて逃げる準備に入ってたわよ。
そしたら、ジュゼッペのおじさんが大声を上げて斧を振り回し始めたわけ。
斧の刃が石像のスネにぶち当たって火花散らしてたけど、殆ど効き目なしって感じ。
むしろ石像の奴、ジュゼッペおじさんに狙いを定めたらしくて、手に持ったバカでかい王笏を振り上げてきたの。
ラファエロが咄嗟に彼の腕を引っ張って退避させなかったら、あれ完全に死んでたわね。
王笏が床に当たって文字通り地面が揺れたわよ。
「ジョバンニ!奴に弱点はないのか!」
ラファエロがジュゼッペおじさんを助け起こしなが叫んできたわ。
「あるわけないでしょそんなもの!」
あたしは叫び返したわ。また石像が動き始めたから、あたしはルクレティアちゃんを庇うのに必死。
「ワシは諦めんのです!」
するとジュゼッペおじさんが言ったわ。
彼ってば斧を構え直すと、雄叫びを上げながら今度は石像の足の小指に向かって斧を振り下ろしたのよ。
そしたら、なんと石像の足の小指がポッキリ折れたじゃないの!
こりゃあしめたと思ったわ。
石像は痛みを感じてるのか感じてないのかは知らないけど、立ち止まって自分の足をしばらく眺めてたわ。その後また動き始めたけど、ちょっと歩く速度が鈍った感じ。
「今のうち逃げるわよ!」
あたしは叫んで、ルクレティアちゃんの腕を掴んで走りだしたわ。
そしたら‥‥さあ。
信じらんないことによ。
出口に鉄格子がかかってんのよ。いつの間にか。
あんときはもうさすがに観念したわ。
あ、こりゃ終わったな、って
また4000文字超えてしまったです。ワシはゴールポストを動かして、4000文字ちょっとを目標にするです。