第2話
「もう、『キュレネ……』じゃないわよ?急にメッセージを送ってきたと思ったら『相棒を見つけたからカフェで話してくる』なーんて言ったきり返事がないんだもの。あちこち探しまわったんだからね?」
「ごめんごめん。僕も驚いて動揺してたものだからつい」
「その様子じゃあ気づいてないみたいね。アグライアがずっとあなたに対してメッセージを送っていたのよ。今頃きっとカンカンね。」
「え!?本当かい?……本当だ。これは後で怒られてしまうかな……アハハ……」
「えっと、そろそろ俺喋っていいか?」
「あら!ごめんなさい。あなたのこと忘れてた訳じゃないのよ?初めまして。私はキュレネ。ファイノンの幼なじみよ。とても可愛らしい名前でしょ?」
彼女――キュレネは可愛らしく笑っている。
どうやら2人はかなり仲がいいらしい。
「俺は穹。高校生だ」
「ええ、よく知っているわ。あ、今のあなたと言うより…正確には昔のあなたのことだけど。ファイノンのことだからもう前世の話は聞いてるのでしょう?」
「あ、ああ。けど本当なのか?前世なんて」
「うーん…あなたが覚えていない以上証明するのは難しいわね。でも、私たちと同じように覚えている仲間が何人もいるわ。もし良ければ私たちについて来てみない?みんなとお話すれば思い出せるかもしれないわ」
「…………」
正直気になっている。普通ならこんなよく分からない話には着いていかないだろう。ファイノンに対しての既視感だって気のせいかもしれない。だが、キュレネの姿を見た時俺はファイノンと同じような既視感を感じていた。
同じような感覚を2度も感じたんだこれは偶然じゃない。それに……今は帰る場所もないんだ。2人について行ってもいいだろう。
「わかった。2人について行くよ」
「ふふっ、信じてくれてありがとう」
「よし!そうと決まれば早速行こうか。僕たちの家に!」
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「相棒!着いたよここが僕たちの家だ」
「……………………」
2度見した。とんでもない大きさの豪邸だった。一般的な家屋がいくつ敷地内に入るのだろうか?
「ふふっ、穹。口が空いてるわよ。でも仕方ないわよね。あたしもファイノンも初めて見た時は驚いたもの」
「あっはは、懐かしいね。流石アグライアとも思ったけどね。さ、早く入ろう」
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「連絡があったとはいえこうしてまたあなたに出会えるとは……ようこそ穹。ゆっくりくつろいでくださいね。
それからファイノン?あなたには後で話があります」
「あはは…」
「はじめまちて!あたちたちはトリビー!」
「トリアン!」
「トリノンです……」
「あ、ああ。よろしく」
アグライア…何度か名前が出ていたからもしかしたらと思ったが、あの世界的に有名なデザイナーのアグライア本人だった。そういえばファイノンのことをプロデュースしていると聞いたことがあるような……まさか本当のことだったとは。赤毛の小さな3人は姉妹だろうか?彼女達も前世のことを覚えているのだろうか?
「本当はまだ何人かいるのですが、今ここには私たちだけです。帰って来たらまた紹介しますね。」
「全員でここに住んでいるのか?」
「いいえ、1人だけ例外です。とはいえ交流がない訳ではありません。彼とも話す機会はあるでしょう」
1人だけ例外?彼ということは男性だろうか。何故1人だけなのかは気になるが今考えても仕方ないだろう。
「さて、あなたがここに来てくれたということは私たちの言う前世のことを知りたい。ということですね?」
「ああ、お前たちの言う前世。俺は何も覚えていないけど同時にここにいる全員に俺は既視感がある。俺はこの感覚を信じてここに来たんだ」
「……なるほど、わかりました。あなたが望むのであれば私たちはあなたに教えましょう。ですが、一度に全てを話しても混乱するだけでしょう。ですから少しずつゆっくりとお話しましょう。とある宇宙の片隅に存在した《オンパロス》という天体。そこで起きた英雄達の叙事詩を」
「オンパロス……」
まただ。聞いたことがないはずなのにどこか懐かしい。ファイノン達に感じていた感覚と同じものだ。
「すとーっぷ!!」
突然声を上げたのは赤毛の3人の1人のトリビーだった。
「ライアちゃん。その物語を話す前に彼のことを先に話さなくちゃ」
「……そうでしたね。私は事を急ぎすぎたようです。穹あなたのことについて先に謝らないといけません」
「実はあなたがここに来るまでの間にあなたのことをあたちたちで調べたの。特にあなたの家族のことをね」
「……!」
俺のことを調べた?何故?どうやって?
「あたちたちが調べてわかったのは……あなたの母親は数年前に家を出たきり行方不明。父親はお酒とギャンブルに明け暮れて借金が増えるばかり。そして数日前に父親も突然姿を消した。莫大な借金をあなたに押し付けて」
「そんな……!トリビー先生、本当なのかい?」
ファイノンの言葉にトリビーは無言で頷いた。
そう。全てトリビーの言った通りだ。両親を失い、莫大な借金を押し付けられ、学校にも通えなくなった。途方に暮れていたところでファイノンに出会ったんだ。
「トリビーの言った通りだ。借金の額を見た時気絶するかと思った。人間ってどうしようもないとわかった時何も出来なくなるんだな。初めて知ったよ…ははっ」
「相棒……」
「穹。師匠にあなたのことを調べるように頼んだのは私です。無断で他人の事情を調べるのは良くないと理解はしています。ただ、キュレネからあなたがファイノンと出会った時の様子を聞いて何となく嫌な予感がしたのです。そしてあなたの状況を知った上で私から提案があります」
「提案?」
「えぇ。穹、私たちとこの家で暮らしませんか?」
「なっ……!?」
予想外の提案に俺は絶句した。借金を抱えたただの高校生に一緒に暮らそうと言うのだ。
「けど俺借金もあるし……」
「それなら心配いりません。その借金は私が全て返済しましょう」
「えぇ!?いやそんなこと……」
「ふふ、ご心配なく。自慢になってしまいますがお金には困っていませんので」
「だけど……」
「相棒」
ファイノンは青い瞳で真っ直ぐ俺を見つめていた。
「言っただろう?僕は君の助けになりたいって。この思いは僕だけのものじゃない。ここにいない人も含めて全員の思いなんだ。僕たちは君への恩を返したい。それだけなんだよ」
「ファイノン……」
「相棒。僕と…いや、僕たちと一緒に行こう!」
その言葉を聞いた時、俺は感情を抑えることが出来なかった。目から止めどなく涙が溢れてくる。止めようとしても止まらないんだ。
「相棒!?大丈夫かい!?」
「だ、大丈夫。ごめん…俺、急にこんな、、ことになって…………だれも、助けてくれる人も、いなくて……だから、嬉しく、て」
「グレーちゃん!はいこれ!涙ふいて?」
「そうよね。不安にもなるわよね」
トリビーがハンカチを渡してくれた。そしてキュレネが俺を抱きしめてくれた。
「大丈夫よ。もう大丈夫。ここにいるみんなはあなたを傷つけたりしない。あなたはもう苦しまなくていいの。これからはあなたの…あなたの為だけの物語を綴っていけばいいのよ」
俺はキュレネに抱きしめられたまましばらくの間泣き続けた。みんなは俺が落ち着くまで見守ってくれていた。
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「ごめん。俺ずっと泣いて情けなかったよな」
「そんなことないわ。たまには思いっきり泣いて悪いものを吐き出さないとね♪」
後ろで手を組んでウィンクするキュレネ。不思議とその可憐な少女のその仕草に納得した。何となく彼女はこんな感じだったなと。
「さて、落ち着いたところであなたの返事を頂けますか?」
アグライアの質問に俺は頷く。
「ああ。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ようこそ黄金裔ファミリーへ」
こうして俺と黄金裔達との生活が幕を開けたのだった。
「ところで俺のこと調べたのって誰なんだ?しかもこんな短時間で」
「それは!」「もちろん!」「あたしたちです……」
「え?いや、どう見ても3人とも幼稚園児ぐらいの……」
「先生達は宇宙開発技術者の最高責任者なんだよ」
「え……?」
「それと趣味で探偵もしてるのよ♪」
「嘘だろ……?」
黄金裔ファミリーの謎が俺の中で増えた。
誤字脱字やセリフや設定の違和感があれば教えてください