魔王は《勇者》を手に入れた   作:なのさま

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7. 謁見

 エルフの里は、天へと指す大木が乱立し、その梢に家々が架けられていた。

 根は螺旋に絡まり、吊り橋が葉の海を縫う。

 

 すれ違う者は皆、美男美女。

 中にはムッとした視線を投げる者もいたが、誰ひとり声をかけてはこない。

 

「ここが我が家だ」

 

 一見、巨木に扉を付けただけに見えるが、中は幹をくり抜いた螺旋の廊と複数の部屋が続く。

 寝室を充てがわれ、そのままリビングへ向かうと、クレスが用意した豪勢な食卓が待っていた。

 

「来たな。

 ほら、早く座って飯にしようぜ」

 

「随分、張り切ったな」

 

「そりゃ、”アル復活祭”だからな」

 

 木目の卓に灯りが揺れ、湯気が立つ。

 キオたちと囲んだ質素な食卓では得られなかった満ち足りた感覚が、胸の内に静かに広がる。

 料理の質や量のせいではない──と、アトラにも分かっていた。

 

(我は今、この状況を“悪くない”と思っている……勇者の影響だ。

 そうに違いない)

 

 食事の間、土の中で目覚めたこと、人間との邂逅、そしてこの里を訪れた理由を二人に話す。

 クレスもネクアも、長い耳をこちらへ向け、黙って聴き切った。

 

「そうか、だからここまで来たんだな」

 

「門のことなら、女王陛下は実際に見ておられたはずだ」

 

(エルフの女王か。

 一度だけ刃を交えた──あれはやりにくい相手だった。

 手の内を読まれているようで、大技もブラフも利かん。

 ……いまも健在とは)

 

「この里に住む以上、女王陛下に謁見せねばならん。

 その折に詳しい話を聞くといい」

 

(それで謎が解ければ良いが)

 

 ◆

 

 翌日。

 ネクアに伴われ、里でもひときわ巨大な樹の前に立つ。

 もはや植物と呼べるのか怪しいほどの厚み。

 重厚な扉には幾重もの防御術式が編み込まれている。

 

(流石に王の居城は守りが固いな)

 

 門番への言伝てが終わると、扉は音もなく開いた。

 中から現れたのは、幼女の姿のエルフ──かつてアトラが対峙した女王、そのままの姿だ。

 

「クヒヒ、ようやく来よったか。

 さあ、早う入れ」

 

 手招きに従い足を踏み入れる。

 ネクアも続こうとしたが、門番の腕が横に伸びた。

 

「なっ!?」

 

「こやつを連れて来てくれてありがとう。

 お主は下がってよいぞ」

 

「こやつの案内、ご苦労。お主は下がってよいぞ」

 

 ネクアは動揺を隠せない。

 

「陛下、これは一体どういう──」

 

 女王は問答を拒むように、幼子の貌に似つかわしくない覇気を放つ。

 

「下がれ、と言った。

 わえに三度言わせる気か?」

 

 ネクアは威圧に肩をすくめ、一歩退いた。

 

「申し訳、ございません」

 

「なに、取って喰ったりはせん。

 ちょいと二人で”お話”するだけじゃ」

 

 荘厳な扉が、静かに閉ざされる。

 

 女王は何も言わず歩き出し、アトラ──いや、“勇者”もその背を追った。

 

 ◆

 

 案内されたのは、陽光が柔らかく落ちる客間だった。

 木肌を磨き上げた卓、樹皮を編んだ椅子、窓の外に青い葉海。

 

「まあ、座っておれ」

 

 勧められるまま腰を下ろすと、女王は自ら茶器を取り出した。

 

(女王自ら茶を献上するか。

 ならば、飲んでやらんことも無い)

 

「陛下、お茶なら私が──」

 

「客に茶を出すは、歓待者の務め。

 お主は座っておれ。

 飲んでくれるんじゃろ?」

 

「もちろんです」

 

 蓋を外した瞬間、柑橘に似た清香がふわりと満ちた。

 

「昔よりも良い茶葉が生産されておってな。

 品種改良というやつじゃ。

 里の名物として、世界中に出回っておる」

 

 黄金の液がカップに注がれる。

「美味すぎて気絶ものじゃぞ?」と目を細めるので、一口含む。

 

(──昔飲んだものよりも断然美味い。

 500年の進歩か)

 

「とても美味いです」

 

「”500年分の進歩”を舌で味わえたか。

 こちらの菓子も中々いけるぞ?」

 

 女王が取り出したのは、貝殻のような黄金色の小さな菓子。

 

(これは……パンの一種か?)

 

「これは”マドレーヌ”と言うてな。

 まあ食べてみよ」

 

 期待を乗せる眼差し。

 かじれば、ほろりと崩れ、バターと卵の優しい甘みが、紅茶のほろ苦さと溶け合う。

 

(う、美味い……!

 これが、まどれーぬ……もっと食いたい!)

 

「まだあるから、たんとお食べ」

 

「ふまいれふ」

 

 差し出されるマドレーヌを次々と頬張るアトラを、女王は愉快そうに眺めていた。

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