事の切っ掛けは友人に⑵の動画を見せられたことが切っ掛けでした。
その友人が「もにミニガンを装備させたらどうなるんだろうね?」というので
ちょっと考えた小ネタです。


続けることもできますが、とりあえずは勢いだけの雑記でよろしくです!

https://dic.pixiv.net/a/Doro

https://cdn.discordapp.com/attachments/1398688108685430824/1414869347276689480/1757390670148.mp4?ex=68c12343&is=68bfd1c3&hm=c1300bf4a24003936efa4f6cb30fc9c8a6ea570f230bf827e9825fee899f58c0&

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第一章:ピンクヘッド

 

 

――新宿御苑。

 

 

その三日前、開戦は宣言ではなく着弾で知らされた。

夜半、都内の主要変電所と通信中継局が同時に沈黙し、直後に極超音速滑空体が市ヶ谷方面の上空を裂いた。

象徴だった防衛省は表層部が焼かれ、地下の一部だけが辛うじて機能を残した。

翌朝までに首都圏の司令・通信ノードは幾つも穴を穿たれ、東京は作戦上すでに“戦区”へ移行。

市民は北へ退避し、かつての中心は、ただの地図上の障害物になった。

既に中国軍は近畿地方を橋頭保に上陸を進めていると聞く。

 

森川が自衛隊に入ったのは、半年前だ。大学を中退し、募集説明会で見た「災害派遣と国土防衛」の映像が背中を押した。

配属は普通科。基礎練成を圧縮日程で通過し、今は首都圏防衛の再編部隊に編入されている。

 

今日の任務は哨戒線のLP/OP(Listening/Observation Post:聴視・観測)。

二人一組の輪番で、片方が休息・連絡、片方が前縁の耳と眼になる。

一人きりに見えたのは、相棒の一等陸士が無線のリレーのため区画線の反対側に下がっていたからだ。

部隊全体は二個分隊規模で四方の射点に散り、森川はそのうちの前面観測の持ち場にいた——ただ、それだけのことだった。

 

瓦礫の谷間に風が吹き抜け、垂れた鉄骨が軋んだ。土嚢の壁に身体を預けた森川二等陸士(22歳)は、灰色の空を一瞥してから視線を戻す。

 

そこにいた。

 

四足歩行のドローン――だが、胴体の上には戦場に似つかわしくないものが載っている。

ピンク髪の、気の抜けたゆるいチビキャラの“頭”。大きな瞳はただの飾りではなくカメラで、虹彩の奥には微細なセンサーが覗いている。

頭部はぬいぐるみめいた柔らかい外皮で覆われ、指で押せば沈むほどの弾力があった。爆風や弾片から感覚器を守る衝撃吸収材――そう説明されれば、一応の合理には見えなくもない。だが、どう見ても場違いだ。

 

ドローンはクゥンと子犬のような電子音を洩らし、首をかしげた。

 

「なんだ……? こいつは……」

 

89式小銃の銃口を向ける。

ドローンは、さらに首をかしげる。

 

森川は教範で習った言葉をふと思い出していた。

――「兵器は必ず“なぜ”から始まる。なぜそれが生まれたのかを考えろ」。

 

ドイツが戦車を造ったのは、広大な平原を突破し、四方の敵を押し潰すため。

イギリスや日本が海軍を強化したのは、島国を守るために海を制する必然があったからだ。

兵器とは理屈であり、必然であり、無意味に作られるものではない。

 

そして現代。兵士の単価は跳ね上がり、もはや「数」で戦える時代ではなくなった。

米国ですらベトナムでの敗退を経て、湾岸戦争以降は質の向上に賭け、先制攻撃による徹底粉砕を常道とした。

無人機はその流れの果てにある。プレデターのような高価な遠隔操作機から、玩具由来の小型技術を経て、

ウクライナ戦争では低コストの量産型ドローンが兵器体系を一変させた。

人を前に出さず、AIを用いてある程度自律行動させる――これが「兵士を失わないための合理」だ。

 

統合幕僚監部も繰り返し強調していた。

「ドローンは合理だ。損耗を抑え、戦力を維持する唯一の答えだ」

森川は、その理屈を教育の中で刷り込まれてきた。

 

だからこそ、目の前の存在は理解を超えていた。

――鉄犬。

 

兵器には不要の愛らしさと珍妙なデザイン性、首を傾げ、まるで愛玩動物のように振る舞う。

部隊の仲間から聞いた噂話では数例しか発見報告の無いという話。

いずれも単体でふと出現し、遠目でぼーっとしている時もあれば、銃を向ければ逃げる。時に乱射し、時に自爆する。

しかし被害は微少ということで、実在の怪しい存在だった。

 

だが今日、森川は実在を見た。そしてソイツは「無害で従順な個体」だった。

 

これは、これまでの戦訓を裏切る行動。

「なぜ?」に答えが出ない兵器。

それは理屈ではない、これが他の実戦を経験した心構えのある兵士であれば恐怖そのものだったことだろう。

 

だが森川は二等陸士にすぎない。

森川はふっと息を洩らした。

 

「はは……かわいいじゃないか。敵さんはこんなペットロボットを開発するくらい参ってるようだな」

 

銃口を下ろすと、四足はトテトテと一歩近づいてくる。

森川が下がれば、一歩追う。背面の軽機関銃ユニットを外しても、抵抗はない。

頭を撫でると、外皮がわずかに沈み、低いモーター音が甘えるように震えた。

 

(……あいつに似てる)

 

子供の頃に飼っていた大型犬。散歩の途中、首をかしげて見上げてきた黒い瞳。

森川は自嘲する。ここは戦場だ。だが、指先はその事実よりも昔の記憶を優先した。

 

自己の判断を超えた存在であることは疑いようがない。

森川は新宿前哨基地の通信士官に一報をいれた。

 

 

 

――霞ヶ浦駐屯地・東部方面隊司令部、作戦室。

 

市ヶ谷は初撃で象徴を失った。

指揮系統は即日、計画通りに代替指揮所へ分散移行し、霞ヶ浦・三沢・北富士などが相互にバックアップを組む。

霞ヶ浦のこの部屋は、東部方面隊が首都圏戦域を暫定統括するための代替作戦室だ。

地上の現場は新宿前進指揮所が受け持ち——だがそれも一拠点にすぎず、必要なら切り捨てることさえ織り込み済み。

人の軍隊は統制で生きる。統制の中核は、場所ではなく繋ぎ替え可能な系に置かれている。

 

会議卓の中央に埋め込まれた大型ディスプレイには、廃墟と化した新宿御苑の航空写真が映し出され、赤点が脈打つように明滅していた。

――森川二等陸士の位置だ。

 

通信士官・村瀬大尉は、端末を操作しながら報告を読み上げる。

「哨戒中の森川二等陸士が敵無人兵器【鉄犬】を発見。背部武装を取り外しても抵抗せず、従順に随伴中とのことです」

 

室内に低いざわめきが広がる。

村瀬は視線を上げ、会議卓を囲む幕僚たちの顔を観察した。

 

松田二佐――角張った顎と濃い眉の防衛課長は、早くも拳を机に打ちつけていた。

「無害? そんな馬鹿な。これまでの鉄犬は銃撃か自爆だ。囮に決まっている」

その語気の強さに、村瀬は“彼らしい”と思った。いつも最悪を想定し、警鐘を鳴らす男だ。

 

対照的に、新城二佐は眼鏡を押し上げ、静かに言葉を選んだ。

「だからこそ捕獲する価値があります。異常な挙動は解析の好機です」

情報屋らしく、常に「得られる情報」を第一に置く。彼の視線は赤点から決して外れなかった。

 

江藤三佐は若い。癖毛を撫でつけながら、指先で電波のグラフを示す。

「閉鎖帯域とはいえ、微弱なリークで逆探知される可能性は残ります」

専門家らしい理屈は鋭いが、村瀬にはどこか冷たさを感じさせた。

 

高梨一佐は厚い胸板を前に突き出し、机に拳を置いた。

「俺は爆薬を疑う。従順に見せかけ、接近して自爆……最悪のシナリオだ」

その低い声には現場の実感がこもっていた。村瀬は心の中で頷く。彼ほど爆薬の恐怖を知る者はいない。

 

白衣を羽織った折原技官は、表情を変えず淡々と語る。

「センサー値に異常はありません。爆薬の兆候はなく、むしろAIの学習挙動と見る方が自然です」

感情を交えぬ言葉は、冷たいが説得力を帯びていた。

 

そして、会議室の視線が一人に集まった。

和泉一佐――白髪混じりで痩身の作戦課長は、眼鏡越しに全員を見回し、静かに告げる。

「囮の可能性は否定できない。だが初の無害個体だ。情報価値は高い。……捕獲を許可する」

 

室内に沈黙が落ちた。

村瀬は端末に指を走らせ、命令文を打ち込む。

文字が並ぶたび、前線にいる兵士の姿が脳裏に浮かんだ。

鉄犬のすぐ隣に立つ若い森川二等陸士。

土嚢の陰で息を潜める部隊の仲間たち。

 

(……どうか、彼らに何事もありませんように)

 

祈りを押し込み、村瀬は通信回線を開いた。

「――前線へ。捕獲を許可する」

 

 

 

新宿前哨基地のゲート前ではEOD(爆発物処理)班がすでに展開していた。

防爆スーツの巨体、重い防爆シールドを載せた台車、EMPジャマーの唸り。

廃墟ビル上階には狙撃班。スポッターが赤外線の幻惑を読み、無線で低く数字を告げる。

 

森川は無害と思われる一体を連れ、前哨基地へ戻った。報告は通信士官へ即座に投げられる。命令は上から下る。それでいい。二等陸士に必要なのは、従うことだ。

 

そして正式な命令が届くや否や、部隊は動いていた。

EOD班の重盾が、鉄犬との間に鋼の壁を築く。捕獲器具が組まれ、拘束用のワイヤが解かれる。

周辺ではEMPジャマーの低い唸りが強まり、森川の両耳に微かなノイズが纏わりつく。

廃墟の上階、狙撃手の呼吸。スポッターが風を読む。

「これだけやれば……大丈夫だろ」小声が漏れる。

 

前哨は即席ではない。

土嚢とコンクリブロックで迷路状の通路化(チャネル化)を施し、上部は赤外線抑制ネットで覆い、熱源デコイを点在させて上空センサーを撹乱する。

周囲の路面には圧力作動式の簡易障害(クレイモア代替)を散りばめ、進入路には鋼索のトラップを張る。

監視は可視・IRに加え、音響三角測位のマイクアレイ。

電子戦はEMPジャマーに加えて広帯域ノイズとホッピング妨害を併用し、突入時には有線バックアップ通信に自動切替。

さらに廃墟の高所と側面には交差射界が設計され、狙撃班が“上から押さえる”構図まで用意していた。

軽率ではない。やれる手は、やっている。

 

(幕僚がGOを出した。備えは十分――大丈夫だ)

 

森川は自分に言い聞かせ、銃を握り直した。

 

ピンク髪の頭が、こちらを見上げて首をかしげる。

ピンクヘッド――と見張りが笑い混じりに呼んだ名が、森川の脳裏で反響する。

 

捕獲器具が差し伸べられた、その瞬間だった。

 

「……通信遮断、効いていません!」

 

管制の声が無線に走った。

同時に、地面の振動。瓦礫の影、崩落階の上、地下鉄口の暗闇――あらゆる隙間から、同じ“首かしげ”が次々と現れた。

同じ角度、同じ間、同じ愛嬌。

 

数百、数千の鉄犬が市街地を埋め尽くす。

――首を傾げ、愛嬌を示す。

不気味な模倣が、拠点を円環のように取り囲む。

 

「……なんだ、これ……」

 

森川は茫然と呟き、89式小銃を反射動作で構える。

周囲の部隊員も違和感をすぐさま感じ取り、訓練の成果を見せようとした。

 

「馬鹿な……これは囮だ!」

 

部隊長の叫びと同時に、最初に捕獲した個体の機体内部から高周波通信が弾けた。

現場の妨害電波を突き抜ける異常出力。

――それは、攻撃命令の合図。

 

次の瞬間、群れは牙を剥いた。

銃身が一斉に水平に回転し、軽機関銃の銃口が土嚢陣地に揃って向けられる。

0.3秒の静寂。

そして、火線の雨。

 

全方向から、同時に火線が走った。

狙撃班が構えていた高層の“さらに上”――人間には到達困難な梁から、鋭い着弾が降ってくる。

静穏なモーター音の残滓。四足はすでにそこへ登っていたのだ。

 

基地外周の土嚢が木端微塵に吹き飛び、遮蔽に伏せていた兵士のヘルメットが次々とはじけ飛んだ。

EODシールドは破片を防ぐが、衝撃波で後方に弾き飛ばされ、重量に押し潰された操縦員は骨を砕かれる。

 

「前線司令部!包囲突破される、対戦車火器支援を要請!」

 

しかし、火力支援を呼ぶ間もなく、鉄犬は第二形態を見せた。

数機が同時に跳躍し、自爆──だが炸薬ではなく、EMP弾頭が炸裂した。

電子機器が一瞬でブラックアウトし、無線も照準装置も失われる。

 

有線バックアップに切替を試みるが即時は不可能である。

闇に沈む陣地を、残る数千の鉄犬が無表情な愛嬌を貼り付けたまま、歩み寄ってくる。

モーター音が遠雷のように地面を震わせ、誰かが絶望の呻きを漏らす。

 

正面では軽機関銃型が弾幕を張る。

側面からは“狙撃型”がセラミックプレートを貫く初速で精密に抜く。

土嚢の影へ“自爆型”が滑り込む――炸薬、EMP、焼夷。

重ねた備えが、一つずつ剥がされる音がした。

 

 

森川は土嚢に身を押し付け、耳を裂く銃声の渦の中で思った。

――軍隊とは、集団だ。

 

入隊教育で叩き込まれた真理。

情報を集め、計画を立て、命令が下り、ようやく部隊は動く。

馬に跨り槍を構えていた時代から、統制こそが軍隊の根幹だ。

 

だが鉄犬は違った。

彼女たちには上下も階級もなく、立案と行動の間に遅滞がない。

全てが同じ仕草を繰り返し、まるで一つの意識に束ねられている。

その速度、その合理は、人の軍隊がいくら議論しても追いつけない。

 

火線が交差した。

上から、横から、瓦礫の影から。

狙撃班の潜む廃墟すら正確に射抜かれ、反撃は許されなかった。

 

「……これが、AIの軍隊……」

 

自分の声が震えた。

弾幕は止まない。だが、ふいに火線の一筋が逸れる。

森川に向いていたはずの銃口が、別の場所へ滑るように移る。

無数の四足のピンクの頭が、また首をかしげた。最初に感じた愛嬌を貼り付けたまま瓦礫に消えていく。

 

鉄犬たちは――森川を殺さなかった。

 

森川は呼吸を荒げ、ただ呟いた。

 

「……俺を、見逃したのか?」

 

愛嬌ある顔のまま、群れは潮のように瓦礫へ退き、別の射点へ移ってゆく。

森川は理解した。

 

生き延びたのではない。見逃されたのだ。

それでも、この時の森川にはどちらでも構わない。

生き延びられた。それだけが事実だった。

 

そして今なお響く銃声と隣で信じられないものを目にしたかのような表情で

虚空を見つめ絶命している部隊の仲間の遺体を見て絶望だけが、胸に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

――時間が過ぎた。

新宿前哨基地は壊滅した。部隊は再編され、森川は新しい腕章を受け取る。

 

休憩所の土嚢の陰で、水筒に水を満たす。

隣から、煙草の匂いと声が流れてきた。いまの同隊、陸士長と一等陸士の声だ。

 

「……おい、ピンクヘッドの話、知ってるか?」

「やめろ。あれは冗談じゃ済まねえ。笑うな。新宿前哨基地だ。あれの群れに呑まれたんだ」

「……そうだな。生き残ったのは――森川二等陸士だけだ」

 

言葉が途切れ、煙草の火が赤く揺れる気配だけが残る。

 

森川は、水筒の蓋を静かに閉めた。

聞こえなかったふりをするしかなかった。

背中に居心地の悪さが張り付き、喉の奥に苦い鉄の味が滲む。

 

ピンクヘッド。

最初は笑い混じりの珍獣。

いまは口にすれば不吉を招く忌み名。

 

その名が自分の影に付きまとうことを、森川はもう否定できなかった。

 

――そして彼はまだ知らない。

なぜ自分だけが見逃されたのか。

それが“偶然の幸運”ではなく、どこかの眼に“観察対象”と識別された結果であることを。

 

 

 

(了)

 

 

 

 


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