叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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なんとびっくり、庚申待ち様の作品である"幼き神にはあしからず"
https://syosetu.org/novel/405008/
において、拙作の主人公である朝斗彦がお邪魔させてもらっています!ワーパチパチ

毎話ひっそりと投稿してるわたしとしてはクロスオーバーさせてもらうのも烏滸がましいんじゃない?という感じで、話が公開された後も内心(あの、本当にいいんですか?)となっておりますが、拙作とは違った視点で描かれる彼の事をどうぞよろしくお願いいたします。

以上、20年近く前の未就学児時代、祖母からあしかび(葦牙,阿斯訶備)と呼ばれていた、食べてよし傷に塗っても良し…という万能薬みたいな効果を持つ?甘い酵素の粉を何も知らずにスプーンで掬っては爆食いしていた、そんな筆者からのお知らせでした。
あしかびさま、あの時は本当にありがとう。





九十二話 亡失の暗黒演武

 

 

『今日は早めに寝る。申し訳ないけど比売、僕の分の夕餉は用意しなくていいよ』

 

 

『貴方がそんなこと言うなんて…珍しいわね?

分かった。今夜は三人で食べる事にするわ』

 

 

 

地底の異変後、社務所兼住居の電源設備の点検の休憩中の河童に改造されていた目覚まし時計がぴぴぴっと鳴ったと同時に、朝斗彦はその瞼をパチッ!と開き、その青い瞳は一切寝惚けることなく天井を捉えていた。

 

むくりと起き上がった彼はさっさと着替え、まず壁にかかった弓を手に取って熟れた手つきで弦を張ると、それを身体へたすき掛けした後に刀台へと掛けられた自らの愛刀を掴み取り、そのまま夜の空へと消えていった。

 

 

そんな彼の向かう先は、人里。

 

もしマミゾウの言うことが本当ならば、そこに自らの失せ物に関わる存在がいる。そう考えながら朝斗彦は満点の星々が広がる夜の空を、まるで流星が如きスピードで飛んでいた。

そして、そんな彼の姿を見つけ、(コレはきっと、何か格好のネタになるに違いない)…そう考えた恐れ知らずの天狗の記者が突撃し、そして呆気なく落とされた。

 

目すらも合わせず、気配だけを頼りに弾幕を放って全弾命中させるほど、今の朝斗彦は冷静かつ好戦的だった。

大事な宝を、そして貴重な自身の臍繰りを失った彼に、もはや敵など存在しないのだ。

 

 

「悪いが、今はそんなお遊びに付き合っている暇はない。これに懲りたら今はしっかりと羽を休めておくんだな」

 

 

自由を失い、くるくると回りながら堕ちていく名も知れぬ烏天狗を尻目に、彼は飛行速度をトップギアまで上げた。そして、自慢の黒髪と注連縄に付いた幣を靡かせながら人里へと向かうのである。

 

 

 

 

…

 

 

 

 

人里。

 

昼間の喧騒はどこへやら。

すっかり静まり返ったこの場所では、有力者達へと見出した希望に取り憑かれた民衆が、今も己から消え去った感情を失った視線の先に騒乱を求めている。

 

 

「妙な雰囲気だ。あまり長居はしたくないな」

 

 

朝斗彦がそう口にすると、辺りからおどろおどろしさを全開にしたひゅ〜どんどんどん…という如何にもな音と共に、幾つもの面が集まって回り始め、やがてその中心に一つの人影が現れた。その者の名は【表情豊かなポーカーフェイス】秦こころである。

 

 

「私の…私の希望の面…」

 

 

「かくいう僕の面もどこだか…。…それで、君が噂の付喪神だな」

 

 

「…む、なに奴」

 

 

朝斗彦が声をかけると、こころはそれまで彼の事は眼中にすらなかった様子であり、そこで初めて視線を彼へと合わせた。

 

 

 

「葦原朝斗彦。山の神にして守矢の配神*1。闘いを司る神であり、弱者を護る者でもある。

 

そして、なにより今は大事な宝であるお面を探す者だ!」

 

 

己の名乗りを上げ、腕を組みながら空よりこころの事を見下ろす朝斗彦の姿は、つり上がった眉に睨みが効いた三白眼の瞳、そして百戦錬磨の彼ならではの自信に満ち溢れた不敵な笑みも相まって、相対した者は皆恐れをなすであろうほどの並々ならぬ威圧感を放っていた。

 

しかし相手は面霊気、六十六の感情を操る感情のスペシャリストである。

どこかの操り人形ですらもヘラヘラとしているこの幻想郷において、ポーカーフェイスの上手さで彼女の右に出る者はいないのだ。

 

 

 

「…おー?なら私と同じじゃないか。

わたしも希望の面を…ん?いや…?

ちょっとまて!まさか……お前も希望の面を探しているのか!?」

 

 

「…ふっ、違うな。僕が探していたのはそんな珍妙な面ではなくキミだ!さぁ、今すぐに僕の元へと帰ってこい!!」

 

 

「何言ってんだお前!私はお前のことなんて知らない!気持ち悪いぞ!

…さてはおまえ、希望の面について何か知ってるな!?」

 

 

「なっ、なんだと!?気持ち悪い!?アレだけ長い時を共にしたのに、知らないとは生意気な!

それに、希望の面とかさっきから何訳の分からないことを言ってるんだ!」

 

 

初めこそ仲間と認定し、彼に近付こうとしたこころであったが、待った!と言わんばかりに慌てて右手を広げながら前へとやり、向かい合う不気味な存在と距離を取った。そして、何やら勘違いした様子で朝斗彦を指差すので、朝斗彦も売り言葉に買い言葉といった様子でエキサイト。

元々空気が読めない神と、希望の面を失って暴走状態に陥ったが故の勘違いを披露した面霊気の、何ともバカバカしい言い争いが始まったのである。

 

 

 

「うるさい!お前こそさっきから訳分からないことばかり言ってんじゃない!希望の面を返せ!アレがないとわたしは…!」

 

 

「わたしは…?で、その次はなんだ!ハッキリ言わなきゃこっちが分かることだって分からないぞ!

…というか、よく見たらなんだその面の数は!どうせどっかから盗ってきたんだろ!僕から逃げた時みたいにコソコソとな!」

 

 

「なんだって…?私が…盗人!?

盗っ人はお前の方だろうが!希望の面が無ければ私は能力を抑えられないのに!」

 

 

「神である僕に対し、盗人などと抜かすとは笑止千万!希望の面だとかなんだとか、僕の知ったこっちゃないが、それよりも…。

お前、能力が抑えられないと言ったな?そこまで苦しむのならば、この僕が責任をもって倒して、その面から解放してやる!そして、必ずや若女の面を我が手に取り戻す!覚悟しろ!」

 

 

「あーいいよ、やってやるよ!もちろん、そんな事をすれば里から全ての感情が喪われることになるだろうけどね!ここで私がそんな叶わぬ希望を抱いたお前を倒し、お前を希望の面そのものへと変えてやろうじゃないか!」

 

 

数多の宗教家達を打ち倒し、民たちの希望の星となった神道代表である霊夢を相手取るはずが、気付けばよく分からない大物(?)を釣り上げてしまったため、ただでさえ能力が暴走して自らの手に負えないこころはもう自暴自棄そのものである。

 

 

そんな彼女は妖力によって薙刀を練り上げると、穂と呼ばれる刃の先で地面をなぞるように回したあと、自らの体の前へと柄を持ってきて構えた。

そして、それに呼応して朝斗彦も地上へと降り立つと同時に自らの刀を引き抜いて構え、混沌が混沌を呼ぶ暗黒演武が幕を開けるのであった。

 

 

 

…

 

 

 

こうして、突如として巻き起こった面霊気と国津神の衝突であるが、有利なのは圧倒的にこころであると言えよう。

 

まず、彼女の扱う薙刀は攻守共にバランスの良い長物であり、対する朝斗彦は言うなればただの刀を用いている。その為、こころは朝斗彦の苛烈な攻撃を弾いた勢いのままに反撃する事が可能であり、反対に朝斗彦は常にその素早いカウンターを警戒した上で攻撃せざるを得ないのだ。

 

勿論、朝斗彦は闘いの神であることから薙刀の扱いにも熟知しており、その攻撃パターンを常に何通りも思い浮かべた上で戦っている訳であるが、それにしたって彼の劣勢は変わらない。そして、鎬を削れば削るほどに、彼の中に一つの疑念が浮かび上がるのだ。

 

 

(…コイツ、なんでまるで初めから僕の攻め方を知っているかのような動きをするんだ!お陰でさっきから全然仕掛けられない!)

 

 

こころは穂を搗ち上げるように振るい、そこで振りかぶった勢いのままに石突による打突を繰り出した。そして、それを受け流した彼の足元を掬うように再び長いリーチを生かした攻撃を仕掛ける。そんなこころに対して朝斗彦が仕掛けようとすれば、彼女は余裕飄々といった様子でその連撃を受けきり、そしてすぐさま反撃に転じるのである。

 

難攻不落の敵に対し、朝斗彦は巧みに対応しつつもその多彩な攻撃に対して妙な懐かしさを感じていた。

 

 

「…ははぁ、分かったぞ?お前の戦い方が」

 

 

大きく空中で一回転し、そのまま後退した朝斗彦がそう言うと、こころは顔色を変えぬまま手に持つ薙刀の石突を地面へと降ろして仁王立ちする。

 

 

 

「なんだ。今更何を言おうとお前は私に負けることが決まってるんだから訳の分からないことは言わなくていいぞ」

 

 

「…勝ち負けについてなど、今はどうでもいい。それに、訳の分からんことを言うつもりもない。それよりもその戦い方、誰に教わった」

 

 

「?」

 

 

「誰に師事したかを聞いている。答えろ」

 

 

 

朝斗彦の問いかけに対し、こころは首を捻って考えるものの、答えは出てこなかった。そして、無表情な彼女なりの答えを見つけたのか、こころは顔にひっついた平太の面と共に朝斗彦へと向き合った。

 

 

「私に師なんてものは存在しない。コレは我々が生まれた時から既に体に染み付いていたものだ」

 

 

「そうか…なるほどな。なら、その身に味わわせてやろう!八坂刀女比売の真の闘い方というものをな!」

 

 

そう言うと、朝斗彦は腕を組み、静寂に包まれた人里に響き渡るような大きな高笑いをあげた。

そして、ぐるぐると周囲を回るお面がこころの眼前を通ってその先に立つ朝斗彦と重なった瞬間、彼女の目の前に居た敵は皮を脱いだ蛇が如く女子へとその姿を変えたのである。

 

あまりにも素早い変化は初めて見るものであれば大抵驚かせるものであるが、やはりこころは動じない。そして、そんな変わらぬ表情を見た朝斗彦改め、【気骨稜稜の山の神】八坂刀女比売はニヤリと口元を吊り上げたあと、自慢の長い髪を振り上げた。

 

 

彼女は熟れた手つきでテキパキと髪を一つ結びにし、先程と変わらぬ闘志を漲らせた眼差しでこころの一挙一動を見逃さぬようにしながら大きく腰を落とし、そして刀身を下げて構えた。

 

 

 

 

…

 

 

 

 

「何が起きてるのかと思って見に来たが…来て正解だったな。博麗の巫女よ」

 

 

「アンタ…アレは一体なんなのよ!」

 

 

「いや、分からない。でも、あの妖が次に打つ一手なら手に取るようにわかる。

…だってアレは師匠からその教えを受けた、私や河勝の戦い方だからね」

 

 

「まぁ、そうだったのですね?かの聖徳太子があんな戦い方をするとは、さすがに予想外ですね」

 

 

観衆に紛れ、頭巾を被って戦いを見守るのは昼間この場所で大暴れしていた三人組。神道代表の博麗霊夢、道教代表の豊聡耳神子、そして最後は仏教代表、聖白蓮である。

なお、本人達は気づいていないものの、昼間から皆の希望を一新に受けた霊夢、そしてガチモンの聖人である神子と聖から溢れ出る妙な後光という三人それぞれが持つ力によって、この場においてはめちゃくちゃ目立っていた。

 

 

「あれは兄弟子が得意とする戦い方に近いけどね。私のやり方というのはどちらかと言えば、その相手である師匠のものに近い」

 

 

「…えぇっ!?あんなガニ股でズカズカ歩いて、守りを二の次にしてる…アレ!?」

 

 

本当に弾幕ごっこのルールを理解してるのかと疑問に思う光景が目の前で起きている中で、この場に集った戦士の中では唯一の現役世代である霊夢が、己の目をぱちくりとさせながら隣に立つイケメン道士の神子へと質問を飛ばしていた。

普段は変に大人びている彼女も、まだまだ年頃の女の子なのである。

 

 

「和を以て貴しと為す。逆らう事なきを旨とせよ。

 

…これは前の言葉のみが横歩きしているが、要は私に逆らったら許さないっていうこと。故に、摂政太子たるものも時にはあの様に苛烈に行かなくてはならない。

 

それこそが王道というものだ」

 

 

「へぇ…」

「…それをホントは覇道って言うんですけどねー」

 

 

「うるさいぞ、この破戒坊主」

「五臓六腑が丹の常用で腐ってる方々に比べれば私の方が全然マシです」

 

 

神子と聖、今の幻想郷における二大聖人であるこのふたりは、朝斗彦相手にさとりもしくは紫が行うやり取りが可愛く見えるほどには仲が宜しくない。

そのお陰で、普段他人に一切気など使わないはずの霊夢がバランサーの役割を担うという、信じられない状況が起きている。当然彼女も納得はしていない為、(コレもあの妖怪(こころ)のせいね)…などと内心毒づき、そしてその心の声を神子に聞き取られているのであった。

 

 

「……うぉっほん!一先ずこのネオン坊主は脇に置いといてだ。

 

「なっ!?酷くないですか!?」

 

戦いの話に戻ろうじゃないか。

 

あの武器は私が戦っていた頃には無かった武器だから知らないが…。長物とは基本的に使い手自身を軸として扱うものだ。

 

今の師匠の立場でうかうかしているとあっという間に相手に優位な状況へと持ち込まれ、大した抵抗もできぬままにやられることになるだろう。

それを避けるには、あの様に相手の胸元へと飛び込むように距離を詰め、ヤツにとってやりづらさを感じさせるしかない」

 

 

そう意気揚々と語る神子の横で頬を膨らませるのは【色々と限界を超えた阿闍梨】聖白蓮。

 

ライバルである神子が自らの目の前で戦う刀女比売直々の教えを得たというだけで威張り散らすこの状況を、彼女はなんとしてでも自分のモノにしたかった。要するに、ただの嫉妬である。煩悩ダダ漏れというやつである。

 

 

「…説明しても?きっとこの中で一番、あれの使い方を心得ているのは私でしょうからね」

 

 

平和主義者である彼女が自信満々の表情で胸を叩いてそう言うのでどうぞどうぞと霊夢が合図をすると、先程までのむくれ顔が嘘のようににこやかに話し始めた。

 

 

「薙刀はただの長柄ではありません。あれは、言わば流れ行く川のような武器です。使う者が変わるだけで穏やかなものにも、そして全てを飲み込む濁流にもなりうる…そんな面白いものなんです。

 

全ての動きが滑らかになればなるほど、隙のない守り、そして相手の痒い所を的確に狙える攻撃性を両立出来る優れものなんですよね。

…ほら、今も朝斗彦さんの刀をいなしてすぐに彼女の足下を狙いに行ったでしょう?あのお方は闘神ですから上手く対応できていますが、普通の野盗なんかが受けようとしたら足持っていかれますからね?アレ」

 

 

「……結構マジに詳しいのね。アンタって妄信的な平和主義者じゃなかったの?」

 

 

「…そりゃあ、わたしだって若い頃はヤンチャ(強訴)の一つや二つしてましたからねぇ〜」

 

 

頬に手を当て、照れ照れと恥ずかしそうにする聖を他所に、神子と霊夢は白い目を向ける。

 

 

「…だ、そうだ」

「…やっぱろくな奴いないわね、幻想郷(ここ)って」

 

 

 

 

…

 

 

 

 

 

「どうした!お前の持つ力はその程度か!」

 

 

「…むぅ!お前こそ、案外やるな」

 

 

「そりゃあ、どうも。

私だって長いこと戦いの神やらせてもらってるんだ。だから、これくらいどうって事ないんだよッ!」

 

 

刀女比売はまるで薪を斧で割るかのように刀を振り上げ、的確に相手が持つ柄の部分を狙って振り下ろしてはまた構え…と同じ動きを繰り返し、こころに攻め入る隙を与えぬようにしていた。

 

一方で、その重い攻撃をひたすら受け続けていたこころは、自らの得物がそろそろ限界を迎えることを悟っていた。

月の光をその刀身に受けた敵の愛刀には妖を浄化する恐ろしい力が宿っており、それを受け続ければ自らにも影響が出ることを、彼女は本能的に察知していたのだ。

 

 

「…そろそろだな!?お前の得物諸共、この一振りで全てをへし折ってやろう!」

 

 

「!!!」

 

 

首を傾げながらそう言うと、獰猛な笑みを浮かべ、唸り声をあげながら刀女比売は大きく刀を振りかぶり、防御の姿勢で構える目の前のこころに向かってソレを振り下ろした。

 

 

 

 

「ッ…!憂符"憂き世は憂しの小車"!」

 

 

*1:
守矢神社は上下の諏訪社が統合された存在であるため、下社の主祭神である朝斗彦は本来なら祭神を名乗ってもいいものを、妻の神奈子に対してあえて一歩引いた立場である事を主張している。






やだこの神怖い。本当にこんな奴が他作品に出張してるんですか?

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