ヤンデレと被害者。   作:ボクっ娘は一般性癖

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オーナーと少年。

田舎─その言葉を聞けば思い浮かべる素朴な光景。都会とは比べることができない空気のよさ。人と人の繋がりを大切にする文化。窮屈な場所に閉じ込められなくていい開放感。

 

そんな言葉を両親に並べ立てられて納得した少年は、海辺の過疎化が進む町へとやってきた。今まで住んできた世界よりもずっと閑散としていて、そしてどこか不思議な雰囲気がある町。今日から住むのだという実感と子ども特有の未知への好奇心が刺激される。

 

「待って」

 

両親が軽く呼び止める声も熱中し始めた少年には聞こえない。どこか塩が混ざったぬるい風が、ところどころが錆びついた家が、都会ではめっきり見る機会のない市場が、彼を夏の冒険へと駆り立てた。

 

両親は顔を見合わせて、後ろからそっと見守る。今日くらいは好きに歩かせて遊ばせてもいいだろう、と微笑ましげに小さくなる彼を見つめてゆっくりと歩いていく。

 

そんな大人が考えていた事など知らぬ少年は小さな体躯と頭を使い、頼りなさげにしながらも子供しか入れないような路地を何度も何度もくぐり抜ける。結果的に両親が彼を見失ってしまったのは仕方のないことと言えよう。

 

それから穴を何度もくぐり抜け、やっと少年はゴールを見つけた。彼の衣服は土で汚れていて、彼の体は全身から汗を吹き出すような疲労を脳へと訴えていた。休むことを忘れていた彼は、来るまでの苦労に見合うような美しい光景を見た。

 

「わぁ…!」

 

思わず声が上がってしまう。同時に先程の風よりも強く涼しい風が少年へと浴びせられ、思わず両手を広げて全身で感じに行く。痛みや辛さなんてのは感じている楽しさに比べればなにもないと変わらない。

 

何もない白い砂浜が足を立てるにつれてザクザクと音を立てる。追い風が背中から支えてくれる。美しい青い海がさざ波で誘ってくる。止まる理由もない、止まる必要もない。新鮮な景色と音の中でこれ幸いと暴れまわる。

 

次の瞬間、少年の視界はくるりと回転する。なんてことのない小さな貝殻。普段なら転ばないであろう砂浜にたまたま打ち上げられていたソレのせいで頭から激突するだろう。

 

「おやおや、危ないね」

 

瞬間、後ろから手を引かれる。父親とはまったく違う独特の強さで体が止まる─止められる。幼い彼にとってはムッとなる嫌な出来事としか思えず、怒りの表情で後ろを振り返って下手人の顔を見る。

 

「…ボクの顔に何かついているかい?」

 

それは女だった。彼からしてみれば非常に大きく─けれど、一般的にはそこまでおかしくはない身長。海沿いのよく日光が当たる場所とは思えない肌。日光を反射している海面と変わらない美しくきらめく白く透明な髪の毛。両目で異なる瞳が妖しく光ってハイライトもない。

 

幸か不幸か、少年に彼女がどんな存在なのか判断をする知識を持っていなかった。無垢であるが故に─本来の意味も、理由も、用途も、何も知らないで済んだのだから。

 

少年は彼女へと優しく笑いかけ、それから自分の名前を誇らしく宣言する。拙い言葉と幼い態度を海のように広い心で受け止めた彼女は─なぜか、しゃがんで涙を浮かべ始めていた。それを感じ取った少年は手のひらで拭い始める。

 

「…うん、別に気にしなくていいよ。お姉さん、ちょっとだけ不思議に思っただけだしね」

 

掠れすぎて聞き取れない声。次の瞬間にはもう悲しげに泣くことをやめ、夏の日では珍しくない格好で少年に対して笑いかける。眩しいその笑みに思わず少年も笑顔になりながら、彼女はとある提案をした。正確には、しようとした。

 

「■■■(ねぇさ)…■■(ああ)、■■■■■■■■■■■■(これじゃ伝わらないんだっけ)」

 

先程とは異なる奇妙な声はどこか心の奥底から嫌悪してしまうような美しいものであり、少年にとっても例外ではなかった。しかし彼女から離れる必要がないし、する意味もないと感じていた。彼女はごめんねのジェスチャーを少年にしたあと、おもむろに手を首の中に入れ込む。

 

グチュグチュチュと生肉をかき回す音。少しの間だけ響いた異音が少年にはどうにも心地よく感じてしまう。音を楽しんでいる少年とは裏腹に、見た目だけは冷静な彼女はどうも焦っていた。人魚姫のように声がでない─というより、少年が逃げてしまうことを恐れていたのだ。

 

「…よし、これでいい」

 

どの音にも該当しないソレは、しかし低音であって聞き取りやすいモノだった。お姉さんらしい─というより、声変わりをするくらいの微妙な時期特有の声。少年は聞いたことのない声である。

 

「さて、カフェにでも行こうか。お姉さんがやっているカフェ、人が来なくて暇すぎるんだよねえ」

 

過疎化の影響かねえ、なんて小さく理由付け。そんなこととはつゆ知らず─少年は彼女が言っているカフェというものに興味があった。先程まで見たことのあるものにはなさそうな新しいなにか。田舎には不釣り合いな気がするその三文字は確かに彼が行きたくなる理由には─彼女の奇妙さに惹かれていたのもあるが─充分だった。

 

「あ、もちろんお代は後で大丈夫。お姉さんのとこはそこらへん自由なんだ」

 

白魚のような柔らかい手が少年の手に食い込ませる─妙に強く。彼女は自分が通ってきたであろう道のりを二人で歩き始める。

 

指さした先には、何もないまっさらな砂と地平線が広がるだけだった。

 


 

やがて二人がたどり着いたのはどこか寂れたカフェ。外に出ている看板は波風の影響で見えなくなってしまっている、名前すらわからないカフェ。そのオーナーである彼女は片手を出してドアを開け、少年を招く。

 

「安心しなよ。お姉さんのカフェは中身を見れば驚きもものき玉手箱…うん、今じゃちょっと古いか」

 

チリンと涼やかな音が店内へと響き渡る。外見と反するかのような深い青を基調としたその室内には優しい音楽が流れており、海月のランプが照らす床には雄大な鯨が泳いでいる。今になっては珍しくもないコンセプトカフェに、随分と彼女は胸を張る。

 

「全部一人で作ったって思うと感慨深いんだよねえ」

 

少年に対して説明するつもりもないような独り言。客人に対する態度としては不適切なもの。少年にとっては心地の良い距離感を保ったまま、ゆっくりと席へと座らせる。彼女は机の上に置いてあるブヨブヨとした触り心地のメニューを引っ張り出す。

 

「お姉さんは久しぶりの料理ってことになるかなあ。少年はどれがいい?」

 

書いてある料理は文字化けをしていて読めることはない─読めないほうがいい、と大人がいるのならば警鐘を鳴らすおぞましい文字。子供にはまだ影響の少ない文字は少年に困惑をもたらす。

 

無論女性は読めることを前提として待ってくれているに違いない。彼女にとっては鼻歌交じりに読めるシロモノだが、少年にはどれもカンジやらドイツゴやらと大差のない読んでも覚えられない文字の数々なのだ。

 

「…もしかして決められないのかい?」

 

隣から助け舟が出た瞬間、少年は思わずそこへと飛び乗った。オススメをください、と女性の得意料理を食べたいようにお願いをする。子供から伝えられたオーダーは女性にとってよい響きだった。どこまでも無条件の信頼を向けてくるその純然たる瞳と魂。

 

「オススメ…うん、オススメだね。少しだけ待っておくれ」

 

時計のチクタク音がそう多く刻まないうちに彼女が持ってきたのはたこ焼きだった。海の幸を多量に使い、かつ少年の口に入りやすいように小さく作られている。自信のある様子で持ってきただけあって、この世のものとは思えない極上の美味だった。

 

「味には自信があるからね。ふふ、喜んでくれたみたいでよかった」

 

食べ終わるか食べ終わらないかで音もなく追加されたデザート─もはや、現実ではありえないと確信する行動ばかり。それでも彼女は少年が食べる様を海洋学者のようにじいっと見つめ続ける。

 

ごちそうさまでした、と少年が言った。嬉しそうに皿を片付ける彼女だが、やはり洗い物をした様子など普通の行動を一切取りはしない。ひたすらに少年の隣から離れることもない。

 

「…お姉さんのところにまた来れるようにおまじないをしようか」

 

聞き取れない単語を唱え始めた彼女から逃げようともしない少年をまっすぐに見つめ、腰までかかりそうな髪の毛が風もない店内で巻き上がる。地面から小さな光が包みこまれ、少年の腕へと絡みつく。

 

「抵抗しないで…そう、いい子だね」

 

目を瞑って必死に耐える彼を褒めながら、彼女の行動は終わりを告げる。何かを彼に植え付け、そしてそれが離れないようにだけした。言葉にすれば簡単なことなのに、どうにも彼女は説明ができない。

 

「…とりあえず、これでよしとしようか」

 

避けるようなその言葉と共に、少年に突如として眠気が襲ってくる。今まで感じたことのない異様な眠気と思っても、それに抗うだけの精神抵抗などできはしない。大人しく目をこすりながら座っていた彼女へと寄りかかる。

 

「おやすみ」

 

「また、おいで」

 

 


 

それから少年は一年に一度、真夏にこの田舎へと訪れて彼女と話すようになった。不思議なことに行こうと思えば彼女がひらりと手を振りながら現れる。どんな道を通ったとしても喫茶店のあった場所には一人ではたどり着けない。

 

「あぁ、それについては単純な話さ。ちょっとだけ不思議なところにあるのさ」

 

どんなことを質問しても同じように飄々として返す彼女に少年はいつしか問うことをやめ、喫茶店でたこ焼きを食べるという習慣を続けることを選択した。少なからず彼女に惹かれていたというのもあるし、あの味が忘れがたいというのもある。

 

「レシピ?名前?…そんなの、どこにもないさ。作る工程は企業秘密だしね」

 

どこもかしこもはぐらかす。過去や自分のことを中々話さない彼女─かといって、少年の話についていけないというわけでもない。しっかりと相槌を打ち、笑うときは笑い、常識の道に反すれば怒る。少年から彼女への信頼はとても強いものだった。

 

そんな年が続き、ここに来たときよりも彼が二回りも大きくなった頃。いよいよもって過疎化が進んだせいで若者がいなくなっている田舎に帰ろうか帰るまいか悩み始めた年。

 

「…そうかい。もう少年も巣立つ時期か…」

 

次の年からは来れないかもしれない、と少年は正直に伝えた。普段の会話とさして変わらない態度のまま続けようとした言葉は喫茶店の床に放り捨てられた。少なくとも彼女からの威圧には到底耐えられないモノだったのだ。

 

「…じゃあ、明日も会えるかい?最後くらいはこんな味気ない喫茶店よりボクの家のほうがいいだろう」

 

その圧力からの唐突な提案を拒める余裕などなかった。そもそも彼女から圧をかけられるということが珍しく、そして恐ろしいものだと感じていたからだ。それに少年からしてみても家に連れて行ってもらえるなら─彼女の他の顔を少しでも知れるのなら、行かない理由はない。

 

こくん、と頷いた瞬間にまた普段の雰囲気に戻る。どこまでも二人しかいない店内で、どこまでも少年の話を聞く。小さな潜水艇のような空間で、また彼女は正気を取り戻した。

 


 

最初にあった夏の日と変わらない暑さ、変わらぬ静けさ。遠くにあるヨットが立てた波がこちらまで届くような錯覚を与えるほど何もない砂浜。彼女は少年を待つかのようにベンチへと腰かけて座っていた。

 

「…やあ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「驚くのは無理もない、かな。お姉さんとしては君にわかりやすいように着てきたつもりなのだけど」

 

黒いポロシャツに短すぎるスカート。赤の瞳だけが動いて少年だけを不思議そうに映している。普段からの接客で来ているような服だとしても、明らかな短さは青少年にとって非常に刺激が強すぎた。

 

「ま、どうせこの後気にする余裕もなくなるし大丈夫。スカートからパンツも見えないしね」

 

ゆっくりと立ち上がった彼女は少年に手を伸ばす。白魚のような透き通りを持つソレをしっかりと握りしめ、彼女の隣で歩き出す。静かな中で砂を踏みしめる音がザクザクと断続して響いている。

 

「…お姉さんはね、君に家を紹介するのが怖い。」

 

少年の沈黙に合わせるように彼女は語りだした。音の出方はどこも変わらないまま、ゆっくりと彼女の喋る声だけが海と砂に溶け込んでいく。ある種の返答に困っている少年に畳みかけるように話を続ける。

 

「最初から気づいてたかもしれないけど、お姉さんはちょっと特別でね」

 

やがて二人は洞窟の中へと入る。岩肌が湿っているものの生き物の気配は殆どしない。海辺にしてはおかしい光景に、さして気にする様子もなく彼女は進む。

 

「…少し、昔の話をしようか」

 

「今ではもう昔の時代のことだ。とある港町があった─今となっては寂れてしまった港町だが、当時は栄華を誇った町だった」

 

「その町は嵐に見舞われる度に生贄を捧げて海を鎮めていた─そう、ちょうどここを歩いているみたいにね」

 

洞窟の中というのに、一切その声は反響することがない。ただ虚ろな声が少年の頭の中へと入り込んでいる。不気味な水音の反響と彼女の声だけが今聞こえている全てだった。

 

「もちろん、今じゃ妖怪や神様は昔ばなしに出てくるだけの、サンタさんとか存在しないものなんだけど…」

 

「ここには本当の神様がいる。いや、いたって言うのが正しいのかな」

 

彼女は荒々しい波を気にもとめず、そのまま恐ろしそうな注連縄を踏み越える。少年もそれに習うと厳かな雰囲気に変わった。波音や風の音でさえ敬意を払う空間へと少年は踏み出していく。

 

「あぁ、実際の神様は生贄を殺したりなんかしなかった─むしろ逆だよ」

 

「生贄のことを大切にしていた。死なないように知恵をつけさせた。そして別の神様のお嫁さんを作っていたんだ」

 

「神様らしくない神様。人を助け続けた神様が拵えたのがこの祭壇さ。生贄以外を寄せ付けないようにしたこの空間─今となってはその用途で使われることのないけれどね」

 

小さな明かりがついた古い古いその部屋へと彼女は歩みを進める。文明の光はこの空間にしかなく、少年はどこか一心地ついたかのように肩の荷を下ろす。

 

ただそれだけの空間。

そのためだけの空間。

 

考えてみると案外ぴったりな秘密基地ともいえる存在だった。ここに来ることは彼女の家に来ることだから入ることはもうないのだろうけど。

 

「それで、この話には続きがあるんだ」

 

「その港町が神様のことをとっくのとうに忘れて何百年経ったのだろうか─神様はすっかり生きる力なんてなかった」

 

「老衰で無くなる前に考えたのは自分の育てた娘も同然の生贄たちのこと。どうすればいいか考えたときに、一つの結論へとたどり着いた」

 

いつの間にか小さな波音が外から着実に迫っている。何も気にすることはなく彼女はそのまま喋ることをやめることはない─まるで、神を信じる狂信者と同じように。

 

「他(・)の(・)も(・)の(・)へ(・)と(・)受(・)け(・)継(・)げ(・)ば(・)い(・)い(・)」

 

「…言葉にすれば単純だし、それなりに優秀な生贄の少女が選ばれたとしても大した影響はない。世俗など知らない生贄には競争意識なんてのもない」

 

「お姉さんはそんな理由で神に選ばれた─現人神、あるいは継承者ってところかな」

 

さらりと告げられた事実は少年にはやはり理解しようがない。ただし彼女が理外の存在であることだけはわかった。わかってしまった。狂気の深淵を覗いてしまった。逃げようとする原始的な行動で立ち去ろうとした。

 

「人の話は最後まで聞いてくれよ。逃げようとするなんて少年(イケニエ)らしくないからね」

 

今まではなんとも思っていなかった青色の瞳の中には幾何学的な紋様が輝いており、見つめられた少年は体が動かなくなる。腰が引けているとか、へなへなとして座るとかも許されずその場で固まる。

 

「ともあれ、だよ。ボクの中にだって欲望はある。神様としての孤独感。始めて育てることへの恐怖。もちろん耐えられはするけれど、自分の中で消せるものは消しておきたい」

 

「神として奉られるための祭壇を作ったのもその一環だ─実態をカフェにしたほうが気軽に立ち寄られやすいからね。そんなことをしていたけれど、人を育てることだけはどうもやれていない」

 

「ボクは予行練習として見える人を育成してボクの嫁にしようと考えたんだ─あぁ、今なら呼び方は他の言葉があるのかもしれないけど」

 

「ま、神様になった以上は他の人に話しかけても見えないことのほうが普通だ。君は思っているよりも稀有な人材だったんだよ、少年」

 

触手が頬を撫でる。耳に彼女の冷たい吐息が吹きすさぶ。力で壊さないよう慎重な手つきは、まるで聖なるものに触れる敬虔な信徒であった。

 

「そして少年の見た目はこれ以上変わらないし変わらせない。お姉さんだって人間で居たいからね、触る力加減も変わるし見た目くらいは不老のほうが見栄えがいい」

 

「君が望むことはここから出なければどんなことだって叶えられる。その代わりただボクの傍にいてくれるだけでいい。…少年には汚れた世界など相応しくない。この世で最も美しく、海の支配者であるボクの側こそ、君に相応しい」

 

神は、彼女は、何一つとて恥じる様子も間違えることもない。人を愛する気性も、人を助ける気性も神から受け継いだ。されど一人には、単なる人類の一人でしかない凡人には、彼には、少年を受け皿にするものにしては、余りにも膨大だった。

 

海をたった一つの盃に注ぎきれるはずもない。

 

「訂正だけで済む話かどうかは知らないけれど君はもう逃げられない。最初からボクが作って君が食べていた食事─ま、詳しい話は少年に今度教えるとしようか」

 

「…ちなみにだけど、君には二つだけ選択肢が用意されている。もちろんボクからは逃げられない、というのを念頭に置いて聞いてくれ」

 

聞き分けの悪い生徒に話す視線。ペットを躾けるときの視線。母が子に向ける視線。

 

「一つはボクとのんびり過ごすこと」

 

「少年が知りたいことは何でも教えてあげられるし、少年がやりたいこともできる。最近の若い小説にあるスローライフっていうのがわかりやすいのかな」

 

「もちろん教育はさせてもらうけど、少年も不老である以上焦ることはない。寧ろ教育的には手のかかるほうが繰り返し教えられるからね。やがてはお姉さんと同じ現人神になっていく寸法さ」

 

「もう一つの選択肢はボクの中から産み直すこと」

 

「いわゆる転生ってものだね。モチロン今の少年の自我も消えるし、完全にボクの眷属になってしまう。そんなのはもちろん嫌だ」

 

「こっちの選択肢は全てを君に渡すからお姉さんと同じ孤独を一生味わうことになる。誰にも会えないで人に拒絶される生活をおくりたいかい?」

 

選択させる気はないような二つ。彼女なりの最大の譲歩。わかっていても恐怖と寒気の二重からくる震えが歯をカチカチと鳴らす。

 

「…すまないね、配慮が足りていなかった」

 

見かねた彼女に抱きしめられる。匂いがない彼女の抱擁で意識が冴えわたる。熱を帯びるまで離さなかったものの、こちらを真剣に考えていると理解した。

 

そう、理解させられた。

 

「それで、どうしたい?」

 

 

即答。選択を選んだ瞬間、少年は強い眠気に襲われる。彼女と最初にあったときに感じたあの眠気だ。柔らかい優しさと彼女の瞳が彼を捉える。

 

「お姉さんが叶えてあげよう」

 

「お代は、少年の一生だ」

 

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