転生者剣士はハッピーエンドを迎えたい 作:虚構歴史学者(自称)
廛閑が消えた後の星影村を沙月ちゃん視点でちょっとだけ。
短いので幕間とさせていただきます。
本来なら前話に入れるべき内容なんですが、どうしてもこのタイトル付けたかったがために分けて幕間にしました。
作者都合ってヤツですね☆
───気持ち悪い。
「いやぁ、しっかし驚いたなぁ」
「あぁ、まさか天観神様が鬼だったなんてなぁ」
「討ち倒してくれた旅人さんにゃ感謝しねぇとだな」
───気持ち悪い。
「俺達は騙されてたんだ!」
「旅人に敗けるなんて、神様なんかじゃねぇな」
「あんなヤツ、せいぜい神を騙る凡人だったってことさ」
───気持ち悪い。
「天観神様? あぁ、あの人間に負けたっていう」
「生贄も山の失踪者も、全部アイツが人喰い鬼だったから起こってたんだな、クズめ」
「天観神を許すな! ヤツは俺達を食い物としか見てなかった!」
・・・村の喧騒を抜けて山に入る。
彼らの“聖戦”から数日が経った。
朝日が昇り、ワタシが麗星神社に戻った時、すでに事は終わっていた。
まず目に入ったのは、柱が断ち切られ見る影もなくなった鳥居。
石段を上り切り鳥居を抜けると、あちらこちらがボロボロになった神社と、何人かの黒装束の人間が何かの作業を進めている光景が目に入った。
その黒装束達は、戻ったワタシに事の顛末を伝えてくれた。
曰く、この神社で神を
それから、村は変わった。 神託に従っていた今までを全て否定し、自分たちの力で生活していこうと皆が一致した。
───気持ち悪い。
ワタシ、神無 沙月はこの数日、村を歩いては何度も何度もそう思った。
なぜ、皆ああして笑っていられる? 今まで天観神様を信仰し、何度も縋り付いて救ってもらったのを忘れたの?
バカバカしい。 今まで天観神様がいなければ何も出来なかった人々が、今更どうやって生活を営むというのだろう。
そもそも、彼が“鬼”だったからってすぐに手の平を返すだなんて、不義理にも程がある。
あぁ、本当に。
「・・・気持ち悪いですね」
形を失った鳥居を、中央を歩いて通り抜ける。
・・・中央は神様の道。 だが、それは“神社”でのみ適用される話。
神社は、神がいなければ成立しない。 そして巫女は、神社がなければ巫女ではない。
なら、ワタシは一体何なのだろう。
巫女? 依代として仕える神社はもうない。
星影村の一員? あんな不義理な方々の一員など願い下げだ。
神無 沙月という人間? 神無 沙月は巫女である。
あぁ、そうだ。 ワタシは巫女なのだ。 生まれた時からずっと、麗星神社の巫女であることだけがワタシの存在意義だった。
麗星神社は仕える神社であり、ワタシの唯一の居場所でもある。
“家”と言っても差し支えないだろう。 実際住み込みだったし。
けれど、その居場所は破壊され、今のワタシはただの家なき子。 居場所も、信仰も、自身の存在意義も、生きる理由さえも、全てを奪われた。
これからワタシはどうすればいいのだろう。
───簡単だ、取り戻せばいい。 麗星神社を、ワタシの家を。
神の滅んだ社を再び神社にする。 神無き地に新たなる神を、信仰を。
そうしてワタシはその代行者として、“麗星神社の巫女”という唯一の存在意義を、依代を取り戻す。
・・・そのためには、ワタシが仕えるに相応しい“神”を用意しなくては。
ワタシの手で神を創る。 きっと長い旅路になるでしょう。
けれど、ワタシはこうするしかない。
ねぇ、幽希様。 アナタはこう言いましたね。 『“神”とは、人々が幻想し作り上げた虚像、あるいは集団幻覚に過ぎない』と。
けれど、ワタシはこう思うのです。 “その幻想こそが信仰であり、神とは信仰の現れである”、と。
ワタシ一人では、信仰になりません。 ですが、ワタシが神の存在を祀り上げ、神社という依代を介して広めれば、それはやがて信仰となり根付く。
尤も、アナタはそれを集団幻覚と一蹴するのでしょうけど。
アナタの行いは、ワタシをこうして茨の道に追いやりました。
もしアナタが今のワタシを見たら、己の行いを悔いるのでしょうか。 鬼を滅することで、幸福を奪われる人間もいる。
アナタ達は、そうした人々を救って下さるのでしょうか?
それとも、致し方ない犠牲として切り捨てるのでしょうか?
・・・その答えは、ワタシのような部外者にはわかりませんね。
「・・・行ってきます、母様」
天観神様の生贄となった母様が、かつて巫女だった頃。 神楽舞で使用していた薙刀を手に取り山を降りる。
神社の修復はあの黒装束の方々が行ってくれている。 ワタシがしばらく離れたとしても問題ない。
この世に神はいない。 だから人の手で祀り上げるしかない。
死者の魂は現世から解き放たれ解脱する。 ・・・ワタシの神に相応しい魂を狩り取り、その骸を神体として納め麗星神社の神とする。
・・・しかし、人の身ではできることに限りがありますね。
(天観神様、幽希様・・・鬼、鬼殺隊・・・始祖・・・傀儡・・・)
彼らの会話を思い返して情報を探る。 “鬼の始祖”、おそらくはその者のみが鬼を生み出せるのでしょう。
とすれば、鬼殺隊はその“始祖”を斃すことを目的とした組織。
鬼か人か。 ・・・ワタシが仕える神は、数多の人々を救った英霊が相応しいですね。
山の木々で軽く薙刀の使い心地を試す。 よく手に馴染む、神無の巫女が代々継いできた薙刀。
切れ味は鋭く、自在に扱える。
武器は十分。 後は使い手次第。 しかし、今のワタシでは到底彼らには及ばない。
幽希様はなんと言っていましたか・・・。
・・・あぁ、そうそう。 確か“呼吸”と言っていましたね。 おそらく人の身で人の域を超越する“呼吸”の仕方があるのでしょう。
誰かに師事できれば話は早いのですが・・・。
まぁ、今考えることではありませんね。 いつの間に山を降り切っていたようで、星影村が見えてきました。
村人への挨拶は・・・不要ですね。 あのような不義理な方々と話すなど、虫酸が走る。
行きましょう、しばしの旅立ちです。