転生者剣士はハッピーエンドを迎えたい 作:虚構歴史学者(自称)
なんか筆が乗りました、珍しい。
先に言っておきますが、作者のネーミングセンスには期待しないでください。
さて、とりあえず戦場の適当な木の上で戦いの行く方を観察していたワケだが・・・。
「危ないところだったな、お嬢さん」
知識で知っていた通り冷静さを失い突撃した真菰を間一髪のところで救出し、片腕で抱き抱えて着地する。
「離して・・・!」
「おいおい、仮にも命の恩人だぜ? ずいぶん冷たいねぇ」
「いいから離して! 私はアイツを殺さないと・・・!」
「・・・はぁ。 風の呼吸・陸ノ型 黒風烟嵐」
ため息をつき、俺諸共握り潰そうとしてきた手をノールックで斬り刻みながら真菰に目を向ける。
「その状態でか? 呼吸は乱れて視野は狭まり、死を前にして震えてる。 今だって俺がいなきゃ握り潰されてたろうな」
「・・・っ、それでも───」
・・・仕方ない。 少し強い物言いになってしまうが、こうでも言わなきゃ引き下がらないだろう。
「いいか? 感情はあくまで燃料なんだ、原動力じゃない。 いくらあっても能力は変わらないんだよ。 お前の師匠だって似たようなことを言ったんじゃないか? 分かったら一度頭を冷やしてろ」
「───っ・・・!」
カナエにアイコンタクトで"任せた"と伝えて悔しそうに歯噛みした真菰を預け、手鬼と対峙する。
こうして対峙してみると随分デカいな、こりゃ並みの精神力じゃ気圧されるのも納得だ。 まぁ、だからこそ立ち向かった二人の胆力は凄まじい。 さすがはネームド。
「・・・チッ、邪魔が入ったな。 どこの誰だか知らないが、お前も他の奴と同じように潰してやる」
「ふむ・・・。 あ、そうだ。 これはちょっとした親切心で教えてやるんだが、お前が山籠りしてる間に元号が変わったぞ? 今度の元号は
「・・・は? 元号が、変わった・・・? アアアアアアアア鱗滝め! 鱗滝めェェェ!!!」
わーうるっさい、咄嗟に耳塞いで正解だった。 ちなみに言っとくとまだ令和はおろか大正にすらなってない。 まぁつまり手鬼を激昂させるためだけの完全な
「さっきの会話も聞いてたんだが、お前、その鱗滝って育手と知り合いなのか?」
「あぁ知ってるさ。 忘れるわけがない、俺をここに閉じ込めた忌々しい鬼狩りの名だ! 俺がこの牢獄から出られないのは全部アイツのせいだ! だから復讐してるんだよ、アイツの弟子を全員喰ってやってなぁ!!」
「そりゃあご苦労なこった。 それだけの異形になれるまで、相当大変だったろう? 何度か強い奴とやり合うこともあったんじゃないか?」
「あぁそうだ。 特に印象に残ってるのは前に来た宍色の髪のガキだな、アイツは強かった。 そんなアイツでも俺の頸は斬れずに刀が折れたがな。 その時の表情と来たら・・・ヒヒッ」
これだ、この情報が欲しかった。 錆兎がもう帰らぬ人になってるなら殺す理由はないな。 炭治郎の成長イベントのため生きるのじゃ。
まぁそれはそれとして、よくも義勇さんをコミュ障にしてくれやがってと思うくらいは許されるだろう。
後ろで話を聞いてた真菰がすごい殺意を滲ませてるのが背中から伝わってくる。
・・・いや待てよ? ならいっそのことああしてしまうのも・・・。 ・・・うん、気が変わった、コイツはここで始末する。
「まだ未完成だけど、試し斬りには丁度いいな。
(ッ!? 消え───)
「ありゃ、ちょっと狙いずれたか。 胴体消し飛ばすつもりだったんだけど」
晦冥新月、一瞬気配を消すと同時に相手に肉薄し月を象った円形の斬撃を放つ技。 新月の夜に月がないように、斬撃を視認することが困難なのが特徴。 練度不足で狙いが外れた。
手鬼は晦冥新月でカラダの右下部分が円形にくり貫かれた状態でこちらを捕らえんと正面から横から足元から手を伸ばして来る。
「虚の呼吸・参ノ型
横と足元の手を斬り刻みながら後ろにさがる。 正面の手はそのまま周りの手を斬り落とした俺の肉体を鷲掴みにした。
「ヒヒッ、少し驚いたが掴んでしまえば同じこと! さぁ、まずはどこから千切ってやろ、う、か・・・」
「残念、残像だ」
そのまま握り潰そうとする手鬼だが、その手は虚空を掴むのみ。 一拍遅れてその手が腕ごと斬られる。
虚影・冥月霧切、円状の斬撃を放ちながら高速で移動することでその場に残像を残し、それに釣られた相手を残像ごと斬り伏せる技。 周りからは分身を発生させ共に斬撃を放っているように見える。 練度不足で速度が足りず最後の斬撃が遅れた。
「小癪なぁ・・・!」
「ほーん? そういうこと言ってくるなら正面から斬りに行ってやるか。 虚の呼吸・壱ノ型
亜空切断、一瞬で無数の黒い斬撃を放つ技。 某伝説の空間の神の専用技の名前をパk・・・借用した技なだけあって、その斬撃は岩だろうが大木だろうが容易くバラバラにできる。 練度不足で胴体は完全に切り落とせなかった。
さて、現状未完成ながら技として成り立っているのはこの三つ。 まだまだ拙いが実用に足ることを確認できた。
・・・もうちょい遊ぶか。 折角好きに実験できるいい機会だし、色々試してみよう。
私たちは目の前で繰り広げられる圧巻の戦いに目を奪われていた。 感情任せに飛び込んだ私のことを、殺される寸前で助けてくれた男の子。
「すごい・・・」
私とそう歳は離れていないであろうその子の戦いはあまりにも流麗で、美しさすら感じてしまう。
"虚の呼吸"、聞いたことのない呼吸。 彼はまだ未完成と言っていたけれど、とてもそうとは思えない。
けれど、使うたびに技の精度が上がっているのを目の前で見せられてる以上、未完成というのは事実なのだろう。
「ほぅら弐ノ型 晦冥新月、からの~壱ノ型 亜空切断っと!」
自身に命中しそうな手を的確に斬り落とし、姿が消えたかと思うと広範囲が削り取られる。 顔には笑みが浮かんでいて、戦うことそのものを楽しんでいるよう。
思い付いたことをどんどん試していくその様からは年相応の無邪気さを感じてしまう。
「ふむふむ、亜空切断は連発に向かないな~。 元が連撃だし仕方ないケドさ。 ただ他の型と繋げれば、振りに少し溜めがいる弱点を誤魔化せる、と。 じゃあ次は・・・」
彼は三つしか型を使っていない。 にも関わらず、型の"繋ぎ"が鮮やかで組み合わせが巧く、手札の少なさを感じさせない。
色々言ったけれど、結論は一つ。 私たちとは次元が違う。 強さの桁がズレている。
私達は眺めることしかできない。 一緒に戦おうにも、足を引っ張るのが目に見えている。 それほどまでに隔絶した実力差が開いている。
何度も鬼の頸を斬れる場面があった。 それに足る攻撃力も十二分にある。
再生だって追い付いてない。 広範囲をまとめて削り斬れる攻撃を連発してるから、一箇所を再生する頃にはもう他の部分がバラバラにされている。
けれど頸を落とさないのは、ひとえに彼が自分の呼吸を試しているからで。
言ってしまえば、殺す理由がないのだろう。
「・・・自信なくすなぁ」
「・・・そうね」
思い出すのは、狭霧山で私に稽古をつけてくれた兄弟子の顔。
錆兎。 厳しくて、けどどこか不器用な優しさを持った少年。
私は、自分が弱くないと思ってる。 これは決して自惚れなんかじゃない。
生半可な鬼には負けないし、万全の状態ならこの鬼にだって勝てたと思う。
それでも、今戦ってる彼には遠く及ばない。
「クソォ・・・ッ! これならどうだッ!」
鬼は闇雲に手を伸ばす、彼はその全てを避けるか斬るかして指一本触れさせない。 常に動きに余裕があり、どちらが戦いの主導権を握っているかなんて考えるまでもない。
「ッチィ! なら・・・!」
鬼はそう叫ぶと、なりふり構わず私たちに手を伸ばして掴もうとしてきた。
(マズい・・・! 完全に目を奪われてた・・・ッ!)
こっちに攻撃がこないからと油断していた。 戦場で気を抜いてはいけないと、そうわかっていたのに。
寸前で飛び退き回避できたものの、このままじゃ掴まれる。 そうなれば鬼は私たちを人質として使うだろう。 これじゃ本当に足手まといだ。
「お、丁度いいな。 参ノ型 虚影・冥月霧切」
丁度いいとはどういうことだろう。 刀を構えて迎撃態勢を取りつつ彼の言葉に内心で首をかしげていると、参ノ型で鬼に斬撃を与えた彼が眼前で構えていた。
「虚の呼吸・
彼がそう言って刀を振ると、私達に迫り来る手が彼を中心とした一点に吸い込まれていく。
その手は彼の近くまで吸い込まれると切り刻まれ、跡形もなく消えていく。
まるで渦潮に呑み込まれたようだと感じたが、それとは明らかに違う。 全てを無に帰す異質な闇によって消滅させられたように見えた。
「・・・よしよし、まだ構想段階だったけど、ぶっつけ本番にしては中々上手くできたな。 ま、それは置いといてだ」
彼は私達を狙った攻撃を全て捌くと、彼が離れたのをいいことに肉体を再生させている鬼から目を逸らさずに問い掛けてくる。
「さて、頭は冷えたか、真菰?」
「私の名前、なんで知って───」
「お前の選択肢は二つだけ。 俺に全てを任せるか、自ら因縁を断ち切るか」
「───っ、・・・・・・」
・・・私は、目の前の男の子に提示された選択肢を前に即答できなかった。
本来であれば、迷うことなどない。 けれど、今しがた見せられた光景によって失われた自信が、それを躊躇させた。
私は、彼より遥かに弱い。 それに錆兎だってこの鬼には勝てなかった。
さっきだって、私は彼がいなければ死んでいた。 それなのに、私がこの鬼の頸を斬れるとは思えない。
なら、いっそ彼に全てを任せてしまってもいいのではないか。
(・・・錆兎)
こんな時、兄弟子ならどうしただろうか。 錆兎なら、きっと逡巡することもなく立ち向かっただろう。
もし錆兎が今の私を見たら、しっかりしろと叱りつけてくれたかもしれない。
けど、彼はもういない。 他ならぬこの異形の鬼によって帰らぬ人となった。
「決断しろ! お前の想いはその程度か!?」
「ッ・・・!」
再生を終えた鬼の攻撃を斬る音とその声によって現実に引き戻される。
・・・そうだ、私は何をしていたのだろう。 私は鱗滝さんの弟子だ。 弟子としてみんなの仇を討つのは、私にしかできない。
「・・・やる。 私が、錆兎達の仇を取る!」
もう、迷いはない。 失われかけた自信が戻ってくる。 不思議と心は穏やかだ。
「・・・ふっ、よく言った。 安心しろ、絶対に活路は開いてやる。 蝶のお姉さんも協力してくれるだろ?」
「もちろんよ、任せてちょうだい」
彼はそう言うと、私達を見て笑った。 その笑顔は、最初に会った時の飄々としたモノとも、戦ってる時の獰猛なモノとも違う、とても優しい微笑みだった。
ということで幽希のオリジナル呼吸、虚の呼吸です。
一応風の呼吸の派生ということになるのかな・・・? 一番近いのは月の呼吸です。
エフェクトはサンムーンか剣盾のパルキアの"あくうせつだん"をイメージしていただければ。
もうちょい揃ってきたら解説入れるかも、全部で拾壱の型まである予定です。