健康で文化的な魔法使いの生活 作:冒涜的な茄子
自分の血筋はいとも簡単に明かされてしまった。
調べたことがないと言えば嘘になる。
いつも屋敷しもべや母、時にはレジーにまで妨害され諦めてしまった父親の行方。
もうとっくに興味を失ったそれを今更知ったところで、僕が僕であることは変わらない、と思っていた。
悶々としながら城を練り歩く。
今日は土曜日。配られた時間割によると魔法薬学が2コマあったが、オリエンテーションに置きかわった。本格的な授業は週明けかららしい。
そうこうしているうちに中庭に出た。ほとんどの生徒が寮内で固まっている。思っていた以上に寮の結束は強いようだ。
談笑する生徒の間を縫って図書館に続く階段を探す。広い城内をさまよいながらもそれらしき階段を見つけた。段々と青いローブが増えてきた。両開きの大きな扉を探す。
「見てくれ兄弟!彼はせっかくの記念すべき休日を図書館で過ごすつもりらしい。」
角を曲がると2人の男が現れた。燃えるような赤毛に大袈裟な表情。声変わり前のボーイソプラノにも関わらず、古ぼけたローブを着ている。裏地は赤。
「待て兄弟、彼は今日が何の日かわかっていないのかもしれないじゃないか。」
「おっと危ない!それじゃあ聞いてみるとしよう。やあ、緑のローブの君。君は今日が何の日か知っているかい?」
僕に話しかけているらしい。同じ顔が2つ、グッと近づいてきた。
「……土曜日?」
「おお兄弟、なんて事だ!彼は今日という特別を知らないらしい。」
「ああ、なんて嘆かわしい!俺たちが"ご案内"する必要がありそうだ____糞爆弾で。」
不味い。杖を構え対処を試みるが、糞爆弾なんてはじめてだ。プロテゴはまだ習得できていない。
「フィニ____」
ボンッ
むせかえるような悪臭が広がる。新品のローブにはベッタリと"臭液"が付いていた
「残念!正しい防ぎ方はインペディメンタ、妨害呪文だ」
「ちなみにエバネスコは増殖する」
「どっちも5年生の呪文だけどな!」
「ちなみに今日はホグワーツ入学後はじめての休日だ。ほうら、記念すべき日だろう?」
「おい兄弟、あれは噂のミセス・ノリスじゃあないか?」
「よく気づいた兄弟!親愛なる管理人が到着する前に退散するとしよう」
「じゃあな、親愛なるスリザリンの卵くん。」
「「また次の悪戯で!」」
何とも迷惑な双子もいるものだ。これでは図書室に入れない。
スコージファイはあいにく習得していなかった。そういった魔法はハウスエルフが使うものだから。
復讐に思いを馳せながら、寮に戻る階段を探す。
「そ、そこのスリザリン生のあなた、だ、大丈夫ですか?」
階段が見つかる前に教師が見つかった。
思わぬ幸運に笑みがこぼれる。
「すみません、先生。スコージファイをかけてくれませんか?」
「そ、その臭液は、く、クソ爆弾ですね。ええ、い、いいでしょう。さ、さ災難でしたね。」
先生は吃音症を患っているようだった。無言呪文でスコージファイをかける。
「無言呪文ですか。さすが、ホグワーツの先生は素晴らしい魔法使いが揃っているようですね。エー、」
「ク、クィレル。クィリナス・クィレルです。」
「クィレル先生。先生は何の科目を?」
「マ、マグル学ですよ。意欲的な生徒は、す、少ないですが。」
「マグル学ですか。それじゃあ2年後ですね。」
「マ、マグル学を選択するつもりですか?」
クィレル先生が教えるマグル学は受けてみたいと思った。吃音症でありながらもホグワーツで教鞭をとる実力。先程も素晴らしい無言呪文だった。日常的に無言呪文を使用する魔法使いはごく少数だ。きっと素晴らしい授業だろう。
ただ、マグル学自体にはあまり興味が惹かれなかった。
母曰く、マグルに対する差別と偏見にまみれた授業だったらしい。時代柄もあっただろうと思い、最近出版されたマグル学の本を読んだが、あまり期待できる変化は無かった事を覚えている。
「いえ、あまり。」
「そ、そうですか。き、き君は複雑な事情もあ、あるでしょうから、12フクロウも、し、視野にいれていいと思いますよ。」
「12フクロウ?」
「が、学歴は、強い武器と、な、なりますから。」
去り際の先生の背中は、少し小さく見えた。
やっと図書室に着いた。
自分のルーツが乗ってそうな本を探す。
……書籍は古いものがほとんどだった。150年前が最新らしい。自力で探すのは諦め、司書に尋ねることにした。
手前の大机に座っている神経質そうな女性が司書らしい。
「すみません、ここ2、30年の純血一族の家系図はありませんか?」
"週刊魔女5月号 最新版・純血名家家系図付き"発売日は1978年4月。なるほど、雑誌。盲点だった。
礼を言って閲覧スペースに行く。悪趣味なゴシップは飛ばして家系図を見た。
ブラックを辿る。未婚の男性はシリウス・ブラックとレギュラスブラック、アルファード・ブラックの3人だけ。アルファード・ブラックは1976年に、レギュラス・ブラックは1979年に亡くなったようだ。僕は1978年生まれなので、アルファード・ブラックは除外される。
シリウス・ブラックとレギュラス・ブラックについて、新聞を探す。 本当にブラックが父親なら、どちらかで間違いないだろう。
シリウス・ブラックは有名な死喰い人だ。ポッター夫妻を例のあの人に売り、マグル12人とピーター・ペディグリューを殺害した。ハリー・ポッターが"生き残った男の子"になった事件を引き起こした張本人。世紀の大犯罪者が父親だなんて、ゾッとしない。
レギュラス・ブラックも死喰い人だったようだ。新聞の隅に一言、"闇の陣営にある程度まで入り込んだものの恐れをなして身を引こうとした。例のあの人の命令を受けた死喰い人に始末されたのだろう"とあった。
どう転んでも最悪の血だ。念の為、母の家系も溯る。ここ五代、ブラックと血縁関係はなかった。先祖返りの線は薄いだろう。
もし僕が真にブラックの血を継いでいるなら、後ろ盾が必要になる。父親候補の片方はとうに死んでいて、もう片方は獄中。母も亡くなった。ブラック家の生き残りは女性だけ。そのほとんどが他家に嫁いでいる。祖母にあたるヴァルブルガ・ブラックも1985年にこの世を去っていた。
生き残った男の子によって闇の時代が打ち砕かれてから9年、魔法界は歪ながらも安定に向かっていた。古い王家はもう必要ない。今、魔法界の王に最も近しいのはマルフォイ家だろう。特に魔法省は、かのルシウス・マルフォイが牛耳っていると言っても過言では無い。
僕の学びは、王家の再興と捉えられるだろうか。
マルフォイの勝利の道を阻む者と、遠ざけられてしまうだろうか。
日も暮れてきたので寮に戻ると、ビクターが蛙チョコレートを開けていた。
「よお、優等生サマ。授業も始まってないのに図書室とは随分と真面目なことで。」
「自分のルーツをちょっと、ね。ああも言われちゃあ気になって仕方がない。」
「ふぅん。父親は見つかったのか?」
蛙チョコレートのカードをトランクに放り込む。サイドテーブルからは物が溢れていた。まだ1日しか経っていないのにこの惨状とは、先が思いやられる。
「まだ候補だが、2人まで絞り込めたよ。どちらも立派な死喰い人だ。」
「純血名家なんてどこもそんなもんさ。ウチの父親も、死喰い人でこそなかったがズブズブだった。どの家も龍痘でボロボロな中、マグルは死の呪いに代わる武器を手に入れた。残された奴も、"労働は下賎な者がやるもんだ"って凝り固まった価値観と過去の栄光に縋ってなーんもしない。減っていく財産には見向きもせずパーティ三昧。表立って革命を支持してたわけじゃあないが、誰もがそれに期待してた」
「そんなグリンデルバルドの魔法族によるマグルの支配が失敗した矢先に、より過激な魔法族至上主義、所謂純血主義を掲げる闇の帝王が現れたってワケか。」
「その通り!血統を誇る者はみーんな従った。あとは見てわかる通りさ。闇の帝王は赤ん坊に負けた。アズカバンを逃れても魔法界じゃ針のむしろ。魔法省は人手不足で左遷を免れた物も多かったが他じゃそうはいかない。」
「なるほど、言わんとすることは理解した。結果が今の純血名家の衰退か。」
「純血主義が失われる過程でもある。昔は魔法族が三代続けば純血だったんだ。廃するべきはマグル生まれじゃなくてマグルと血を繋いだ"魔法族"だよ。魔法族であることを隠して結婚する、とかな。」
ビクターの語気は、いつになく強かった。
「随分と詳しいんだな。」
「ウチは叔父が死喰い人でね。格式を重んじる祖父はもう大反対。"闇の帝王の家系図を持ってこい"ってね。どの血筋か分からない奴に付き従うな、とか言ってたらしい。叔父は絶縁されてるよ。祖父が亡くなってからの父は、日和見主義の風見鶏であの時代を生き延びた。」
はぐらかされた。触れられたくないのだろうか。表情は、逆光で上手く見えなかった。
「間違いなく、最も賢い生き方だな。匂わせつつも旗印に掲げることはしない。」
「お陰で今も快適さ。父はレイブンクローに入って欲しかったらしいケド。」
確かに、今の魔法界でスリザリンは忌み嫌われている。
闇の魔法使いを多く排出しているというが、それもここ100年の話だ。本来ハッフルパフ以外は似たり寄ったりだったのだから。
大イカが窓の外をゆっくりと泳いでいる。徐に、灯りをつけた。
「まア、魔法戦争は終わったんだ。魔法界も安定しつつある。僕達が卒業する頃にはスリザリン出身が足枷になることもないだろう。」
「来年はノットのお坊っちゃまも入学だけどな。」
「言うな。せっかく忘れてたのに。」
じとり、と睨む。サイドランプに照らされた軽薄そうな顔が揺れていた。
お久しぶりです。
調べたら調べるだけ矛盾が湧き出て困ってます。
二次創作は茨の道……