どうも勇者の母ですが。 〜私の家は託児場などではないのですが?〜   作:α-β-Ⅲ-Ⅳ

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1話 クソガキ。

「アルミナ・ユーグリット殿。貴殿を見込んで、一つ願いがあるのだ」

 

 鳥の囀り、虫の鳴き声。

 木々の合間から聞こえる自然の音が、私の目を優しく覚ましてくれるはず。

 特別なことなんてなにもない、いつも通りの日々のはず。

 そう決して特別なことなんて起きていないのです。

 一人の男の声以外なにも聞こえないなんてあり得んのです。

 

「だからすまない、目を開けてくれないか?」

 

 ええそうですとも、これは現実逃避というやつです。

 それでもそれをしなければやってられんというものなのです。

 だって、だって──ほとんどだたの一般人である私に、神が依頼をするなんてあり得ないのですから……!

 

「……もう一度、お願いします」

「む、分かった」

 

 いつのまにか私が立っている白く荘厳な神殿に現実感を失いつつも、大きく息を吐いてなんとか正気を保って、目を開ける。

 目を開けた先には、美形な青年が一人。

 彼の名はアストラ。現世において絶大な影響力を誇る『主聖教』の、主神様だ。

 そう、ここは神界。

 ……一般人である私が立ち入ることなんて、絶対にない筈の場所だった。

 

「我々神は生まれた瞬間から完成されているのが普通なので、生まれたばかりの子供を育てる手段を知らないのだ」

「……」

「故に、貴殿にその子供の育成を頼みたいのだ。人間にもあるだろう? 里親のようなものだ」

「……なる、ほど」

 

 正直、顔が引きつっていると思う。

 けれど仕方ないと思うのだ。誰だって、神様に子供の里親を依頼されるなんて思わないでしょう……!

 

「……ちなみに、何故私に?」

「決まっているだろう。かの“歴代最高の勇者”を育てた母君だからだ」

「ですよねぇっ……!」

 

 ……私の唯一普通ではない点。

 それは、私の娘「ユーリス・ユーグリット」が“歴代最高の勇者”として持て囃されている、ということだ。

 

 ユーリス、母は誇らしいです。

 でも、まさかそのせいでこんな厄介事が舞い込んでくるなんて思いもしませんでした……!

 

「して、受けてくれるか?」

「……ぁぃ」

 

 正直、色々いっぱいいっぱいで頭が回らない。

 頭を抱えながら、力なく了承した。

 

「それはよかった! それでは、現実の方にその子を送っておく」

「……はい」

「まぁ、少々問題児だがしっかり育ててあげてくれ」

「……え」

「厳しくしてもらって構わないからな。では、またな」

 

 ちょっと待って、今何か不穏なことを──。

 そう思って問い詰めようとしたが、何故か目を逸らしたアストラ様の顔が嫌に脳裏に残りながら。

 私の意識は、一瞬でブラックアウトした。

 

  *

 

 「起きろ」

 

 鳥の囀り、虫の鳴き声。

 木々の合間から聞こえる自然の音が、私の目を優しく覚ましてくれる。

 特別なことなんてなにもない、今度こそいつも通りの日々。

 そう、決して特別なことなんて起きていないのです。

 

「起きろと言っている」

 

 ええ、そうですとも。

 小生意気……いや、傲慢とすら取れるような威圧的な少年の声なんて聞こえていないのです。

 そんなものは幻聴、嘘、存在しないもの。

 辺りに耳をすませば自然の音が私の心を癒して──

 

「起きろと言っているのだ、三度も言わせるな!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ! 夢じゃありませんでしたぁぁぁぁ!」

「うわっ、急に発狂をするな」

 

 夢ではありませんでした! 現実でした! あの依頼は実際に起きたことでした!

 頭を抱えて暴れまわる私を、誰かが蹴り飛ばす。

 そのまま壁にぶち当たり、肩を強打……というか結構な強さで蹴りましたね!?

 

「というか蹴られた!? え、誰に……あ」

「ふん、ようやく気付いたか。我が名はネア、“人”の神である」

 

 そこに居たのは、黒髪の少年。

 見覚えのないその姿に、けれど先程の自己紹介でなんとか察することができた。

 この少年こそが、私に任された子供……? この、偉そうな少年が?

 

「おそらく考えている通りだ。ほら、今日から貴様に我を育てる権利をやる。だから早く育てて見せよ」

「……は?」

 

 待って、待ってくれ待ってくださいって。

 まさかこの……このクソガキが、私がこれから育てる子供であると?

 こんな、傲慢で態度の悪いクソガキを?

 

「……もしかして、受けない方がよかったやつ、ですか?」

「なにを言っている? 世界初の栄誉であろう、神を育てる人間など。存分に喜ぶが良いぞ」

 

 ……ふぅ。

 依頼受けるの、早まったかもしれない。

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