連邦捜査部S.C.H.A.L.E所属顧問・加賀美ハヤト   作:「浦和さん、法廷で会いましょう」

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5.黒見さん?!

 

 

 

「うぐぅ……まさか先生が来てたとは」

 

 バイト用の制服に着替えたセリカは、頭を抱える。

 

「アビドス付近の飲食店は限定されるからねぇ。セリカちゃん、こればっかりはしょうがないよ」

 

「大将ぉ……でもぉ」

 

 まさか、対策委員会の皆んなにもバレないように秘密にしていたバイト先が、まさか先生にバレてしまうとは。

 

「終わった………」

 

 自分の秘密を、一番知られたくない人に知られてしまうとは。どうしよう。もしかしたら、対策委員会のみんなにもバレてしまうのではないだろうか─────

 

 頭の中で、ぐるぐると懸念が渦となって、とうとう彼女は蹲ってしまう。

 そんな彼女に、加賀美は恐る恐る声を掛ける。

 

「黒見さん、どうか顔を上げて下さい。

(わたくし)は対策委員会の皆様には告げ口など絶対にしませんから」

 

「はぁ!?言っとくけどアンタのコトなんて、信じられないんだから!」

 

ギロリと、加賀美を睨め付ける黒見セリカ。

 

 それに対し彼は顎に手を当て、思索を巡らせる。両者の間に暫しの沈黙が流れた後、加賀美ハヤトは口を開いた。

 

「そうですね……(わたくし)の事が信じられないのであれば、黒見さん。此処は互いに約束を交わしませんか」

 

「は?何の約束よ」

 

「黒見さんは、(わたくし)に誰にも知られたくない秘密を知られてしまいました。それは、一方的で、不平等な状況です。……ですから、その代わりに(わたくし)も知られたくない、知られたくない秘密を貴女にお教えします」

 

「は?」

 

「そうすれば、もし貴女の秘密を(わたくし)がバラした時、貴女は(わたくし)のバラされたくない秘密を暴露出来る。故に、(わたくし)は───」

 

「そう簡単には、私の秘密を話せないってコト?」

 

「はい、そうです」

 

 一方的に秘密を知ってる状況はフェアじゃない。だから、こっちも一つ秘密を教えてやる。

 加賀美は、そう言ってるのだ。

 

「はぁ………勝手に言えば?言っとくけど、取るに足らないような秘密だったら、ノーカンだから」

 

 この約束は、加賀美の秘密がバレたら大ダメージとなるような代物でなければ、意義が破綻する。

 お前の開示する秘密は、本当に恥ずかしいモノなのか。セリカは、そう言ってるのだ。

 

「えぇ、わかってます」

 

 それに対し、加賀美ハヤトは真剣に構える。

 

「では、黒見さん。よく眼をかっぽじってご覧ください。(わたくし)の秘密は………コレですッ!」

 

 彼はズボンの膝の生地を少し摘み、少しだけ上げる。すると、ズボンの端で隠れていた革靴の全身像が顕になった。

 

 それは、漆黒のレザーに深い光沢を宿しており、セリカが一目で見ても非常に上質な代物であった。そんな加賀美ハヤトの皮靴なのだが。

 

「……ぷ。ははっ!なにその結び方!」

 

 靴紐の結び方が、余りにも拙かった。

 

 あまりにも、高級革靴に不釣合いなヘッタクソな蝶結びだったのである。

 

 そう。何を隠そうこの加賀美ハヤト。

 実は、蝶結びが今から2年前にようやく習得出来たほど、紐結びが異様に苦手であった。

 

「先生、そのビジュアルで靴紐結ぶの下手くそなんて!そんな事ある?!」

 

「…………くっ自分で言い出しておいてなんだが、正面から言われるとめっちゃ恥ずかしいぞ………!」

 

 ジャケットに挿された金色細工のラベルピン。

 そして、その胸ポケットに収められた、上質な真紅のハンカチ。

 一目で見て高価なモノだと理解できる銀の腕時計。

 

 それに並ぶ、覚えたての小学一年生が頑張って結んだようなしっちゃかめっちゃかな蝶々結び。

 

 それは加賀美ハヤトを構成する"大人の雰囲気"として、あまりにも違和感があり過ぎた。 

 

 しかも、それをズボンの丈端で巧く隠していたという小癪な事実。そこには、当人も"本気で気にしてる"という絶妙なガチさがあった。

 

 "あ………本人マジで気にしてるのね"

 

 そう思わせるに足るだけの、スゴ味があったのだ。

 

 フォーマルを極めた一種の麗しさすら感じる加賀美の全身像。それ対して、あまりにもヘニョヘニョ過ぎる靴紐。それがあまりにも可笑しくて、セリカはめちゃくちゃツボに入ってた。

 

「あはははっ!そりゃあ知られたくないわ。

これは秘密にするって」

 

「ぐぅ………」

 

 誤算だった。

 自分から話を切り出したというのに、彼は想定以上の精神ダメージを受けていた。

 

「ですが……コレで!コレで信じてもらえますか……!」

 

「……ぷふっ……さすがに……ぷ……さすがにそんなモノ見せられたら、信じるしかないじゃない」

 

 肩の揺れが収まらないセリカ。

 そんな彼女を見て、加賀美の心は「あぁぁ!言わなきゃ良かった!」という羞恥と「よし、これでなんとか信じて貰えた」という安堵で掻き乱れていた。

 

「約束ですからね。黒見さん……!

絶っっっ対言わないでくださいね!!」

 

「うーん。

………でも、対策委員会のみんなに知らせないってのも、ちょっと勿体ないような………」

 

「黒見さァん?」

 

「分かってる、分かってるって!靴紐の事バラしたら、私のバイトの事も諸共バレるってことでしょ?」

 

「……理解して頂けてるようで、何よりです」

 

 よかった。爆笑で記憶をど忘れしていないようで、加賀美は安心する。

 もし、彼女が約束の意図をすっかり忘れしまっていたら、加賀美ハヤトはただJKにコンプレックスを開示しただけの異常成人男性になってしまうところであった。

 

「でも、いい事知れて気分はいいわね♪」

 

 セリカはご機嫌であった。

 

「黒見さん本当に大丈夫ですか?」

 

 加賀美は怪訝な目で彼女を見る。

 

「大丈夫だって!こっちが話さない限り、そっちも話さないんでしょ!」

 

「そうです。だから、互いに学校では秘密、守ってくださいね?」

 

「えぇ、わかってるわ。そっちも柴関ラーメンで働いてるってコト、みんなに秘密にして─────」

 

「ん、セリカ。秘密って何?」

 

「「?!」」

 

 柴崎ラーメンの店内で繰り広げられた二人の会話。その空間に、ぬるっと立ち入ってきたのは、砂狼シロコであった。

 

 いや、砂狼シロコだけではない。

 

「あ、あはは…セリカちゃん、お疲れ…」

 

「なっ……なっ」

 

 そこには、奥空アヤネ、十六夜ノノミ、小鳥遊ホシノ。アドビス高等学校廃校対策委員会の全員が集まっていた。

 

((嘘ぉ?!))

 

 加賀美ハヤトと黒見セリカによって奇跡的に結ばれた秘密による協定。しかしそれは、一瞬で崩壊してしまった。

 

「み、皆さん……どうして此処に?!」

 

 ホシノが、にへ〜っと笑う。

 

「うへ〜偶然だよ、偶然。昨日、先生がこのお店の事を話してたら、こっちも食べたくなっちゃってねぇ」

 

「それで思いきって、来てみたんです。

にしても……セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイですね☆」

 

「な……」

 

「いやぁー。セリカちゃん、ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

 

「ち、ち、違うって!関係ないし!こ、ここは行きつけのお店だったからで……」

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう、先生?一枚買わない?」

 

「買いませんよ…….」

 

「変な副業はやめてください、先輩……」

 

 ワイワイと面々が賑わう中、セリカがため息を付く。

 

「………で、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

 

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆私のカードなら、限度額までまだ余裕ありますし」

 

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生が奢ってくれるはず。

……だよね、先生?」

 

「なるほど。そうきましたか」

 

 加賀美ハヤト先生へとお鉢が回る。

 小鳥遊ホシノ、彼女は強かな生徒であった。

 

「……えぇ、いいでしょう。生徒に頼まれて断るようようであれば、この教員証も廃ります。対策委員会の皆さん、今日はこの(わたくし)が奢らせて頂きます……!」

 

「「「やったー!」」」

 

「先生……ありがとうございます」

 

 全てを奢ると宣言した加賀美に、彼女たち(主にホシノとノノミ)は「おぉー!」と歓声を上げ、万雷の拍手を彼へと浴びせる。

 

 こうして、加賀美ハヤトは彼女たち四人に昼食代を奢る事となった。

 塩ラーメン、味噌ラーメン、チャーシュー麺、特製味噌ラーメン・炙り味玉チャーシュートッピング。

 

 ちなみに、最後の品はホシノのものである。奢りという理由からか、トッピングに遠慮がえげつない。もしかして、遠回しに加賀美ハヤトの財布に対し攻撃を仕掛けているのではないだろうか?

 本当に強かな女だな君は。

 

 彼自信が食べた柴関ラーメンを含めれば、ラーメン5杯分の代金を彼は支払う事となっていた。

 

 安価なラーメン店へと足を運んだと思ったら、まさか昼の一食で彼は五千円以上を支払う事となるとは。世の中には恐ろしい事もあるものだ。

 

 ………だが、5000打点(yen)の衝撃が財布に直撃したにも関わらず、加賀美ハヤトの表情には翳りの一つもなく。

 そのどっしりとした構えは、味方陣営の噛ませキャラの攻撃を「効かぬわァ」と一蹴する筋肉大男の敵幹部じみていた。

 

「すみません、お支払いはカードでいいですか?」

 

そう言って彼が財布から取り出したのは、マットな漆黒に金の印字がされたカーボン製の長方形───いわゆる、"大人のカード"と呼ばれるものであった。

 

「うへぇ〜大人のカードだぁ。しかも黒いの。私初めて見たよ。先生〜S.C.H.A.L.って羽振りがいいんだね〜」

 

「そうなん…………いえ。ここで話す事ではありませんね。(わたくし)の給与の方については、ノーコメントとさせて頂きましょう」

 

「うわぁ〜はぐらかされちゃった。でも、それって図星突かれた人が取る態度じゃない?」

 

「別に突かれてませんが?」

 

「先生……強がると余計ドツボにハマことになるよ」

 

 自身の経済力についての話を無理矢理終わらせようとする加賀美ハヤトに、シロコは冷静にツッコんだ。

 

 そうやって、店先でひたすらワチャワチャする対策委員会の面々に対し。

 

「だぁーー!もう、会計済んだならさっさと帰りなさいよ馬鹿!!」

 

 黒見セリカは、力いっぱい吠えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

【大人のカード】

加賀美ハヤトが持つクレジットカード。

なんとすごい事にそのカードのランクは、カード会社が発行する中で最も高いとされるブラックカードである。加賀美インダストリアル社長としての地位に見合った社会的地位や経済力を証明する代物と言えるだろう。

 ─────しかし。特に、それ以外の目立った特徴はない。いたって普通のクレジットカードである。そもそも加賀美ハヤトの"大人のカード"に、"不可思議な力"なぞ宿っていない。

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