光のれな子   作:あばなたらたやた

46 / 46
36話

 

 六時間。

 敗北回数、百三十回。

 普通なら、とっくに心が折れていてもおかしくない数字だ。

 けれど。

 

「なるほど。そういうことか」

「ええ。やっと分かったわ。作戦会議よ、真唯」

 

 部屋から聞こえてくる二人の声は、むしろ今まで以上に楽しそうだった。

 リビングで私はキッチンで包丁を動かしながら、開いた扉から漏れ出る声から状況を想像する。

 だふん画面の前では真唯と紗月さんがコントローラーを握り、イャンクルルが森を駆け回る様子を熱心に分析しているのだろう。

 

「イャンクルルは、火力で殺してくるタイプじゃない。『雑に戦うと殴られる』タイプよ」

「具体的には?」

「まず突進。普通の突進なら横に避ければいいわ」

「そうだな。問題はそのあとだ。通常時なら避けたあとが反撃の時間になるから、突進を見たら『避ける』だけじゃなくて――」

 

 真唯が一拍置く。

 

「『避けたあと殴る』までが一セットだ」

「攻撃を避けることだけ考えると、もったいないってことね」

「その通り。イャンクルルは、避けることより『攻撃の終わりを覚える』ほうが大事だと思う」

「でも、怒ると話が変わるわよね。突進のあと倒れ込まなくなるから、通常時の感覚で近づくと次の攻撃をもらう」

「同じモーションでも状態によって価値が変わるわけだ」

「ええ、怒り状態になったら一度距離を取り直して、相手の行動パターンをリセットしたほうが安全よ」

 

 私は思わず笑ってしまう。

 六時間前まで「初見で勝つか、情報収集を優先するか」で議論していた二人が、今では完全に同じゲームに夢中になっている。そしてあんなに真面目に作戦会議をしているのだ。

 

「一番危険なのは?」

「クチバシ突進。後ろに転がって逃げようとすると追いつかれやすいから、回避より位置をずらすべきだ。正面に居続けず、弱点である頭部を常に殴ろうとしないこと」

「最初は動きを覚えて、安全な位置取りを優先するべき?」

「ああ。頭を狙わせるような隙をちゃんと言い訳のように持ってるからさ」

 

 包丁を置き、鍋の中をかき混ぜる。

 なんだろう、この妙に微笑ましい空気は。

 

「近距離の尻尾回転は、お尻を振ったら一回離れる感じね」

「いや、予備動作を見てから行動を選ぶとチャンスが増える。リスクはあるが、ここはとっても良いリスクだ。『来る』と分かってから離れることをお勧めするよ」

「火炎ブレスは? 通常時は分かりやすいけど、怒り状態は連続してくるから……『一発避けた、今なら殴れる』じゃなくて――」

 

 紗月さんが少しだけ考える。

 

「『まだ終わってないかもしれない』って考える方がいいかしらね」

 

 その言葉を聞いて、私はテーブルで料理を盛り付けている紫陽花さんと目が合った。

 どちらからともなく笑みがこぼれる。

 

「……なんか、いいね」

「うん。二人とも、すごく楽しそう」

「最初はあんなに意見が違ったのにね」

「今は、ちゃんと一緒に考えてる」

 

 テレビの向こうで、イャンクルルがまた倒れた。

 

「よし!」

「今のは完璧だったわ」

 

 二人の重なった声に、私は思わず吹き出す。

 

「大きい子供だね」

「ふふっ」

 

 笑う紫陽花さんをみながら、私は言う。

 

「でも、こういうのって素敵だと思わない? 二人とも同じスタート地点から始めて、最初は何も分からなくて、負けて、また挑戦して。少しずつ分かることが増えていく」

「うん」

「紗月さんは紗月さんのやり方で、真唯は真唯のやり方で。でも最後には、一緒に『どうすれば勝てるんだろう』って考えてる。同じスタート地点から、習熟に差はないからね。一緒に遊んでる感は強いんだろうね」

「そうだね、一緒に学び楽しむことを二人はあんまり知らないと思うから」

 

 紫陽花さんは嬉しそうに微笑んだ。

 ゲームが上手いとか、頭がいいとか、どちらの作戦が正しいとか、そういうこととは少し違う。

 最初は二人とも何も知らなかったからこそ、同じように失敗し、驚き、考えた結果として、いま二人で一つの答えを探している。それが、なんだかとても良かった。

 

「……あ」

 

 紫陽花さんが、何かを思いついたように私を見る。

 

「じゃあ私たちはさ……」

「?」

「お母さん?」

「…………」

「ほら、二人がゲームしてる間にご飯作ったりお茶入れたりして、帰ってくる場所を作ってあげる感じで……」

「紫陽花さん?」

「……お母さん」

「まだ言う?」

「お母さん……」

「ゴリ押すねぇ! 紫陽花さん! 最強二人、されど問題児がちゃんと育ってくれて嬉しいよ。紫陽花お母さんのおかげだ。いつも助かってるよ」

「ううん、れな子お母さんが助けてくれるおかげだからだよ」

 

 私たちは思わず笑ってしまう。

 そんな会話など知る由もなく、テレビの前では二人が再び戦闘を始めていた。

 

「紗月、今の攻撃は――」

「分かってるわ。次は私が弾く」

「頼む」

「任せて」

 

 画面の中でイャンクルルが翼を広げる。

 

「来る!」

 

 二人の声が重なったその瞬間、私は紫陽花さんと再び顔を見合わせた。

 

「……本当に楽しそうだね」

「うん」

 

 穏やかな日々は過ぎていく。

 

 

関わりが見たいヒロイン

  • 王塚真唯
  • 瀬名紫陽花
  • 琴紗月
  • 小柳香穂
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TSアルビノ美少女inわたなれ(作者:ガテル)(原作:わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?))

▼前世陰キャで二度目の人生もコミュ力よわよわなTSアルビノ美少女をわたなれにぶち込んだだけのお話。


総合評価:3107/評価:8.24/連載:13話/更新日時:2026年08月22日(土) 17:53 小説情報

全肯定合法ロリ娘の本性を誰も知らない(作者:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。)(原作:わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?))

転生全肯定合法ロリ娘、周囲の脳を焼く。▼なお本人の思考()。


総合評価:2867/評価:8.86/連載:5話/更新日時:2026年05月13日(水) 19:11 小説情報

添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜(作者:鐘楼)(オリジナル現代/恋愛)

毎日姉に添い寝をしてもらっている少女、花平希沙音は高校一年の夏、ついに「一人で眠れるようになりなさい」と姉の家を追い出されてしまう。▼一人で眠れる気がしなかった希沙音は、なんとか添い寝を頼めないかと転居先の女子寮で出会った親切な少女、伊咲深白にお願いをする。▼しかし、深白は何人もの少女を手篭めにしてきた悪女だった。▼案の定、希沙音も深白に美味しく頂かれるのか…


総合評価:2748/評価:8.89/連載:31話/更新日時:2026年07月14日(火) 12:05 小説情報

ようこそ百合至上主義のハーレムへ(作者:らっきー(16代目))(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

無貌の神様のお陰でよう実の世界にTS転生した?ならばやるのはただ1つ──ハーレム作りだ。▼弱みを握ったり借金を背負わせたりしながら百合ハーレムを作る話。▼※造花で作った百合の花なのでもしかしたらタイトルをとせがらハーレムとかに変えるかもしれません


総合評価:11576/評価:8.93/完結:51話/更新日時:2026年06月24日(水) 07:03 小説情報

よう実RTA 特殊トロフィー最速取得チャート(作者:KKKK)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

今回はこのよう実のRTA動画を配信していこうと思います。在学中に八億以上のポイントを貯めて大金持ちのトロフィーを最速で取得していくぜ。▼別の主人公で投稿を新しく始めました。蛇足ではありますがよろしくお願いします。


総合評価:15408/評価:8.79/完結:46話/更新日時:2026年07月24日(金) 21:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>