元社会人、異世界にTS召喚される。 作:名無しの投稿者
かなり久しぶりにオリジナルを書いてみました。
うまく書けているといいのですが。
『──以上を持ちまして、シナリオ〝宵の明け星〟を終了します。みなさん、お疲れ様でした』
『おつかれー。いやー長かったね』
『お疲れさま。
『楽しんでいただけたようでなにより。あなた達が暴走するせいでその都度改変することになりましたがね』
「いつものことだから許して」
『許さない。許して欲しければハーゲンを所望する』
『じゃあ、オフ会の時に持ってくよ』
「では、私はグリンティーで」
『オレはキャラメル』
『俺はストロベリーを所望する』
『……言っとくがKPの分しか買わんぞ』
『では、僕はオレオでお願いします』
『はいよー』
『ケチ! 俺の分もくれよぉ』
『自分で買え。社会人だろ』
ゲームが終わっても和気藹々と話す卓メン達。日々の仕事の疲れは残っても、この時間だけは逃せない。私の数少ない趣味。
プレイヤーは各自でキャラクターを作成し、進行役のゲームマスター(GM)の導きのもと、サイコロ(ダイス)などのルールに従って行動し、協力して一つの物語を作り上げていくというモノ。
学生の頃からやっているけど、飽きたことはない。自分たちで物語を。一つの世界を作っていくのは楽しい。自分たちが作り上げた物語だが、別の人たちが同じシナリオをやっても別の物語が生み出される。
そういうモノを見ているのは好きだ。また別の解釈。別の世界を見ているような気がして楽しい。
『──でさ。あんのクソ上司さぁ』
『社会人って大変なんだな』
『あなたは留年したから、あと一年遊べるね』
『金かかるけどな』
「大学費用って高いからね」
遊びすぎて単位を落とし、そのまま大学を卒業出来ずに大学五年目へと突入したらしい。可哀想に。っと、そろそろ寝ないと。仕事に響いてしまう。
「ごめんね。そろそろ寝ないと」
『明日も仕事か? 週何連勤してんのさ』
『社会人なんてこんなもんよ』
『働くって大変なんですね』
『学生と働かなくてもいい奴っていいよなー』
会話は盛り上がりを見せるけど、私はそろそろ寝なければいけない。
通話から抜けてゲーミングチェアを倒す。……そういえば、ベッドを使って寝ることも少なくなったな。パソコンでゲームしてそのままゲーミングチェアで寝て。配信見てそのまま寝て。
気がつけばベッドを使わない生活になってしまった。まあでも、……このゲーミングチェア。座り心地も寝心地も良いんだ。
目を閉じて眠る体制に入る。疲れた。楽しかったが、それはそれで疲れた。バッドエンドを回避するために、色々考えさせられたし、仕事の疲れもある。
明日も朝から仕事だ。ゆっくり休んで寝よう。
意識が沈むような感覚と共に眠りにつく。
────たすけて
何処からか聞こえる謎の声。
見えているのは瞼の裏側なはず。しかし、──目を開けると、暗い空間に居る。
何も見えない。というよりも、何もない場所なのかもしれない。
でも、目の前にいるへたれ込んだ少女はこちらを見上げている。目には涙を浮かべていて、無表情のままこちらを見ている。
大体、歳は7〜8歳。小学生ぐらいの灰色髪の女の子。
「どうしたの? 大丈夫?」
「……」
「なんでこんなところに。お母さんは近くにいないの? お父さんは?」
「……」
少女は何も答えない。ただ、ぼーっと見つめているだけ。
見える景色が、今この場所はただの夢かもしれない。でも、こんな場所で一人は寂しいだろう。……朝が来るまで、起きるまで近くにいよう。夜が明ければ、少女も元いた場所に帰れるのかもしれない。
「……あなた、だれ?」
少女は私に問う。まあ、それもそうだ。私も彼女に覚えがないんだ。少女の方だって私に覚えはないだろう。
「私は、鈴屋亜月。君は?」
「…………」
「もしかして、名前がないの?」
「……」
少女は名前がないらしい。なんて親だ。こんなに可愛い子に名前も与えないなんて……とは言っても、この少女が名前の意味を知らないだけなのかもしれない。いや、流石にそんなことないか。
となると、この少女。なかなかに苦労の多い人生を歩んでいるんだろう。
「……」
「えっと、そうだな。私は君のことは知らない。でも、これも何かの縁。話して楽になることもある。少し話していかないか?」
「……」
「……」
うーむ。話せなさそうだ。困った。困ったぞ。
親戚のちびっ子達の気を引くためのアイテムを今持ってるなんてことはないし……。この不幸そうな少女の気持ちを楽にしてやりたいが、そんな力が私にはない。
「…………あの、ね」
「?」
「……ぱぱと、まま、ね。かみさまをよんでるの」
「神様?」
「……うん。かみさまとお話ししたい、って。かみさまをよんでるの」
神様か。
「どんな姿をした神様なの?」
「…………しらない。でも、かみさまとおはなしするために、みんなうごかなくなっちゃった」
姿も名前もわからない神様ね。
どんな宗教にだって、人智を越えるような存在を信仰していたり、幸せになるために何かを崇める。しかし、その実態をわかない。ただ、神と会話をするために皆んなが動かなくなる。……生贄とか、精神喰い系の神様なのか。
なんの神様なのかはわからないけど、宗教にハマる人間。特に、神との対話をしようとするような奴らにまともな人はいない。
「そっか。君も、神様と会いたいのかい?」
「……」
「会いたくない?」
「…………かみさまといっしょになったら、ぱぱとままがよろこんでくれるから。かみさまとあいたい」
神様と一緒になる。つまり、神格をその小さな身に宿すという行為のことか? なら、融合した時、この子の精神はこの子のままで居られるんだろうか。
おそらく無理だろう。だって、この子の精神は崩壊寸前で、もう感情が発露する感じもない。何故泣いているのかもわからないし、どうしたら良いのかもわからない。全てを諦めて、全てを投げ出そうとして。でも、親から褒められたくて頑張ったけど、頑張った結果。少女は褒められる事なく消えてしまう。
そんな予感がする。
だとするなら、そんな結末はあんまりじゃないか。
少女の隣に座って頭を撫でる。
「……?」
「よく頑張ったね。私は君が褒められたかったパパとママじゃないけどさ。君はよく頑張ってる」
「……? ?」
「……だから、辛いと思うなら泣いても良いし。苦しいなら『たすけて』って言ってもいいんだ」
これは直感だ。ただの希望的観測からの思い込みに過ぎないのかもしれない。でも、今私が考えるのは一つ。
ここに私を呼んだのは。あの、微睡の中で聞こえた助けを求める声の主は。今、私が頭を撫で、自分が泣いていることに困惑している目の前の少女だ。
苦しくて、辛くて、誰かに助けて欲しいのに誰も助けてくれない。
そんな、昔の私の様な力を持たないか弱い少女。
「大丈夫。──私が来た」
私の好きな漫画に出てくるヒーローの台詞。
いつか救われたいと願った昔の私が、言われたかった台詞。安心して助けられたい。そんな時、私がかけてもらいたかったその言葉。
しかし、この少女には伝わらなかったらしく。涙を流しながらキョトンとしている。
「私が助けてるよ。私は君の力になりたい」
私は独り身だ。仕事だって、本来私がいなくても回る物だし、この身が破滅したところで困ることは特にない。
この少女のために、私は自分の人生を放り投げてもいい。この子は、昔助けてもらいたくても助けてもらえなかった私なんだ。私と同じなら、その辛さを知る私が助けるべきだろう。
それに、わざわざ呼ばれたんだ。私だから呼ばれたのか、たまたま呼ばれたのかはわからない。でも、縁が結ばれて。こうして出会った。
私は、この子の力になりたい。
「…………たすけて、くれるの?」
「ああ。私に出来ることがあればなんでも言ってくれ。可能な限り力になるよ」
私が叶えられる物なら叶えよう。それが、君の助けになるなら。
少女は私に抱きついて胸に顔を埋める。……親戚の子とは違った愛らしさがある。
「……たすけて。たすけてほしいの。〝かみさま〟」
「? ……私は神様じゃないけど、君の神様になれたらいいな」
人は人の神様にはなれない。救われるには、救われたい当人が頑張るしかないのだ。
だから、私は少女の神様にはなれないけど。一人の大人として、少女の力になりたい。
「…………ありがとう。……おねがいします」
「いいよ」
お礼はちゃんと言えるらしい。
困っている子供がいたら手を差し伸べたい。私は、昔からそんな大人になりたかったんだ。……今までの生活を投げ捨ててまですることでは本来ないんだろうけど、私はこれでいい。これでいいはずだ。
私の胸に顔を埋める少女。薄汚れた灰色の髪に、ダークレッドの目をしたあまり見ない特徴的な容姿。…………事実は小説よりも奇なりとは言うけど、ラノベ小説的な展開に足を突っ込むことになるとは思わなかったよ。
ただ、本心を言うと、こんな不幸な子なんて本当はいない。これがただの夢であって欲しい。
でも、濡れる胸元や抱きしめた時の暖かさは人のそれだ。……私に出来ることがあるならなんだってしよう。
暗い世界に光が現れて、私たちを包み込む。
そして、光が収まると同時に目を開けた。
薫ってくる鉄の匂いと濡れている様な不快感を感じつつ、恐る恐る目を開けつつ体を起こす。
「──! ──────!」
「……?」
人の声が聞こえる。大人の男の声だ。辺りを見回すと──控えめに言って中々ショッキングな光景が広がっていた。
あるのは血を流して倒れる人々。そして、大量の子供達の亡骸。リアルSAN値チェック不可避な状況に混乱する。
しかし、取り乱すまでいかないと言う不快感。まるで、自分が自分ではなくなった様な感覚だが、そんなことを気にしていられない。
白い外套に胸当てをした金髪をオールバックにした厳つい顔の男性が、私と隣でまだ寝ている少女を交互に触りながら何か言っている。
しかし、私には彼がなにを言っているのか理解できない。
「…………あ……あ、あ……う」
だめだ。うまく発音できない。
とりあえず何かを伝えようと声を出すけど、うまく発音できず、そのまま咳き込んでしまう。
それを心配してか厳つい顔の男が私の背中をさすった。
大きくて、とても優しい手つきだった。
私と少女は男に保護された。その間も私と少女は話しかけられたが、私は、厳つい顔の男がなにを言っているのかわからなかった。
そして、少女は一言も話さなかった。
────!
────。──―。
──。──―、──────。
「……」
……拝啓、私の友人、卓メンたち。
私は、よくわからない世界へやってきてしまった様です。
私はヨタヨタとふらつきながらも歩き、少女は厳つい顔の男に背負われていた。できれば私も背負って欲しかったです。ハイ。