元社会人、異世界にTS召喚される。   作:名無しの投稿者

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悪意の前触れ

 

 

 

 

 

 

 ランベルト邸の執務室。

 人祓いの術式付与(エンチャント)をした盗聴防止の結界と、武装した数名の使用人が外に配置されている。この場所は、今この屋敷で最も警備が厳重と言えるだろう。

 

 元々、外に情報が漏れないように色々仕掛けが施されてある室内。有力な貴族が来客として来ていたとはいえ、不自然なほどの警戒体制。初めから何か問題が起こることを予測していたんだろうか。

 

 ヴェラルドルフさんは、いつものように執務席に座り、私とアストラは二人掛けの長椅子。フローラさんはいつものように私達の側に立ち、ジュラさんは自分で作った即席椅子に座っている。

 

 ヴェラルドルフさんは手を組んで、真剣な面持ちで私とフローラさんを見ている。ヴェラルドルフさんの鋭い眼光で、自然と背筋が伸び、悪いことを何もしていないはずなのに背中に嫌な汗をかく。

 

「さて、まずは報告を聞こう。フローラ。何かおかしなことがあったのはわかったが、何があった」

「はい。まず、ルナーラお嬢さまの様子を何者か観察しており。それをルナーラお嬢さまも気にしているような素振りがありました」

 

 あれ? 伝わってないと思ったけど、伝わってた? と言うか、あの伝えようとした時には既に気がついてて、私が変なことを言って混乱させただけだったりしましたかね? 

 

「そして、ルナーラお嬢さまと席に座って時間を過ごしていた時、私は視認出来ませんでしたが、何者かが隣の席に座っていたそうです」

「見えなかった。それは確かか?」

「はい。精霊の類いであれば私には見えませんので、ルナーラお嬢さまに何が見えていたのかは私には分かりません」

 

 精霊。別名、霊魔族。

 魔人種の中でも肉体を持たない魔力と気力によって構成された体を持つ。

 温厚で人前に現れることは滅多にない。サウシストにあるグルナ山脈の麓にある樹海で集落を築いている。らしい。

 情報が不確かなのは、実際にその集落を見た者が居ないからだ。

 

 彼らが精霊と呼ばれるのは、限られた者にしか姿が見えず、出会うことも稀。しかし、原初より分たれた神々の遣いとして人々の前に姿を表すことがあることから、〝御使い〟、〝精霊〟と呼ばれている。

 

「ふむ。……ルナーラ。その遭遇した存在の見た目に特徴はなかったか?」

「……薄、桃色、の、髪。垂、れ目。ゲホッ。半とー、明(半透明)の手」

「白髪じゃないのか?」

「……ん」

「そうか。…………となると、精霊の線は少し薄いな」

「養父さま。どうして精霊ではないと?」

 

 アストラの疑問に、ジュラさんが答える。

 

 ジュラさんが言うに、霊魔族は魔力や気力の塊の様な存在。

 人の形をしていても、色。色素を持たないために、肌や毛は白く。血液も半透明で水の様な色合いらしい。

 

「それにだ。精霊の手は半透明になったりはしない。精霊にとって四肢の欠損も、身体の大部分欠損もかすり傷と大差ないからね。どんな状態であっても、ちゃんと白い手があるはずさね」

 

 もちろん、魔力や気力で姿が構成されているので、自分でその辺に漂う魔素を練り。自分の魔力に変換することで四肢の欠損があってもすぐに元通りだ。

 なので、霊魔族にとって四肢欠損もかすり傷もたいした違いはないのだとか。

 

「ルナーラ。本当に見間違いとかじゃなくて、手が半透明だったのかい?」

「……(頷く)」

「なら、珍しいヤツに会ったのかもねぇ。精霊についての研究は協力してくれる奴もいなければ、出会うことも稀だから進んでなくてねぇ。ちょっと特殊な個体だったのかもしれないね」

「なら、一つの発見報告例として学会の方に発表でもするか?」

「いや。憶測だけじゃ語れない。何より、報告者は子供だ。信憑性に欠けるって言われておしまいだよ。上は頭の固い奴らばかりだからね」

 

 霊魔族の可能性か。

 

 この世界における神性、秩序なき混沌から分たれた十三の神格は、姿を見せる時は特別誰かの目の前に現れることはあっても、その人物だけにしか見えないなんてことはない。

 必ず実体を持って接触を図ってくるらしい。しかし、ある程度の特徴を持つ姿。たとえば、《豊穣のエリシア》が目の前に現れるとすれば、麦の様な金色の髪に、エメラルドの様な緑色の瞳を持つ、女性らしい体つきをした農婦の様な姿。あるいは、それらの要素をベースとした姿で現れる。

 服装は所々変わっていたりするが、その容姿が変わることはほとんどない。

 

 そして、目撃者はいつも複数人いる。

 

 それ以外で実体を伴わず神格達と出会うことがあるとするなら、夢の中。夢境と呼ばれる異空間で出会うことはあるらしい。

 その時は、夢を経由して接触してきているため実体は持たないが、その容姿が変わることはない。

 

 今回は、昼間であり。人が多く、すぐ近くにフローラさんが居た。しかし、フローラさんには見えていなかったことを考えると精霊の可能性が高い。とのことだ。

 

 でも、いづれ自分を尋ねろと言っていた。霊魔族だとしても、かなり高位の個体だったりするんだろうか。あの神話生物。

 

「ルナーラ、考えているところ悪いが、視線はまだ感じるか」

「……(頷く)」

 

 視線は相変わらず感じているが。もうここまで来ると自意識過剰とかのレベルだろう。私が見られていると思っているだけで、実際は誰も私を見ていないんじゃないだろうか。

 

「そうか。……なら、オレに。この場にいる全員に出来ることはない。何事もない様に祈るだけだ」

「そうだねぇ。アタシらには無理さね」

「……何故?」

「天命。来たるべき試練。それが上手くいくことを祈るしかないね」

 

 説明になっていないんですが……。

 

「お二人とも言葉足らずですね。簡単にご説明しますと、神々がルナーラお嬢さまの試練を見ているので、私達矮小な人間には神々が見ている試練の中で、自分に被害が来ないことを祈ること。そして、ルナーラお嬢さまが無事にその試練を終えることを祈ることしかできないのですよ」

 

 なるほど。本当に試練だとするなら、もうなるようになれとしか言えないし、神々が人に試練を与える。その予告として霊魔族が遣わされた可能性があるのか。

 

「なんにせよ。オレ達には、何があってもいいように備える事しかできない。あとは、祈るだけだ。収穫祭の只中だというのに、とんだ災難だな。オレの方から、来客や商人達。この都市にやってきた者達に通達を出そう。『試練を科された者が現れた』と」

「有事を想定するのであれば、傭兵か冒険者組合に警護の依頼を出すのも手かと」

「そうだな。あとで、ゲーテに双方の組合に依頼を出すよう遣わそう」

 

 あれよあれよと大人達が決めていく中。私はアストラの頭を撫でて時間を潰す。

 本当に撫で心地のいい頭だ。髪の毛はサラサラだし……。そうだ、アストラに買った簪を付けてみよう。

 

「アストラ。ルナーラ。オレ達は少し話し合うことがある。悪いが部屋に戻っていてくれるか」

「わかりました。養父さま。行こう、ルナーラ」

「……(頷く)」

 

 あの感じだと、今日はアストラと回るのは難しそうだ。部屋で大人しくしておこう。

 ……そう言えば、〝己を示せ、自他を分けよ。境界がお前を定める。境界が分ける。意味など、全ては後についてくる。〟って言ってたっけ。

 

 私に課せされた試練であるというのなら、今回のものは、〝自他を分ける〟ことと、〝己を示す〟ことの二つなんだろう。

 

 一応、これでも自立した大人だった記憶も経験もあるんだけど……。多分、そういうことじゃないよな。

 

 自立云々関係なく、個人。一つの生命としての広い目ではなく、一つの存在。有一種として、世界だとか、神様だとかに認められなければいけないんだろう。……吐き気がする。

 神など全員死ね。いや、なんかこの世界ではかなり重要っぽいから、人に関わらずに大人しくしていてくれ。

 

「……ルナーラ、大丈夫?」

「……ん。いこ」

 

 私は大丈夫だよ。一緒に部屋に戻ろうか。……そういえば、嫌な匂いは家に帰ってきてからしないな。念の為報告しておこう。

 

 部屋を出る前に、ヴェラルドルフさんに匂いのことを伝えて部屋を出る。

 

 私を見ているのが外なる神々なのか、この世界由来の神性なのか。……どっちもやだなー。

 

 外なる神は、私を暇つぶし、娯楽として見ているだろうし。この世界由来の神性は、正直言ってあまり関わり合いになりたくない。何故関わり合いたくないかだって? だって神様だし。

 

 執務室から部屋は特別遠いというわけではない。歩いてすぐのところだ。

 

 部屋に戻ったら何をしようかな。

 

「……アストラ。部屋、なに、す、る?」

「ルナーラと踊る」

 

 やっぱりか。踊るのが好きだねえ。まあ、私もアストラと踊るのは好きだから良いけどさ。

 

 ……いつかは、アストラも一緒に踊りたい人ができるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 計画は順調だ。

 このままいけば、最悪バレても我らの巫女を取り戻せるだろう。神に愛される存在(ゴッド・フィリア)であるあの巫女さえ取り戻せれば、彼方の存在と交信できれば。我々の悲願は達される。

 

 我々を不要と。異端と切り捨てる猿共を殺戮し、我々が新たな人類として進化することができる。

 

 クヒッ。クヒャハハハ。

 

「教人様。招来の準備は完了したとの報告がありました」

「クフフッ。そうか、ランベルトの領主には痛手をくらったからな。しかし、我らは慈悲深い。ゆえに、彼らは神の供物となる栄誉を与えよう」

「とても慈悲深く、寛大な御心。我らもついて行きます」

 

 憎き猛者に襲撃されたせいで、我らは薄汚い地下水道に追いやられた。

 しかし、それも今日までだ。

 

「さあ、皆のも。我らの神に祈りを。我らの神に贄を捧げよう」

 

「「「「「「「いあ いあ いあ おるざどす ふむぐる むるぐ あざるむす くるるふむ いあ いあ ふたぐん むるるふぐん」」」」」」」

 

「我らが望むのは進化。我らが望むは究極の智慧。神を、人を越えさせたまえ」

 

 彼方にいる姿なきモノ。彼方にいる形なきモノ。我らの祈り、聞き入れたまえ。我らの声を聞きたまえ。

 

「明日、我らが祝宴を。宴においでくださいませ」

 

 貴方様との謁見。心よりお待ちしておりますれば。

 

 ────〝無姿の夢人〟、〝彼方の虚構〟オルザドスさま。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ヘブシッ! ゲッホッ! ゴホッ!」

「大丈夫?」

「……ん。大丈、夫」

 

 くしゃみをしたら同時に咳き込んじゃった。めちゃくちゃ喉痛い。……風邪の兆候かな。まあ、季節の変わり目らしいし。今日は暖かくして寝ようかな。

 後でフローラさんに布団を出してもらおう。

 

「ルナーラ、喉痛いなら無理しないでね」

「……ん。無理、はしない」

 

 無理して倒れるのは私も望むところではないからね。……そもそも、この体は風邪を引くんだろうか?

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