元社会人、異世界にTS召喚される。 作:名無しの投稿者
どうも、体調が多少改善した作者です。
微熱は残っていますが、体調は改善しました。
前の話に少し修正を入れました。内容に変更はありませんが、神象具の説明がありますので、気になる方は前の話の後書きをご覧ください。
ジュラさんに背負われて、空を飛ぶこと数時間。
日が傾き、落ち始めた。しかし、夕暮れというには早い時間。
見えてきた商都エリシュ・トゥリスからは煙が上がっており、近づくにつれて喧騒が聞こえる。
「そろそろ魔力が尽きちまう。着地するから衝撃に備えな!」
「……!」
エリシュ・トゥリスの門前に、着地姿勢を取ったジュラさんが勢いよく突っ込み、土煙が上がった。
身体補強もやっているだろうから、衝撃はそこまで来なかった。
「よし到着だ。大丈夫かい、ルナーラ」
「……ん。大、……夫」
「それは良かった。門の内側に行くよ。ヴェラルドルフの奴を探さないとね」
ジュラさんの背から降りて平された地面に立つ。
少し土埃が入ったのか、口の中がジャリジャリする。
──たすけて。
──『示せ』
──『汝、なんぞや』
頭の中がうるさい。でも、ジュラさん曰く私が課されている試練はこんなもんらしい。
私に試練を課し、それを見守る存在は
万物の境界を司る者。
名前、姿は不明。しかし、彼の神格は常にそこに存在し続けるのだという。ヨグ=ソトースかな?
まあ、ヨグ=ソトースの場合、解釈は多々あるが、その規格外なサイズから身体が時間や空間の概念を超越してしまったというもの。
解釈の仕方によってはヨグ=ソトースはアザトースの見ている夢そのものだとか、世界そのものがアザトースだとか言われている。
正直なんでもいい。最終的に行き着くのは、全てアザトースの見ている夢。ヨグ=ソトースが夢のそのものであるという夢。世界がヨグ=ソトースであるという夢をアザトースが見ている。と言う終着点に行き着くんだから。
──たすけて
「……ん。たすけ、る。だから、待っ、てて──え?」
あれ? 頭が凄いグラグラする。
──『汝、なんぞや』
──『溺れることなかれ』
──『見失うことなかれ』
──『妾は汝を見ている』
──『汝は何者であるか』
声がうるさい。ずっと響き続けるなら、目覚ましの代わりにでもなってくれないか。
先を歩いていたジュラさんが私の元に戻ってきて肩を掴んで揺らす。やめて欲しい。余計に視界が揺らいで気持ち悪い。
「────―、──────!」
何を言っているのかわからない。知ってる言語のはずなのに、脳が処理していない。知っている音だ。でも理解できない。
──たすけて。
助けに行くから。助けに……
「────のか。──娘―」
「──ダメ──ひ──―い。し──が──んだ。仕方──―さ」
話し声が聞こえる。何を話しているんだろうか。
そもそも私はどこにいるんだ。
「目を覚ましたか。ルナーラ」
「……起きたのかい。気分はどうだい」
「……──? あっぁぁぁ。……」
声が出ない。
「どうしたんだい。何処か痛むかい」
「……(首振り)」
どこか痛むとかはないんだ。ただ、声が出ない。
「ルナーラ。大丈夫か」
「……(頷く)」
「そうか。ジュラから話は聞いている。道中かなり暴れたようじゃないか。気を失ったのは、その疲労からだろう」
「……」
おかしいな。疲れなんて感じたことないのに。
と言うか、ヴェラルドルフさんボロボロじゃないですか。かなり激戦だったんですかね。商都は遠目で見たけど、結構建物やられてるもんね。大規模破壊が出来るような魔術でも使われたのか?
「うん? どうして俺を……ああ、傷が心配なのか。なに、下手人に何度か爆破系の魔道具を使われただけだ。この程度、もう少し休めば良くなる」
流石はエルキシュ王国の〝岩盾〟、〝不退不屈〟の異名を持つだけある。
岩の大盾を掲げる守護の男神。【大地と安定のテラリス】から、頑強さを認められた男。タフだ。
……座学でしか知らないけど。爆破系、爆裂アイテムって種類が、全体として脆いヒト種なら即死不可避の威力だったような気が。
「だから心配は無用だ。それより、ルナーラ。お前は試練のことだけを考えろ。ジュラもだが、俺も境界の試練に遭い、自ら命を絶った知り合いは多く見てきた。その過酷さがどんなものなのか、俺にはわからん。しかし、どんな試練も乗り越えられる様にはなっているはずだ。心折らず、自らを律せ。そうすれば、おのずと乗り越えられるだろう」
「アストラのことはアタシらに任せな。お前さんは、お前さんの成すべき事を成せばいい」
「……(頷く)」
その成すべき事が、アストラの奪還と並行だと思うんですよね。
けどまあ、なんでもいいさ。
なんやかんやあったけど、
気絶の時間がそこそこ長かったのか、少し話をしていただけなのに、日は傾ききって夜。
この身体は魔力や魔素の感知能力は無駄に高いし、魔力跡を辿れば何かしら情報を得られるだろうか。
「……!」
不意に強く感じた視線。
視線を感じる方へ向けば、都市の端にある建物の上に二つの人影がある。
……あれは、あの時の霊魔族か? 隣にいるのもそうなのか?
取り敢えず、話を聞こう。あの霊魔族は思考を覗き見てくるから、私が話せなくても意思疎通ができる。
でも、どうやってあそこまで行こう。
走れば行けるけど、入り組んでて時間がかかる。屋根を渡って行ければ早いんだろうけど……。魔力放出の反動を上手く使ったら届かないかな。
勢いをつけて垂直飛び。それと同時に下半身から魔力を勢いよく放出。
おっ、行けるか?
そう思ったのも束の間。飛距離が届かず、手は空を切る。が、体は落下しなかった。……なんか、すごく不思議な感覚がする。地面の硬い感覚と風が当たる感覚。
なれない不思議な感覚で脳がバグりそうだ。というか気持ち悪い。
「……な、…………こ、れ」
下の方を見ると四本の半透明のナニカが私を支えている。細く、しなやかなソレは私の背中から生えている様で……。
「……」
触手みたいだ。
取り敢えず、屋根上に降りて触手を動かしてみる。……特に違和感はなく扱える。思い通り動くし、元々あった自分の体の一部。まるで手足の様に扱える。
屋根や壁を掴む様な不思議な感覚もある。張り付くんじゃない。触手が掴んでいる。うーむ。慣れなくて不快だ。
「……」
何はともあれ……いや、何もよくはないが、移動手段は出来た。
触手を使えば多少遠くても触手を伸ばして移動できる様になる。どれだけ伸びて、どれだけの強度とパワーなのかはわからないけど……万が一、戦闘になった時。不意打ちには使えるだろう。
今は検証とか、お試しなんてしてる場合じゃない。居なくなる前に、あの霊魔族を捕まえて情報を得なければ。
私は、触手の感覚に慣れるために触手を使いながら屋根を渡って彼女達? の元へ急いだ。
──────────────────────────────────────
彼方からやってきた
その何かは、ヒトの子の安心のために生きていた。
ヒトの子と笑い。ヒトの子と悲しみ。ヒトの子の隣で静かに座って精神の拠り所となっている。
中途半端にヒトとなり、ヒトの皮だけを被った全く別の存在。
しかし、彼方からやってきた
なぜ来てしまったのか。それとも、外部からの尖兵か。誰かの招いた客なのか。
妾にはわからないし、特に知る気もないが、どちらにせよ対処せねばならない存在だった。
ヴォカリスに意味を与えさせ、試練の前に直接顔を見てやろうと思って遭いに行けば──
その心内は神を嫌うヒトだった。しかし、ナニカは色んなものが混在しながらも並行して同立する不可思議な存在だった。
近頃ヒト種の内で危険行為をしている輩が散見するし、監視網を張り巡らせていても入ってきてしまうほどの存在。
内側を探っていけば、行くほど。原初と似た存在に突き当たり、妾は危うく死にかけた。
ほんの一瞬目があった。ほんの一瞬、あの混沌を直視した。それだけで、妾の在り方は死滅しかけた。妾達の核である原初へと影響を与えるほどに、あの混沌はこの世界を塗り潰さんと冒涜的な呪詛を垂れ流し、この世界に手を伸ばそうとしてきた。
「うーん。やっぱり、妾と同格の存在よねー。現界したら離れてるはずなのに視線に気がつくし、目があっちゃった」
「笑い事ではないと思うのですが。態々不用意に出逢わぬよう、クローシアに手伝ってもらったんですよね。また小言言われますよ」
「笑い事だよ。ヴォカリスは、クローシアもそうだけど堅すぎなの。ほら、アエリウスとかラトゥリスを見習って、たまにははっちゃけてもいいんじゃないの?」
「あの遊び惚ける二人の何処を見習えと……」
「そういう遊びたがりなところかな」
今日も妹にお小言を聞かされている。今日もツンツンしてて可愛いね。
「……しかし、アレはどうしたものでしょうか」
「さあ? 処遇を決めるための試練でしょ。アレが勝手に決めるよ」
彼方からやって来た
「しかし、アレは試練云々で処遇を決めて良いものでは……」
「良いの。試練で決めて」
彼方からやって来た
そんなナニカを取り敢えず、なんとなくで処理する気にはならなかったしね。
「これは生存闘争。ヒトの描く物語的に言えば、世界と外の魔王の闘争。負ければこっちの世界は消える。勝てば生き残る。それだけだよ」
「しかし」
「しかしはないの。妾がそう決めた。妾がそうすると決断した。……下手したらこの世界は有無を言わさずに消え去る。これが安全で、安定した対処法。ルミナリスも言ってたでしょ。この対局は、一手しくじれば世界が終わる。保険は勿論あるけど、致命傷は避けられないだろうね」
侵食されても最悪全てをリセットさせれば良い。全ての境界を取り払って、全てを一に収束させる。そこからもう一度全てを切り分けて世界を再構築する。
妾達は原初が存在する限り不滅の存在。……でも、この世界に生きる生命は違う。種としては保存しておけるけど、個人、個体はどうしても保存しきれない。
例え、保存出来ていたとしても致命傷を負った妾じゃどうしようもない。そこまで手が回らないだろう。
「……はあ。姉上はどうしていつも身勝手なのですか」
「そりゃ、妾は神だし。神というのは、こういうものなんだよ」
「それは、知的生命種の持つ価値観の話でしょう」
「それでも、妾はそうあるべきなのさ。その境は、守らねばならないものなんだからね」
まあ、彼方からやって来た
それを野放しには出来ないし、ちょうど良いから手元で管理することにした。
あっちが、管理されてでもヒトの子と居たい。そう望むなら妾はそれを受け入れ、彼方からやって来た
管理などごめん。この世界に敵対するというなら、全力を持って排除する。
結局は全て、彼方からやって来た
「おっと、話をしていれば来たね」
「……」
ガラスのように半透明な触手を伸ばして、こちらまでやって来た彼方の人。
彼の名前はルナーラ・ランベルト。あるいは、鈴屋亜月。あるいは、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。
「やあ、また会ったね。彼方の人」
「……」(聞きたいことがある)
「……姉上」
「ヴォカリス。今のこの子はただの客人で、試練の当事者。手出しはダメ」
だから、言霊で支配しようなんてしないでね。
「……はい」
「良い子だ。後で頭を撫でてあげる。それで? 聞きたいことってなにかな?」
「……」(アストラは何処にいるの)
「アストラ? ……ああ、汝が大切にしてるヒト種の子供のことか」
何処にいるか、もちろん知っている。
別に普通に教えても良いことだろう。
でも、妾は神だから。凡人が神からのお告げを受けるには対価が必要。それが、この世界のルール。
「妾は、ヒトの子が何処にいるかは知っている。見ていたからね。でも、教えてはあげられない。対価を受け取ってないからね」
「……対、価」
「そう、対価。神から何かを受けるには対価がいる。その対価はなんでも良いけど、それに値するモノしか神は与えない」
実際そんな事はない。気分が良ければ余計に与えちゃうこともある。まあ、対価以下になる事はないから、そこは安心しても良いんだよ。
「……対、価。は、……コレ」
「姉上! 「ヴォカリス」しかし!」
「……ダメ。三度目はないよ」
ヴォカリスは警戒しすぎなんだよ。
……まあ、気持ちはわかるけどね。
彼方の人が妾に差し出したのは、見た目は古めかしい銀製の鍵。
しかし、それは妾達でも触れたくない程の呪物。
……おそらく、妾と同類。境界や世界といった、大規模な存在の体の一部から作られた道具の様なモノ。この世界にあってはいけない類のモノだ。
「……コレ、あげる」
「……わかった。受け取るよ。ヤバいモノだから受け取りたくないけど、変に使われるよりマシか」
妾が持っていたところで、体の一部だから持ち主に帰るだろうけど。
でもまあ、妾は受け取ったし、情報の対価としては充分だろう。居場所を教えるだけだし。
「そうだね。じゃあ、汝の探し人の居場所を教えよう。
──聞け、彼方の人。
──霧の夜。地下にて、外世界の存在を招く儀式がある。
そこに、汝の秘密。汝を定めるモノ。汝は汝を知るだろう。
最奥にて囚われの巫女は眠る。
じゃあ、頑張ってね」
「……! まっ」
待たないよ。だって、現界したら見つかるってわかったんだ。それに、今の汝に用事もないからね。
さ、帰ろ帰ろ。
塔の頂。その鏡の中。妾は世界を眺める。
「さあ、生存闘争だ。鍵はどちらの手に行くか。鍵はどちらを選ぶか」
だから、妾は彼方の人へ問いかける。
汝、なんぞや。
妾が定める。汝が望む在り方を。
ちょこっと解説
〝爆裂系魔道具〟
その形はポーション型だったり、設置型、投擲型と多種にわたる。
安価な者でも対人で使うなら十分な火力であるが、高価なものになると魔種の中でも最上位である竜族にも通用するようになる。安価なモノの中でも殺傷能力が非常に高いのは、ミミクリースライムの粘液と可燃性溶液を8:2ぐらいの割合で調合された火炎瓶だったりする。
ちなみに、ヴェラルドルフがくらったのはそこそこ高価なものを数発くらっている。常人なら跡形もなく消し炭になるが、テラリスの神象具を使えば余裕で耐えれる。そして、ヴェラルドルフは素で耐えられる。バケモノかな?