元社会人、異世界にTS召喚される。 作:名無しの投稿者
ひどい匂いがする地下水道。
汚水が捨てられるこの場所は、何処からでも汚水が捨てられるよう、商都のどこにでもつながっている。
そのため、かなり入り組んだ作りになっており、逃亡中の罪人や反社会組織の巣窟化を防止するために、衛兵が定期的に見回りをしている。
……筈なんだけど。
「ギィ! ギィ!」
「ギィキキキ。ギィキキキ」
大目玉の1メートルを超える巨大鼠。ロンテールラットの巣窟になっている。
見回りをしている衛兵の職務怠慢か。それとも、下手人の手下がばら撒いたのか。
どちらにせよ、色々終わったらヴェラルドルフさんに報告した方がいいかもしれない。
「……じゃ、……ま」
「ギ!」「ギャ!」
ロンテールラットの知能は低いが、身体能力は高く、鼻付近に生えるヒゲを用いた探知能力に優れる。
群れで行動し、繁殖力も高く、一匹居れば近くに必ず五匹は潜んでいる。運が悪ければ数十匹居る。
薄暗く視界も悪いこの場所では、誤射や崩落の危険があるから、高威力の魔術も下手に使えない場所。
私の場合、魔力を固めて射出するだけではあるが、どうしても攻撃は直線的になるし、避けやすくなる。
アストラはこの地下水道の奥にいるそうなので、拐ったであろう組織もこの地下水道に潜んでいるだろう。
大きな音を立ててしまえば警戒され、アストラが人質に取られるという事態も想定されるので、大きな音を立てるのはよくない。
魔力塊の射出も外れて壁に当たれば、大きな音を立てることになる。
ならどうすべきか、
「ギギャ!」「ギュィ!」
「……あん、さ、つ」
飛びかかって来たロンテールラットを触手で一突きする。
伸縮性が非常に高いのか、そもそも長さという概念の外側にあるのかはわからないが、長さの調節が出来る触手で頭を穿つ。
思ったよりも威力があったのか、頭が砕かれて脳漿やら血が飛び散る。
飛び散った血は、自分に直接かからない様に薄く伸ばして作った魔力膜で弾き、変な感染症や毒など外的な危険物から身を守る。
一瞬でも身体が浮いていれば空中で身動きは取れないし、身体をよじって避けようしても、触手は進み方を変えて的確に頭を貫く。
貫かれたロンテールラットは、大きく身体を揺らしてそのまま動かなくなった。もう少ししぶとく動くと思ったけど、そんなこともなくてよかった。
うへぇー。なんかベタっとグチュッとしたものがついて気持ち悪い。
「ギィ、ギギ」
「ギギギャ、ギャギャ」
「ギギ」
「……」
……そう言えば、嗅覚も鋭いんだっけか。
仕方がない。向かってくるなら殺し尽くそう。本来なら慈悲の一つぐらい与えても良いのかもしれないけど、コイツらは色んな病気を蔓延させる害獣。
人口の多い商都では駆除対象だ。
よって、殺処分とする。
慈悲があるとすれば、痛みなどなく一瞬で逝くぐらい。
角から飛び出してくるロンテールラットを触手でサクッと処理しながら、特に当てもないので地下水道内を散策する。
……足跡らしきモノないし、あったとしても薄暗いせいで痕跡を見落としていそうだ。
やはり、しらみ潰しに探すしかないんだろうか。
……そう言えば、私が出会ったのは霊魔族じゃなさそうだった。
あの屋根上にいた彼女達? 一柱に関しては男でも女でもないし、まあ、彼らでいいか。
以前会った翡翠色の目をした薄、桃色の髪をした存在は、お堅い雰囲気の人型の存在。黒い髪に灰色の目の男とも女とも取れる容姿をした存在のことを、ヴォカリスと呼んでいた。
基本的に、この世界で名前というのは、その存在の意味を現すモノとなっている。
そして、信仰の深いこの世界において、どれだけ頭が悪かろうと、神の名を騙る者など神格への冒涜として、弁明の余地なしで死刑にされるほどの重罪。酔狂で騙るほど、神格の名は安くない。
つまりだ。
目の前にいたのはほぼ間違いなく神格であり、黒髪灰目の神格。言語を司るヴォカリス。彼が、姉と呼ぶその存在は、未知の神格である境界の神。
文献がないこともないが、大体が抹消された存在。
私に試練を課した神格。
その神格に、アストラの居場所を尋ねたら情報料を寄越せと言われたので、白銀の鍵を渡した。
ヴォカリスと境界の神から嫌な顔をされたけど、受け取ってもらえたし、情報ももらえた。
神格であれば、あの鍵を適切に処理してくれることだろう。
切り札を失ったに近いけど、今の私には触手もあるし……最悪なんとかなるでしょ。あんな劇物使うぐらいなら、アストラだけでも生き残る様に私が死力を尽くして戦うだけだ。あんなもの使いたくないし。
──解せぬ。なぜ我は。
……何処からか毒電波が届いて来たけど、私はしーらない。劇物を私に渡すからそうなるんだ。基本関わりたくないし。
「────、──」
「──────。──────」
? ヒトの話し声?
「……《地につかぬもの》。《私は空を歩く》。──〝空中浮遊〟」
音をあまり立てないよう体を浮き上がらせて触手で移動する。触手で地面を軽く掴んで前に進み、近づいたら魔術を解除して地面にゆっくり降りる。
灯が見える。
様子を伺うと、小さいが部屋のような場所だ。
人数は二人、白いローブフードを深く被っているせいで顔は見えない。声的に若い男性だろうか?
「外の天気はどうだ」
「予定通り、暦通りの満月。それに、雲ひとつない空と濃霧です」
「そうか。人の様子は」
「みんなランベルト邸付近へ避難したみたいですね。これも全て計画通り」
「司教様の計画通りに進む。我々が日の目を見る日も近い」
……司教、ね。儀式っていうから、やっぱり宗教関係か。
アストラは宗教系に悪縁でもあるのかな。宗教二世で生贄として捧げられてましたし。
今回も宗教絡みだし。やっぱり宗教はクソ。
あ、こっちくる。隠れなきゃ。……いや、良いこと思いついた。
「……〝姿を曇らせる〟」
まず姿を隠します。
こちらへやってくる人間を上手く避けて。
「モガっ!」
「なっ!」
触手で捕まえて、声を出せない様に触手の先を口に捩じ込みます。あ、噛まないでくれ。意外と痛い。
触手は感覚が共有されてるし、痛覚もあるのか……。斬られたら怯んだりするのかな、私。
触手が切られた感覚って、すっごい変な感じがするんだろうなー。
噛まれて痛いし。そして、本来ない場所が痛む。ゾワゾワする。
「
「むー! むぐー! …………」
「んぐー! …………」
目が虚になった何かの信者二人。抵抗するのをやめて大人しくなる。上手くかかったかな。
本当なら相手の正気度を削って出ないと抵抗されたりするけど、あっさりかかってくれてよかった。
拘束を解いて口に突っ込んだ触手を抜き取る。うへー、唾液でベトベトだ。
「……答え、て。あな、たち。何者?」
「我々は《霧の新月》」
「〝彼方の虚構〟の信徒です」
「……」
〝彼方の虚構〟。
アザトースの見ている夢であり、無限の
姿を持たず、望まれた姿となる。
不定形であり、非常に抽象的でありながら具体的な姿を持つ。
どんな姿にでもなれるニャルラトホテプとは違い、どんな存在になっても、その存在を崩すことなく並行して存在し続ける。
人に極めて敵対的でありながら、極めて友好的。
旧神であり、旧支配者であり、外なる神。そして、存在するすべて。
とある言及分にはこうある。
〝『語る者などいない。
混沌で眠る白痴の魔王が紡ぐ夢。
彼の者はその夢そのもの。
境界を持たず、姿を持たず、形を持たず、存在を持たない。
ただ微睡む魔王の夢に侍り、夢を聞かせる者。
夢想である。
偉大なるイスは、彼の者をこう呼んだ。
〝姿なき者〟、〝無姿の番人〟、〝彼方の虚構〟、〝果ての上位者〟。
その名を語れる者は誰もいない。
しかし、無貌の邪神は囁いた。
〝オルダゾス〟に夢の離別を願え、と』
────賢者エイボン著。アヴァロン旅記より〟
まあ、アザトース関連の厄ネタだ。
オルダゾス自体は特に脅威にはならない。いや、ならないわけではない。
オルダゾスは、かなり呼び出しやすく。呼び出せば先触れとなる存在が最初に出現し、その後に召喚される。
そして、オルダゾスは召喚者が望んだ姿で出現する。召喚者が思い描く姿形、力を持って召喚される。
万能な神の様な存在として召喚されたなら厄介だが、それだけだ。
そして、オルダゾスは、召喚の儀式をすれば必ず出てくるわけではない。先触れの存在が出てこなければ失敗だし、一体しか召喚されないため、別世界や別の場所に顕現していると、召喚の儀を行っても出てくることはない。
成功するかしないかは、かなり運次第。
成功させるにはイス人の協力が必要だろう。彼らの世界線移動と、世界を観測する技術を以てすれば、オルダゾスが今何処にいるかなんて把握できるだろうから。まず彼らの協力がないとほとんど成立しない。
実際、自卓のオリジナルシナリオではイス人が召喚しようとしていた。阻止することはできたが、阻止できなければ万能な神としてオルダゾスが招来し、世界は狂気に飲まれることになっただろう。
外なる神。いや、クトゥルフ系の神は召喚し、招来した時点で人類はほぼ確実に滅びる。
ゲームだから倒せたりするわけで、実物が相手の場合。なす術なく滅ぼされるだろう。対処するためには退散の呪文やらがあるが、システム的な救済要素というだけだろうし、実際に効くかはわからない。
「……儀式、の場所。は?」
「地下水道の奥でぇっ!」
「ぃっ!」
「……!」
儀式を行う詳細な場所を聞き出そうとすると、信徒たちの頭が膨れ上がり、破裂した。
咄嗟に後ろに下がりながら視界が塞がれぬ様に腕で顔を庇う。
……信者二人は頭を爆散させて死んだ。これ以上情報を聞き出すのは無理だろう。
爆発した原因は仕組まれた術式か。それとも、監視している者がいるのか。
監視している者がいたとしても、今の私は〝姿を曇らせる〟を使って姿を隠している。
見つかっていると言うことはないだろうけど、警戒は強まっているのかもしれない。
もう少し慎重にいかなければ。……脳漿やら血やらで汚れてしまった。汚れ防止で外套を纏ってくるんだった。
「……クラゲ、ね」
クラゲ。霧。
ヨヨイさんが風から聞いた情報によると、昼間にクラゲと霧に関する何かがあったんだろう。
オルダゾス関連のクラゲや霧、であるなら。おそらく眷属である神話生物。〝空舞う羽衣〟の異名を持つダ・ルナーと言う神話生物だろう。
見た目は半透明の巨大なクラゲ。触手についているヒラヒラした弁器官が、空を舞う羽衣の様に見えることからそう呼ばれているらしい。
ダ・ルナーは先触れであり、オルダゾスがいる世界に顕現し続ける存在。霧の中でだけ顕現し、生息することができるので、霧があれば出現する。
「……やつは、もう、いる」
ダ・ルナーはオルダゾスの先触れ。消滅させるか、オルダゾスを退散するまでこの世界にとどまり続ける。
と言うことはだ。
オルダゾスはこの世界の何処かにすでに存在している。そして、何処かに身を潜めている。
……ショゴスもいるわ、ダ・ルナーもいるわ、オルダゾスもいるわ。この世界に大丈夫なんだろうか。そのうち滅びそうな気がする。対処しなければ。
とりあえず、地下水道の奥を目指そう、その奥にアストラはいるらしいし、……私のことも奥に進めばわかるという。
──『汝、なんぞや』
境界の女神の問いへの答えにもなるんだろう。
ここにきた時点で、私に後退する選択肢などない。
アストラがこの奥にいる。私はアストラを救出して、生きていれば神話生物を対処する。
これが今後の目標になるだろう。
──『是』
──『汝、なんぞや』
頭の中で響くこの声を早く止ませたい。そろそろ響きすぎて頭が痛くなってきたから。
体調悪い中書いたやつを調節して投稿している作者です。
オリジナルの神話生物やら、設定やらの説明漏れが目立つ本作ですが、解説用でまとめたほうがいいですかね。
そちらの方が読みやすいとか、知りたいことがあれば気軽に感想の方で聞いてください。
季節の変わり目ですので、読者の皆様も体調にはお気をつけて。
作者でした。