元社会人、異世界にTS召喚される。   作:名無しの投稿者

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どうも、作者です。
今回の話のクトゥルフ神話TRPGシナリオ『異界の笛』などのネタバレが一部含まれます。





黒い澱の底

 

 

 

 

 

 結構奥まで来たような気がする。

 灯はないので、足元の確認やら壁位置の確認は慣れない触手の感覚頼りだ。触手に不意打ちで水がかかったりすると思わず変な声も出てしまった。

 

 魔力放出による跳ね返りや、網状にして蜘蛛の巣のように辺りを探索することもできるけど、魔術素養のある者がいれば私の存在と位置を教えることになるので、やめておいた。

 

 この世界における魔術は、仕込みさえしておけば格上にも勝算が得られるが、仕込みをちゃんとしておかないと格下にも勝てない。

 魔術師は魔術師に弱いし、剣士にも弱い。

 

 魔術とは、仕込み、事前準備ありきでしか強さを発揮しない。なんとも扱いにくい。

 才能の世界だが、驕ると凡人にも勝てない。それがこの世界における魔術師だ。

 

 どれだけ腕が良い魔術師でも、同格の剣士には勝てない。

 それ故に、魔術師として大成した者は魔術だけでなく武術にも秀でる。たしか、ジュラさんは杖術と体術に秀でている。素手のヴェラルドルフさん相手に十分は対抗できる程だ。

 

 なので、魔術を教えられながら私とアストラも体術を教わっている。私は剣の方が適性があったらしいので、ヴェラルドルフさんの手が空いている時に剣術の相手をしてもらっていた。もちろん、勝ち星はない。

 全て剣を防がれ、ヴェラルドルフさんから一太刀打ち込まれて敗北。実物で対戦していたら何度私の首は飛ばされたことだろうか。流石は国防の貴族(武人)

 

 ここまで来るのに信者を数人のしたけど、これと言って固まってる感じはない。……もう地下水道破壊しながら進んでいこうかな。探索がめんどくさい。

 声は思考を邪魔してくるし、暗くて探索もままならない。全部壊して進めば、いつか探している場所には辿り着くだろう。

 

「………………はあ」

 

 触手を振るって壁を殴る。

 

 バゴオォン!! 

 

 ……あっさり壊れた。やっぱり、触手は強いね。

 

 土埃を上げて壁が砕ける。触手を振るえば土埃は吹き飛んでいく。便利だなー。

 移動にも、拘束にも、攻撃にも使える。うん、とても便利だ。

 

 遠くから走るような足音も聞こえてくるし、人数もそこそこ居そうだ。

 ……殲滅する? 皆殺し? 掃き溜めのゴミを一掃したら、気分も良くなるかな。

 

 ──『示せ』

 ──『汝、なんぞや』

 

 ……違う。私は無用な殺しがしたいわけじゃない。わざわざこんなゴミを殺したって私が汚れるだけ。これ以上、服を汚したくない。……気がする。

 

 触手を振るって天井を崩して道を塞ぐ。

 私ならこの崩れた場所でも突破できるが、ただの人でしかない信者なら突破は難しいだろう。

 

 もうしらみ潰しで探したりするのも面倒くさい。

 疲れた。探索のヒントもないし、マップが広すぎる。慎重にやって行ったら夜が明ける。──ん? 足音? 

 

 音的に人かな? それとも人型の生物? まあ、どちらでもいい。知性のある存在なら、何か情報が得られるかもしれない。

 

 近づく足音。しかし、その足音が止まる。

 

「そこに居るのは分かっています。隠れていないで、出てきては如何ですか」

「……」

 

 ブラフか? それとも本当に私のことを見つけた? 

 

「巫女アストラをお探しなのでしょう。俺であれば巫女の元までご案内しますが」

「……」

 

 罠か? でも、この声の主はアストラの場所を知っているという。今は全く情報がないし、罠だとしても大人しく姿を現すべきか? 

 

「あなたのことはよく知っています。巫女アストラに会いたいのでしょう?」

「……」

 

 いいや、魅了して聞き出そう。態々同じ土俵に立つ理由もない。

 角から歩み出て、対象に向かって手を翳す。

 

 だけど、相手も私と同じように私に向けて手を翳している。

 

 となると、洗脳系の術でも使うのか。魔力を放出で術式妨害行けるかな。

 

「〝意識の入れ替え〟」「〝魅了〟」

 

 魔術の妨害は成功した。

 でも、相手に魅了が効かない。ということは、不発? 他の何者かに魅了されていて弾かれたか? それとも……。

 いや、そんなことより魔術を新しく唱えられると困る。口を塞いで拘束。そこからもう一度魅了を──

 

「穏やかじゃないですね。〝被害を逸らす〟」

「……」

 

 触手で素早く口を塞ごうと伸ばすが、何かに弾かれた様に逸らされてしまう。

 

 コイツ、既にいくつか術を仕込んであるのか。まあ、当然と言えば当然か。

 しかし、コイツは……。

 

『お初にお目にかかります。招かれた者。ルナーラ・ランベルト、とお呼びした方が宜しいですか?』

「……なに、者」

 

 〝被害を逸らす〟。そんな魔術はこの世界に存在しない。少なくとも、私が調べた中にそんな魔術はない。

 魔術の発動には詠唱が必要だし、意味として確立するために、使用する魔術の名前を呼ぶことも必須。

 しかし、今の魔術は詠唱は飛ばされている。そして、名前は〝被害を逸らす〟と、〝意識の入れ替え〟。

 

『俺が何者か。そうですね。俺はクルルガ。そう名乗っています』

「……名は、聞いていない」

 

 名前なんてのはどうでもいい。覚える気はないし、これから呼ぶこともないだろうから。

 

 そんなことより、何故この信者は私と同じく古代語(古き者の言語)が使えるのかだ。

 

 ジュラさんのようにイントネーションに癖のある話し方ではなく、違和感のない。私は聞き馴染みの深い言語。

 

『これは失礼。……しかし、今の俺にはクルルガ以外に名乗る名は持ち合わせていないのです。そう睨まないでいただきたい。せっかくの顔が台無しですよ』

 

 誰のせいだと。

 

 クツクツと笑いこちらを揶揄うように見るその顔は愉快そうでありながら、私に対する警戒は解かない。例え触手を振るっても〝被害を逸らす〟によって防がれてしまう。

 ここで慢心して隙でも見せててくれれば、不意打ちで倒せるのに。なんとも歯痒い。

 

「……」

『ふむ、そうですね。俺は──イス。偉大なるイスの種族。元いた世界のとある星の者達は、俺達をそう呼んでいました』

 

 イス人。反物質爆弾(アンチマテリアルボム)に電撃銃。元素分解銃。自卓ではミ=ゴぐらい性能が盛られてめちゃくちゃ厄介だった。

 時間を支配し、未来を観測することができ、世界間の移動すら可能な文明を持つ。

 そんなイス人が何故こんな場所にいる。悪巧みでもしているのか? 

 

『あなたの前に姿を見せたのは、一つ提案があるからです』

「……てい、あん?」

『はい。提案です』

 

 イス人が私に提案? ちょっと特殊なだけの人間の私に。

 

『俺が巫女アストラのところへ案内します。その代わり、俺を元の世界に帰してほしいんです』

「……どういうこと」

『話せば少し長くなるので簡潔に。数年前、俺は地球と言う星に緊急の任務があったので出かけて居ました。その任務中に、気がつけばこの世界に連れ込まれて居ました。誰がなんのために俺をここへ連れてきたのかはわかりませんが、俺にはやらなければならないことがある。しかし、俺の力ではこの世界から出ていくことができない。なので、あなたに帰る手伝いをしていただきたい』

「……長い。三行」

『元の世界に帰りたい。自力では帰れない。探し人の居場所を教えるから帰るの手伝え』

「……理解」

 

 元いた世界。つまり、アザトースの夢に戻りたいってことか? 

 

「……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(アザトース)、の夢。に、戻りたい、の?」

『ええ勿論』

「……なぜ?」

 

 クトゥルフ神話。

 その神話体系。その世界は、本来の生命体などアザトース以外存在しない。世界そのものが〝白痴の魔王〟アザトースの見ている夢でしかない。

 一部例外はいたりするものの、外なる神(アウターゴッド)旧神(エルダーゴッド)旧支配者(グレートオールドワン)。我々人類や目の前にいる彼、イス人も全て白痴の魔王が見ている夢でしかない。

 

 基本的に知的生命体は、アザトースを認識することも視認することも出来ない。何せ、そこには舞台劇のように第四の壁が存在し、その劇の観測者であるアザトースを認識出来るほどの知性や思考能力を持つ生命体は少ないのだ。

 イス人であればアザトースを観測できるほどの人物も居ると聞くが、……まあ、ただの地球人には無理だろう。宇宙の真理を知るような知識者、魔術師とか言う例外共は除くが。

 

『実物から、なぜ空想に戻りたいのか。と?』

「……ん」

「クハッ」

 

 イス人が馬鹿にするように笑い飛ばす。何か可笑しなことを聞いただろうか。

 

『愚問だ。あまりにもだ』

 

 イス人が私の目を見る。その目には強い決意と執着が見えた。

 

『……俺は、あの世界に産まれ。あの世界で育った。あの世界で過ごして、あの世界で生きてきたんだ。例え、俺の生きる世界が魔王の見る一時の夢であったとしても、俺はあの世界で生きたんだ。生きていたんだよ』

「……」

『俺は。……俺は、同胞達のためにあの世界に戻らなければならない。知性体のいるあの青い星でアザトースが召喚されようとしてるんだ。阻止できなければ俺たちは滅びるだろう。俺は、帰らなきゃいけないんだよ』

 

 ……このイス人。もしかして、

 

「……異界、の、笛」

『俺の任務を知っているのか』

「……ん」

 

 作戦名、〝異界の笛〟。

 アザトース関連の教団が、とあるイス人の協力を得てアザトースを召喚しようとする。

 プレイヤーは、それを阻止しようと動くイス人達と協力してアザトースの召喚を阻止すると言うCoCのシナリオ。

 

 それに続編として〝無垢の神〟と言うシナリオもあるが、彼は異界の笛の最中に呼び込まれたんだろう。

 

「……アザトースは、目覚めない。でも」

『俺たちの文明は。イスは滅びる。……そんなことはわかっている。でも、俺は! 俺は足掻かなきゃいけないんだ。例え任務が失敗したとしても、生き残った俺たち(同胞たち)がイス人の事を残さなきゃいけないんだ』

 

 拳を握り込み、私にそう言う彼は、感情に飲まれたのか口調は崩れ。声を荒げる。

 ……手伝ってやりたいのは山々だが、私にそんな力はない。あったとしても、アレ(白銀の鍵)は境界の女神に情報の対価として渡してしまった。彼を手伝ってやれることはない。

 

 しかし、私にもやらなきゃいけないことがある。

 

「……私に、可能、な。範囲で、手伝う」

『……失礼。冷静を掻きました。しかし、提案を飲んでいただきありがとうございます』

「…………ん」

「案内しましょう。こちらです」

 

 イス人が後ろに向き直り歩き始める。

 私はその後ろを三歩下がってついて行く。イス人は信用できない。前を歩いたら後ろから電撃銃。後ろを歩いたら指向性機雷でチュドン。仲良くなったと思ったらナイフぐさり。何度イス人に騙し討ちを喰らったことか。あのKPは性格悪すぎる。シナリオ製作のセンスとPL目線だと楽しいんだけどさ。PC目線だと中々に鬼畜なのよね。

 

「……そんなに距離を取られると、流石に俺でも傷つきますよ」

「……」

「……そうですか。信用おけませんか。では仕方がありません。頑張って信用を勝ち取りましょう」

 

 頑張ってくれ。私はイス人は信用しない。

 

 

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