元社会人、異世界にTS召喚される。 作:名無しの投稿者
「……あ、……あ。……う」
「相変わらず上達しないね」
大導師の老婆。名はジュラというらしい。
ジュラさんが家庭教師になってから、私とアストラは読み書きを教わっている。……教わっているんだけど、私は解読しながら読み、書き、発音すると言うかなり高度なことをさせられている。
毎日二時間、読み書きの練習をし、休憩を挟んで魔法や魔術の基礎的なトレーニングを行う。
そんな生活を二ヶ月ほど続けているが、全く言語の発声には至らない。
読むことと聞くことは少しだけ。日常の挨拶程度ならわかるようになった。しかし、それ以上発展しない。私がこちらの言語を話そうとするも、喉に受けたらしい呪詛のせいか言葉がつっかえて出てこない。そのまま咳き込んで有耶無耶になる。
書こうとしてもそうだ。文字を模写しようとすると、文字がぐにゃりと歪みだして上手く認識できなくなる。
「…………難しい」
「うーむ。お前さんが使う言語は専門だからまだわかるが、呪いや呪詛に関しては専門外なんだ。すまんね」
「……ジュラ。ルナーラ────」
「……(よしよし)」
そして、私が理解出来て、話せるこの古代語なるモノで、ジュラさんと会話していると、決まってアストラが私の腕に抱きついてくる。
その度に、私はアストラの頭を撫でて機嫌を取ったり、背中をさすったりしている。
子供の嫉妬や独占欲と言うのは可愛いね。親戚の子達も私の取り合い……まあ、あの子達にとって、私は遊具かなんかだったんだろうけどさ。
親戚の子供たちの間で取り合いになったこともしばしばあった。
そんな経験もあるから、私を自分のものだと主張するアストラは可愛い。何を言っているのかは、相変わらずわからないけどね。
「ほんっとに、お前さんらは仲がいいね」
「……なん、……だろう。ね」
アストラにあの夢の記憶があるかは定かではないけど、あの夢を覚えていると言うなら、私に強い執着があるのも頷ける。
しかし、今の私の姿とここに来る前の姿は異なる物だ。それをどうやって判別しているのかは不明だけど……元々こんな感じで甘えたがりだったりするのかもしれない。親にあまり褒めてもらったり、構ってもらったりって言うのもなかったみたいだし。
「……ジュラ────」
「────。────―」
アストラとジュラさんも仲がよろしいようで。
それからしばらく、ジュラさんとアストラの会話を聞いていた。
何を言っているのかは全くわからないけど、なんとなく。雰囲気だけだけど、ジュラさんはとても優しい目でアストラに話しかけている。当のアストラは私から離れようとせず、相変わらず無表情のままだ。まあ、それでも可愛い顔をしていると思う。このまま育てば、美人さん。間違いなく美少女になるだろう。
私が頭を撫でると、気持ちよさそうに少しだけ顔が綻ぶ。可愛いですねぇ。ハイ。
「二人で遊んでないで。ほら、魔素を練って魔力を作りな。──────────────」
「……」
魔術や魔法の基礎。魔素と呼ばれる、空気中に漂う魔力の素となるエネルギー的な物を練って使える状態にする。と言う行為。
これを行うことで、魔力を体内に蓄え。魔術使いや魔法使いは蓄えた魔力を使って魔術や魔法を扱うことが出来るようになる。
不思議なことに、私は息をするように大量に魔素を練って魔力にすることができる。そして、さらに魔素以外にも、気と言う自身に存在する生命エネルギー的な物も練り、身体能力を劇的に向上させることもできる。
特に何か意識することなくだ。
これはジュラさんにも驚かれたが、「まあ、お前さんならそうか」と苦笑された。解せぬ。
アストラも魔素を練る、〝練魔〟の才があるらしく、二人揃って魔導の才があるかも。とのこと。
まあ、私の場合。神話関係の魔術・魔法が扱えるみたいだが、魔力の消費が激しく。強力な物、具体的には神格を経由して扱われる代物を使うと、私の生命エネルギーを持っていかれ、身体機能に影響を受ける。
例えば、もう三ヶ月近く前になるが、私の卓限定。あのKPオリジナルの神格。〝星抱きの母〟の異名を持つ神格、シャル・ハナスを讃えてから行う。癒しの魔法。〝星母の癒し手〟を使うと吐血したように。魔力と生命エネルギーを持っていかれてダメージを受けてしまった。
そんな感じで、代償に
強力であるのはいいのだが……扱いに困る。
練魔と気を練る作業。〝練気〟を同時に行い、練った気を体内に循環させながら、身に纏う。基礎練習を始めたのは一ヶ月ほど前からだけど、もうほとんどマスターしたと言っていい。
魔力を体外で操作しつつ、それを圧縮。塊にして射出。気も同じように練って体外に放出し、一つの塊になるように圧縮。そして射出。二つを練り合わせて射出。無駄に器用なことが出来るようになった。
ジュラさん曰く。私のやっているものは、原始的な魔術であるらしく。本来属性に変換しなければ実態を持たない魔素や魔力、気を圧縮されることにより固体とし、射出する。
シンプルで強力ではあるが、膨大な魔力が必要となるため、普通に属性化させて扱った方がいいとのこと。無学でそこまで到達できるのは凄いことなのだと褒められた。えっへん。
「……お前さん。本当に器用だねぇ」
「……なん、……だろう。ね」
大量の魔素を練り、魔力に変えて自身に蓄える。
蓄えた魔力を体内で圧縮して、外部に漏れ出ないようにする。そうするとあら不思議。魔力を蓄えていても外部の人間は、私の魔力に気が付かない。
まあ、ちょと苦しくはなるけど、別に気になるほどの違和感はない。練った魔力を解いて霧散させる。そして、霧散させたものを練り直して圧縮する。
この時間。私は基本的に暇だ。気と魔素を一緒に練ってみたり。練り合わせたものを体の一部、極所的に纏わせてみたり。練って蓄えた魔力を魔術や魔法に変換せずに少しずつ放出してみたり。放出した魔力を体外で操ってみたり。
こうして一人で遊んでいる。
「…………ルナーラ」
「……?」
「アストラ。──―、────」
「……」
アストラが私の補助を求めて来たけど、ジュラさんによって阻止され、不満げに私の腕に抱きつく。……これは、しばらくはくっついたままですかね。
そうなると、私の魔力の放出は邪魔になりかねないので、魔素を練るのをやめて大人しくしてましょう。
「お前さんってやつは、規格外なやつだ。もう練魔と練気はお手のものってかい。……はあ」
「……? せんせ。た、め……き。だい、じょぶ?」
「ただの気疲れさ。お前さんが気にすることはないさ」
大丈夫ならいいんだけどね。……そうだ。気を練って固形にすれば、他人に分けれるんじゃないだろうか。
「……お前さん。頼むからアタシの頭痛の種を増やさないでおくれよ」
「…………な、にも。し……ない」
「アタシぐらいになると、魔素や魔力の動きで色々わかるんだ。頼むから、派手なことはあまりしないでくれ」
「考えることが増えちまう」ジュラさんはそう言って考え込んだ。
「……せん、せー。げん、き。ない。げんき、わける?」
「……後で教えるつもりだから、それだけは辞めておくれ。と言うか、今は聞かないでおくれ」
どうやら、試すのもやってみるのも良くはなさそうだ。辞めておこう。ん? アストラの練ってる魔素が何やら膨張して、まずい! アストラを守らなきゃ!
────パァァアアン!!
盛大に爆散した。
咄嗟にアストラを庇うように抱え込んで、背中を中心に突貫で練った魔素を薄く伸ばして作った膜を、私とアストラに覆い被せる。魔力は魔力で受ける。
魔術や魔法の座学でそう教わったから、これであっているはずだ。
しかし、衝撃は待っても来ない。
「安心しな。ちゃんと防いだから、なんともないはずだ。大丈夫かい」
「……(頷く)」
「ならよかった。アストラ、──────。──────、──────────。──────?」
「………………―」
衝撃はジュラさんが防いでくれたらしく。私は膜を魔素に戻して霧散させる。
アストラはどうやらお叱りを受けているようだ。
魔素は、自分が制御できない量を集めて練ると反発する力を抑えられなくなって、発散させられる。その発散する現象が衝撃波として周りに被害をもたらすのだとか。
魔素を練る練度。一回で練れる量が多ければ多いほど研鑽を積んだ魔術・魔法使いであると言う証明になる。のだとか。
ちなみに、体に蓄えられる量もある程度は決まっているらしく。許容量を超えると、自身に蓄えていた魔力が発散されて全てなくなってしまう。
それに、無くなってしまうだけならまだいい。最悪、衝撃波の中心地となり自身の体が爆散するのだとか。恐ろしや。
「──────」
「……」
「?」
一通り叱られて気分の下がったアストラが私に頭を押し付ける。撫でて慰めて欲しいんだろうか。……そうだ。
「……アストラ」
「……──?」
「……(魔素を少しづつ練って私の体に取り込む)」
「……?」
「……(魔素を少しだけ練って体に取り込む)」
「……………………?」
伝わらなかったらしい。
「アストラ。────―、──────」
「……。! ルナーラ、──―」
ジュラさんには伝わったらしく。アストラに何か言ってくれた。それに気がついたのか、アストラが私にもう一度やって欲しいと言っている。……気がする。
魔素を少しだけ集めて練り、それを自分の体に蓄える。
魔素は自身の制御できる許容量を超えなければ悪さはしない。いろんなものに変換できるただのエネルギーだ。
少しずつ練り、蓄える。時間はかかるし、集中力も必要になるが、不要な怪我をしなくて済む。
この世界の教育方針。あるいは国の方針か。はたまたジュラさんだけなのかはわからないけど、ある程度の恐怖。緊張感を持たせると子供の吸収、成長につながると考えているんだろうか。
一つの教育論としては間違っていないんだろうけど。やっぱり私としては、安全に楽しく学びたいし、学ばせたい。私の小学校の理科先生がそうだった。
あの先生の授業、楽しかったなー。
魔素を練って、魔力にする。それを圧縮して半固形にし、粘土で遊ぶように捏ねて形を変える。
するとあら不思議。なんか窓辺で見た鳥さんの完成だ。記憶は曖昧だから、不恰好ではあるけど。特徴は捉えられてるだろう。多分。
「……! ルナーラ、──―、──―」
「……(頷く)」
もっと見せてと言っていそうなアストラのために、今朝食べたパンの形をした魔力の塊を作った。アストラは楽しそうだし。新しい遊びにでもなるのかな。
「…………ルナーラ。お前さん、本当に器用だねぇ」
「……ん」
ジュラさんは呆れ顔でそう言った。解せぬ。
──────────────────────────────────────
夜。二人の子らが寝静まった頃。
ヴェラルドルフとジュラは、執務室で今日の様子。特に、ルナーラのことについて話をしている。
「それで、何かわかったか?」
「相変わらず、魔導の才があることはわかった。……あんな器用なの。うちの曾孫ぐらいだよ」
「またルナーラは何をしたんだ」
「……魔力壁を作った。それも、布みたいに薄く膜みたいなやつだ。よく見てみたかったけど、不要とわかるとすぐに霧散させちまったから耐久性とかはわからない。しかし、魔素を急速に練って作られた突貫品だとしても、相当器用なものさ」
玄人目から見ても凄いものだと言えるのか、ジュラはハハっと笑う。
大した教えはしていないが、それでも自分の教え子に才があれば喜ばしいものではあるんだろう。
しかし、その感情はわかっても。魔導に詳しくないヴェラルドルフはイマイチどれだけ凄いことなのかわかってはいないようで。
「ジュラ。出来れば、どれだけ凄いのかを魔導ではなく、戦士としてどうなのか教えてくれないか?」
「知識はないが、勘とセンスだけで生き残るタイプの戦士。といえばわかるかい? 弱い魔物程度であれば、臆病風さえ吹かなければ取るにたらんだろうさ」
「なるほど。知識不足ゆえに半人前だが、知識さえつけば一人前だと」
「その認識であっているよ。全く。そう言う種なのか、あの子がその手の才を持っているだけか。比較対象がいないせいで憶測でしか語れん」
魔力の許容量や体の筋肉のつきかたを調べると言う名目で、アストラの身体構造も調べたが、アストラは普通の人間だった。ただ、その身に保有する神秘と呼ばれるモノの数値が凄まじく。その量は聖女や聖人、勇者に匹敵する量だ。
過去の英雄達は、高い神秘を持ち。何かしらの神から愛される存在であったとされている。
神秘が高ければ高いほど、神からの寵愛を受け。英雄の素質を持つ者として扱われる。その素質を持つ者達の中でも一定以上の神秘保有者を
まあ、神秘が高かろうと低かろうと英雄になるには関係ない。ただ、総数として神秘の高いものが歴代の英雄と呼ばれる者達に多くいると言うだけだ。
「神に愛される存在と未知のヒト種型生命体。疑問は尽きんな」
「頭を抱えたいのは、それをすぐ近くで見ているアタシなんだけどね」
考え、唸るヴェラルドルフと頭を抱えて座学と基礎を教えるジュラ。
言語は上達しなくても、魔導の才は凄まじいルナーラ。
本来であれば、アストラはアストラで国の要人を迎え入れてお披露目をしてもいいような人物なのだが、ルナーラの存在がバレればこれはこれで問題だ。
貴族社会など権力争いと足の引っ張り合い。
嘆かわしいことに、国の発展と安定を考える者など、平和が続けば続くほど年々少なくなっていくもの。
平和は良いことだが、良からぬことを考える愛国心のない貴族は増える。適度に争っている方が国のためではあるのだが……。戦は民の苦しみとなる。
「……難しいものだな。アストラは王や保守派貴族と改革派貴族共に見せねばならん。そうなると、アストラも貴族間の争いごとに巻き込まれてしまう」
「しかし、アストラのお披露目となると。その血縁であろうルナーラのことも人目に触れてしまう。そうなると、政敵の弱みを必死に探す貴族と、そのお抱えの魔術師なんかは屋敷内を勝手に解析して回るだろう。面倒だねぇ。貴族社会ってのは」
ジュラは貴族ではない。しかし、それなりに力を持っている故に、貴族社会のことはある程度知っている。生まれ持った魔導の才で若かりし頃から面倒ごとは力で捩じ伏せてきたが、生まれながらの貴族であるヴェラルドルフにはそれができない。
「……どうしたものか」
ヴェラルドルフは、深いため息を吐いて紅茶を啜る。
────。────♪
「……また、あの子達が歌っているのか。全く、もう夜中だぞ」
微かに聞こえる古代語で歌われる歌に、ヴェラルドルフは席を立つ。寝るように言いにいくのだろう。しかし、それをジュラが止めた。
「今は歌わせてやりな。……ルナーラは、アストラをかなり大切にしてる。……あんたもわかるだろう? あんな小さい子供が、生贄にされかけたんだ。辛いことを思い出して起きちまったんだろう。それを、あんたが夜だから静かに寝ろなんて言ったら嫌われちまうよ」
「…………それもそうだな」
少し考えてから、ヴェラルドルフは席に座り直した。
「それにしても、この歌は。……不思議だな。どこかで聞いたことがあるようで、全く聞き覚えがない」
「古代語ってのはそう言うもんさ。どっかの文献漁ったら、意外とこの歌の正体がわかるかもしれんね」
古き者達が歌を歌うといった文化は今のところ発見されていないが、新しく見つかったりする遺跡やダンジョン化した場所を詳しく調べれば何かわかるだろう。
紅茶を飲み、話し合いは夜遅くまで続く。
書き溜めたものが切れましたので、次の更新は少し後になります。
意外と読んでいただけているようで、作者としては喜ばしい限りです。出来れば評価なんかもつけていただけると嬉しいです。