元社会人、異世界にTS召喚される。 作:名無しの投稿者
「……お披露目、パーティー?」
「アストラ。ルナーラ。お前達を拾って、もう二年が経つ。そろそろ、貴族社会に少しでもなれた方がいいだろう。縦も横も、つながりというのは生きる上で何かしらの助けになることもある。それ故、オレと友好のある者達。オレの管轄する領地で開拓を手伝ってくれている貴族達にお前達のお披露目をしようと思ってな」
朝食。
ヴェラルドルフさんとアストラと私。ジュラさんの四人が席につき、食事を摂る中。ヴェラルドルフさんが私とアストラのお披露目パーティーなるモノをすることになった旨を話した。
ヴェラルドルフさん曰く。
貴族としての繋がりは、この家から出ていくにせよ、自分の跡を継ぐにせよ。なんにせよ繋がりさえあれば何かしらの助けになってくれることもある。
それ故に、若い今のうちから貴族社会の一端にでも触れておいた方がいいのではないか。そう考えたらしい。
「……でも、養父さま。ルナーラは、まだ」
「ああ。まだ話すことは困難みたいだが、こちらの意図がわかるほどになった。私は問題ないと考えている」
この屋敷で過ごすこと約二年。言語の習得を頑張って約二年。
発音、聞き取り、読み取り、書き取りを頑張った甲斐もあり。話を聞くことと、読み取りは出来るようになった。
相変わらず自分から発する行為。音を発して意思を伝えると言う行為と、書いて意思を伝えると言う行為には制約があるようで、呪詛とは別の要因で会話が出来ない。
しかし、アストラやヴェラルドルフさん。ジュラさんや、使用人の方々が何を言っているか。何を求めているのかを知ることができるようになった。
ジュラさんも、流石に呪詛以外の理由はわからないらしく。かなり精密な検査をしなければならないらしい。そうなると必然的にアストラといる時間がなくなる。それは避けたい。
まあ、今のところそこまで困ってないし。半年過ぎたあたりから使用人の方々も慣れてきたようで。簡単なコミュニケーションなら、配慮ありきで取れるようになった。
あと、流石に私も女児の体に慣れた。一年ぐらい違和感があったりもしたけど、なんだかんだ人間慣れるもので、棒も玉もないならないで快適だった。
「……アストラ」
「……なんですか。ルナーラ」
「…………だ、いじょう、ぶ。……話さ、なければ。ゲホ。……もん、だい。ない」
音は詰まるし、咳き込むこともあるけど。まだ話せるようにはなってる。まあ、たまにノイズが走ったみたいに聞き取れない言葉もあるけど、問題ない。
「……とー、様。も、お気、遣い。なく、ても。わた……は、平気」
「そうか。……アストラ。今回のお披露目パーティーのメインはお前だ。お前は
ヴェラルドルフさんは食べ終わったようで、そばに控えている使用人の人を呼んで食器を片付けさせる。
「オレは、執務室で仕事をしている。何かあればいつも通り執務室に来い。それまでは、いつものように武や魔導を磨け。行ってくる」
「……頑張ってきてください」
「……がんば」
書類仕事に戻るヴェラルドルフさんを私とアストラが応援なり、労いの言葉なりを送り、ジュラさんは食事。主に葉野菜を食べながら、軽く手を振って送り出す。
最近はこんな感じだ。
ヴェラルドルフさんは、国から開拓と国防を任された貴族。
その為、書類仕事が多くて座りっぱなしだ。休むことなく書類と睨めっこしているので、体が心配だ。
宴会とかが好きなら、このお披露目パーティー? なるモノも好きだったりするんだろうか。
「ごちそうさん。アタシも時間までは部屋に居るから何か聞きたいことがあればきな。先に失礼するよ」
ジュラさんも食べ終わったらしく、部屋に戻って行った。
食事場に残ったのは、食べるのがゆっくりなアストラと、それに合わせながら食べる私。そして、いつでも動けるように準備している使用人が二人。
「……ルナーラ」
「……? な、に?」
「……お披露目。ルナーラは居ないの?」
「…………いる、よ。側、に。いる」
出来る限り近くにはいる予定だ。ダメでも何とかして側にいる。
そのために、後でヴェラルドルフさんに相談しに行くのも良いだろう。
「……はや、く。ご飯、食べよ。練習、しなきゃ。ね」
そろそろ喉が痛いし、息苦しくなってきた。
食事が終われば、ジュラさんの授業。座学やら魔導学、算術、たまに武術。最近増えてきた、使用人の方々がやってくれるマナーや踊りの講習。
二人揃って踊りが上手くできず、自主練として、部屋で一緒に練習していることが増えた。昔からダンスや踊りに関しては苦手で、好きじゃないけど、アストラと練習したりするのは中々楽しくて好きだ。
……でも、いつかこれを見知らぬ男とやらねばならないと考えると嫌だなー。
一緒に踊るなら可愛い子がいいです。
身体は女の子になりましたが、メンタルの方はまだ男ですので。
ゆっくりな上に、結構な量を食べるアストラ。私はその半分も食べないけど体つきはほとんど同じだ。
成長期が来たのか、私もアストラも身長が伸び始めたし、アストラの方は女の子の日も始まったらしい。私はまだ来ていないけど、アストラは結構軽いようであまり気にしている様子はない。なんか血が垂れてきたぐらいの様子だったので、使用人の方が驚いていたぐらいだ。
ゆっくり食べて一緒に食事を済ませ、口を拭いて部屋に帰る。
初めてここで食事をした日なんて、アストラはまともな教育を受けていなかったのかすごく食べこぼしが多かったり、食べるのがあまり上手じゃなかったりしたけど。今はかなり綺麗に食べるし、ジュラや使用人の方々が頑張った結果。ナイフとフォークを習得した。
あの頃は、私も頑張ってアストラに教えようとしたけど、体の変化に感覚がなれなくて力加減だったり、距離感も測り損ねることが多かった。大きいモノはわかるけど、小さいモノと細かい動きは苦手だった。
まあ、一週間ぐらいで習得し切れたどさ。
……私は、箸を使いたい。スプーンやフォーク、ナイフも使えないことはないけど、やっぱり箸のほうが私は好きだ。
しかし、ここに箸を使う文化なんてないようなので、見たことないけどね。
部屋に戻って、少しお腹を休めてから、練習するために借りてきたレコードプレイヤーの様な魔道具を使って、練習している曲を流す。
ゆったりとしたメロディーの曲。
私は基本的に洋楽とか、クラシックは聴かないから、どう言うモノがいいものとかはわからないけど、嫌いではない。
アストラの前に出て、手を差し出しダンスに誘う。
そうすると、アストラが私の手を取って一礼する。
基本的に私が男役で、アストラが女役。私が女役をすることはあまりないし、女役をやる様に言われることもない。
ジュラ曰く、「お前さんは基礎が出来てるから、アストラの練習相手をしておくれよ」とのこと。
身長差とかを考えると、私が適任なんだろうか。アストラの身長は、私よりも少しだけ低い。だとしても、誤差程度の身長差だから、やっぱり身長差は関係ないのかもしれない。
次の動きを誘導するように先に動いたり、手を引いたり。……男役大変だな。前世? は貴族社会じゃなくて、現代日本で生まれてよかった。
娯楽の多い世でしたし、子供の頃は、ほぼ禁欲みたいな生活させられてたけど、隠れてやったり出来るほどの小さな娯楽も沢山あったからね。
「……1・2・3。1・2・3。ターン」
「……ん。上、手」
だんだんと覚えてきて普通に踊れるようになってきたアストラ。物覚えもいいみたいだし、かなり優秀な子だ。私は人生二周目みたいなモノだし、ある程度上手く立ち回れる……まあ、言語が通じない状態でも、そこまで大きな問題が起こらなかったのは今までの経験あってのものだろうし。
お互いにお辞儀をし合って曲が終わる。
一曲大体三分。長いか短いはさておき、なれないことをやるせいで少し疲れる。アストラは楽しいみたいだし、私はいくらでも付き合うけど……男役の方は大丈夫だろうか。まあ、交代でやるものみたいだし大丈夫か。
「……もう一回」
はい。ダンスのおかわりですね。承りましたー。
魔道具こと、レコードプレイヤーで円盤を操作して曲を変える。同じものばかりだと飽きるだろうし、曲が変わっても基本的な動きは変わらない。曲を掛け直してアストラの方へ行き、手を取る。
この調子だと、座学の時間まで踊ることになりそうだ。
「……ア。……アスト、ラ。楽し、い?」
「……楽しい。ルナーラは?」
「……わか、らない」
別に私は楽しいとか、楽しくないとかはない。ただ、アストラが楽しそうだからやってるだけだ。
「……ルナーラ」
「……ん?」
「……わたしのこと、アスター」
「?」
「ルナーラ。わたしを呼ぶと引っかかったりする。だから、アスター。なら、呼びやすいかも?」
ああ、なるほど。アストラは私に、アスターと呼んで欲しいと。……まあ、たまに名前を呼ぶ時に引っ掛かることはたまにあるが、多分アスターでもアストラでも変わらないと思う。
「……アスター」
「……」
「……アス、ター?」
「…………やっぱり、アストラがいい」
「……そう」
自分で愛称を考えてみたけど、なんか違うらしい。まあ、私は君が喜ぶなら何でもいいけど。でも、アスターってなんか綺麗な響きだよね。
「ルナーラ。テンポ、早める」
「……わか、った」
テンポアップ。つまり激し目に踊りたいわけですね。かしこまりー。
一呼吸おいて、曲は変えずに刻むリズムだけ早める。疲れるから私はあまり好きではない。私がリードする側だし、遅れればアストラに怪我をさせてしまうかもしれない。
緊張しながらも踊り切り、息を吐く。体力的には問題なくても気疲れはする。
「もう一曲。激しいの」
「……わかっ、た」
はーい。追加で一曲入りまーす。
数曲踊った後、部屋の戸がノックされて開かれる。
やってきたのはジュラさん。どうやら、座学の時間になったようだ。
「また踊ってたのかい。踊るのが好きだねぇ」
「……ルナーラと踊るの、好き」
「そうかい。なら、上達も早そうだ。ほら、椅子と机出しな。授業の時間だ」
教材らしい分厚い本を持ってきたジュラさん。書かれているのは……魔導の歴史に関するものか。
「ああ、そういえば。ルナーラ。座学と魔導学が終わったらヴェラルドルフが来るように言っていたから、行くようにね」
「……それ、今、言う?」
「もう歳だからね。忘れっぽいんだ」
だからって、始まる前にいいますかね。まあ、私だけ呼び出されるなんてよくあることだ。アストラには少し寂しい思いをさせてしまうけど、我慢して欲しい。
少し不機嫌になったアストラの頭を撫でて落ち着かせて座学は始まった。
「────は、──であったとされていて」
あのー、基本的に聞けるようになっただけで、わからないもの。音に慣れていなくて聞き取れないものもあるので、もうちょっと優しく教えてください。
────────────────────────────────────────
座学と魔導学の授業が終わり、私はヴェラルドルフさんの居る執務室へ来た。
以前は通訳として一緒だったけど、最近は一緒に入らなかったジュラさんも今日は一緒だ。
ジュラさんが扉を叩き、一声かけてから中に入る。
「おや、入らないのかい?」
「……」
──違和感。
私は立ち止まり、匂いを嗅いだ。
嗅ぎ慣れない匂いだ。
普段、ヴェラルドルフさんは香やアロマ系のものをあまり好まないらしく、部屋で焚くようなことはなかった。
それに、何かの術が仕込まれているのか、執務室内から練り編まれた魔力が張り巡らされている。
「──!」
何か悪意があって術が仕込まれているのならヴェラルドルフさんとジュラさんが危ない。
室内に飛び込んで自分に溜め込んであった魔力を全て発散させ、術として機能する前に式を乱し、魔力引き剥がして自分の中に取り込む。
他人の練った魔力を取り込むと、あまり体にはよくないらしいけど、私なら。
魔力や魔素、気力と親和性が異常に高い私ならいける筈。
即座に自分の中に誰かの編んだ術ごと自分の中に取り込んで体内に収める。
ねっとりした液体を一気飲みしたような、喉に張り付くような不快感で吐き気がするけど、大丈夫。身体は動く。
「……おや、まさか飲み込まれるとは思わなかったよ」
「これはオレも想定していなかった。だが、弱っているなら一定の効果はあるみたいだな」
「……な、んの。はなしを」
驚きながらも私を観察するジュラさんとヴェラルドルフさん。……まさか、私がピンチ?
私を観察するように。しかし、鋭い目が私を射抜き背中が冷える。
「さて、暴れられるようなことはないだろうが。……一応拘束させてもらう。ジュラ」
「はいよ」
私に向かって光の六角棒のようなものが出現し、首、身体、足を押さえつけ、手を縛られる。
確か、この魔術は……
「〝六光縛〟。東洋の道術さね。悪きモノを縛り、善きモノは縛らない。……まあ、その善悪の基準は定かじゃあないが、お前さんを拘束するための術。とだけ言っておこうかね」
……この術を使っているのはジュラさんらしい。変な感じはしないし、抜けようとも思えば抜けられそうだ。
「ジュラ。盟約を」
「あいよ。ルナーラ。敵意がないなら、私の後に続けて読みな。──〝契りを言と成す〟」
敵意って何だ? 私は何を疑われている?
「……〝契、り。を言、と成す〟」
「我、偽りを語らず〟」
「……〝我、偽り、を。話らず〟」
「〝我、危害を加えず〟」
「〝わ、れ。危が、い、を。加え、ず〟」
「〝我、ここに誓いを宣言する〟」
「〝我、ここに、誓い、を。宣、言。する〟」
「〝我名はジュラ。誓いをルナーラと結ぶ〟」
「〝我、名。は、ルナー、ラ。誓、い。を、ジュラと、結ぶ〟」
契約魔術。
誓いを結び、その契約に背くことがあれば背いただけの罰が下される。
ジュラさん曰く、個人個人の自由を尊重せず、倫理に反するとして禁忌として指定されている魔術だった筈だ。
「──契約は此処に結ばれる。破りしものには罰を与えん。……此処に契約は結ばれた。ルナーラ。此処からは隠し事は許されないし、嘘偽りも許されない。だから全て正直に答えな。──────アンタ、何者だい?」
ジュラさんとヴェラルドルフさんがかなり厳しい顔つきで私を見ていた。
出来に納得は行っていませんが、投稿を決意した作者です。
違和感があれば、感想の方にお願いします。