元社会人、異世界にTS召喚される。 作:名無しの投稿者
UAが1000を突破しました。感謝
これからも頑張って書いていきます
「──アンタ、何者だい?」
「……」
拘束されてジュラさんが私に問う。
私が何者か。……難しい質問だ。私は私のことを意外と知らないんだ。
なんでTSしているのか。なんで私が助けを求められたのか。こっちが聞きたい。
「……くわ、しく。聞いて、ほしい」
「なにも、難しいことは聞いちゃいないんだがね。そうさねぇ。お前さんは、何処から来て、なぜあの場所にいたのか。答えてくれるかい?」
あの場所。私がヴェラルドルフさんに拾われた場所のことだろうか。
「……なぜ、と。聞かれ、ても、わから、ない。でも、私は、呼ばれた。助けを、求められた。あの子、に。寂しくて、一、人。泣いていた、あの子に。助け、を望んだ。あの子に、私、は」
「呼ばれた? ってことは、アンタ。元々別のとこに居たのかい?」
「……別、の。世界。異な、る場所。で、私は、生きていた」
私は、ただのTRPGが好きな社会人だった。
予定していたシナリオを卓メンと攻略して、物語をみんなで作り上げて、「楽しかったね」と笑う。
そんな平凡な、ただの人間だった。
「オレからも質問いいか?」
「構わないよ。……アンタもいいね」
「……ん」
ヴェラルドルフさんは、私を静かに観察して問う。
「我々は、お前の身体や呪詛についてかなり調べたんだ。これはかなり初期。それも、ジュラとお前が出会った日から知っていることなんだが。お前はヒト種どころか、この世界に存在する既存の生命と何一つ合致しない身体構造をしていた──」
待ってくれ。今そんなに話されても話を整理しきれない。
というか、初耳なんだけど。
「端的に聞いてやりな。子供に長話しても混乱するだけさね」
「そうだな。では、端的に問おう。お前はこの世界に害意を持つ存在か?」
「……害、意は。ない」
害意なんてあるはずもない。アストラが生まれたこの世界に危害を加える気もなければ、加えようとも思わない。
「……敵、意も、ない」
ヴェラルドルフさんとジュラさんに対して敵意は持てない。二人は私とアストラの恩人だ。恩を仇で返す気はない。
「お前は精霊か?」
「……わか、ら、ない」
精霊についてとかよく知らないし、そんな認識はない。
私は自分を今の今まで人間だと。ヒト種だと思いながら生活していた。精霊かどうかなんてわからないし、自分がヒト種以外の存在であることの方が驚きだ。
「アタシからの質問だ。アストラと主従の契約はあるのかい?」
「……ない。と、思う」
私は寝ているところを呼び出された。召喚されただけだと認識している。その際に主従関係のものはないはずだ。
私が好んでアストラの我儘を聞いたり、近くにいるだけで、別に私がアストラを害そうと思えば害することができる。
ただ、私にとってアストラは庇護対象。私が守りたいと。手を差し伸べて助けたいと思った対象だ。たまにイラっとすることはあっても、子供の戯れだ。
私の中身は大人なんだから、手が出ることも、出すこともない。
「何でそんなにアストラに拘るんだい? アンタが助けを求める声に応えたってのはわかったが、世の中不幸に溢れてんだ。他の人の助けになるつもりはないのかい?」
「……私、は。……神が、嫌いだ」
親に信仰を強制された。
そして、その信仰のために、私は欲を禁じられた。
この神以外は全てが悪であると教えられた。私は苦しかった。でも、親の期待に応えたくて、いるかもわからない神を信仰し続けた。
でもさ。神は私に微笑まなかった。
助けを求める者に神は手を差し出すと言いながら、私を作り上げた世界の矛盾と期待に応えようと苦しむ私を、神は助けなかった。
「……神は、私を、救、わな、かった。神は、人を見ない。…………私は、いいさ。もう、神、……捨てて、生きる選択。できる、歳になった。…………でも、あの、子。は。そうじゃない。親のため、に。身を、削られ。精神、を。削られ。……神、の。贄とさ、れた。……それで、も。神は、あの子、を、見なかった」
そんなのあんまりじゃないか。そんなの哀れじゃないか。
神を信仰し、神に裏切られ。そして、親から失望される。
あんまりにも、アストラが可哀想じゃないか。
「……わた、し。ゲホッ。は。
「例え、その身が砕け散ろうともかい?」
「……ん」
この身が砕け散ろうとも。この身が滅びようとも。私は、アストラを助けたい。
私は神様じゃないし、神様にはなれないから。せめて、アストラの味方でありたい。
「依存か。それとも憐憫か。どちらにせよ、悍ましいものだ」
「……りかゲホッゲホッ。い。求めない。ただ、ゲホッ。わたゲホッ、は。アストラの、味方」
例え私が人でなくても、アストラの味方だ。それだけは、それだけは譲ってはいけない。辞めてはいけないんだ。
「……そうかい。なら、アタシからアンタに聞きたいことはもうないよ」
ジュラさんは、ひどく理解できないと言う視線を私に向けるが、私はこれでいい。私はこの生き方でいいと思っている。
どうせいつかは死ぬ。終わる命だ。
誰か一人でも救えて、少しでも幸せに出来たなら、それはきっと。素晴らしいことなんだと思うから。
ヴェラルドルフさんが執務席から立ち上がり、私の前に片膝をついて屈み、私を見る。
その目はとても優しそうで、たまに私やアストラに対して向ける眼差しだった。
「正直。オレとしてはお前がどのような存在であろうと構わないんだ。オレにはオレの使命がある。やり遂げねばならないことがあるからな」
不意に、ヴェラルドルフさんが私の頭に手を置いて撫でる。少しゴツゴツとした大きな手のひら。皮が厚くて、硬い手。
「ルナーラ。拾いし我が子よ。お前は、まだオレとアストラの家族でいてくれるか?」
「……ん」
何を聞くかと思えば、そんなことか。
当たり前のことを聞く。
この世界に来て、私の家族はアストラとヴェラルドルフさん。この屋敷で世話をしてくれているメイドさんや従者の方々。
そして、私を拘束しているが、私に言語を教えてくれたジュラさんだって、私にとっては家族だ。
「……そうか。ジュラ、解いてやれ」
「はいよ。まあ、解くもなにもって気はするがね」
ジュラさんが指を弾くと、拘束していたはずの六角棒は魔力の痕跡すら残さずに消えてなくなる。代わりに、別の痕跡が現れた。
「…………これ、は。ゲホッゲホッ!」
「幻惑魔術。当たり前のことだが、わざわざ禁術なんて使うわけがないだろう?」
幻惑魔術。
その効果は、幻覚を見せると言うもの。
しかし、とある物を用いると。術者を含めた一定の範囲に幻覚を見せることができる。
そのとある物というのが、宵茸と言うきのこのお香。
このきのこのお香の匂いを嗅ぐと、幻術にかかりやすくなると言う性質を持つ。
つまり、今まで見てきた物感じてきた物は一部幻覚で、本当は拘束もされていないし、契約魔術も使っていない。と言うことになる。
「拘束術式は本物だがね。幻術振り払って攻撃されたりさなんかしたら、アタシは死にかねんからね」
あ。そっちは本物だったんだ。
「……とー、ゲホッゲホ!」
とうとう話すぎて吐血した。喉が酷く痛む。
中々咳が止まらず、咳き込み続けるとヴェラルドルフさんが背中をさすってくれた。
「話させすぎたな。許せ」
別に話すのは構わない。話しすぎて喉の傷を酷くするなんてよくやってることだ。今更気にすることもない。
「今回は酷いみたいだね。ちょっと触るよ。──水よ癒やせ。〝ヒール〟」
ジュラさんの手が喉を触り、癒しの魔術を使ってくれる。……本当に、この人たち良い人だよね。
少し経てば落ち着き。私は、はちみつ入りの温かいレモネードをよくお世話になるメイドのお姉様、フローラさんからもらって、用意された椅子に座る。
さっきの尋問以外にも別件で用事があったらしく。なんと、この用事はついでらしい。
恐ろしいことに、場合によっては私の殺処分も検討していたらしく。回答を間違えていたら今頃、私の首は胴と泣き別れしていたことだろう。
ヴェラルドルフさんと半年前ぐらいに組み手をしたけど、この人むちゃくちゃ強かった。アストラには手加減してたのに、私は遠慮なく投げられるは、拳を打ち込まれるはで強かった。
今思えば、私の身体構造を把握していたからなんだろう。だとしてもそれはそれで酷いと思う。
「それで、話なんだが。ルナーラ。さっきの問答の内容から、ほぼ確定した事実がある」
「?」
ほぼ確定した事実?
「ああ。この手の説明はオレは苦手だ。ジュラ。頼む」
「あいよ。……ルナーラ。お前さん、自分が異界から来た存在だって言ったね」
「……(頷く)」
「一応言っておくと、別世界に存在するヒト種が迷い込むことは割とあるんだ。場合によっては、霊魂だけこの世界に迷い込み、循環の理、その一部として取り込まれて新たに生命を与えられることもね」
前世界的に言えば、ライトノベルの転生みたいな物か。
「どちらも強力な力を持っていることが多くてね。生まれた頃からそれを自覚している者たちばかり。だから、必要ないことなのかも知れなかったが……。おっと、話がずれそうだ」
「ババアの悪い癖だ」そう言って、ジュラさんが咳払いをした。
「世界学と言う研究分野があってね。世界の根源を解き明かしたり、種族のバランス。そこから魔法を魔術に落とし込むための学問があるんだ。それの仮説ではあるんだが……。どうも、アタシたちこの世界の存在は、世界という形のない概念的な物から、認められることによって才が花開くのではないか。と言う仮説があるのさ」
「……?」
どう言うことだってばよ。
「全部説明すると長くなるから、あまり質問はしないでおくれよ。まあ、要するに。神を世界に置き換えたような物さね。神の目に止まれば、神から祝福。つまり、才能や力を貰える。それを、世界が行うってことさね」
つまり、世界に一存在として認められることにより、持って生まれた才能が開花したり、さらに花開くと言うバフがかかると言うことか。
「この仮説だが、実際。どんな天才、英雄も素質の有無はあるにせよ偉業を成し遂げるまではただの凡人だったりするんだ。しかし、達した偉業が世界に認められた結果。更なる偉業を達したりすることが急におこるんだ。不思議だろう?」
確かに不思議な話だけど、それと私に何の関係があるんだ。
「そして、この世界の外から来た生命。召喚された生命には一定の法則。問題があってね。皆、言語の習得が異様に遅いんだ」
「……つ、ゲホ!」
「話さなくて良い。質問したいのはわかるからね。言ってしまうと、皆世界から認められていないんだ。元々この世界に住む物ではないゆえに、この世界の言語を扱わせてもらえない。処理し切れないってのは、これが原因だろえねぇ」
世界が認めていない。認知していないから、この世界の言語を習得できていない。世界と言う概念的な壁が、私を拒絶していると言うことなのか?
「まあ、世界に多少なり認めて貰えば言語については問題なくなるだろう。まあ、声帯にへばりついた呪詛はどうしようもないから、たどたどしいのはどうしようもない物ではあるのだけどね」
「……」
「まあ、世界に認められるようなことをしようって話さ。お前さん。なんか、すごい力とか持ってないのかい?」
「……(首を振る)」
残念なことに、私はチート能力的なものは持っていない。…………いや、あれをチート能力的なモノと言って良いんだろうか。厄ネタでしかないんだけど。下手したらこの世界が滅ぶ。
「そうかい。なら、長い月日をかけて世界に認められるしかないねぇ。でも、子供が言語を扱うのが二年ぐらいだから、そろそろ世界。言語のやつもお前さんを認識して使えるようになるとは思うんだがねぇ」
なんと。この世界では、言語が喋れるようになるのは、世界。言語のやつとか言う何かに認められてからだそうだ。
二、三年で世界から捕捉されて、存在を認められ、言語を獲得。習得できるようになるって感じか。
「まあ、この世界生まれの存在じゃないから、どうなるかは未知数だけど。……高い確率で、お前さんはあと一年ほどで話せるようにはなるだろうね」
それは良いことを聞いた。ならこれからも一応解読に努めよう。世界に認められるから話せるようになっても、学習して知識を持っていなければ扱えるモノじゃないだろうしね。
「まあ、世界に認められるには自分を定義しなきゃいけないんだが……これ以上は、考え込む要因になっちまう。少し時間をおいて話そうか」
ジュラさんがチラリと執務室の出入り口である戸を見やる。
すると、戸を叩かれ、戸が開かれる。
「……ルナーラ。まだ?」
「今、終わるところだよ。長く借りちまったね」
「……ルナーラ。待ってた」
アストラが心配そうに部屋を覗き込んできた。
どうやら、長いこと私を待っていたらしく、少し不機嫌そうだ。
「ルナーラ。アストラの元へ戻りなさい。続きは明日にしよう」
「……ん」
続きが気になるけど、今はアストラと遊ぶのが優先だ。寂しい思いはあまりさせたくないからね。
「……し、…………れい。しました」
「ああ。あまり暴れず遊んでくれ」
「……ん」
私はアストラに手を引かれて執務室から出ていった。
………………そういえば、この世界にも神様がいるって言ってたけど。世界と神の関係性ってなんなんだろうか。
私の中で、疑問が増えた。
ちょこっと解説
《世界学》
神を世界の意思として解釈した学問。
神はあくまでも世界の意思の代行者であるため、神に願うから願いが叶うのではなく。全ては世界の意思。環境と努力故に人の願いは叶う。と考える学問。
神の存在は否定しないが、神の意思を否定している。
《神脈学》(神話やその神のあり方を考察する学問)の学徒とは対立している。
ジュラは、神脈学を学んだ研究者だが、考え方として共感しているのは《世界学》。どっちもいいとこ取りができないものかと頭を悩ませていたとか。