元社会人、異世界にTS召喚される。   作:名無しの投稿者

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宴の開幕(前編)

 

 

 

 

 

 

 ねぎまを食べ終わって、フローラさんとまた露店を見て回る。

 

 どうやら飲食以外にも店は出ているらしく、小物も売り出されている。アストラとヴェラルドルフさん、ジュラさんが好きそうなものはあるだろうか。あれば買っていけば喜んでもらえそうだけど。

 

「何か気になる物でも?」

「……(首振り)」

「そうですか。しかし、……ああ、興味がおありで」

「……(頷く)」

 

 こういう物は、自分のキャラクターを作るイメージ作りで結構お世話になるし、イラストを描いたりする時も装飾や身につける小道具の資料になる。

 

「いらっしゃい。何かお求めかい?」

「……(首振り)」

「客じゃねぇのか。まあ、いいさ。好きなだけ見てってくれ」

 

 なんだ、この投げやりな小物商は。やる気あるんだろうか。

 

 まあいいか。この小物商にやる気があろうとなかろうと、私には関係のないことだ。

 

 サーっと小物を流し見る。小さな小箱や装飾のあるネックレス。宝石らしい鉱石に彫り物がされているペンダント。キラキラと宝石の粒が散りばめられた髪飾り。いろんな品が置かれている。

 ただ、どれも気を惹かれない。食欲は無くなったけど、物欲はそこそこある。……つもりなんだけど……ここまで惹かれないということは、あまり興味が向かないんだろうか。

 しばらくイラストを描いていないから、久しぶりに何か書こうかな……。

 

 ……? フローラさん、どうしたの? 

 

「この髪飾りどうでしょうか。アストラお嬢さまによくお似合いだと思うのですが」

「……?」

 

 フローラさんが手に取ったそれは、銀製で雪をモチーフとした簪。銀と青みを帯びた白の模様が入っていて、綺麗だと思う。

 私がつけるか否かという話であれば、自分で買ってつけるモノではない。

 

 誰かからプレゼントされたモノならつけるだろうけど。別に私のものを買いに来たわけではないから。……でも、私に似合うなら瓜二つのアストラにも似合うのでは? 

 

「お気に召しましたか?」

「……(頷く)」

「左様ですか。では、これを買っていきましょう」

 

 さて、私も選ぼう。フローラが選んだモノと、私の選んだモノ。アストラは、基本的に他人に興味を持たない。

 ……私が距離を取れば、突き放すなりなんなり出来れば他人に興味を持ってくれるだろうか。

 

 む? これは……。

 

「お? お嬢ちゃん。お目が高いねぇ」

「……指、輪?」

 

 黒い指輪の表面に薄く白い幾何学模様の入った指輪。作りはシンプルなモノで、宝飾はないただの指輪。

 

「これは、メテオライトですか?」

「おう。これでも錬成師なんだ。試しに作ってみたやつでな。この模様綺麗だろ」

 

 メテオライトってことは、隕石か。

 隕石には独特な模様がある。それを表面化させつつ、指輪型に加工したんだろう。

 

「珍しいモンではあるが、他のメテオライトと比べりゃ破格なモンさ」

「……メテ、オ、ゲホ。…………きれい」

「おお、わかってくれるか。やっぱり、いい目をしてるなぁ。お嬢ちゃん」

 

 おお、なんか小物商が興奮し始めた。口早にこの指輪がどれだけ素晴らしいかを語り始めた。

 そんな早口で話されたら何を言っているのかわからない。なんとかわかりそうでわからない謎言語を聞かされている気分だ。

 

「ああ? 引いちまったか」

「すみませんが、ゆっくり話してあげてください。早口で話されると私もお嬢さまもうまく聞き取れず」

 

 ありがとうフローラさん。私じゃ混乱して上手く言えいだろうから助かるよ。

 

「おお、それはすまねえ。わかってくれるかもしれねえ奴が来たもんだから、ついな」

 

 ご機嫌だな。この小物商。さっきまでの態度はどこへ行ったのやら。

 

「こいつは、オルドフィアーって種類のメテオライトなんだ。こいつは、一定の質量以上であれば、割れても引き合うっつう面白い性質を持っててな」

 

 ほう。それは面白い石だ。引き合うのは磁力か何かなのかな? 

 

「しかも、こいつは自分が欠けたもの同士でしか引き合わないんだ。だから、結婚指輪として好まれてはいるんだよ。まあ、そのぐらいのサイズになっちまったら引き合う性質なんて消えちまうんだがな」

「……不思議」

「だろ? 宇宙の彼方から降ってくるのは不思議なもんばかりだ。でも、こいつは結構降ってくるからな。他のやつと比べると安価なんだよ。手に入ったからには加工してみたくてな。作ってみたってわけだ」

「……な、るほど」

 

 不思議な隕石。珍しいし、土産としてはいいものなんじゃないだろうか。

 

「……値段」

「ああ、こいつは8000ヴォカリスだ。結婚指輪でもないし、ただの指輪だからな。サイズ調整の術式付与(エンチャント)をしてあるからな。お買い得だぜ」

「……」

 

 安いとは……。まあ、こんなもんだよね。知ってた。

 

「まあでも。これも何かの縁だ。おまけしてやるからよ。買ってくかい?」

「…………65」

「65? まさか、値切ろうってか?」

「……(頷く)」

 

 高いし、縁だというのなら値切らせてもらおう。買って欲しいなら、もちろん安くしてくれるよね? 

 

「お嬢ちゃん、その歳で値切り交渉するのかい」

「……ん。おかず、かい。足りない、から」

 

 まあ、10000ヴォカリスぐらいは自分で使っていいと言われたから、買えないこともないんだけど。値切り交渉が出来そうならやるとも。

 

「ほお? なら、7500ヴォカリスならどうだ? 足りないなら、そこのお付きさんに借りればいいだろ」

「…………む、り。私、が買う。6500」

「そういうがこっちも商売だ。子供だからって簡単には値下げしてやらねぇよ。7500だ」

「…………価値を、みた。のは、私、だけ。なら、私以、外買わない。なら、わた、し。に売ったほう、が、いい、よね」

「まだ祭りは始まったばかりだぜ。お嬢ちゃん以外にも買いたいってやつは出てくるだろうさ」

 

 確かにそうだ。しかし、この小物商は私に売ってくれるだろう。

 

「……私、は。目立つ、から。コレ、つけて。宣伝、になるかも、ね」

 

 見た目はアストラと一緒、瓜二つだからね。目立つ自信はある。

 

「ほう、お嬢ちゃん、なかなか面白いこと言うじゃねぇか!」

 

 小物商が私をみながらニヤリと笑い、顎をさすりながら少し考える。

 

「宣伝、か。確かに、お前さんみたいな目立つ子がこの指輪を見せびらかして歩けば、注目は集めそうだな」

「……6500」

「ハハッ、しつこいな! でもなぁお嬢ちゃん。宣伝効果ってのは不確実なもんだ。俺も商売人、確実に利益出さなきゃならねぇ。7200ヴォカリス、これが限界だ。術式付与(エンチャント)の種類がなんであれ、されてるって付加価値を考えりゃ、これでも破格だぜ」

「……(首振り)6500。……宣伝、だけ、じゃない。私、が買えば。あなた、の店。評判、上がる。次、も、客、来る」

 

 まあ、評判を挙げられるほどの力なんて私にはない。出来ることといえば、優良品であろうと粗悪品であろうとヴェラルドルフさんにこの指輪や銀の簪。見て来た小物達の良さを伝えるぐらいだ。

 小さな私に出来ることなんてその程度だ。それをわかっているのか、小物商は一瞬目を細め、私の考えを探るような。珍しいものを見るような目で私を見ている。

 

「評判、ねぇ…………。お嬢ちゃんほんと口が回るな。よし、わかった! 特別だぜ、6800ヴォカリス! これ以下はマジで無理だ。どうだ、決めるか?」

「………………ん。6800、で。いい。買う」

 

 8000ヴォカリスが6800ヴォカリスになった。1200ぐらい値切りに成功した。やったね。

 

「ハハ! 決まりだ! お嬢ちゃん、なかなかやるじゃねぇか」

 

 小物商は満足げに笑い、指輪を専用の箱でらしい物にしまい、布で包んで私に手渡す。

 

「俺の店を宣伝してくれよな」

「……ん。がん、ばる」

「まあ、お嬢ちゃんぐらい小さいと盗まれることもあるだろう。コイツをやるから、コイツを身に付けてな。バッチリ頼むぜ」

 

 そう言って、指輪の隣に置いてあった正八面体の指輪と同じ柄の黒い鉱石。同じく、オルドフィアーを使った物なんだろう。指輪よりも体積はありそうだ。

 

「コイツは、指輪と同じオルドフィアーで作ったやつだ。コイツは指輪ん引き寄せようとするだろうから、一緒には身につけるなよ。不格好になっちまうからな」

「…………ん」

 

 小物商曰く、ネックレスが指輪を引っ張るが、指輪はかなり弱い力でしか引き寄せられないため、ネックレスが動いてしまうのだとか。それで、ずっと装着している指の方に揺れてしまうらしい。

 

「お嬢ちゃん、名前は」

「…………ルナー、ラ・ランベルト」

「ほお、お嬢ちゃんだったのか。二年前に領主が迎え入れたって噂の子供は。こりゃあの値切りも納得だ」

 

 小物商がネックレスに祈るように目を閉じてポツリと「〝錬成〟」と呟く。

 すると、ネックレスが少しだけ輝き、その輝きはオルドフィアーの中に溶けていく。

 

「おまけだ。盗難防止に所有固定の術式付与(エンチャント)をしといた。これで盗まれてもコイツに宿らせた魔力が尽きるまで、お嬢ちゃんの側から離れることはないだろう」

「……ありが、とう」

「いいって事よ。まだ子供なんだ。我儘言って欲張れ。俺は隣町でたまに店開いてるからよ。機会があったら来てくれや。また、値切りに来いよ」

「……ん。縁、が、あれば」

 

 小物商に代金を支払ってその場を後にする。

 小物商の姿はとても楽しそうで、こっちも少し楽しかった。

 

「ルナーラお嬢さま」

「……?」

「……お嬢さまは、あのように値切り交渉が出来るのですね」

「……ん」

「以前いた世界で覚えたのですか?」

「…………ん」

 

 会社の海外研修と銘打った約一年の海外出張で、値切り交渉を真っ先に習得した。

 いやー、海外だと日本人は舐められて値段を高くされたりするから、生活に結構必須だったんだよね。

 

「逞しいですね」

「…………生きる、のに。必要、だっ、た。からね」

 

 生活苦しかったから、値切り交渉はできた方が色々楽だった。値切り交渉で言語習得したし。

 

「……左様ですか。……嫌なことを思い出させてしまいましたね」

「……? 別に、嫌、じゃない」

 

 嫌なことをというか、そういく会社だったから仕方がない。お金が発生している以上、職務に手を抜いてはいけない。それが、働くということだ。

 

「…………そうですか」

 

 あれ? なんかフローラさんの様子がおかしい。

 

 ……そうだ。何か美味しいものを食べよう。

 美味しいものは心の栄養だ。三大欲求が満たされる時の幸福感、達成感は良いものだ。

 美味しいものを食べて、フローラさんの元気を取り戻そう。

 

 なにせ、後一時間ぐらいは私と一緒なんだ。そして、貴族社会に揉まれて合流することになるだろうアストラもいる。

 

 元気は、今のうちに貯めておかなきゃね。

 

「……フロ、ラ。あれ、食べたい」

「かしこまりました。そこそこ並んでいるようですから、私たちと並びましょうか」

「……あれ、も」

「今日はやけに食べますね。良いことです」

 

 いっぱい食べればストレス発散にもなるだろ。さあ、いっぱい食べよう。アストラと合流しても食べれる程度に加減して。

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