夕凪の神殺し   作:蒼井千

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今回、本作主人公と原作主人公の二つの視点からの話となります。

読み易いよう考えながら書いておりますが、読みにくいようでしたら感想の方からご意見を頂ければ修正するつもりです。

少し短めの話となります。






呪いと印

 

 工場内を駆ける影が一つ。陸上選手すら追い付けない俊足で速度を落とすことなく段差を跳び超え駆け抜ける。

 

 『駱駝(らくだ)』の化身の脚力と身軽さを発揮した草薙護堂だ。

 正面からの戦闘は分が悪いと、戦場を移すために障害物の多い工場へ入り込み、内部の把握も兼ねて上階を目指していた。

 

 右肩は未だ不調だったが『駱駝』の治癒力により痛みは引いている。おかげで護堂は肉体の違和感を認識することが出来た。銃撃された箇所は衝撃こそ大きかったが出血はない。当たった時も弾丸というより鉄球が衝突したかのような感触だった。衝撃だけが響く様は爆風にも似ている。

 特別製と言っていたが納得だ。こんな銃が表の世界にあったら話題になっている。

 

 また銃撃された肩以外にも問題があった。

 妙に息が上がるのだ。『駱駝』の化身中はスタミナも向上しているためそうそうへばることはない。にも関わらず、先の戦いから息苦しさが続いている。それに加え──

 

「って、またかよ!」

 

 頭上から落下してきた鉄筋を避ける。これで三度目だ。一度目は床の崩落に巻き込まれ、二度目は倒れてきた支柱の下敷きになりかけた。いくら廃墟とはいえこうも立て続けに起こるものか。

 気味の悪い現象に護堂の背中に冷たい汗が流れる。不慮の事故というには不自然すぎる明確な害意すら感じるそれは、暗い廃墟の雰囲気と合わさって悪霊の仕業と言われれば信じてしまいそうだ。

 

 得体もない考えを振り払うように汗を拭おうとする。だが上着に手をかけた所で護堂の動きが止まった。

 それは乱雑に喰い千切られたかのような跡。赤黒い血痕の如き(あざ)が服の下の肌を覆っていた。

 

「何だよこれ……」

 

 目にした異様な光景に声が漏れる。こんな痣は当然ながら覚えがない。弾丸を受けた肩なら打撲の変色もあり得るが、痣は上半身全体に広がっている。怪我との関連性は考え難い。そして感じる呪の気配。

 

 となれば原因は──

 

「あいつの権能か」

 

 半ば確信を抱き呟く。カンピオーネはその身に宿す膨大な呪力(じゅりょく)により魔術や呪いに対して極めて高い耐性を持つ。並の術者が行使する術など意識するまでもなく無効化される。

 そんなデタラメな耐性を上回るなど神の力か神殺しの権能くらいのものだ。

 

「にしても(たち)が悪いぞ」

 

 毒づきつつ自身の状態を確認していく。

 おそらく倦怠感の原因はこの痣で間違いない。先程から続く災難にも関係しているかは分からないが、兎も角このまま放置するのは不味い。であれば護堂に出来る事は一つ。

 

「ふっ!」

 

 気合いと共に呪力を高めていく。もともと高い耐性を活性化させることで、呪いへ抵抗を上げ対抗する。

 すると徐々にに変化が現れた。僅かに痣が薄くなり同時に息苦しさも和らいでいく。

 どうやら目論見は成功したらしい。急場凌ぎだがしばらくは耐えられそうだ。

 

「けど長くは持たないぞこれ」

 

 しかし所詮は一時的なもの、長引けば長引くだけ呪力は消耗していく。耐性が下がればすぐに痣は元に戻るだろう。  

早々に決着をつけなけば。

 狙うは短期決戦。なら戦場は決まった。

 策を実行に移すべく護堂は屋上を目指し再び駆け出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「気付かれた」

 

 同じ頃、廃墟の一階に踏み入った少年は己が権能の変化を察知していた。

 

“さすがに対応してくるか〟

 

 内心で呟きつつ悠は状況を把握する。

 呪詛が解かれた様子はないが、弱まっているということはカンピオーネの耐性を底上げしたと見るべきだろう。

 

 護堂の予想は当たっていた、あの痣こそ夕凪悠が所持する権能。

 

 対象を衰弱させ不運を呼び寄せる魔の呪印。

 

 弱り目に祟り目と言う(ことわざ)を体現したかのような能力は条件こそあれど、一度発動すれば悠からの呪力供給すら必要とせず、対象者の呪力を吸い上げ半永久的に作用し続ける。

 呪いとしては東欧の魔王が持つ邪眼と同等以上。通常の手段では逃れられぬ不治の呪縛。 解呪出来るのは悠本人のみ。

 それが夕凪悠が持つ始まりの権能が片割れの力だった。  

 もっとも、それは一側面であるのだが今はいいだろう。

 

“予想はしてたけどカンピオーネには効きが悪い。呪詛だけで倒すのはやっぱり厳しいか〟

 

 常人なら容易く命すら奪える呪いだが、相手が〝神殺し(カンピオーネ)〟となると話は変わってくる。

 高い呪的耐性により初期の状態では多少体力を削るのが関の山。十全に効果を発揮するには呪詛を強める必要があるが、こちらからアプローチする手立てがほとんどないため、基本は相手側の対応を待たなければならないのが悩みの種だった。

 

〝課題が見えただけ良かったかな〟

 

 自身の能力を再確認しつつ、まずはこの戦いに集中すべく内なる権能へ意識を向ける。

 数秒の後、悠は視線を上げた。

 

「二階、いやもっと上、屋上辺り」

 

 呟かれたのは敵手の所在。姿を隠していた護堂の居場所を悠は言い当てた。呪印は文字通り目印としても機能する。解呪されない限り大まかな位置を悠は把握できた。

 

〝わざわざ逃げ場のない屋上を選んだってことは……〟

 

 十中八九、何かしら策を用意しているはず。

 それでも向かわないという選択肢はない。この勝負は彼の実力を確かめるために行っているのだから。 

 それに単純に興味があった。イタリアの王と引き分けた新たな魔王。権能の数も経験も遥かに格上である相手を追い詰めたその手管が如何なるものか。真っ向から受けとめてみよう。その上で──

 

 「勝つ」

 

 表舞台に上がった以上、いずれ災厄が訪れる。それを捩じ伏せるためにも、ここで目の前の相手から逃げる訳にはいかない。

 決意を新たに王は歩き出す。決戦の場に持つ相手を予見しながら。

 

 

 

 




主人公の権能について

ゲーム風に言うと■■と弱体化(デバフ)のハイブリッド。この効果は一つの権能によるものです。


用語解説

呪力
いわゆるこの世界における魔力みたいなもの。カンピオーネや神々に限らず普通の人間も持っている力。
ただしカンピオーネや神々が保有する量と人間では雲泥の差がある。


原作を知らない方でも楽しんでもらえるように、出来る限り用語の解説を載せようかと考えております。
ただ、あくまで概要ですので説明不足な所もあると思いますが、ご容赦ください。
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