夕凪の神殺し   作:蒼井千

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遅くなりました……
話が煮詰まらず苦戦しておりました。

前回の戦闘描写が納得しきれず書き直そうかと考えたり、
フォントの使い方に頭をひねったり、息抜きと戦闘の描写練習のために別の小説を書いてみたりと迷走したり。

そんなこんなで遅くなりましたがようやく書けました。




次なる戦場

 

 夕凪悠と草薙護堂。

 

 二人の魔王の戦いが決着を迎え、日本の呪術関係者たちはひとまずの安堵に一息つきつつも、次なる災厄に備えて既に動き出していた。

 

 女神に関する情報収集に監視網の強化、関係各所との調整にと、神の来訪などというにわかには信じがたい話を前に慌ただしく走り回る。

 

 しかし、疑念を挟む者はいなかった。

 

 何せ魔王二人からの情報である。加えて夕凪王側が出した御触れという名の予言。その的中率を彼等は身を持って識っているのだから。

 

 

 

 そんな中、神々に対する頼みの綱である魔王一行は現在。

 

「おじさん! 豚玉、イカ玉、エビ玉、特製ミックス玉、それからデラックス海鮮玉。追加でください!」

 

「やるな兄ちゃん! あいよ! ちっと待ってくれや」

 

 

 

 お好み焼きやで恐ろしい量の粉物と相対していた。

 

 鉄板の上にはつい今しがた焼き上がった豚玉が三枚。成人男性でも苦戦するボリュームを誇る難敵に、既に二枚を平らげた目の前の少年は寿司か何かと勘違いしているかのような注文を店主に入れつつ、美味しそうに豚玉を口に運んでいる。

 

 そんな食べっぷりを眺めていた護堂は呆気に取られながら、ここに来るまでの事を回想していた。

 

 

 

 決着がつき、悠が護堂の拘束を解くと互いに実力を確かめた二人は肩の力を抜いていた。

 そこに険悪な空気がないのは、お互いを認め合ったからだろう。護堂は良くも悪くも事が済んだ件を引きづるような質ではない。悠も実力を見るために手合わせを行ったのであって、目的が果たされた後まで戦うつもりはなかった。

 

 これにて一件落着といけば良かったのだが、まだ片付けるべきことが残っていた。

 

『それでアレはどうしようか』

 

 悠の言及に護堂は直視することを避けていた問題へ視線を向けた。

 

 護堂たちが決着を受け入れた横で、だからどうしたと言わんばかりに暴れ回る二体の巨獣。

 

 駆ける度に地揺れを起こし、ぶつかれば大気が波打ち廃墟が悲鳴を上げる。特撮怪獣さながらの大乱闘に護堂は遠い目になっていた。

 

 いくら廃墟とはいえ、ここまで暴れれば余波だけでも相当なもの。周囲に民家などはなく事前に人払いも済ませてあるのが救いだったが、だからといって放置も出来ない。

 

 一応、護堂も止めようとはしたのだ。

 

 けれど猪は言うことを聞かず、目が〝邪魔すんじゃねぇ引っ込んでろ!!〟と訴えてくる有り様。

 そして狼は〝うちの身内になにしてくれてんじゃおらぁ!!〟とドスの利いた声を幻聴させる(たけ)びを上げて引く気がない。

 

 当人たちより闘魂逞しく燃え上がりぶつかり合う二体の巨獣は、もはや周りそっちのけで乱闘を繰り広げていた。

 

 護堂は頭を抱えた。『猪』の化身は呼び出す条件が巨大な物体を破壊させることであるため、途中で送り返すのは困難だと分かってはいたが、ここまで血気盛んになるとは想定外だった。

 となるともう片方を抑えるしかないが、そちらも望みは薄い。呼び出した本人に頼んだところ、しばらくは難しいとのこと。

 

『僕を吹き飛ばしたのが、だいぶ頭にきたみたい』

 

 大丈夫だって伝えてるんだけど、と言いながら嬉しそうに頰が緩んでいる様に、当てにできそうないことを護堂は悟った。

 

 というか途中から狼に声援を送っている。

 

 ヒーローショーに参加する子供のような天真爛漫さである。そして声援に応え闘志を滾らせる狼と敗けじと猛る猪という頭の痛くなる連鎖反応。

 

 結局は護堂も諦め事態を眺めるしかなかった。

 ちなみに幕引きは標的にした廃墟が二体の巻き添えで破壊され猪が帰還するという、なんとも消化不良な結末に終わった。『猪』も不満げに叫んでいたし、狼も腹立たしげに唸っていたので、一番納得がいっていないのはあいつらだったことは護堂にも容易に想像がついた。

 

 とはいえ相手がいなくなった狼も姿を消し、ようやく周囲が落ち着きを取り戻すと、悠から治療と今後の予定について話そうと提案され、護堂が応じて今に至る。

 治療はカンピオーネ用に調合された魔法薬という怪しいものだったが、先に悠が口にし安全を証明されれば飲まないのも悪い気がして頂くことにした。実際、身体の痛みが和らいだので効果はあったようだ。

 

 そして車で連れられたのが、このお好み焼き屋だった。最初は料亭にする話もあったそうだが、気楽に楽しめる所と要望を出していたらしく、正史編纂委員会の方で店を貸し切って用意したらしい。

 店一軒を押さえる辺りは向こうの配慮が伺える。さすがに一般客と魔王を同席させるのは避けたかったのだろう。

 

 店主には御曹司の社会見学だと説明してあると伝えられたのには反応に困ったが。生まれも育ちも一般的だと自覚している護堂はいたたまれないさを覚えつも、他に案もなく黙るしかなかった。店にいるメンバー的にはある意味合っていたのもある。

 

 魔王に加えこの場には三人の少女がいた。

 

 一人は相棒のエリカ、それから夕凪の介添人である聖蘭と巫女の祐理。いずれも目が覚めるような美貌に優雅な所作は名家の令嬢だと信じないほうが難しい。三人共に良家の出であるので正しくその通りなのだが。

 

 ともかく五人はテーブル席に通され、そのまま遅めの昼食をとることにしたのだ。

 なんだかんだで空腹だった護堂は直ぐに注文を決め、何気なく向かいの注文を取ろう声をかける。

 

「俺は決まったけど、そっちは何にする」

 

 すると返ってきたのは思いもよらない内容だった。

 

「ねえ、この豚玉ってどんなの?」

 

「へ?」

 

 護堂がすっとんきょうな返事を上げ声の主を見る。そこにはメニューを前に疑問符を浮かべる魔王がいた。いや良く見れば隣の介添人も首を傾げている。かろうじて巫女だけは思い当たったような顔をしていた。

 

「お好み焼き屋なのにお好み焼きがない。豚玉がオススメって書いてあるけど、もしかしてこれがそうなのかな?」

 

「おそらくは。自信はありませんが……」

 

「いや、合ってるから」

 

 魔王と介添人のやり取りに思わず護堂は突っ込んだ。

 確かにここのメニューは文字だけで写真もないが、聞き馴染みのある品がほとんどだ。

 

 だが、今の言い方はまるで──

 

「なあ、ひょっとして食べたことないのか?」

 

「ない」

 

「私も口にしたことはありません」

 

 まさかと思いつつ尋ねると揃って肯定する。隣の相棒はイタリア出身だからわかるが、日本人の二人が食べたことがないとは予想外だった。

 日本食としてはかなりメジャーなお好み焼きである。それをこの年まで口にすることがなかったなど、護堂には信じられなかったが嘘をついてる風ではない。

 一体どんな暮らしをしてきたんだと護堂は考えるも今は食事が先だと横に置く。

 

「とりあえず豚玉でいいと思うぞ。お好み焼きっていったら鉄板だし。あとは適当にいくつか頼んで分ければいいだろ」

 

「シェア出来るんだ。じゃあそうしようか。聖蘭と祐理もそれでいい?」

 

「はい」

 

「大丈夫です」

 

 護堂の提案に悠が乗るとお付きの二人も頷く。

 

「エリカはどうする?」

 

「そうね、ここは護堂に任せるわ」

 

 隣の相棒にも尋ねると同じく了承された護堂は店員を呼び豚玉三枚、イカ玉とミックス玉を一枚づつ頼んだ。少し多いとも思ったが食べ盛りの男が二人なら大丈夫だろうと楽観していた。

 

 貸し切りとあってある程度準備していたのか注文した品はすぐに届いた。

 護堂はさっそく生地を流し込み形を整え、焼き上がりを見極めるとヘラを使いひっくり返し味付けしていく。

 この場でまともに作れるのは自分ぐらいしかいないと気づいていたため請け負った形だ。

 

 その間、エリカは面白そうに見物していた。向かいの三人も似たようなものだったが、特に悠は作業を興味深そうに見ていた。ひっくり返す時など目が輝いていたほどだ。

護堂としてもそこまで楽しんでもらえると悪い気はしなかった。

 

 焼きあがると皆に取り分け護堂も頂くことにする。

 カリっと香ばしい表面と、とろりとした柔らかさを残した生地に豚の旨味とキャベツの甘さがソースのコクととも口に広がる。空腹も相まってより一層旨く感じる。

我ながらうまく出来たと頷く。

 

「あら、護堂って意外と料理が上手いわね」

 

「意外は余計だ」

 

 エリカの感想に一言返し護堂は悠たちを見た。

 銀の少女は初めての粉物に目を瞬かせつつも箸を進めている。隣の巫女も熱さに苦戦しながら小さく笑んでいる。少女二人にも満足してもらえたらしい。そして魔王はというと──

 

 

「美味しい。おかわりください」

 

 

 笑顔で追加を要求していた。

 

「ん?」

 

 護堂は少年の皿を見る。よそった大きめのを二切れが消えていた。おかしい自分はまだ半分も食べていない。それも焼いている途中で予想以上の量に食べきれるか不安を抱いていた。

 だが悠の皿は空だった。それはもう綺麗に。

 

「おかわりって駄目なの?」

 

 目を点にする護堂に沈んだ声音が届き顔を上げる。悲しげな顔で魔王が皿を持っていた。どうやら黙り込んだのを勝手に取るのはNGだと勘違いしているらしい。

 

「あ、ああ、全然大丈夫だ。てか自分で取って食ってくれていいんだ」

 

「そうなの? 良かった。じゃあ頂きます」

 

「お皿を、お取りします」

 

「ありがとう」

 

 悠が安堵をもらし追加へ目をやると聖蘭の手が差し出された。それを自然に受け入れ皿を渡す。聖蘭も当然とばかりに盛り付けていく。

 その隣では悠がちょうど飲み干したコップに、祐理が脇に置いてあった緑茶の水差しをさりげなく取り上げ、これまた自然な手つきで注いでいる。

 気づいた少年がやわらかな微笑で応えると少女も小さく笑みを返した。

 

 なんだろうかこの雰囲気はと護堂は首をひねった。介添人とお付きの巫女という関係にしても距離が近すぎるような、それに何故だか自分の祖父の姿が重なって見えた気がして頭を振った。女性関係で浮き名を馳せた身内と一緒にするなど失礼だ。

 

 そんな護堂を横目に相棒の少女は憂いを込めたため息をついてた。なんでこうも鈍いのかと。

 目の前の彼ら程とはいわなくとも少しは進展が欲しい少女は改めて決意する。まずは家族に挨拶して取り込むとしよう。

 護堂の人生航路が決まりかけながらも世はこともなしに進んでいく。

 

 護堂のヘラ捌きを見た少年がお好み焼きの調理に初挑戦し、見事に返しを成功させたり。

 触発された少女たちもチャレンジしてみたり。

 お好み焼きを気に入った少年が追加したメニューが瞬く間に消えていく様に度肝を抜かれたり。

 つい先程まで決闘を行っていたとは思えない和気あいあいとした空気が流れていった。 

 

 

 

 そうして食事が一段落した頃。

 

「そうだ、護堂に伝えることがあったんだった」

 

「ん、なんだ?」

 

 悠は思い出したように切り出した。

 

「しばらく留守にするから、東京のことお願いするね」

 

「いや面倒かけてるしいいけど、どこ行くんだ?」

 

 護堂の問いに悠は行き先と目的を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと北海道に。女神様のお迎えに行ってくる」

 

 北の地にまつろやぬ神と神殺しの魔王が訪れようとしていた。

 

 

 

 









次回から新章になります。

決戦場になる北の大地の無事を祈りましょう。
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