夕凪の神殺し   作:蒼井千

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原作主人公サイドからの話となります。

本作主人公の情報 一部開示







幽玄の王

「日本に付いて来る?」 

 

 古代ローマの遺産たる闘技場が半壊した翌日。

 騒動の首謀者はホテルの一室で疑問の声を上げた。

 彼の名は草薙護堂(くさなぎごどう)。イタリアの地で古代ペルシアの軍神ウルスラグナを殺め、新たに王冠を戴いた魔王である。

 

「そ、嬉しいでしょう?」

「いや、なんでだよ」

 

 そんな彼は現在、目の前の少女から告げられた内容に困惑していた。

 片目を瞑る仕草が悔しいほど様になっている華やかな彼女──エリカ・ブランデッリがこちらを振り回すのはいつものことだが、それにしても余りに唐突過ぎた。

 

「お前に頼まれた用件は済ませたし、神具も預かるって言ったろ。エリカが日本に来る理由はないじゃないか」

 

 ニュースの一面を飾ることとなった闘技場の半壊を起こした決闘騒ぎは決着がついた。厄介事の火種になる神具も、託すべきイタリアの魔王が療養中という事情を聞かされれば、向こうが喧嘩を売ってきたのが悪いとはいえ自分にも責任がある。

 故に預かり持ち帰ると話がついたはずだと護堂は訴える。

 

「つれないわね。このエリカ・ブランデッリと共にある幸運を、護堂はもっと喜ぶべきよ」

 

「茶化すな。今は真面目な話をしてるんだ」

 

「わたしのことは遊びだったのね。あの熱い一夜も忘れてしまうなんて」

 

「だからっ」

 

「わかったわよ。護堂との逢瀬はまた今度にしましょう」

 

 護堂が慌てふためく姿に満足したのか、少女はからかうのをやめ、ようやく本題に入った。

 

「ちゃんと訳があるのよ。理由は大きく分けて二つ。新しく魔王になったあなたの喧伝とそれに伴う身辺整理」

 

 まずは分かりやすく要点から話しだすエリカだが、ピンときていないのか護堂は首を傾げる。

 

「そんなことする必要あるのか?」

 

「あのね、自覚が足りないみたいようだけど、あなたは魔王なの。これからも騒ぎの中心になるのは必定。火消しをするための(つて)はないと困るでしょう」

 

「いや、俺は騒ぎを起こすつもりはなくてだな」

 

「イタリアの観光名所を壊した人は誰だったかしら?」

 

「ぐっ」

 

 的確な指摘に護堂の反論は沈められる。返す言葉もなかった。

 

「そのためには、あなたが魔王であることを喧伝して協力を募る方がスムーズに話が進むの」

 

 それだけの権威が『王』にはあるのだから。

 そう付け加えてエリカは話を進める。

 

「けれど、宣伝するにも確度の高い情報を持ってるのはわたし達の結社だけ。下手な人選をすれば、あなたを七人目の魔王と誤解しかねない。()の王の気性がはっきりしない以上、不興を買う可能性は減らすべきよ。無用なトラブルは避けたいでしょう?」

 

「ちょっと待て」

 

 彼女の説明に納得しつつも、引っ掛かりを覚えた護堂は問いかける。

 

「協力を仰ぐってのはわかった。けど、どうして七人目とやらの話になるんだ? 魔王は七人で俺が八人目だって言ったのはエリカだろ」

 

 魔王になる以前に語られた話を思い出す。

 カンピオーネは七名いると、確かにエリカは明言していた。ならば自分が八人目であるのは当然だ。わざわざ七人目でないと訂正する意味が分からなかった。

 

「そこが問題なのよ。ただあなたをカンピオーネだと紹介したら、七人目の王と勘違いされかねないの」

 

「なんでだよ。もしかして東洋人なのか?」

 

 それならばいくらか納得はできるが。

 

「東洋の王はいるけど、その方は女性だし、基本的に自分のテリトリーから出ることはないわ。というか人種も性別も関係ないの。だから問題なのよ」

 

 ますます護堂は混乱した。特徴が一致するわけでもないのに見間違うことなどあるのだろうか。

 

「てか、さっきから名前も出てないぞ」

 

「仕方ないでしょう。知らないもの」

 

 とりあえず情報が欲しいとぼやくと、返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「は?」

「だから知らない、分からないの。名前どころか人種、年齢、性別、国籍に至るまで全て不明。情報があるならこっちが欲しいくらいよ」

 

 常の自信に満ちた少女らしからぬ悩ましげな声音に、ふざけている訳ではないと護堂は悟る。情報がないのは事実らしい。

 だからこそ疑問が浮かぶ。

 

「なあ、情報がないなら、なんでそいつがカンピオーネだって言えるんだ?」

 

 不可解なのはそこだ。

 カンピオーネだと証明するものがないのなら、存在することを前提に話しているのはおかしい。

 計算高い彼女がそんな不確かな認識で警戒するはずないのだから。

 

「簡単な話よ。他ならぬカンピオーネたる方々が存在を認知しているの」

 

 護堂の推測通り根拠はあった。それも確度の高いものが。

 

「全員ではないけどね。けど、半数以上が存在を示唆しているの」

 

 魔王の過半数が同類だと認めているのなら、真偽の信憑性は高い。

 

「イギリスの黒王子は各地で起きた事件の痕跡から間違いないと仰っているし、アメリカの冥王にいたっては交流があると明言してる。後にサルバトーレ(きょう)も話したことがあったと明かしているわ」

 

「あいつも会ってるのか」

 

 サルバトーレ・ドニ。

 イタリアの誇るカンピオーネにして、護堂が戦い引き分けた相手。

 己が剣技を磨くために死闘を望み、そのためなら周囲を巻き込むことも厭わないダメ人間。

 だが、戦いに関する嗅覚はずば抜けている。彼が同類と認識したなら、それだけの力を持っている証左だ。

 

「それでも懐疑的な者は多かった。新たな王が関与していると目される騒動はいくつかあっても、小規模だったから。けれど、ある事件を境にそんな見解は一変することになる」

 

 少女の声音に滲んだ感情に護堂が僅かに息を飲んだ。

 多くの者が荒唐無稽な噂と、直視を避けていた話を信じざるを得ない現実だと認めさせた所業に、畏怖を抱いている。

 

「何があったんだ?」

「襲撃よ」

 

 返ってきたのは不穏な一言で、語られた内容は物騒なものだった。

 

 当代最古参のカンピオーネの一人、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵。

 魔獣たる狼を率いる暴君であり、魔術の道に身を置く者なら、誰しもがその暴虐と恐怖を耳にすることになる狼王。

 

 そんな王がとある儀式を執り行っていた邸宅を襲撃し、集められていた数十人の巫女達を(さら)っていったという。

 

「ただ、拐われた彼女達は最寄りの街で直ぐに解放されたわ。その間も無体(むたい)を働かれることなかったそうよ」

 

 危険な儀式のために連れて来られた彼女達は、寧ろ感謝していたらしい。

 

「いい話じゃないか。やり方は乱暴だけどさ」

「そうね、ここまでならね」

 

 感心する護堂だったが、少女は意味深な言葉を付け足した。そうは問屋が卸さないというように。

 

「儀式に参加してた巫女の中にはヴォバン侯爵に仕えている子がいたのだけど、()の王はその子に手紙を預けたの。もし侯爵のもとに戻るのなら渡すように言付けて。なにが書いてあったと思う?」

 

 エリカから水を向けられ護堂は考えると答えた。

 

「あれか、こんなことするな、的な抗議とか」

 

「残念、もっと過激な内容よ。侯爵を()き下ろした上で喧嘩を売りつけたの」

 

 予想以上に攻撃的な話に驚く護堂に、エリカは手紙の内容を簡潔に教えた。

 

 女子供を拐って怖がらせ、横暴を働くことが強者の振る舞いだと勘違いしている耄碌した王へ。

 そんなに構ってほしいなら遊んでやる。ご自慢の鼻で探してみせろ。そうしたら手ずから引導を渡そう。

 分かっているだろうがこれは王同士の勝負、余人の手出しは無用。見つけだすくらいお前自身の手でこなせ。

 それとこれは挨拶代わりだ。受け取るがいい。

 

 そう締め括られた手紙は読み終わると同時に爆発した。

 

「爆発?!」

 

「邸宅が半壊するほどのね。それでいて手紙を渡した子は無傷。魔術にしろ権能にしろ、高い実力がないと出来ない芸当だわ」

 

 しかも、それを歴戦の魔王相手に実行する胆力。こんな恐れ知らずな真似を行えるのは、同じ王しかいない。

 

「そんな爆発を受けても無事なあたりは、流石魔王よね。それで自分に真っ向から歯向かった彼の王を侯爵は面白がって、勝負に乗ることにしたの」

 

 これこそが七人目の王が一躍注目を浴びることになった事件の顛末だと締められて、護堂は絶句していた。

 

「なんていうか、悪い奴じゃないんだろうけど、やってることがハリウッド映画並みにバカげてるな」

 

「良きにしろ悪しきにしろカンピオーネだもの、やることが派手なのは変わらないわ。ねぇ護堂?」

 

 さっきまでの真面目さを拭い去り、どこか(たの)しげにエリカに話を振られ、護堂は気まずげに視線を逸らした。

 バカげた仕出かしでいえば、相当やらかしている自覚があっただけに掘り返されるのは避けたい。

 

「そ、そういえば助けられた人がいるだろ? だったら姿を見たはずだよな?」

 

「話を逸らすにもユーモアぐらい挟むべきね。まあ目の付け所は悪くなかったからいいでしょう」

 

 内心を見透かしつつエリカは話に乗ってあげることにした。

 

「確かに証言はあるわ。助けられた巫女の全員がその姿を目にしている」

 

「だよな。けどさっき分からないって言っただろ? そこが疑問でさ」

 

 目撃者がいて姿は分かっているのに足取りが掴めない。 

 その矛盾に護堂は引っ掛かりを覚えのだ。

 

「むしろ証言が得られたからこそ、正体が掴めなくなったというか……」

 

 珍しく歯切れの悪いエリカは、奇妙なことを言い出した。

 

「妙齢の淑女、黒髪の子供、白人の老紳士、青い目の少女──」

「待て待て」

 

慌てて少女の話を遮った。

 

「その王様の話じゃなかったのかっ」

 

「そうよ、それ以外ないでしょう?」

 

「そうよって……」

 

 こちらの戸惑いをしり目にエリカは話を進めていく。

 

「いま語った風貌は同一人物のものよ。そしてこれこそが数少ない王の情報、おそらく権能(けんのう)に依るものだと目されているわ」

 

「姿を変える権能……」

 

 カンピオーネが神から簒奪した力が権能だ。

 つまり権能から倒した神をある程度は推測出来る。

 

「とはいえ姿を変える神や英雄は多くいるから、手掛かりとしては弱いけど」

 

 そうして一息つくとエリカは話をまとめていく。

 

 姿形を変え、各地に現れるも忽然と姿を消す。正体不明、神出鬼没のカンピオーネ。

 ただひとつ、遭遇者が名を尋ねた際に名無しと名乗ったことから、謎多き王はとある名で呼ばれるようなった。

 

幽玄の王(ネームレス)。それが七人目のカンピオーネの呼び名よ」

 

 畏怖と畏敬を込めて告げられた名を聞きながら、護堂は彼女が危惧していた事態をようやく理解した。

 

「ああ、そういうことか。姿が分からない王がいて、そんなところに名が知られていない奴がカンピオーネとして出てきたら、そりゃ勘違いもするか」

 

「そ、周りが早合点するだけならまだいいけど、そのままにすれば、本人からしたら勝手に自分の名を騙ってるのと変わらない。面白くは思わないでしょうね。しかも放っておくと侯爵との因縁までついてくる」

 

「冗談じゃないぞっ」

 

 平和主義者を自称する護堂である。売ってもいない他人の喧嘩を買うなんてごめんだった。

 

「だからその辺りの諸々を片付けられる人材が必要なのよ。それとも護堂には当てがあるのかしら? わたし以上に護堂をサポート出来る人なんていないと思うけど?」

 

 その通りである。

 彼女以上にこちらの意図を汲み、如才なく事を成せる友人はいない。

 こうなるとエリカの提案を受け入れるしか護堂にはなかった。

 

「わかったよ。そっちに関しては任せた」

 

「素直でよろしい。まあ護堂のことだから、(くだん)の王様とばったり遭遇しそうな気もするけど」

 

「不吉なこと言うなっ!」

 

 自分の星回りの悪さを痛感している護堂には、まったくもって洒落にならなかった。

 とにかく平穏無事に事が進むよう願いながら、日本へ帰国する。

 

 

 

 

 

 しかし、そんな彼の心中を他所に事態は動き出す。

 

 

 

 

 

「草薙護堂さまとお見受けします」

 

 

 

 

 

 星は巡る。それぞれの思惑を乗せて。

 

 

 

 

「私は天宮聖蘭(あまみやせいら)と申します。当然の訪問をお許しください。本日は王の名代として参りました」

 

 

 

 

 ならば、彼らが巡り合うのも必定。

 

 

 

 

「我が王、夕凪悠(ゆうなぎゆう)此度(こたび)持ち込まれた神具に関して弁明を求めておいでです。つきましては、会談の席を設けておりますので、ご出席賜りますようお願い申し上げます」

 

 

 

 

 『王』という巨星がすれ違うことなど出来ないのだから。

 

 

 

 







原作登場人物のトレースの難しさを痛感しました。
二次創作者の先達の方々はほんとすごいです。
一人称 や二人称だけでも調べるのが一苦労で、かといっておろそかにすると原作のキャラからズレる。
頭が痛い……

早く戦闘も書きたい。


ちなみに、主人公は普段ならここまで喧嘩腰にはなりません。
巫女は助けるでしょうが、そのままエスケープしていたでしょう。
理由に関してはもう少し先となります。

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