夕凪の神殺し   作:蒼井千

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今回も原作主人公サイドからのお話となります。




平穏は遠く

 騒動や荒事とは縁遠かったはずだ。

 

 少なくとも、続けていた野球で肩を故障した意外は、高校に進学するまでごく普通に過ごしてきたと護堂は自認していた。

 

 しかし、神様と遭遇したあの日から、運命はリクエストをしてもいないのに面倒事を運んでくる。

 

 イタリアから帰国して、付いて来たエリカからの家族へ挨拶がしたいという要求をかわし、学生の本分である勉学に励み、ようやく迎えた金曜日の放課後。

 下校しながら、今週こそのんびりとした休日を過ごそうと決意していた護堂の前に、彼女は現れた。

 

 息を飲むような美しい少女だった。

 

 冬空の月のごとき銀の長髪が揺れ、澄んだ瑠璃色の瞳からは聡明さが見て取れる。硝子細工のように繊細で華奢でありながら、起伏に富んだ女性らしい体つきを白のフォーマルドレスに包んだ姿は隙がなく、落ち着いた雰囲気も相まってどこか現実離れしている。

 凛として(たお)やかな声音と、(おごそ)かな口調がそんな印象により拍車をかけていた。

 

 護堂とて男だ。普通ならこれ程の美少女に声をかけられれば、嬉しくも感じるし見惚れもしただろう。

 だが、彼女から語られた口上が楽観を許さなかった。

 

「ええと、君も魔術師ってことでいいのか?」 

 

 出来れば否定して欲しい、そんな護堂の願いとは裏腹に、無情にも銀の少女は肯定した。

 

「はい、そのご認識で概ね問題ございません。僭越ながら、我が君の介添人(かいぞえにん)を務めております。御身であれば、《赤銅黒十字(しゃくどうくろじゅうじ)》の『紅き悪魔(ディアヴォロ・ロッソ)』たるエリカ・ブランデッリ様との関係に近いかと拝察いたします」

 

「エリカのことも知ってるのか」

 

 分かってはいたが、人違いという一縷の望みは断たれた。『王』、『神具』、おまけにエリカの所属する組織の名前まで出ては間違いようもない。

 やっぱり押し付けられた時に断れば良かったかと、護堂は後悔するが遅きに失していた。

 

「なあ、聞きたいことはあるんだけど、とりあえず敬語はやめないか? 同じ日本人だし、たぶん歳も近いだろ? 俺もそうするからさ」

 

 容姿から西洋に所以(ゆえん)があるのは一目で察しがついたが、名前から日本人であるのは明白だし、年齢もたいして変わらない相手にあまり丁寧な言葉を使われると落ち着かないと護堂は提案したが、少女は小さく(かぶり)をふった。

 

「お気になさらず。こういった口調には慣れておりますので。加えて、私は王の名代としてここにおります。無作法な真似は我が王の品位を貶めかねません。どうかご容赦ください」

 

 丁寧な、しかしはっきりとした拒絶。

 自らの役目への強い責任と自負を受けては、護堂も無理強いすることは出来なかった。

 

「わかったよ。悪いな無理いって」

 

「いいえ、お気遣い感謝致します」

 

 気まずげに護堂が言葉を口にすると、少女は仄かな笑みで応じた。

 その応対から、責任感が強いだけで相手を(おもんばか)れる優しい女性だというのが見て取れる。ならこちらも誠実に応えるべきだろうと、まずは疑問を解消することから初めることにした。

 

「じゃあ、質問なんだが、君の言う王様を俺は聞いたことがないんだけど」

 

 エリカから一通りカンピオーネの名は教えられていが、彼女が告げた名前は初耳である。とはいえ思い当たる節はあった。

 

 その中で唯一、素性が不明の王がいたのだから。

 

「無理もございません。我が王は以前より表立って動かれることを控えておりました。名乗ることもありませんでしたので。世間では『幽玄の王』と呼ばれております。もしお疑いでしたら、アメリカの王、ジョン・プルートー・スミス様にご確認いただければと。彼の王は、我が君と友誼を結んでおりますので、証拠になると存じます」

 

 そして告げられた内容は、奇しくも帰国する直前に聞いたものと一致している。

 面倒事にならないよう話していたはずなのに向こうからくるなんて、と護堂は思わず空を仰ぎたくなった。

 

「いや、君が嘘を言ってるとは思ってない。それで会談だっけ?」

 

「はい、公にはされておりませんが、我が君は日本の魔術組織である『正史編纂委員会』の庇護者でもあります。そこへ新たな王が現れたとなれば混乱は避けられません。ましてや、まつろわぬ神を呼び込み兼ねない神具まであるとなれば、今後のことを考えての対応と情報の共有は必要。早急に顔合わせを行うべきと判断されました」

 

 淀みなく言葉を紡ぐ少女からの情報をなんとか護堂は咀嚼(そしゃく)していく。要するに、お互い挨拶をしよう、それと何でそんな危険物を持ち込んだのか説明してということらしい。

 

「やっぱりあれって危ない物なのか?」

 

「失礼ながら、不発弾を持ち歩く方がまだ安全かと」

 

「うっ」

 

 容赦ない指摘に護堂は呻く。薄々気付きながら請け負ってしまった後ろめたさがあったためだ。そして、彼女の(げん)はもっともだとも感じていた。

 自分は普通の高校生のつもりだが、カンピオーネに対する扱いはイタリアで経験している。さながら暴君に仕える臣下のごとき(うやうや)しい対応だった。日本も同じならそんな存在がいきなり増えれば騒ぎにもなるだろう。しかも厄ネタを引っ提げてとなれば、彼女の王が重い腰を上げたのもむべなるかな。

 

「わかった。その夕凪って王様と会えばいいんだな」

 

 なら理由はどうあれ神具について請け負った自分が応じるべきだと護堂は判断した。

 

「はい、お受けいただきありがとうございます。それでは、こちらをお受け取りください」

 

 護堂が了承を伝えると少女は礼を取り、次いで護堂へ近づくと一通の封筒を手渡した。

 

「会談の場所と日時になります。お連れの方とご一緒にお越しください。もしお迎えがご入り用でしたら、記載されている番号へご連絡を」

 

 護堂が受け取ると、少女は一歩下がり再び礼を取る。

 

「お時間をいただきありがとうございました。草薙様のご来訪をお待ちしております」

 

 それでは失礼致しますと彼女が告げると、次の瞬間には護堂の前から姿は立ち消えていた。

 驚き辺りを見渡すがやはり姿はない。それどころか人影がまったくなく、人払いがされていたのだと遅れて気づいた。

 

「今週も休みなしか……」

 

週末が水泡と帰し、帰ったら相棒の少女に詰め寄られる未来が確定した護堂は憂鬱なため息を吐くのだった。

 

 

 




思ってたより進んでないと書いてから気づきました……

けど飛ばすのも変なので投稿します。
話の展開的にやっぱり必要だと判断しました。

戦闘等はもう少しお待ちください。
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