夕凪の神殺し   作:蒼井千

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今回も原作主人公サイドからのお話。

少し短めとなっております。



集いし場所

 東京都港区の芝公園近く。

 都心に位置しながら、木々の緑に囲まれた高台に建つ七雄神社。そこが会談に指定された場所だった。

 

「てか、どうして話し合いの場所が神社なんだ?」

 

 やたら多い石段に軽く息を弾ませながら、護堂は疑問を口にする。普通はカフェやホテル、料亭みたいな所ではないのか。

 

「多分、ここが正史編纂委員会(せいしへんさんいいんかい)の拠点か支部のひとつだからでしょうね」

 

 隣を歩く相棒の少女が推測を返してくれる。

 鮮やかな赤のフォーマルドレスに身を包み、赤みがかった金髪には黒薔薇の飾りまでつけている正装姿。正式な会談とあって、それ相応の服装を用意したらしい。

 

 神社に異国の少女という組み合わせなのに、意外なほど違和感がないのは、彼女の纏う華やかな覇気故か。

 高校の制服を着た護堂とはえらい違いである。他に適した服がなかったため仕方ないのだが。

 

「王同士が神や神具について話すのだから、裏の世界と関わりがあって、周囲に話を聞かれる心配がない場所となると限られるもの」

 

 護堂へ聞かせつつも、彼女自身も状況を整理するために話しているのか声音が固い。それも当然かと護堂は申し訳なくなった。

 昨日、七番目の王から招待されたと電話で伝えた時、エリカは訝しんだ。姿の見えない王が己が主と同郷の出身で、向こうから接触してくるなど青天の霹靂もいいところだ。にわかには信じがたい。

 だが、アメリカの王へ話が及ぶと、彼女の気配が変わるのが電話越しでもわかった。

 

 そこからは蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。

 

 エリカは急ぎ古巣の《赤銅黒十字(しゃくどうくろじゅうじ)》に連絡し、アメリカの魔術結社へ渡りをつけ真偽を確認。事実であると裏が取れると、今度は名前が明らかになった魔王と正史編纂委員会の情報を可能な限り収集した。

 とはいえ会談は翌日の昼、一日もない中でやるには無理がある。足場もろくに固められてない異国で人員も不足していては、触り程度の情報しか掴めなかった。

 

「正史編纂委員会が夕凪王の名と、その庇護下に入っていることを正式に布告したのが先週の週末。わたしが護堂をイタリアに呼んだのと入れ違うように行われている。いえ、入れ違うようにしたのよ」

 

 それでも限られた調査の結果から、今日の会談は前々から準備されていた可能性が高いとエリカは見ていた。

 

「護堂がいない間に夕凪王が庇護者であると周知することで、わたしたちイタリア結社の横槍が入る前に体制を整えたんだわ。しかも、これだけ急な布告にもかかわらず混乱は驚くほど小さかった。公にしてなかっただけで、正史編纂委員では暗黙の了解だったってことね」

 

 少なくとも正史編纂委員がすぐに動いた時点で、上層部は夕凪王に傾いている。

 護堂の所在やエリカの動向が詳細に掴まれていたのもその考えを補強していた。

 

「ただ、今回の会談は本当ならもう少し後にするつもりだったんじゃないかしら。そこにわたしたちが神具を持ち込んだために予定を前倒した」

 

 あちら側としても新たな火種を放置は出来なかった。本来ならこのゴタゴタが落ち着いて、日本の魔術界の実権を掌握した後に行うつもりだったのではないかとエリカは当たりをつける。

 

「とはいえ、向こうはこっちの素性はおろか直近の行動まで把握済み。こちらはほぼ情報がない上に、厄介事を持ち込んだ負い目がある。交渉するにも、ここまで不利だとため息もでないわ」

 

 とはいいつつも、憂いを帯びた嘆息が漏れるあたり相当堪えている。

 

「その、悪い。せめて日にちを改めてもらえばよかった」

 

 少女の様子に罪悪感を覚え、護堂が反省を口にする。

 あの時は突然の遭遇と情報に頭が回らず、ついそのまま頷いてしまった。彼女に負担を背負わせているのは、自分の迂闊さのせいだ。 

 だが、エリカは首を横に振った。

 

「どのみち神具のことがある以上、変更は難しかったでしょう。それにこれは事前にこの国について詳しく調べなかった、わたしのリサーチ不足のせいでもあるわ。だからそんな捨て犬みたいな顔しないでちょうだい」

 

「ああ、ありが──って、誰が捨て犬だ! そもそも、おまえがあんな危ない物を押し付けたからだろ!」

 

 少女の気遣いに礼を言いかけたが、途中で文句に変わった。元はといえばエリカが良心の呵責をつついて神具を受け取らざる得なくしたのだ。素直に感謝するのはどうにも癪だった。

 

「少しは覇気が戻ったみたいね。さっきまでのしょぼくれた顔とは大違いよ。うん、わたしの護堂はそうでなくっちゃ」

 

 エリカは少年のそんな態度に、むしろ笑顔を浮かべる。

 彼女なりに活を入れてくれたのを察して、護堂はそれ以上の文句を飲み込むことにした。

 エリカも今の掛け合いで調子が戻ってきている。水を差すのは(はばか)られた。

 

 

「お待ちしておりました。お二方」

 

 

 会話が自然と途切れた時、穏やかな声が聞こえた。

 二人が視線を向けると、石段の終わりに人影が見える。

何時からそこにいたのか、先ほどまで気配もなにもなかった場所に現れた相手に護堂たちが驚いていると、その人物は続けて言葉を紡ぐ。

 

「本日はおいでくださりありがとうございます。東方の若君、異国の騎士様」

 

 歓迎いたします。

 

 巫女装束を着込んだ年配の女性は、二人を見てにこやかな微笑みを浮かべていた。

 

 

 




少し短いですがキリがよかったので投稿することとしました。

次の話でようやく『王』同士が正式に顔合わせ出来そうです。
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