夕凪の神殺し   作:蒼井千

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ようやくここまで来られました。

まさか戦闘に入るまでに十話近くかかるとは思いませんでした。見通しの甘さを痛感しております。

それでもここまで書けたのは読者の方々がいてくれたおかげです。改めて感謝を。

長くなりましたが本作初の戦闘となります。





両雄激突

 

 決闘なんて言葉はそうそう聞くものではない。ましてや関わることなどなおさらだ。

 

 なのに護堂は二ヶ月余りの間で既に二度も当事者として関わっている。

 一度目はイタリアの魔王と、二度目は相棒の少女と、そして現在──

 

 

「よし、準備出来たね」

 

 

 三度(みたび)の決闘が行われようとしていた。

 

 体を解す悠を見ながら、護堂は己の失言を悔やみ数時間前の会話を思い返す。

 手合わせを申し込まれた際、護堂は始め辞退しようしたが、悠が事情を語ると選択の余地は潰えていった。

 

 女神が来訪するのは確実で各方面に対策を急がせる必要がある。

 だが対応の柱である護堂について懐疑的な者は多い。

 経緯はともかく、各地での破壊活動に加え戦歴は他国でのものばかり、これで不安がるなというのは酷というものだ。

 

 彼らを安心させ迅速に行動させるためにも根拠と説得力が不可欠。なら同じカンピオーネである悠に実力を示すのが一番だと言われれば協力するといった手前、頷くしかなかった。

 

 一応、時間がないのではとも聞いてみたが、霊視と近い能力者から数日は問題ないと報告を受けていると見事に機先を制された。実際に見せられた後ではぐうの音も出ない。

 

 そのまま善は急げと言わんばかりに事は進み今に至る。場所も直ぐに用意され、神社から車での移動と余りの手回しの早さに脱帽するしかない。

 

 

 

 そして着いた場所は東京郊外にある廃工場。

 

 倉庫などの建物に加え鉄骨やドラム缶等の資材が放置されている。他にも木々に覆われた壊れた重機や車両が見える。周囲に民家もなく人払いも完了済み。

 ここまでお膳立てされては後には引けないと護堂はため息を飲み込んだ。

 

「俺が原因だからやるけどさ。お前なんか楽しそうじゃないか」

 

「そう?」

 

 それでもつい不貞腐れたようにぼやく護堂の指摘に悠は首を傾げる。

 

「実はカンピオーネとの手合わせって初めてなんだー。だからかな? 少しわくわくしてるのかも」 

 

 まるでスポーツの模擬試合みたいな感覚を悠は口にする。ある意味では近いが実際に行われるのはそんなお上品なものではない。

 

「こっちは楽しくなんてないぞ。戦うのも好きじゃないし」

 

「僕もだけど」

 

 何を当たり前のことをと、きょとんとした目を向ける悠に護堂は面食らう。

 

「命の奪い合いならともかく、今回のは手合わせ。全然違うじゃない」

 

 あくまで試合だと認識している悠を見て護堂は肩透かしを食らった気分になった。悩んでいる自分が馬鹿みたいではないか。

 

「わかった。ならとっととやっちまおう。ルールはさっき聞いたのでいいんだよな?」

 

「相手を気絶させるか行動不能にする。それ以外は武器も権能も使用自由。特に変更はないよ」

 

 試合だと割り切ることにした護堂が確認を取れば、事前に決めた内容を悠が再び告げる。

 

 支度は整ったと判断し、互いに十メートル程距離を取ると悠は一枚の硬貨を取り出した。

 

「この硬貨が地面に落ちたら試合開始」

 

「ああ」

 

 悠の言葉に護堂が了承を返す。

 

「じゃあいくよ、ほいっと」

 

 掛け声とともに悠は硬貨を放り投げる。二人の中間に向かって落下していくのを視界に入れ護堂は直ぐに動けるよう身構えた。

 

 硬貨がアスファルトの上を跳ねる直前、首筋に冷たいものを感じ護堂は横へ跳んだ。同時に乾いた音が二つ。

 

 一つは後方、吹き飛ぶ倒木。もう一つは前方、相対する相手。驚いたように僅かに目を見開く少年の手に、何時の間にか収まっていた鈍色の得物を見て護堂は目を疑った。

 

「ちょっと待て! お前それ銃だろ!?」

 

「え、うん」

 

 思わず護堂が叫ぶと問われた方はあっさりと肯定した。

 

「うん、じゃない! なんつうもん使うんだお前は!? 試合だって言ってたろうが!」

 

「いやだって、(くま)(ぞう)を相手に丸腰で戦ったりしないでしょう?」

 

「誰が猛獣だっ!」

 

 糾弾に何故か不思議そうな様子で聞き返してくる悠に、護堂は文句をつけるが堪えた様子はない。

 

「それにこれは特別製だから、人に向かって使わないようにって言われてるし」

 

「いま撃ってるだろっ!」

 

「カンピオーネは半分別枠みたいなものでしょう? グレゾーンってことで」

 

「そんなんで納得できるか! そもそも銃刀法違反だぞっ!?」

 

「悪い人は言いました。バレなきゃ犯罪じゃないんだと」

 

「悪い人って時点でアウトだろ!」

 

「世界遺産を壊すのもバレたらアウトだと思う」

 

「ぐっ」

 

 声を荒げ非難するが暖簾に腕押しと効果がない。どころか手痛いしっぺ返しを食らって護堂は呻く羽目になった。     

 やらかした功罪でいえば後者の方が圧倒的に多い。明るみにでれば投獄待ったなしである。

 

「けど流石だね。やる気に欠けてたから気付けに一発と思ったんだけど、良い勘してる」

 

 不意打ちを見抜かれ驚きを見せていた少年は気落ちすることもなく、感心したように頷いている。安堵すら滲ませる声音は本心からのものだ。だがやっていることは物騒にも程がある。

 

 言動と感情の動きが噛み合わない違和感に引っかかりを覚え、護堂は疑問を(てい)そうとして息を呑んだ。

 

「言ったよね? みんな君に不安を持ってるって。あれには僕も含まれてるんだ」

 

 

 口元にあった笑みが消え去っている。

 

 

「ここには身内以外にも大切なものがたくさんある。君が神様の対応が出来なくても、その時は僕が対処すればいいって最初は思ってた。けど状況が変わった」

 

 紡がれる言葉は冷たく、声音は空恐ろしいほど淡々としている。まるで己が感情を抑え込むように。

 

「二柱の神は別々の場所に、同時期に現れる。聖蘭が予測したこれはまず外れない。つまり僕はどちらかの対処をほぼ君に任せないといけない」

 

 けどさ、と悠は目を向ける。

 

「君にそれを成せるのか、見極めないことには安心出来ないんだ。これは試合だけど手を抜くつもりはない。腑抜(ふぬ)けたままで力を示さないなら──」

 

 護堂の全身が総毛立つ。

 

 

 ──今ここで潰す。

 

 

 目を細め宣告した声色は本気だった。

 

「ああくそっ、わかったよやってやる。言っとくが手加減なんか出来ないからな!」

 

 叫ぶと護堂は駆け出した。まずは射線から逃れる。このままではいい的だ。とはいえ、黙って見送ってくれる訳もない。

 

 炸裂音が響く。数は三つ。咄嗟に身を屈めるように飛ぶ。背後でドラム缶が鉄屑と化す。

 

 やはりただの銃ではない、威力が高過ぎる。まずはあれをどうにかしなければ。

 思考を進めながら護堂は資材置き場へ転がり込むとまたも銃声、今度は鉄骨が弾き飛んでくる。

 直撃すれば体がひしゃげるそれを両手を突き出し掴み取り、片手で持ち上げた。

 

「だあああっ!」

 

 そして野球の投球よろしく放り投げる。 

 

 明らかに人間離れしたとてつもない怪力。これこそは草薙護堂が軍神ウルスラグナより簒奪した神殺したる所以(ゆえん)

 グリニッジ賢人議会によって『東方の軍神』と名付けられた十の形態に応じた能力を得る権能。

 

 いま使用した『雄牛』の化身ならば無双の剛力を護堂に与える。ただし発動には条件がある。『雄牛』であれば人を凌駕する力を持つ相手にしか行使出来ない。今回は吹き飛んできた鉄骨が条件を満たすのに役立った。

 

 時速百六十キロ以上の剛速で悠に迫る鉄骨はしかし、たった二発の弾丸で撃ち落とされる。

 そのまま悠は狙いを定めようとするが、鉄骨に隠れ二つの影が飛来した。護堂が追撃に投げつけた一斗缶だ。サイズの関係で先の攻撃より高速で距離を詰める。一つは躱されたが二つ目は直撃コース。当たったと護堂が確信し──

 

 

操流ノ型(そうりゅうのかた)流刃(りゅうじん)

 

 

 その確信を悠は容易く覆す。右手の甲に触れた瞬間、ガーターに落ちた玉のように軌道が逸れ後方へ流れていったのだ。

 

 護堂は目を見張った。カンピオーネの肉体は強靭だ。肉はしなやかで千切れにくく弾丸すら止めてしまう。骨は地上のどんな合金よりも硬く並大抵の刃物は切りつけた方が砕ける始末。だからといって車の激突に等しい衝撃を受けて無傷はあり得ない。

 

「馬鹿げた怪力、けど考えなしじゃない。躊躇(ためら)いなく迎撃の隙を狙う狡猾さ……さっきの言葉はほんとみたいだね」

 

 一方、悠も内心で感嘆していた。戦いが始まるまで闘気も感じられず本気で取り組んでくるか不安だったが、いざ蓋を開けてみれば躊躇も容赦もなく勝ちにくる貪欲さ。

 やはり彼もカンピオーネ、人類の頂に立つ戦士。気を抜けば喉元を喰い千切られる。

 

 ならばと、まずは勢いを削ぐべく悠が引き金を引く。

 

「この、ちょっとは待て!」

 

 それに対し護堂は指が引き金にかかった時には動き出していた。だが直後。

 

届いた(・・・)

 

 不吉な言葉が響き、踏み込んだ(・・・・・)足元が崩れた(・・・・・・)

 

「なっ!? がっ!」

 

 回避出来たはずの弾丸は右肩へ命中。銃撃というには重すぎる衝撃に護堂は呻く。それでも倒れることだけは踏みとどまる。そうしなければまずいと本能が訴えた。

 そしてそれは正しかった。

 

火天ノ型(かてんのかた)烈火(れっか)

 

 数十メートル離れた位置にいたはずの少年が目の前にいた。握られた銃のグリップが側頭部へ振り下ろされる。振り払おうにも肩が動かない。避けられない。

 

「だああああっ!」

 

「ッ!」

 

 なら迎撃するまで。雄叫びを上げ迫る一撃を銃ごと蹴り飛ばす。片腕を負傷した時点で護堂は『雄牛』の化身を放棄していた。代わりに行使するは強壮にして獰猛な『駱駝(らくだ)』の化身。深手を負うことを条件にもたらされる達人すら凌ぐ格闘センスと岩をも砕く脚力を活用し一気呵成に攻め立てる。

 

 

【操流ノ型:(やなぎ)

 

 

 だが届かない。続け(ざま)に放たれる蹴りは当たる前に逸れていく。

 その絡繰(からくり)を護堂は見た。

 蹴りつけた脚に添えるように悠の手が触れると、糸に引かれたように軌道が変わる。ほんの僅かな力の加重で狙いを乱しているのだ。紛うことなき絶技。

 ここに至って護堂は理解した。接近戦は彼の土俵だと。真っ向からやり合うのは分が悪い。

 

 しかも懸念はそれだけではなかった。攻撃を繰り出す程に自身の動きのキレが落ちているのだ。

 怪我の影響かとも考えたがそれはおかしい。『駱駝』の化身は回復力と耐久力も向上させるため、そうそう動きが鈍ることはないはず。

 だというのに、息が上がり蹴りの威力も目に見えて落ちてきている。そして反比例するように相手から感じる重圧が増していっていた。

 

 護堂の直感が警鐘を鳴らしている。追い詰められているのは自分だと。無理やりにでも今の状況を抜け出さなければ勝機はないと。

 

 決断を下すと護堂は即座に実行に移した。

 地面へ爪先をかけると相手の顔面に向けて蹴りつける。巻き上げられた土砂が視界を遮り僅かな猶予を生み出す。その隙に大きく後ろへ跳び退いた。

 

「随分足癖が悪くなったね」

 

「お行儀よく戦うつもりはないんでな」

 

 追撃はなかった。代わりにきた揶揄(やゆ)するような声に軽口を返す。

 

「さっきは怪力、今度は格闘術、手広く多芸な権能だ。スミスと似てる」

 

 悠は興味深げに所感を述べる。友人の魔王は特定の(にえ)を捧げることで姿と能力を変化させていた。草薙護堂の権能も条件を満たさなければ使えないのは間違いないようだ。

 

「けど扱いづらい。僕に使える能力も少ないみたいだし」

 

 図星だった。護堂の手札のほとんどは目の前の少年には使えない。切れる手札は発動中の『駱駝』を除きあと僅か。

 だが、その程度で白旗を上げるようなら神相手に喧嘩を売ったりはしない。

 野球をやっていた頃を思い出す。九回裏でどんなに点差が離れていても、ヒットをさえ打てればチャンスはあるのだから。

 

「使えるかどうかは関係ない。大事なのはどう使うかだろ。それを見せてやるよ」

 

 啖呵を切ると背を向けて走り出す。まずは仕切り直し状況を整える。

 切るべき手札を思い浮かべながら、護堂は全速力で工場を目指し駆け続けた。

 

 

 

 

 

 

 





主人公の情報一部開示

武術・■■流
主人公が修める主に四つの系統の型からなる武術。

【操流ノ型:流刃】
相手の攻撃に側面から力を加えることで、軌道をずらす守りの型。


用語解説

グリニッジ賢人議会
世界各地で目撃される神々とカンピオーネの情報、言霊、聖句などを収集している研究機関。
カンピオーネたちに関するレポートを定期的にまとめ、希望者に情報提供しており、彼らの権能にも暫定的な名称を与えている。
あくまで魔王の脅威を周知させ無謀な挑戦を減らすのが目的のため情報には一部制限がかけられている。



技能の情報については暫定的に後書きに記載。
需要があるようなら掲載しようかと考えております。

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