「おはようさん。やっぱ、母ちゃんの部屋だったか。ルカ、これ見ろよ」
「おはよう。オルトは無礼」
夜も明けたばかりの頃、訪も入れずに扉を開けたのはオルト。手には色鮮やかな冊子を握っている。
「そう言うなって。リナは?」
「奥方様の準備に出た。オルトは失礼」
無礼を詫びもせず、リナを探す従兄弟に呆れてしまうルカだった。つい頬が膨らんでしまう。
「そう言うなよ。めでたい日に、良い報せが届いたんだからよ。——ほれ」
「本を雑に扱わない」
雑に握られていて皺くちゃになってしまってるのは官報だ。トラーパニの豊かさを示す、行政府による広報だった。
「母ちゃんみたいな事、言ってんな」
「当たり前のこと」
何か、読んで貰いたい記事でもあるのだろう。叱っているのにオルトは、自信満々な顔つきだ。
官報には行政府からの通達の他に、政治経済の動静から事件事故情報、市民の声などまでもが載せられている。
情報の公平性のためだと、奥方様に聴いていた。
「ほらほら、早く読めって」
「オルトは短慮」
来年には兵役に出る良い歳なのに、しょうがないお子様だと思いながら、ルカは官報を開く。
そして、最初に彼女の瞳へと飛び込んで来た速報記事は——。
ルカは口角を、思わず上げてしまう。
たった今オルトに注意をしたばかりだというのに、色鮮やかな冊子を強く握りしめていた。
「俺達の新たな門出には、最高の餞じゃねーか?」
「オルトは軽薄」
果たして意味を理解していて、言葉を使っているのだろうか。それとも私が、何か勘違いしているのだろうか。
そんなことを考えてしまい、ルカは唇を尖らせた。
「ルカ様ー。オルト様ー。おはようございますー」
「おめかし、おめかし、晴れ姿!」
だが、そんな時間は一瞬だ。
キエッリーニの屋敷、白の家には、華やかな侍女たちの声が木霊する。
素敵なお姉様達の、楽しげな笑い声が。
確かに、二人の門出なのだ。それに、今日でルカは十二歳となった。
自らの立ち位置を、公的に社会へ示す
主従という、初めて誰もが認める関係をお披露目する日が来ていた。
「じゃ、俺は走り込みしてくるから、片付けよろしくな」
オルトは飛び出していく。
着飾らされることが嫌で、逃げ出したというのは明らかであった。
「おはよう。今行くから待ってて」
元気よく、大きな声を出す。賑やかな声がもう少しだけ高まり、足音が近付いてくる。
それは、とても士気の高いお姉様方のもの。
ルカは静かに腹を括った。
メイクも着付けも苦手だが、受けて立とうと。
ルカは淑女であるので我慢が出来るが、オルトは子供なのだ。と、小さな優越感に浸ってもいる。
立ち上がったルカ。彼女にとっては、この先もまた戦場だった。
今日は、誓約の儀式が行われる。
新たなる門出へ向けて、歩み出した
その背中、机の上に残されたのは、開かれたままの官報。
そこにはただ一行。
フィオナの父、ミリオッツィ商会頭の、意識回復という速報が載っていた。
チック、タック。時計の針が音を立てている。
「んもう! スベスベ!」
ツルリと張りのある幼い肌へ、乳液が塗り込まれていく。傷付けぬよう丹念に。
時計の旋律にも似た澱みなさで、ルカの顔には化粧が施されていった。
「今日は少しだけ大人っぽく、長めに引きますよ」
「頼む」
眉尻は長めに引かれていく。
眉尻がハッキリとすれば、強い印象を与えられた。
それは威圧感を与え、精神的な優位を与える。
ほんの少しくすぐったさを感じたルカは、僅かに身を捩らせた。
「はい、お目々を閉じてー」
「うん」
目の周り、アイラインが飾られる。
ルカは、目の周りに陰影を付けることで印象を強め、視線誘導を狙うものだと教わっていた。
「痒かったり、痛かったら言ってくださいね」
周囲を整えた後は、細っこい銀細工が眼へ向かう。
睫毛を、少しだけ上向ける道具であった。
「大丈夫」
瞳を閉じたまま、ついルカは頷いてしまう。
そのせいで、僅かに化粧を施す手元がズレた。
「あら、ごめんなさい」
「問題ない」
揺れることなく答える。
化粧如きで、怯むルカではない。
慣れたものだった。
ここのところ毎日、付き合わされてきたのだから。
「ルカ様は色白だから、少しだけ強めに差しますよ」
そして頬へ、仄かな紅を塗される。血色を良くし、生命力の強さを見せる仕掛とされていた。
「任せた」
「はーい、お口は閉じて。楽にしてー」
言われた通りにする真面目なルカだ。
唇も、艶やかに仕上げられていく。
これが、最後なのだと彼女は知っている。
一体、どんな意味があるのかまでは彼女も知らないが、唇への細工が化粧遊びの締めだった。
「はーい。もう、大丈夫ですよ」
唇を飾る光沢は、僅かに花の香りを纏っている。
「お綺麗です、ルカ様」
「……はぁ、尊い。死ぬわ……」
息を荒げるお姉様にも、長く生きいて貰いたい。
汚れ防止である薄手のケープレットを外されて、身体を払われる。
この行為、要するは残心みたいなものだった。
ルカは行儀良く、まだ動かないでいた。
お姉様達はとても満足されているが、まだ終わっていないと彼女は知っていた。
「ありがとう。じゃ、私はこれで」
ハケが身体から離れた瞬間、ルカは立ち上がった。
もう、化粧は終わりだという風に。
「はーい、まだ終わりじゃないですからねー」
一人が、鬘を持っている。長い髪のものを。
朝日に輝く銀。
「ルカ様のお母様が遺されたコレも、身に付けませんとね」
それは、顎の辺りまでしかないルカの地毛と同じ、青みがかった銀色。記憶にはない生母の遺した、長い髪の鬘だった。
淑女は髪を長く伸ばすのが、古くからの習慣となっている。その名残か、現在でも貴族子女は髪を長くするのが一般的だ。
「髪が長いのが良いのは、古い価値観。動きの邪魔になるし、戦闘に向かない。あと、今風じゃない」
冷静な口調で拒否するルカだった。
淑女が髪を長く保つ習慣は、現在においてかなり薄れている。
むしろ、手入れに手間や時間がかかる貴族風のものよりも、活動的で機能的な髪型が流行している。
「時、場所、場合に、相応しき装いがあるのです」
鬘を手にした侍女が、にじり寄ってくる。
「そのための、鬘なんですもの。つけましょうね」
「王子様を、お姫様に……」
別の侍女達も、ルカの逃げ道を塞いでゆく。
ここは自由貿易都市トラーパニ。
好きな装い、好きな髪型などが、当然ながら認められている。
だからこその、儀式や式典などに使う鬘があった。
伝統も、重んじられるものなのだ。それこそが、文化であった。
「待つの。ドレスはちゃんと着るから」
ルカは、ドレスも苦手としている。スースーするし、頼りない気がするからだ。
普段着は男の子用礼服に似ているし、出来るならば誓いの儀には、そちらで挑みたかった。
だが、許されないことである。
「当たり前です! ルカ様は、若様と奥方様に恥をかかせてよいのですか?」
真剣な顔付きで言われてしまえば、ルカに反論は浮かばない。儀式とは、祝いとは、皆の笑顔があってこそだと彼女も知っていた。
「だから、大人しくしましょうね。……ハァハァ」
そうしてルカは、「誓いの儀」直前となるまでの結構な時間、着せ替え人形として弄ばれる。
「くっ! 殺せ!」
騎士らしく、ルカは叫んだ。
「いやーん! 可愛い!」
「とっても、お姫様!」
キエッリーニのお姉様達の手によって、銀のお姫様が出来上がる。
ルカによる、長く愛好されている騎士物語お約束の台詞が、お姉様方を益々喜ばせることとなったが、それはまた別のお話であった。
「ああー、ごほん。本日はお日柄もよろしく、空も青く晴れ渡り——」
壇上に立ち、挨拶を行う太り肉の身形の良い男性。
キエッリーニ邸、並びに周辺は式場と化していた。
屋敷の中、迎賓室の最前列で、ルカは座っている。
「照りつける陽光と、豊かな海の恵みに育まれ、今、こうして誓いを迎える諸君。その祝辞に来られた光栄を、感謝しよう。そもそも——」
彼が語るのも、これまでの挨拶と何も変わり映えのしない、長々しいだけの祝辞だった。
朝にはフィオナとの交信により、改めて会頭の無事を喜んだルカであるが、今は少しだけ萎びている。
姿勢良く座ったままでいるものの、流石にルカも疲れてきていた。
何せ、八人目だ。
前倒しされた「誓いの儀」開催に寄せて、偉いとされる多くの大人達が、挨拶をしたいと来ていた。
級友達も既に、だらけきっている。
いつも賑やかな子達の一人が大欠伸をして、隣の友人に膝を打たれていた。
打ったのは、あの赤い屋根の娘。すぐに彼女は毅然として前を向く。顔を、しっかりと上げていた。
恐らくは、彼女とルカだけがちゃんと行儀良くしている。外から聞こえてくる物音で、想像ができた。
少しだけ外を見ていた時にも思ったが、やはり人が多いだけに、知らない顔も多かった。
「そういえば、面白いのは儂が子供の頃はな——」
話は続くが、多分、他の誰も聴いてもいない。
まだ声を出したり、席を立ったりこそしないものの、明らかに、皆どうでも良さそうだった。
それでも長い挨拶を続ける辺り、大人達が何を祝っているのか、ルカにはさっぱりわからなかった。
「儂の孫も、一昨年に迎えましてな。その時の感慨が今さら思い起こされる。いや、実に目出たくも輝かしい日だの。未来を背負う諸君らに、こうして——」
結ぶと思ったところで、何故だか続く。言葉で何を伝えたいのかさえ、ルカにはさっぱりだった。
——王都から来た監査官は暇人。
そう断じたルカは、ここ最近彼を見ることが多かった。三日に一度ほど、屋敷に来ている。
オルトへ稽古をつけにくる、柳のジーノの上役らしい。付き添いで、来ているそうだった。
そうルカは教えられている。
——奥方様と父上は、なんで。
何をされたという訳でもないのだが、彼をルカはあまり、好きにはなれなかった。
というよりも、はっきりと嫌いであった。
「これで、儂は結構偉いのだよ。もう何年かして豊かに実ったなら、是非王都に来た際には遊びに来るが良いぞ。その時には、王都を案内してやろう」
どこかの誰かさんみたいに声が大きくて、身体が大きい。だけならばまだしも、妙に態度が大きくて、視線も変な感じがしていた。
オルトとは大違いだと、ルカは思う。
——偏見はよくない。私のは、ただの子供の我儘。
学園が夏休みであるにも関わらず、ルカは奥方様との女の子の業修行も、父上との訓練も、あまり出来ていなかった。
彼が来るためだ。そのせいで屋敷の皆は忙しそうで、だからこそ、彼女はお願いが出来ないでいた。
この嫌悪感は実害があることへの過剰反応だと、ルカは自己評価をしている。
「あんまり長話でも、退屈だろうからな。では、儂の話はこの辺りで結びとするか。諸君、おめでとう」
充分長い。一人で、三人分くらいの時間を使っていた。だが、本当に終わるようであり、監査官は壇上を降りてゆく。それでも油断はまだ出来ない。
あと二人、挨拶が残っている。次は話の長いことで有名な、トラーパニ市長の番だった。
「うげぇ………」
「来るのか、あいつ」
「市長だし……」
こちらの士気は、そう高くない。
揺れる、長き蒼銀。
持久戦には呼吸が大事となる。気合いを入れるその前に、ルカは僅かに息を吐く。
少し離れた場所で、似た音が重なった。
あの子のものだ。視線が絡んだ。
一瞬だけ不敵に笑った彼女は、すぐ逸らす。同じくルカも、顔を前へと向けた。
新たな強敵、市長が壇上へ登り始める。
ルカ達が異界に飲まれた日。あの日赤い屋根の下で震えていた背中は、もう真っ直ぐに伸びている。
——大丈夫。私の友達は、皆強い。
「ああー、ああー。ごほん、ごほん。諸君、本日はお日柄もよろしく、空も青く晴れ渡り——」
朗々とした、良い声だった。
「アタシ、耐えられるかしら……」
「おしっこ……」
「助けて……」
幾つものうんざりとした声が漏れる。
市長は気にもせず、声を張り、舌を回していた。
いかな相手であろうとも、恐れることはない。
あの子もルカも、決して一人ではないのだ。
——皆、頑張ろう。私も頑張る。
市長は実に楽しげだ。本物の気配を感じる。
屋敷の外に席を置かれた同年達を羨ましいと思うのはここに秘めた。
「いやー、毎年とはいえ、今年は二回もあるなんて、実に楽しいことですな。一生の思い出となるよう、私も頑張りましょう」
そうして子供達は、一生の精神的外傷と向き合うため、長話と向き合ったり、向き合わなかったりするのであった。
彼女達は知っている。これで終わりでないことを。
やがて、市長が壇上を降りた。
「物足りないが、また始業式にも会いますからな。今年も、何度もまた会おう」
そんな言葉を残して。
なんとか耐え切ったルカと仲間達だが、傷は深い。
追い討ちをされた子供達の士気は、最低だった。
——大人ってズルい。
ちょこちょこと抜け出していた、オルト達大人組が恨めしい。流石にルカも辛くなってきている。
それに、この状況で最後の一人。それもまた、心配だった。
最後に挨拶を行うのは、奥方様だ。
開催者、責任者として挨拶は必要となる。
そんなに話を長くしないだろうと、ルカは思う。
「まだ、続くんだよね」
「次で最後でも、かなりキツイんだけど」
市長が壇上を降りてゆく途中から、囁き声が漏れ出していた。
「領主様だよね。あんまり式典とかで見ないけど」
「違うよ。「代行様」。奥方様だよ」
教えられただけの話だが、奥方様はトラーパニが復興した後、公的な場には殆ど立っていない。
「あたし、ちっちゃい頃にビスコッティ・ディ・マンドルラ《アーモンドクッキー》貰ったよー」
「アタシも! お母さん達と作ってたんだって」
ちょっと、羨ましかった。
けれども、知る子もいれば、知らない子もいる。それに、状況も悪かった。
皆疲れているし、嫌気もさしている。
ルカだって、少しだけお腹が痛い。ドレスがきついので。少し、緩めたかった。
「偉い人って、お話がね……」
「しかも、引きこもりなんでしょ? 今日も黒いドレスだし、不景気なのは嫌だなぁ」
こんな場に引き出され、奥方様が嫌われたりするのが、ルカには嫌だった。
引き出されたも何も、領主代行による開催なのだから当然であるのだが、それでもルカは嫌だった。
「静かにしなよ。次は、ルカ様のお母様なんだから」
「違う」
誤解であるので、正しておいた。ルカにとっては叔母様だった。そして、代行様で奥方様だ。
ルカの父アントニオも、ずっとそう呼んでいる。
足音も立てず市長が壇上を降り切った時には、既に式場内も騒然としていた。
活気がありながらも、どこか静謐な白の家、キエッリーニ邸らしからぬ、まとまりのない喧騒だった。
「トラーパニ領主代行様より、ご挨拶があります」
嗄れた、けれども張りのある厳粛な声。
それを引き締めるのが、婆やの役目であった。
鎮まる喧騒、広がる静寂。少しずつ、音が落ちる。
今回の誓いの儀、司会進行を婆やが務めている。
——カツ、カツ、カツ。
胸を張り、踵を鳴らす淑女の歩法。
未だ、ルカが身に付けられていない淑女の業。
市長とすれ違う、喪服の貴婦人。トラーパニ領主代行であり、キエッリーニ家当主代行。
カツンと、音が鳴る。鳴り続ける。
それは早くもなく、遅くもなく一定の旋律で。
息を飲む音が聞こえる。同じものを、ルカは耳奥で聞いていた。
やがて、全ての音が止む。
僅かに流れる衣擦れの囁き。
女がいる。
長く黒い髪に、白い肌。
一度だけ大きく胸を張る。小柄で華奢な体躯を包むのは、喪失を意味する黒きもの。
壇上に立ったのは、ありふれていながらも、不吉とされる未亡人。
彼女は、綺麗な淑女の礼を見せた。
そして、顔を上げ——。
「はいはい、休憩よ。暫くゆっくりしなさいな。ほらほら、貴方達を縛るものは、何もないわ。——好きになさい」
ポンポンと紡がれた言葉に、誰も反応出来ない。ルカでもだ。時が、止まったかのようだった。
「聞こえなかったの? 休憩よ、休憩。今日の主役が疲れたままじゃ、とても締まらないでしょうに」
変わらぬ、綺麗な声だった。だけど普段より、勢いがある。オルトを叱るくらいに語気が強いと、ルカは感じていた。
「飲み物も、お料理も、お菓子も。沢山ありますからね。ゆっくりするのよ。化粧室はあちら。……ねぇ、なぁに? まだ、聞こえていないの?」
ルカは立ち上がる。幾つか、同じ音がしていた。だがまだ、言葉はない。
「……か、母ちゃん?」
一つだけ、言葉が挟まれる。大きいけれど、間抜けな声だ。オルトのものだった。
奥方様は一瞬だけ息子へ視線を向けると、大きく手を鳴らす。
「だらしのない大人達ね。貴方達の家族よ? ほら、さっさと迎えに行きなさい!」
弾かれた様に、オルトが動き出す。他の大人達も、口々に声を出しながら、動き出していた。
そしてルカも。仲間達も。好き勝手に声を出しながら、行きたい場所へと向かう。
オルトが側に寄ってくる。
「邪魔」
だが、ルカは難なく躱した。彼女が目指す場所は、鈍間な従兄弟ではなかった。
視線が注がれるのは、化粧室。
他に幾つもの、同じ獲物を狙う気配を感じている。
「あ、好きになさいとは言ったけど、大人と離れちゃダメですからね」
なるほど、今回の誓いの儀。街を挙げての大きなお祭りだ。子供だけで、あまり動き回ってしまっては危険だろう。
近頃はまた、見慣れない大人達の姿を見ている。それも、あまり柄の良くない。
「お、おいルカ?」
何故か追いかけてくるオルト。まさかコイツ、着いてくるつもりかと思ったルカだ。
「オルトは鈍感、無神経、最低」
言葉の刃を用いる。事実だけに、効くことだろう。
ルカには街の様子にも、ましてやオルトにも、気を向ける余裕などなかった。
ドレスは脱ぐのも大変なのだ。
喧騒は止めどなく、そして大きい。それでも無秩序でなく、広がっても束ねられてゆく。
まるで、いつもの空気みたいに。
「ほらほら、慌てちゃダメだからね。ウチの料理長と街の皆が用意したものよ。私も、少しだけど手伝ったから、喜んで貰えると嬉しいわ」
明るい声が聴こえる。とても楽しそうな、奥方様のものだった。
化粧室の扉を閉じた後、ルカは奥方様を恨めしいと思った。
動き易い服を着させない上、そんな秘密まで用意していたなんてと。
誓いの儀を迎える、十二歳となったとしてだ。
まだまだ、社会においては子供でしかなかった。
お読みいただきありがとうございます。