夜、キンジが自室で項垂れていると携帯が鳴った
電話?こんな時間に一体・・・
「氷牙か?」
『キンジ?今一人か?』
「ああ、部屋で一人だ・・・悪いが急な用事じゃないならまた今度にしてくれないか?」
『・・・妙に落ち込んでるな?かなめはどうした?お前をヒスらせてお前でヒスろうと虎視眈々じゃないのか?』
「・・・それならもう終わったよ・・・かなめが俺でヒスることは・・・二度とない・・・」
『二度と・・・ってことは成功はしたんだな?』
「ある意味ではな・・・確かに俺はかなめで、かなめは俺でヒスッた。だけど・・・」
『当ててやるよ。強くなれなかったんだろ?』
「・・・そうだ。HSSは遠山家の特異体質だがその本質は『女を守る』事だ。だから男は女を守るために際限なく強くなるが女は逆、守られるために・・・弱くなるんだ・・・」
『双極兄妹・・・机上の空論でしかなかったわけか・・・それで?それを思い知らされたかなめはどこに行ったんだ?』
「その後は泣き崩れてしばらく一人にしてやった・・・それで気付いたらいなくなった・・・情けない話だが・・・こんな時どうしてやればよかったのかわからないんだ・・・」
『つまりはまた何もしなかったわけか?』
「ああ、本当に不甲斐ない・・・」
『なら、そんなヘタレなお前に一つ朗報だ。かなめなら―――』
遡って数時間前
「さて・・・かなめの奴はお前達をここまで嵌めてくれたんだ、まさかこのまま引き下がる奴なんていないよな?」
「んなもん当たり前だろ!!」
「当然です!!」
「やられたらやり返す!!それが武偵の掟です!!」
「だな、それに向こうも受けて立つみたいだしな」
氷牙は取り出した携帯の画面をあかり達に見せた
そこには先ほど届いた1通のメールが表示されていた
差出人 遠山かなめ
件名 昼間の件について
本文 改めて続きをやろう。今夜0時、羽田空港F滑走路、何人でも連れて来い。
「多分あかりにも同じメッセージが来てると思うぜ?」
「・・・ええ、一字一句違わずに書いてあります」
とうとう直接喧嘩を吹っかけてきたか・・・かなめの奴、さては自棄になってるな・・・てことキンジとも試したな?
となると俺は・・・
「九狂先輩・・・お願いです!!」
あかりが頼みを言ってきたので
「ああ、いいぞ」
俺は迷わず即答した
「言うと思いました!でもこればかりは譲れません!!これは・・・え?」
「どうした?頼みを聞いてやるって言ってんだが不満か?」
「あ、い、いえ!!でも最後まで言ってないのにいいんですか!?」
「なんて言うかは察しが付くからな。俺もそうしようと思ってたから問題ないだろ。それに・・・経験上そういう目をした奴は絶対に引かないからな」
「は、はい!!ありがとうございます!!」
あかりは深く頭を下げ
「マジかよ!?武偵校最強の男が助っ人か!?」
「いけます!!これなら勝機はあります!!」
「貴方の実力は存じております。肩を並べられるとは思いませんがせめて足手まといにならないように尽力いたします!!」
それに続くようにライカや志乃達も俺に頭を下げて礼をした
『―――ってことがあってな?かなめなら今俺の目の前でアリアの戦妹、間宮あかりに八つ当たりしてるぞ?』
「―――なッッ!!??」
『多分自棄になってグレてるんだ。何ならケータイで写真撮って送ってやろうか?』
「今すぐ行く!!何処でだ!?」
『羽田空港、けど今から来ても着く頃には全部終わってるだろうな。大体、来たところでお前に何ができる?お前かなめを撃てるのか?どうせココの時みたいに吠えるだけで精一杯だろ?』
「――ッ!氷牙!!何度も頼ってばかりで本当に済まない!!けど頼む!!かなめを止めてくれ!!」
『ああ―――』
『断る』
「はぁ?俺が助っ人?お前達何勘違いしてんだ?」
氷牙はライカ達の期待をバッサリと否定した
「「「え?」」」
「ごめんみんな・・・そうじゃないんだ・・・」
あかりも申し訳なさそうに説明した
「私が九狂先輩にお願いしたいのは手を貸してほしいんじゃなくて・・・手を出さないで欲しいってことなの・・・」
「おまっ!?本気か!?」
「相手はあの遠山キンジの妹ですよ!?」
「というより九狂先輩もここまで世話してくれるなら手助けしてくれるものじゃありませんの?」
「甘ったれんな。お前等も武偵なら自立しろ。お前達がかなめに仕返しするならそれはお前達の勝手だ。そこまで面倒見れるか。」
『そこまで面倒見れるか、自分のケツぐらい自分で拭け。いつもいつも俺に何とかしてもらおうとか甘えてんじゃねえよ。あかりを見習え、あいつは俺に手を出すなとまで言ってきたんだぞ?』
「・・・わかってる!!だけどお前しか頼れる奴がいないんだ!!タダなんて言わない!!どんな条件でも呑む!!だから―――」
『じゃあアリア・・・もしくは白雪か理子、いっそ全員とでもいいから一線超えて関係作ってこい。それが条件だ。』
「――な!?お前何言って―――」
『どんな条件でも呑むんだろ?ま、無理にとは言わないぜ?なら他当たるか自分で何とかするんだな』
そして電話は切れた
「お、おい氷牙!?氷牙!!・・・クソッ!!!!」
氷牙の言う通り、今から向かっても間に合わないだろう。いや、たとえ間に合ったところで俺に何ができる?せいぜい止めろと吠えるのが背一杯だろう。だからといってどうする?氷牙の提示した条件を呑むか?それこそ出来る訳が無い。
何もしない、何も出来ない自分の不甲斐なさに壁を思いきり殴った
「情けねえな遠山キンジ!!!!お前は何度同じ過ちを繰り返せば気が済むんだよ!!!!」
氷牙は電話を切るとそのまま電源も切りポケットにしまった。
これで少しはいい薬になっただろ。ホント何時になったら馬鹿が治る薬が発明されるんだか・・・今度凛香にエリクサーの作り方でも聞いてみようかな?それに、あかりの方は・・・別に心配も俺の出る幕も無用だろ
あかり達の方を見れば
「やぁっ!!!」
あかりは先手必勝と言わんばかりに体を回転させながらかなめに突撃してゆく
鷹捲か!一気に決める気だな!
そして指先が磁気推進繊盾の先端に触れ
――パチンッ――
静電気の様な火花が散っただけに終わった。
それにはあかりもまずい!!といった顔をした。どうやらしくじったらしい
あかりは磁気推進繊盾に腕を取られそのまま投げ飛ばされた
「わぁ!?」
「っ!!」
後ろにいた少女が咄嗟に受け止めたが勢いは殺しきれず少女はタラップに背中を打ち付けた
あー・・・痛そう・・・思いっきり悶えてやがる・・・
「あかり?大丈夫か?やっぱり助けて欲しいか?」
「い、いりません!!手を出さないでください!!」
「あ、ああ・・・これはボク達の戦いです!!手出しはしないでください!!」
「あ、そう。わかった」
じゃあお言葉に甘えて高みの見物させてもらおう。どうやら本当に俺の助けもいらねえみたいだしな
「大体、お前達にはもう助っ人がいるだろ?お前もいい加減出て来いよ?」
「・・・何だ、やっぱり気付いてたか」
路地の奥からまた一人、日焼けした肌に丈がかなり短くなっている防弾制服を着て手甲をした少女が姿を見せた
「その制服・・・名古屋女子校か?」
「ええ、名古屋武偵女子校1年、間宮 ひかりです。始めまして九狂先輩、貴方の事はボクの学校にも伝わってますよ」
「アマゾネスの集まりともいえる名古屋女子校にまで名が知られているのかよ・・・」
「当然ですよ。名古屋武偵女子校校訓1項、強きは美なり。強さこそが全てのナゴジョには力ある武偵の話は何よりも真っ先に入ってきます。この半年は貴方の話題が尽きる事が無いほどですよ?」
「嬉しくも無いな・・・こんなEランク武偵のどこが話題になるんだ?」
そう言うとまたしてもあかり達がジト目でつっ込んできた
「言ってあげましょうか?東京武偵校最強にして最悪の問題児、九狂氷牙。その武勇伝は入学試験では抜き打ちで潜んでいた教官2人を打ち倒し1年生にしてSランクの座に就き、入学2日目には同じく1年Sランク2人目の遠山キンジと共に上級生の精鋭30人を返り討ちにしたことから始まり」
「2年になってもその勢いは加速してゆくばかりで、敵対するものには一般人であろうと一切の容赦なく斬り伏せ、返り血で血塗れになって帰還する様から”血塗れ武偵”という二つ名でも知られ」
「羽田空港ではテロリスト100人を壊滅させアドシアードでは地下競技場を水没させてバトルロワイヤルの世界記録を更新して優勝し」
「夏休みに右腕と左目を失くした原因は特秘クエストで巨大潜水艦1隻轟沈させて世界最大の犯罪組織の創立者と刺し違えてその組織壊滅させた代償なのだとか」
「修学旅行Ⅰでは悪魔の末裔という事が発覚してその力で山を一つ吹き飛ばし、高速道路と東京駅を半壊させ」
「学園祭では歴代売り上げ記録を大幅に書き換える記録を出してぶっちぎりの1位に輝き」
「噂では武偵校に入学する前は傭兵をやっていてその名を裏社会に轟かせていたとか」
武勇伝なんて数え上げればきりが無かった・・・
「あー・・・わかったわかった・・・だがそんなに話題になるのになんで今まで俺の所に誰もこなかったんだ?強襲科の連中以上に血の気が多いナゴジョの奴等なら喧嘩や決闘を吹っかけて来るアホが4,50人はいてもいいはずだが・・・」
「ご存じないんですか?すべてあなたの奥さんに返り討ちにされたからですよ。最近じゃナゴジョの生徒が貴方の半径3キロ圏内に入れば問答無用で武器を狙撃されて無力化されるんですよ?だからボクも無暗に貴方の前に出れなかったんですよ」
「たまにレキが意味も無くドラグノフぶっ放すと思ったらそういう事かよ・・・」
帰ったらレキに説教と感謝しなきゃな・・・ホントに苦労が絶えないな・・・