「宣誓!!私達は武偵憲章にのっとり決して諦める事なく闘う事を誓います!!」
武偵校全生徒が整列したグラウンドに1年の高千穂の声が響く中
「くぁぁ・・・」
氷牙は欠伸を噛み殺して義手カバーの付いた右腕を撫でた
「氷牙さん?右腕がどうかしました?」
「ああ、やっぱこのカバーつけてると違和感あるんだよ」
「仕方ないでしょ?今日はその目や腕、ちゃんと隠しておかないと駄目だよ?」
「・・・わかってるよ・・・いっそ欠席させてくれれば楽だったんだが・・・そうもいかないのがこの体育祭なんだよな・・・」
今日は年に一度の体育祭、この行事は目を疑う事が続出する日でもある・・・
最初に目を疑うのはまず欠席者がいない事だ。特に3年なんて長期クエストで長くいない事もザラにあるせいで出席率は6割も無いはずなのに今日は欠席者は一人としていない。
だが何より目を疑うのは全員武器を持っていない事だ。ライフルやマシンガンはおろかグレネード、ナイフ、拳銃すらも持っていない。信じられない事だが全員武装解除しているのだ。普段から銃剣の携行が義務化されうっかり忘れでもしようものなら大目玉、氷牙も1年の頃は銃すらあまり持たなかったからしょっちゅう怒られていたっていうのにな・・・
そして極めつけに目を疑うのは・・・
「なあキンジ・・・俺の目には蘭豹が「ホホホ」とか口抑えて上品に笑ってるように見えるのは朝5時からリハやらされて寝ぼけているからだと言ってくれないか?」
「そのあと俺にも同じことを言ってくれるならな・・・」
こないだ酔って暴れた勢いで学園島の内部ぶっ壊してこの島0.1度傾かせた犯人がいい猫かぶりだよ・・・
いや・・・猫なんてもんじゃねえ。リアルにジキルとハイド見てる気分だ
まあ、なんでそんなことになっているかと言うと・・・
「いやぁ、みんな元気いっぱいで楽しそうですなぁ」
「ええ、晴天にも恵まれて絶好の体育祭日和ですな」
テントの下で蘭豹と綴に接待されている教育委員会のお偉方の目があるからだろうな・・・
何でそんな人たちがいるのかだって?
当たり前だろ?武偵の体育祭がまともな体育祭な訳が無いだろ?ドンパチ騒ぎが日常茶飯事でアドシアードでリアルにバトルロワイヤルやらかす学校だぞ?
そもそもこの体育祭がラ・リッサなんて呼ばれている時点でおかしいに決まってるだろ?
花火の代わりにグレネードを打ち上げ
声援と一緒に銃弾が飛び交い
言葉よりも剣と拳を交わし
青春の汗よりも凄惨な血を流す
体育祭なんて名前ばかりのただの血祭、喧嘩祭り。それがこの祭りラ・リッサだ。
そんなもんだから噂を聞き付けた都知事が大激怒して、以降監視が付くようになったんだ。
それを重く見た教務科もこのままでは武偵校廃校の危機と
『第1部は笑顔で無邪気な高校生を演じる事。発砲・欠席等は厳重に処罰する』
という警告まで出たのだ。
何で欠席も処罰対象かだって?簡単だよ。この警告に欠席という文字が無かった頃、第1部はクエストや病気を理由にバックレるという悪知恵を利かせる奴が続出して出席率がえらいことになったそうだ。幸い(?)その時は教務科総出で全員捕まえて(痕跡が残らないように)タコ殴りにして出席させて事なき(?)を得たそうだが。それ以降は欠席も処罰対象になるようになったそうだ。
なので俺達はあのおっさんたちがいる間は嫌でも武装解除して切って貼った笑顔作って普通の高校の体育祭を演じなくてはならないのだ
『それでは、まずは全員で準備体操に入ります。』
まあいい・・・あのおっさん達は蘭豹達に任せて俺達は俺達でやろう・・・気にしても疲れるだけだ・・・
『腕大きく上げて、背伸びの運動!はい1―――』
腕を上げた瞬間
――パンッ、パァンッ――
キンジと氷牙の後ろで何かが弾けた音がして
「あでっ!?」
「いてっ!?」
2人の後頭部に何か小さくて硬い物がぶつかった。
何だと思い後ろを振り向けば・・・
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
両腕を上げて背伸びをした状態で固まっている白雪と凛香がいた。
しかも二人が着ているジャージはチャックが上半分だけが開いており、よく見れば金具が無くなっていた。
もしかしてさっき後頭部にぶつかったのって・・・
「おおー!?チャックボーンきましたよ!!」
理子がそう叫んだ瞬間周りの視線が集まり白雪と凛香は顔を赤くして胸を隠して蹲ってしまった。
出だしからこれか・・・なんか・・・今回も不安要素しかないな・・・
『これより第一種目、全校生徒による玉入れを行います!』
不安な幸先で始まった最初の種目は『玉入れ』
蘭豹が見合いに失敗した時、憂さ晴らしに俺達に強制させる2人で拳銃に弾籠め競争をし、遅かった方を撃っていい『弾入れ』ではなく普通の『玉入れ』だ。
俺達も適度に頑張るかと落ちている玉を拾って投げていたが
「うぬぅー!入らないのだぁー!!」
平賀ちゃんがさっきから必死で玉を投げているがフォームが雑過ぎて一発も入ってない・・・
それに引き換えジャンヌの方を見れば
「フッ!!ハッ!!」
まるで正反対に堂に入った綺麗なフォームで的確に籠へと入れていた。
あ、平賀ちゃんもジャンヌ見て涙目になってきてる・・・
「はぁ・・・」
仕方ないのでため息をつくと
――ヒュッ――
俺は傍に落ちていた玉を拾うと投げ
――ポスッ――
それはまたしても的外れな方へ飛んでいった平賀ちゃんの玉に当たり軌道修正された平賀ちゃんの玉は籠へと収まった。
「おおー!入ったのだ―!!」
それを見て平賀ちゃんは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
・・・・・・最近波乱万丈な日々だったからな・・・たまにはこんな平和な時間もいいもんだ・・・
だがこれが束の間の平和だと思うと今度は俺が泣けてきそうだ・・・
そう思いながらちらりと横を見れば平賀ちゃんのように無邪気な笑顔で玉入れをしている生徒達がいた。
だが同じ武偵同士なら嫌でもわかってしまう。あれは演技だ。それも限りなく自然体に振舞ったな・・・
間違いない・・・あれは3年の先輩達だ・・・
3年生にもなれば実力を見せびらかしたりしない、爪を隠し慣れているんだ・・・それは仕事柄、昨日の友が今日の敵になる事だって珍しくもないからだ。
(奴隷の1年、鬼の2年、閻魔の3年・・・しばらく見ないうちに随分プロの風格を匂わせ始めてるじゃねえか閻魔様よ?)
そして先程からその先輩方からの視線がちらほらと刺さって来る。どうやらこの後、第2部で俺への屈辱を晴らすつもりらしい。閻魔様が奴隷に負けたままじゃ格好がつかないからな・・・でも、その閻魔様すらぶっ飛ばした奴隷は・・・今は鬼すら超えて魔王になりましたよ?
(ま、いいぜ?来るなら来いよ、閻魔と魔王どっちが強いかはっきりさせようじゃねえか・・・再起不能になっても知らねえぞ?)
氷牙は顔を俯かせるとニィッと口を歪めた
そして玉入れが終わると生徒達は全員バラバラに散っていった。みんな次の個人競技のため各所へと向かっていったのだ。
「さあ!!やるからには勝つわよ!!」
「気合入ってるな?アリアは確かエクストリームスポーツだったか?」
「そうよ。教務科もわかってるわね!!あたしに適任だわ!!」
「あとは・・・白雪が障害物競走、レキがバトミントン、理子がビルダリングで凛香はラクロス、キンジは記録係だったか?」
「そうだけど、氷牙は?」
「俺か?教務科から「頼むから一部の間は大人しくしてろ!!」って裏方にされた」
っても裏方なんて役割だけで実際やることなんて何も無いけど・・・
「まあそうだろうな・・・去年みたいな事になったらたまったもんじゃないからな・・・」
「ああ、去年借りもの競争に出た時の事だな。確か「国の恥」だったな」
「国の恥?何それ?ていうか借りてこれるものじゃないでしょ?」
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
アリアが尋ねるとキンジやレキ、理子や白雪。去年の事を知る面子は揃って遠い目をした。
それを見て大体を察したアリアは
「キンジ・・・言える範囲でいいわ・・・こいつ何やらかしたの?」
「・・・本当は誰かが冗談で書いた引き直せっていう意味のハズレ課題だったんだ・・・なのにこいつは真に受けたんだ・・・」
「確かSATの訓練に飛び入りして一人で全員倒した挙句。ボコされて積み上げられた隊員を背景に胸にマジックで「完敗」って書かれた隊長と肩組んで一緒に記念撮影してきたんだっけ?」
「ええ。ちなみにその後、第2部も終わったところで怒り心頭な隊長がSAT総動員して報復に来ましたね」
「それで戦争になる直前に教務科が「お互いこんなバカげた事これ以上大事にも公にもできないでしょう?」って写真は全部削除するのを条件に事を収めてくれたんだよ・・・」
「あんた・・・よく無事でいられたわね・・・相当絞られたんじゃないの?」
「いや?お咎めは無しだ。実はその課題を書いた奴は蘭豹でな?何でも国家公務員との合コンに失敗してその腹いせに書いたらしいんだよ。そのおかげで怒るに怒れなかったんだと」
まさか蘭豹もここまでの恥を持ってくるとは思わなかっただろうな・・・
『間もなく個人競技を開始します。出場者は所定の場所に集合してください』
アナウンスが流れ
「っと、そろそろ行った方がいいぞ?俺も後で様子見に行くよ」
「いい氷牙?言っても無駄な気がするけど一応念は押しておくわ。変な事やらかすんじゃないわよ?」
「わかってるよ。今は大人しく裏方に徹してるさ、心配するな」
「あんたの心配するなは余計に不安になるのよ・・・」
アリア達はそれぞれの場所に向かって行った。
ちなみに生徒達がバラバラに散っていったというのに教育委員会のお偉方は顔だけは美人の蘭豹と綴、そしてハニートラップの達人CVRの結城先生に接待されてご満悦、もう誰もいないグラウンド前からちっとも動く気配が無い。
仕事しろよおっさん共・・・てかさっきからコップに注がれては飲み干してる麦茶・・・妙に泡立ちが良すぎないか?
(ま、いっか。それならこっちもこっちで好きにやらせてもらいますよ?)
俺もこれ以上ここにいても仕方ないかとグラウンドを後にした。
そしてキンジも記録用紙を受け取ると記録を付けにまずは白雪の参加する障害物競走へ向かい
「きゃあ!?―――きゃうん!?―――あ、あれ!?」
白雪は全てのハードルにつまずき転び続けて、平均台からは落っこちて、最後は網くぐりで見事に絡まりほどけなくなったため網を引きずったままゴールした。
もちろん結果は文句なしの最下位。
ここまで来れば同情もあるのか皆心の底からの声援と拍手を送っていた・・・
あれで本当にバレー部キャプテンが務まっているのだろうか?不思議だ・・・
続いてテニスコートに向かえば
「先輩!!優勝おめでとうございます!!」「お疲れ様です!私のタオル使ってください!!洗わないで返して下さいね!!」「私のドリンクどうぞ!!口をつけて結構ですからね!!」
1年女子に取り囲まれてもみくちゃにされてるジャンヌがいた。
「さあ!私で汗を拭いてください!!」「疲れてませんか!?私に座ってください!!」「マッサージします!!ぜひそのおみ足を私に!!」「シャワー行きましょう!!隅々まで磨かせていただきます!!」
本当にこの学園にはバカかアホか変態しかいないな・・・
「と、遠山ッ!!助けてくれ!!」
助けてくれなんて言われてもそんなミニスカートのテニスウエア着た女子集団の中に突っ込めるか。自分で何とかしろ
無視してスコアボードの書き写しを始める
テニス シングル部門
1位 ジャンヌ・ダルク30世
「お、本当にジャンヌ優勝なんだな」
次にバトミントンのを書き写すが
「っとこっちはまだ決勝戦の最中か」
組み合わせを確認すると
バトミントン ダブルス部門 決勝戦
九狂レキ・九狂ハイマキVS―――
「お、決勝はレキと・・・ってハイマキ!?」
驚いてコートを見て見れば
スパン、スパンと的確に口に銜えたラケットでシャトルを撃ち返しているハイマキがいた。
因みにその飼い主のレキは隣で不動明王の如く微動だにせず棒立ちしてた・・・
やがてラリーが続くとハイマキはここだ!と高く飛び上がるとズパンッとスマッシュを決めた
「げ、ゲームセット!勝者、九狂レキ・九狂ハイマキペア!」
・・・いいのかあれ?勝負とかそれ以前の問題じゃないのか?相手ペア・・・犬に負けたってガチで凹んでるぞ・・・
ペットは飼い主に似るというが・・・ホントにハイマキも氷牙に似たレキに似て常識が通用しなくなってきてるな・・・
これ以上あんな常識外れが増えたらたまったもんじゃないが今は置いておこう
キンジはスコアを書き写すとさっさと次の会場へと向かっていった
次にラクロス会場に向かうと
「そっち!カバーお願い!!」
中から凛香の声が聞こえる。どうやらまだ試合中のようだがまあそれもじき終わるだろう
終わるまでは見物でもして待たせてもらおうと扉を開けて中に入ると
「あ!危ない!!」
「え?あでっ!?」
パスに失敗して弾かれたラクロスボールがキンジの頭に直撃して跳ね返った。
ゴムボールでも硬質だどかなり痛いんだな・・・
「ーーッ!!凛香さん!チャンス!!」
「え!?う、うん!!」
凛香は空に上がったボールをダイレクトキャッチすると身を翻して
「これでっ!!」
渾身のシュートが決まりボールはゴールに向かって真っすぐ飛んで入っていった。
「試合終了!9対10!2年A組の勝利!」
「やったー!勝ったよ!!」
「凛香さん!ナイスシュート!!」
「う、うん・・・でも・・・」
頭にラクロスボールの直撃を受けて入口に横たわっているキンジに目をやるが
「いいのよ。あれ遠山キンジでしょ?」
「いい気味よ。普段から女の子たらしてる天罰よ」
「ほらそこ邪魔よ。さっさとどきなさいよ」
キンジはまるで路端の石をどかすかのようにラケットの先でドスドスとつつかれた。
記録を付けに来ただけだっていうのにこの仕打ち・・・俺が何したって言うんだ・・・泣くぞ?
「ハイッ!!」
その後凛香に手当てしてもらった額をさすりながらエクストリームスポーツ会場に入るとその中ではインラインスケートを履いたアリアが空中で自由自在にトリックを決め続けていた。
どうやらようやくまともな競技がまともに見れそうだな・・・
安堵とアリア自身の見るものを引き寄せるテクニックにしばらく見惚れていると
「あでっ!?」
リスのように頬を膨らませたあからさまに不機嫌そうなかなめとミニアリアこと間宮あかりに左足と右足をそれぞれ踏まれた
「お前ら・・・いきなりなんだよ?」
「「べっつにぃー?」」
2人共揃ってそっぽを向いた。
・・・変な所で息ピッタリになって、ホントこの前までは敵対していたとは思えないよな・・・
「あら?あんた達揃いも揃ってなにしてんのよ?」
そして俺達に気付いたのか一区切りつけたアリアがこちらにやってくると
「あ、アリア先輩!!お疲れ様です!!」
あかりは短いツインテールをぶんぶんと振ってアリアに駆け寄った。
「キンジは何しに来たの?サボり?」
「最初に言っただろ?俺は記録係だよ。ここでの記録を付けたら次は狙撃科棟屋上に行って・・・」
「お、おくじょ・・・・」
キンジの口から屋上というワードが出た瞬間アリアは突然顔を真っ赤にして固まった。
「あ!いや・・・そのだな・・・」
「お・・・おくじょ・・・おくじょ・・・」
それを見たあかりとかなめは一層不機嫌な顔をして
「アリア先輩・・・」
「屋上・・・そうだったよねー?お兄ちゃんとアリアは屋上で・・・」
2人は顔を合わせると
「かなめちゃん!!」
「うん!!これはもうアウトだね!!」
「さ、アリア先輩!!早く行きましょう!!」
あかりは真っ赤になって固まったアリアをカートのように押して
「お兄ちゃん!早く次行こう!!」
かなめもキンジを引っ張り二人を離そうとした
だが連れ出そうとした直前にあかりの携帯が鳴り
「ん?九狂先輩?」
着信ボタンを押したとたんに
『あかり、屋上でのスコアラーは終わったか?いまどこにいるんだ?もしかしてまだ屋上か?屋上からだったら10分もあれば来れるだろ?後、屋上といえばこの前屋上から飛んだ時に噛んだ舌はもう大丈夫か?まさか屋上から飛んだくらいであそこまで絶叫あげるとはおもわなかったぞ?屋上から飛び降りるなんて俺には日常茶飯事だからな。なんならまた今度屋上で飛び降り方教えてやろうか?お前ならコツさえ掴めばまた屋上から飛び降りなきゃならなくなってもあれくらいの屋上なら余裕で飛べるようになると―――』
携帯から聞こえる氷牙の声に全員が固まりアリアは更に真っ赤になっていった。
『あれ?あかり?どうした?聞こえないのか?電波悪いのか?』
今は第一部で本当によかった・・・銃がないのが本当に救いだった
「う・・・・ううううう・・・・・ううううう・・・・」
何度も屋上というフレーズを聞いたアリアは頭どころか体中から煙を引き出し
「うわがにゃあああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
アリア級ハリケーンは奇声を上げたまま再びステージに飛び込むとポールに飛び乗ってグラインドトリックを決めながらスピードを加速し続け、最後にはランページに入り天井近くまでジャンプすると
「かぁぁぁざぁぁぁあぁぁぁなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
前人未到、空中12回転というギネスも驚きなトリックを決めてしまった。
「あ、アリア先輩・・・すごいです・・・」
「うん・・・あんなのあたしにも出来ないよ・・・」
『・・・おい?アリアの奇声が聞こえるんだが今度は何があったんだ?』
「・・・・・・・・・・・・・・」
奇行に走るアリアに唖然とするあかりとかなめに何があったのかと尋ねて来る氷牙
三者三様のリアクションを取る中でキンジは全てを放って次へと向かっていった。
その後、一通りの記録をこなし昼を回ると
「流石に腹減ったな・・・」
だが武偵校では「戦闘中に飯を食うのはイタリア軍だけや」という暴力理論があり体育祭中は一切食事をとる事が出来ない。
なので体育祭が全て終わるまではどれだけ腹が減っていようが空腹に耐え続けるしかない
・・・はずなのだが・・・
「どうしたキンジ?腹減ったならゲパフ作ったぞ?食うか?」
怖いもの知らずもここに極まれりと言うべきか氷牙はグラウンド前の広場で炭火を放り込んだコンロの上で串に刺した巨大な牛肉を豪快に焼いてバーベキュー大会と決め込んでいた・・・
蘭豹の暴力理論に氷牙は「日本では腹が減っては戦はできぬという言葉がありますよ?」という屁理屈理論で真っ向から対抗し、教員や委員会のお偉方目の前でバーベキュー大会を行うというもはや教務科に対して真っ向からケンカを売ってるとしか思えない暴挙に出ていたのだ
「お前・・・姿が見えないと思ったらなにしてんだよ・・・」
「あの・・・九狂先輩・・・本当にこんな事していいんですか?」
氷牙と一緒に調理の手伝いをしているあかり達が尋ねてきた。
どうやらさっきの電話はあかり達に手伝いをさせるための呼び出しだったみたいだな・・・
「別にいいだろ?それにかなめの件について恩を返させてほしいって言ったのはお前達だぞ?」
「いえ・・・確かに言いましたけど・・・」
そして肉を焼いている氷牙の前に蘭豹に連れられた委員会のお偉方が来た
「おやおや、お昼はみんなでバーベキューとは賑やかでいいですな」
どうしてか顔がほんのり赤く酒臭い・・・なんだかほろ酔い状態っぽいな・・・ま、どうでもいいか
「ええ、午後は一層頑張らないといけませんし腹が減っては戦はできませんからね。皆さんもいかがですか?」
そう言って炭火で焼いた牛肉を薄くそぎ落とすと、それをタマネギやトマトなどの生野菜のサラダと一緒にピタと呼ばれる薄いパンの中に詰めてソースをかけ手際よくドネルゲバブを作るとお偉方に差し出した
「おや、これはこれはありがとうございます」
「ほら?お前等も食えよ?学園祭でぶっちぎり1位を出した食堂の料理長が無償で振舞ってんだぞ?たんと食え?」
周りの生徒もここで食わなければ怪しまれるとわかっているのか食う以外に選択肢は無かった。
教員たちも委員会のお偉方の前では発砲は出来ないし、表立って怒鳴る事もどつく事も出来ない。結局は黙認するほか手はなかった。
その証拠に蘭豹も顔は貼り付けた笑顔だがその目は氷牙を射殺さんばかりに睨み付けていた。
「どうだ?運動した後なんだから美味いだろ?」
全員、美味い事は分かってる・・・分かってるはずなのに・・・どうしてか味が分からなかった・・・
「どうしたキンジ?食わないのか?」
「いや・・・ちょっと胃が痛くて食欲がな・・・遠慮しておくよ・・・」
日本には腹が減っては戦はできないという言葉があるようにこんな言葉もある・・・
赤信号、みんなで渡れば怖くない。
そして・・・
死なばもろとも・・・だ
明日にはきっとブチ切れた蘭豹がここにいる全員を血祭りにあげるだろうな・・・
キンジは肉に手を付けることなくそそくさとその場を去っていった。
お前ら・・・帰ったら遺書書いとけよ?
そして5時前になると
「いやぁ、白熱した試合でしたな」
「ええ、本当に良い体育祭でしたな」
体育祭、第1部が全て終わり、お役所仕事のお偉方はキッチリと定時で帰っていった。
CVRの接待を受けてほろ酔い状態でしかも手には土産まで持たされてどう見てもってくらいに懐柔されやがって・・・てか酒が出されてる時点でおかしいことくらいに気付けよな・・・ホントあのおっさん達ふだんからちゃんと仕事してんのか?
氷牙はそう思いながらあかり達とバーベキューの後片付けをしながらおっさん達のお帰りを見届け
『これより第2部を開始します。全生徒は準備に入ってください』
片付けが終わる頃にはスピーカーから中空知さんのアナウンスが流れてきた。
第2部、それはお偉方が帰った後で始まる本当の体育祭、本物のラ・リッサ
この第2部で行われる競技は2つだけだ
男子の実弾サバゲーと、女子の水中騎馬戦でどちらも勝ったチームにはそれぞれ1万点入る。
・・・第一部で5点10点とチマチマ付けてた点数はなんの意味があったんだ?
そんな事を頭の片隅で考えながら普段の武装を装備して
「やっと本番か。前座が長くて退屈だったし、ヒルダを処刑して以来まともに戦ってなかったからな。やっとたまっていたフラストレーションが発散できそうだ」
戦意高揚のまま実弾サバゲーの会場に向かおうとしたが
と、その前に・・・ずっとバーベキューで火の前にいたし煙吸い込んだから少し喉乾いたな
「あかり、ちょっと飲むもん取ってくれ」
「え?は、はい!」
あかりは近くにあったビンケースに手を伸ばして適当に一本取るとそれを氷牙に渡した
「ん、悪いな」
氷牙もそれを受け取ると親指で栓を飛ばして勢いよく煽るとゴキュゴキュと一気飲みしてゆき
「――っしゃあ!!行くぞキンジ!さっさと終わらせるぞ!!」
「お、おいおい!!頼むから大事はやらかすなよ!!」
呑み終えたと同時にガンとビンをその場に乱暴に置くとキンジを引きつれて実弾サバゲー会場へと向かっていった
「九狂先輩やけに気合入ってるね?」
「一部では裏方でしたからね?やはりあの人が一番フラストレーションたまっていたんでしょうか?」
「ん?え!?」
声がした方を見るとかなめが氷牙が飲み干したビンを見て目を丸くしていた。
「かなめちゃんどうしたの?」
「あかりちゃん!?これスピリタスだよ!?」
「え?ええ!?」
スピリタス・・・それは氷牙が燃料兼調理用に持ってきていた酒でアルコール度数はなんと96%!!日本国内では第4類危険物に該当し2011年には世界最高のアルコール度数を誇る酒として知られた。氷牙はそんな物をストレートで一気飲みしたのだ・・・
「九狂先輩・・・なんで平然と立ってるの?」
「というか普通は急性アルコール中毒で死んでますよ・・・」
あかり達は唖然として氷牙の背中を見届けた・・・
だがその時は誰も知る事も無かった・・・
これが後とんでもない起爆剤になった事を・・・
後に関係者がこれまでの人生ごと全て忘れ去りたい程の悪夢の始まりだったことも・・・