「あ、氷牙も来たんだね」
「お先に失礼しています氷牙さん」
ヘリから降りてアンガスに連れられたお茶会の場所には既にレキと凛香が着席していたがそれよりも驚く先客として
「ハーイ♪久しぶりね氷牙君」
2人の間の席にはカナさんが着席していた。
「2人共なんでここにいるんだ?てかカナさんも遠山家の兄妹喧嘩だから来ているんじゃないかとは思いましたけどやっぱ来てたんですね・・・」
俺はカナさんとテーブルを挟んで向かいの席に座り
「すぐにお茶をお持ちします。それまでどうぞお寛ぎください。」
アンガスさんはもてなす客が増えたにもかかわらず丁重に一礼するとぎこちない足取りで全員の茶の用意を始めた。
「ごめんね・・・私達も手は出さずに見届けるだけのつもりだったんだけど、そうしたらカナさんに「見ているだけというのも退屈なのよ。傍観者同士一緒にお茶でもどう?付き合ってくれないならショックで駄々こねちゃうわよ♪」って脅迫気味に誘われちゃって・・・」
俺は呆れてため息をつくと
「カナさん・・・俺の嫁達に退屈しのぎに絡まないでください・・・てか傍観者って事はたとえ断られたって初めっから駄々こねるも何も、どうする気も無いでしょ?」
「ええ、私は『無所属』誰とも戦う義理は無いわ。戦役の中の一つの戦いを見届けに来ただけよ。貴方の奥さん達に絡んだのは・・・ただの退屈しのぎよ♪」
「俺が言うのもなんですが薄情ですね?あいつ等のあ・・・姉として仲裁して止めようって気は無いんですか?」
危うく兄と言いそうになったが今はカナさんだ。姉と言わないと答えてくれない。言い間違えると何も答えてくれず会話が続かない。ちなみに金一さんの時に逆に言い間違えるとブチ切れて殺されそうになりこれもまた会話が進まない。
「そうね・・・止める気は無いわ。けれど姉として貴方に感謝と謝罪はおくらせてちょうだい」
そう言うとカナさんは姿勢を正して深々と頭を下げた。
「氷牙君、本当にありがとう。そしてごめんなさい」
俺は首をかしげながら下げられた頭を見下すと
「・・・俺はカナさんに感謝されることも謝罪されることもした覚えはないですが?」
「そんな事はないわ。貴方はキンジを庇って汚名を被り。キンジの為に自身のなにもかもを犠牲にしてくれた。そしてキンジを立ち上がらせて右腕と左目を失くしてからもなおキンジの親友としてキンジを支え続けてくれている。貴方にはいくら感謝してもしきれないし、いくら謝罪しても償いきれないわ」
「謝らないでください、自分で決めた事でこうなったのなら何も後悔はありません。それに・・・キンジと同じ謝るだけで何もしない。そんな言葉だけの謝罪いくらされても不愉快なだけです。すいませんが早く頭を上げてもらえませんか?でないとその頭・・・テーブルごと蹴り上げっちまいそうだ」
カナさんは顔を上げると
「・・・それを言われると返す言葉もないわね・・・でも私にも立場があるの。何と言われようと私は何もできないわ」
「別にどうぞ?最初から当てにしてませんし。何もしないなら初めから何もしないでください。中途半端に介入される方がよっぽど迷惑です」
「もちろんよ、最初に言ったように私はこの戦いには決して介入しないわ。何があろうと戦いが終わるまでは傍観者であり続ける事を誓うわ」
「終わるまではね・・・ま、いいでしょう。俺もキンジを道案内はしましたがこれ以上何もする気はありません。ただ・・・カナさんが来ているならパトラも一緒にいるんですか?もしいるならあいつは『眷属』だ。それに殻金も持っている。十分過ぎるほど戦う理由がある」
「あいにくだけどパトラとは別行動をしているわ。『眷属』でもある彼女をここに連れてくるわけにはいかないもの」
「そうですか・・・そりゃ残念だ。じゃああいつに伝えてください「逃げられると思うな!!アリアを撃った事、殻金に手を出した事。必ず追い詰めて地獄に落ちても後悔させてやるからな!!!」ってね」
赤い目を光らせてカナを睨み、言伝を伝えると
「その時はもしかしたら・・・私も立場を無視してでも貴方と戦う事になるかもしれないわね・・・」
「やってみてくださいよ・・・その時はカナさんだろうと容赦しませんよ?それとも今がその時だとここで俺とやり合いますか?」
「そうね・・・貴方に大切な人がいるように、私にも大切な人はいるわ。そしてそれに手を出すなら・・・」
「ええ、立場だとかそんな細かい事知るか。誰であろうと・・・」
俺やカナさんはもちろん、一触即発な空気にあてられたレキや凛香も椅子に腰かけたままだがいつでも飛び出せるように構える中
「失礼します。お茶をどうぞ」
アンガスさんが俺達の前にお茶を置いてくれた。そのおかげで一触即発の空気は一気に下がった。
氷牙が息を吐くと
「・・・やめましょう。どのみちキンジ達との約束で半年、来年3月までは待つつもりですから」
「ええ、今はこの紅茶を味わいましょう。それに・・・それまでにはきっとすべての決着がつくでしょうから」
そして俺とカナさんは戦意を引くと目の前に置かれた紅茶をゆっくりと味わった。確かに秘蔵というだけあっていい味だ。それも香りと味を最大限引き出す淹れ方をしている。やはり後で色々聞かせてもらおう。
一方、キンジは・・・
「かなめっ!!」
波止場のビットに腰かけるGⅢ、そのGⅢと対面するように立つかなめ、そしてその足元で倒れているアリア、白雪、理子といったバスカービルのメンバー。
ギリギリではあるが今回は完全に手遅れになる前にかなめの元へたどり着く事が出来た。
「・・・お兄ちゃん・・・何で来たの・・・」
「やっと来たかキンジィ!!いつまで待っても来ないから迎えまでよこしてやっと来るなんてとんだ重役出勤じゃねえか!?」
アリア達は顔を上げ
「キンジ・・・ごめん・・・あたし達じゃGⅢを止められなかったわ・・・」
「反則だよ・・・あいつ・・・あそこから全然動いてないのにあたしたち全員を返り討ちだよ・・・」
「ったくよぉ、キンジ。おめぇフォースに何吹き込んだ?もうHSSにはなりたくないって言うし。戦い方なんてお前そっくりな甘々な戦いになっちまったしよぉ」
「逃げてお兄ちゃん・・・お兄ちゃんでもGⅢには勝てない・・・」
「おいフォース!!アリアにトドメを刺せ!!アリア達をやったら次はあかりとか言う1年連中共だ!!そうすれば軽い反抗期だったんだと水に流してやる」
「っ!!」
GⅢの命令を受けてかなめはカタカタと手を震わせながら単分子振動刀を持つ手に力を入れた。
「かなめ!!やめろ!!もう戦わなくていい!!そんな奴の手下なんか辞めてこっちに来い!!」
「ごめんね・・・これはあたしの問題だから・・・だから・・・あたしが自分の手で終わらせなきゃいけない事だから・・・」
「このバカが!!一人で抱え込もうとしてんじゃねえよ!!お前も武偵校の一員なら・・・こんな時こそ仲間を頼れよ!!こんな大事な時に一人で全部抱え込んで終わらせたって・・・その先にあるのは後悔だけだぞ!!」
「っ!?」
「戻って来いかなめ!!そしてどうして欲しいのか言ってみろ!!妹の我儘くらい・・・兄がいくらでも聞いてやる!!」
「あ・・・あたしは・・・」
「それで氷牙君?あなたはこの戦い、どう読んでいるの?」
「どう、と言いますと?」
「あの子が、GⅢがかなめをどうする気か貴方ならわかるんじゃないの?」
「ええ、あいつと俺、何処か波長が合うんでしょうね。何となく考えが分かるんですよ」
そして氷牙は自分の憶測のGⅢの筋書きを語り始めた。
『まずあいつは初めからかなめを連れ戻す気は微塵も無いです』
「何してんだ!!早くやれフォース!!それとも死にてえのか!?」
「かなめ!!やめるんだ!!戻ってこい!!」
『だけど自分と決別するかの選択はかなめにさせる。かなめが自分から刃向かう様に仕向けるでしょう』
「・・・呼ぶな・・・」
「あ?」
「あたしをその名で呼ぶな・・・あたしは・・・かなめだぁぁぁぁ!!!!!」
かなめは単分子振動刀をGⅢに向かって振り下ろした。
『そうすればかなめは完全に裏切り者だ』
「やっと檻から飛び出したか・・・」
GⅢは口元を吊り上げて笑みを浮かべ人差し指と中指ででかなめの剣を止めると
「あ・・・」
「あばよ。フォース」
『裏切り者って事なら十分に殺す理由になるでしょう』
GⅢは手甲に仕込まれた剣を出すと
――ドスッ――!!
かなめの胸に刃が突き刺さり、背中から切先が飛び出した。
『そもそもGⅢは初めからフォースを殺すつもりなんだから』
「あははっ・・・・あたし・・・非合理的・・・」
GⅢがかなめから剣を抜くとかなめは地面へと倒れ
「かなめぇぇぇ!!!」
キンジはかなめに駆け寄り抱き起こすが・・・
アンダースーツのおかげで止血はされているのか出血は胸から血が滲み出ていている程度で済んではいるが胸を刃物で貫かれているんだ・・・どう考えても助かる見込みは・・・
「あは・・・ほんと何やってんだろあたし・・・強い奴に逆らえばこうなる事なんてわかってたのに・・・」
「喋るな!!出血が増えるぞ!!」
「でも・・・不思議と後悔してないよ・・・」
「え?」
「あたし・・・かなめって名前をくれて嬉しかったんだ・・・
キャラメル買ってくれて嬉しかったんだ・・・
あかりちゃんと友達になれて嬉しかったんだ・・・
あたしをかなめにしてくれて・・・本当に嬉しかったんだ・・・
だから・・・あたしはかなめでいたかった・・・遠山かなめっていう一人の人間の女の子でいたかった・・・かなめでいられる場所を誰にも荒らされたくなかった・・・
それを守るために戦ったんだ・・・なにも後悔なんて無いよ・・・」
キンジはかなめの髪を優しくなでてやると
「・・・ああ、よく頑張った。後は俺に任せろ。妹を虐めた奴は・・・兄が懲らしめてやる!!」
「だめ・・・逃げて・・・お兄ちゃん・・・」
その弱々しい言葉を最後にかなめは意識を失った。
「別れの挨拶は済んだか?」
「ああ、待っててくれてありがとよ」
「で?どうするキンジ?俺には弱い者いじめする趣味はねえ。負け犬みてえに尻尾巻いて逃げんなら見逃してやるぜ?」
「お前までそう言うか・・・勝てない、逃げろ、弱い者、負け犬・・・そんな事ばかり言われるなんてほんと情けない兄だな俺は・・・」
キンジはゆっくりと立ち上がり
「確かに俺は女には手を上げられない甘ちゃんでいつも口ばっかりで何もしない迷惑ばっかりかけてるどうしようもない男だよ・・・
けどな・・・
たとえ本当にかなわない相手だとしても、仲間を・・・妹を・・・大切な人を傷つけられて尻尾を巻いて逃げるほど腐っちゃいねえぞ!!!」
GⅢを睨み付けたキンジは・・・完全になっていた。アリアを、白雪を、理子を・・・かなめを傷つけられたことにより王者のHSS、ヒステリア・レガルメンテが発動していた。
「目覚めたか・・・これでようやく役者は揃ったな!!」
GⅢはこちらを向いたまま海へと飛び降りて海面上に立ち
「さあ!!フィナーレの開幕だ!!最高の舞台へとご招待するぜ!!」
両手を広げると同時に足元、海面から全翼型のステルス爆撃機が姿を現した。