緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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今更ながらの新年おめでとうございます。
更新遅いですが止める気はありません


114話<適材不適所>

「失礼します。遠山キンジ入ります」

「同じく、九狂氷牙。入りますよ?」

 

『はいはいどうぞ』

 

蘭豹に呼びだされた後、俺達は案内された部屋のドアをノックすると相変わらず特徴の無い男の声が返ってきたので俺達はドアを開けて中に入った。

 

「はいはいどうもお久しぶりです。本日はご足労頂きありがとうございます」

「いえ・・・それで・・・何の用でしょうか?校長先生・・・」

そこにはこの部屋の主にして武偵校で最も危険な教員、校長の緑松と思しき男が座っていた

もうわかると思うが俺達は校長室へと案内されたのだ・・・

何でまたいきなり呼ばれたのか?用件は分からないが呼び出される心当たりは掃いて捨てるほどあった・・・その中でもひときわ思い当たるのが・・・

 

「ところで校長?しばらく来ないうちにこの部屋変わりましたね?模様替えでもしたんですか?」

 

(こいつ・・・言いやがった・・・)

キンジは頭を抱えたくなったが最後の理性でそれを我慢した。

今日ここに呼び出された理由で一番思い当たる理由。それは間違いなく緑松の後ろにあるアレだろう・・・

 

「いえいえ、昨夜人工衛星が落ちて来ましてね。それがこの部屋に直撃したんですよ。不幸中の幸いか怪我人は出ませんでした」

 

緑松の後ろでは・・・真っ黒に焼け焦げた人工衛星だったものが校長室の窓や壁を破壊し深々と食い込んでいたのだ。

衝撃で窓はすべて割れてしまったのかまともに入ってくる真冬のビル風が本当に寒く、場の空気が一層凍り付きそうだ・・・

言うまでもなくこいつは昨夜氷牙が撃ち落とした衛星だ・・・まさか教務科、それも校長室に直撃していたなんて・・・

 

だがこの事は口が裂けても言えない。衛星はアメリカの極秘衛星だ。奴らは表立って文句は言えないだろうから口を滑らせない限りはどこの衛星かばれる事は無い。それにレールガンとはいえ銃一つで衛星を撃ち落としたなんて馬鹿げた話誰も信じるわけが無い。ならば知らぬ存ぜぬを貫けば俺達が関与してる事がばれる事も無いとバスカービル全員で決めておいたのだ。

 

「へぇ?人工衛星が直撃なんて災難でしたね?どこの国の衛星ですか?」

「それが極秘衛星らしく何処の国か不明なんですよ。九狂君は何か知りませんか?」

緑松が氷牙に探りを入れて来るが氷牙は飄々と

「なんで俺に聞くんです?そんなのわかるわけないでしょ?」

知らぬ存ぜぬとシラを切り通した。

 

「・・・そうですね。変な事を聞きました」

緑松も俺達が関与している事は気付いているんだろうが聞くだけ無駄だとわかっているのかあまり追及はしてこなかった。

 

「で?俺達を呼んだのはそんなこと聞くためですか?ならもう帰っていいですか?」

「ははっ、せっかちですね。もちろん用はそんなことじゃありませんよ。本日二人を呼び出した用件は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人ともちょっと一般高校に転校してもらいます」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

流石の二人も緑松の依頼を理解するまでしばしの時間を必要とした。

 

「一般高校に転校?退学じゃなくて転校ですか?」

「はい、転校です」

氷牙は同情と哀れみを混めた目で校長の目を見ると

「校長?ひょっとして衛星落ちてきたショックで気がふれちゃいました?たまには休んだ方がいいですよ?何だったらいい医者紹介しましょうか?」

「お、おい氷牙!?お前流石にそれは――」

「ははっ、ここまで哀れんだ目で見られるとむしろ清々しいね。そんなにおかしなことを言ったかな?」

「当然でしょ?退学ならまだしも転校って・・・武偵校からの転校生ってまず受け入れてもらえない事で有名でしょ?だから大抵は一度退学して武偵校にいた事を伏せて裏で色々と話し合いしてから生徒が自主的にそこに行った事にする。そうやってようやく編入できますからね」

「よく知っていますね。まあ大抵はその後また戻ってきちゃうんですけどね。けど今回は転校でも受け入れてくれますよ?何せ向こうから転校させてくれと頼まれたんですから」

そして緑松は机から一通の封筒を取り出して俺達の前に置いた。

「拒否権はありません。2人には潜入捜査でとある高校に転校してもらいます」

以前即決で断られたこともあるのか緑松は先に拒否できない事を告げてきた。

 

「そういう事ですか・・・何を調べればいいんです?」

先手を打たれたのか氷牙はため息をついて詳細を聞いた。

「とある高校で普段は何食わぬ顔で通っているが実はあるヤクザの組の構成員を務めている生徒がいるという噂が流れ出したんです。世間では間もなく受験シーズンですからね。そんな時期にたとえ些細な事でもイメージを損ねる話題が流れるのは非常によろしくない。なので秘密裏に調査してもしそれが本当なら明るみになる前に片づけてほしいと依頼が来たんです」

都合の悪い事は内密に闇に葬るってか・・・事なかれ主義の常套手段だな

「何故俺達に依頼したんですか?潜入捜査、ましてヤクザ絡みならそれ専門の武偵がいくらでもいるでしょう?言っちゃ何ですが俺もキンジも潜入なんて向かないことこの上ありませんよ?」

「君達に依頼した理由は簡単ですよ。実はその組、最近海外マフィアと繋がりがあるとの情報も入ってきましてね。どちらも君達と深く関係があるからなんです」

 

「「え?」」

 

「組の名前は鏡高組、そして繋がりのある海外マフィアは藍幇です」

組とマフィアの名前を聞くと二人の顔が同時に引きつった。

「鏡高組・・・そして藍幇・・・」

「へぇ?まさかまたその名前を聞くとはな?」

「藍幇は聞くまでもないでしょう。鏡高組も遠山君は心当たりがありますね?」

緑松がそう聞くとキンジも観念したように答えた。

「・・・はい、鏡高組の幹部で組長の娘、鏡高菊代。中学時代の知り合いです」

「お前ヤクザの組長の娘と知り合いなのかよ・・・よくコンクリート詰めにされなかったな?」

「鏡高組は先代が抗争で亡くなって鏡高菊代が跡目を継いでから藍幇と繋がりを持ち始めました。遠山君は双方の。九狂君は藍幇の要注意人物。もしその高校に鏡高組の構成員が通っていることが本当なら二人を送り込めば鏡高組、そして繋がりのある藍幇は間違いなく何かしらの動きを見せるでしょう」

 

つまり俺達は獲物を穴から燻り出すための煙玉ってわけか

 

けど・・・

 

「だったら本当に俺達に依頼していいんですか?俺が藍幇にどれだけ恨みを抱いているかは貴方も知っているでしょう?下手したら巣穴から燻りだすまでもなく全部吹っ飛ばすかもしれませんよ?」

 

氷牙は藍幇に対してはレキを殺されかけたことで恨み以外の何も抱いていない。向こうの出方次第では下手をすれば藍幇だけでなく鏡高組までも丸ごと潰しかねない・・・

 

だが緑松はそれも想定内といった様子で

「そうなったとしてもそれはそれで依頼は達成したと言っていいでしょう。ただしその時は高校は無関係になるようにしてください。最低限それさえ守れば後の事は二人にお任せします」

 

あとは任せる。その言葉を聞くと氷牙は笑みを浮かべ書類を受け取ると

「言いましたね?その言葉とこの任務の人選、後悔しなければいいですね?」

「はい、はい、それではお願いしますね。以上です」

緑松も相変わらず感情の無い声でそれだけを言い残すと次の業務に移ってしまったので俺達は校長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教務科から出るとアリア達が待っていてくれた。

「あ、出てきた!」

「2人ともどうだったの!?」

 

「結論から言うと俺とキンジは潜入捜査で一般高校に行くことになった」

 

氷牙が先程校長から受け取った書類を出すとアリア達もそれを穴が開く程に凝視した。

「へ?潜入捜査?」

「2人が?しかもヤクザがらみ!?」

「藍幇・・・成程、そういう事ですか」

キンジと氷牙も改めて任務の内容を読み返すと

「場所は・・・豊島区、東池袋高校か。確か巣鴨の方にキンジの実家があったな?」

「ああ、潜入捜査の間はそこから通うことにしよう。爺ちゃんには俺から話しておくよ」

「なら俺は先に帰るぞ?しばらくは鐵さんの所に世話になるんだ。お前はともかく俺は荷物準備しなきゃいけないし。挨拶代わりに土産の一つでも用意しなきゃな」

氷牙は先に寮へと戻っていった。

 

 

 

そして最後にアリアが周りを注意深く見渡すと小声で尋ねてきた

「それと・・・あれの事は大丈夫だった?」

そう言って外からでも嫌というほど目立って見える教務科棟上方、校長室のある場所に深々と食い込んでいる焼け焦げた衛星を見上げた。

「ああ・・・大丈夫だ。校長も何となく察しているのか探りは入れられたがあの衛星を調べたって何も俺達に繋がる証拠は出ないからな。このまま知らぬ存ぜぬを貫けばバレる事は無いだろう・・・」

「そう・・・よかったわ・・・」

「にしても偶然とはいえ本当についてないよね?まさかひょーたんが撃ち落とした衛星が教務科のよりにもよって校長室に直撃なんてさ」

「偶然だと思いますか?」

 

「「「え?」」」

 

「あの時、銃弾の制御を凛香さんが、衛星への狙いは私がつけたんですよ?どこを撃てば何処にどう落ちていくかなんて把握できなかったと思いますか?」

「え?え!?まさかレキ・・・あんた最初から―――」

「さて?どうでしょう?ですが私達は何も知りませんし、何も存じません。ただ校長には夏休みの時、騙された事がありますけどね?」

そう言うとレキも氷牙の後を追って寮へと戻っていった。

 

 

キンジ達はその後ろ姿に・・・またしても不安しか出てこない幸先と・・・氷牙の隣にもう一人の氷牙がいる。

そんな悪夢でしかないビジョンが見えてしまっていた・・・


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