放課後、ひっきりなしにやってきた勧誘を躱して俺とキンジが帰ろうとすると校門回りに人だかりができて嫌に騒がしかった
「あ!!遠山君、九狂君!!」
俺達に気付いたクラスメイトが何人かこっちに駆け寄ってきて
「何の騒ぎだ?何でみんなあんなところで立ち往生してるんだ?」
「う、うん・・・あれは・・・」
「オイ!!昨日転校して来たって言う遠山っていう根暗なそうな奴と九狂っていう眼帯したすかした奴だ!!さっさと出せ!!」
「し・・・知らないよ・・・そもそもクラス違うし・・・」
校門のところでは昨日のスキンヘッドのデブ男が男子生徒の胸ぐらをつかんで怒鳴り散らしていた。それだけじゃなく後ろにはそのお仲間らしき不良が十数人といる。
「昨日バイクで入ってきた二人だよ・・・その二人が昨日のお礼参りだって仲間引きつれて校門前で張ってるんだよ・・・」
「ああ・・・昨日のあいつ等か・・・」
「やっぱし2度ある事は3度あったか・・・ホントこういうお約束は意地でも割り込んでくるな・・・てか教員は何してんだ?こんな騒がれてるのにまさか気づきませんでしたとか言う気か?」
「そのまさかだよ・・・うちの教員ってみんな事なかれ主義だから・・・大抵は見て見ぬふりだよ・・・呼びに行ったところで被害が無いと取り合ってくれないだろうね・・・」
「じゃあ警察でも呼べばいいだろ?」
「そうなんだけど・・・皆報復が怖くて誰もしようとしないんだ・・・」
「情けねえな・・・まあ、うちじゃあ教員や警察に泣きつく時点で情けねえけどな・・・」
「仕方ないだろ。それが普通だ」
「それにあの二人ってヤクザの舎弟だって噂もあって・・・」
「「え!?」」
そう聞いた途端、氷牙はそのクラスメイトに掴み掛かった。
「おい!今の本当か!?」
「え?え?」
「だから!あの二人ヤクザと繋がってるって言ったのか!?」
「う、うん!!だから教員も誰も手が出せなくて・・・」
確認が取れると俺とキンジは前に出た。
「ち、ちょっと二人共!?何する気!?」
「あいつら俺達探してるんだろ?希望通り出て来てやるよ」
「迷惑かけてすまん・・・皆は俺達が話付けてる間に通ってくれ」
「だ、駄目だよ!!十何人もいるんだよ!?それにさっきも言ったけど後ろにヤクザがいるって・・・」
「それこそ願ったりかなったりだ。俺達はそのためにここにいるんだからな」
「――ッ!!いたぞ!!あいつらだ!!」
不良たちは平然と校門を通ろうとする俺達の姿を見ると駆け寄ってきて取り囲んだ。
「よう、昨日の二人じゃねえか?あれからどうだ?バイクはメンテしたか?改悪は治したか?受け身は取れるようになったか?」
「てめぇ!!余裕こいてられんのも今の内だぞ!!」
氷牙がちっとも臆することなく子馬鹿にするように問いかけると不良二人は益々怒り出した。
「それよりお前らヤクザがバックにいるんだってな?本当か?」
「何だぁ?ビビってんのかぁ?おうよぉ!!俺達のアニキはあの鏡高組の人間だ!!今更謝ったっておせえぞ!!」
「・・・どうやらマジっぽいな」
「よかったな氷牙。お前の不運、災い転じて福となったぞ」
「ああ、探してたものが向こうから来てくれたな」
下手すりゃ来年まではかかると思っていたこの任務、どうやら早めに片が付きそうだ。けど話を聞く前に少し大人しくさせる必要があるな・・・
そして二人を取り囲んだことで昇降口や教室の窓から遠巻きに俺達を見ている者や、校門の方は完全にお留守になった隙にと俺達を見捨てて校門を早足で駆け抜けてゆく者が次々と出てきた。
ちなみに萌も学級委員の仕事があったのか教室の窓からこちらを見ていた。
「キンジ?お前は先に帰っていいぞ?これくらいは俺一人で十分だ」
「いや、俺も残る。心配だからな」
「心配?こんな連中楽勝なんだが?」
「お前がじゃねえよ。こいつらがやられ過ぎないか心配だからだよ。特に聞きだすとなったらお前すぐ拷問するだろ?」
「ああ、そっちか。面倒だが手加減はするさ。けど骨の5,6本くらいは大目に見ろよ?尋問は・・・こいつらが素直に話すか次第だな」
「・・・骨1本、あとは気絶くらいに留めろ。その代わり俺も手伝う。尋問も俺がやる」
「・・・了解」
方針が決まると氷牙とキンジは鞄を置くと背中合わせになり不良たちを見据えた。
「ハッ、この数相手にたった2人でやろうってのか?」
「おい?こいつなんて右腕義手だぞ?そんな眼帯しちゃって左側も見えてんのか?」
「こんな奴楽勝じゃねえか!やっちまえ!!」
そう言って不良の一人が氷牙に殴りかってくるが・・・
「あがっ!?」
隙だらけだったので氷牙はカウンターにハイキックを打ち込み夢の世界へ送り込んだ。
「なっ!?」
「相手を見かけで判断するな。あと実力も無いのに一人で正面から突っ込んでくるな。手加減するのは本気出すより疲れるんだ。全員で四方からかかって来い。でないと弱過ぎて話にならん」
「く、くそっ!一斉にかかれ!」
不良達は全方位から同時に襲い掛かるが・・・
「むしろ好都合だろ?」
「ああ、一気に来てくれた方が楽だ」
氷牙は正面の一人をミドルキックで沈め、そのまま左手で足を掴むとそのまま振り回して他の奴らを蹴散らし、最後は投げ飛ばした。
キンジもそう来るだろうと思っていたのか頭を下げて振り回された不良を紙一重で躱した。
「けどそうやるなら言えよ!俺まで吹っ飛ばす気か!?」
文句を言いながらもキンジも襲い掛かって来る不良を的確に一人一人攻撃を捌いて顎や鼻っ柱にカウンターを入れて昏倒させてゆく
「ああ悪い。けど気のせいかな?なんだかこの光景懐かしいな?」
「確かにな。こうしてお前と背中を預け合うなんて久しぶりだな」
2人だけで背中合わせに戦う光景に懐かしさを感じながらも瞬く間に不良たちを蹴散らしてゆき・・・
「う・・・げ・・・」
「な・・・なんだよ・・・こいつら・・・」
「ば・・・化物じゃねえか・・・」
最後には高みの見物をしていた昨日の二人を除いて全員が地面に伏して悶えていた。
「で?後はお前等だけだな?」
「う、嘘だろ・・・」
2人は顔を真っ青にして立ち尽くすが俺達はそれがどうしたと言わんばかりに足を踏み出し
「さて?お前等には選択肢をやるよ。俺達の質問に躊躇することなく正直に全部答えるか・・・死んだ方がマシなくらいズダボロにされるかだ。どっちがいい?」
「・・・悪い事言わないからさっさと前者にした方がいいぞ?どっちにしても最後は全部喋る羽目になる事に変わりはないからな・・・」
「し、質問?な、何だよ?」
「お前等のアニキって誰だ?そいつもここの生徒か?どうせお前等みたいな下っ端の下っ端じゃ何も知らないだろうからな。次はそいつから聞きだして―――」
「俺だよ」
名乗り出る声が聞こえ校門を見れば両腕タトゥーの大男が校内に入りこっちに向かってきた。
「れ、レオンのアニキ!!」
「レオンさんだ!!レオンさんが来てくれたぞ!!」
キンジはレオンと呼ばれた大男を見て
「あんたがこいつらの頭か?てかあんた雑誌で見たことあるな?確かボクサーの伊沢レオンだったか?」
「おうよっ!!レオンのアニキは元ボクシングチャンピオンだ!!」
「かつてはここだけじゃなく関東一帯を占めていた族の総長でもある方だ!!お前ら終わったな!!」
レオンと呼ばれた大男は俺達の前まで来ると俺達を下から上まで見渡し
「なるほど、組長が言うだけあるじゃねえか。お前ら強いな」
氷牙はちっとも臆することなく
「やる気か?強さが分かるならやめといたほうがいいぞ?」
一応は警告をするが
「心配すんな、俺も強えからよッ!!」
レオンはファイティングポーズをとって間合いを詰めると氷牙のボディーめがけてストレートを放った。
だが・・・
――パシッ――
「確かにボクサーだけあっていいパンチだな?でも所詮はスポーツだな」
氷牙が平然とダメ出ししながら受け止めるとレオンもバカなっ!?と目を開いた。
「お前関節技知ってるか?」
――ゴキッ――!!
「がっ!?」
氷牙は受け止めた腕を捻って関節を極め
「蹴り技出来るか?」
――ガスッ――!!
「ごほっ!?」
顎に蹴りを入れ
「投げ技出来るか?」
――グワッ――!!
「おわっ!?」
腕を更に捻って投げ飛ばし
「人体急所も生半可だろ?」
――ドンッ――!!
「がはっ!?」
ボディにベリーショートパンチを入れてレオンを吹っ飛ばし最後は受け身も取らずに背中からブロック塀に叩きつけられた。
「って、受け身も取れねえのかよ・・・」
「氷牙!?最後のって秋水か?」
「ああ、見よう見まねでやってみたけど体重全部は乗せられなかったな。セツさんに聞いたらコツ教えてくれるかな?」
「一回見ただけでそこまで出来るなら教える事なんて無いだろ・・・そもそもコツなんてあるのか?俺だって理屈は聞いてたけど実際に見るまでは全然理解できなかったんだぞ・・・」
そう呆れながらもキンジはたとえこの先何があろうとやはりこいつの目にはせめて絶牢だけは絶対に見せないようにしようと決めた。もし見たことで覚えてしまったらただでさえ手が付けられない問題児が益々手が付けられなくなる・・・
「れ、レオンのアニキ!?」
「うそだろ・・・レオンさんが・・・」
その一方で頭があっさりとぶちのめされた光景を目の当たりにした他の不良たちは顔を真っ青して――
「や、やってられるか!!俺は知らねぇ!!」
「ま、待てよ!!俺も抜けるぞ!!」
「こ、こんな化物相手に出来るか!!」
昨日の二人を除いて他の不良たちは我先にと逃げていった。まあ烏合の衆ってのは頭が潰されりゃあっさりと崩壊するからな。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「で?お前等はどうするんだ?」
氷牙が逃げ遅れて立ち尽くす昨日の二人を睨むと
「「すいませんでしたぁぁあぁ!!!!!」」
二人同時にその場で土下座した。
「くっ、くそがっ!!舐めてんじゃねえ!!」
そうこうしているうちにレオンは塀にすがりつきながら立ち上がると懐に手を入れた。
それだけで俺達には何をする気か察しが付いた
「おい、こんなところでそんなもん出すんじゃねえよ。携帯で撮影してる奴もいるんだぞ?」
「うるせぇ!!極道はな!!舐められたら終わりなんだよ!!」
案の定懐から銃を抜いて俺達に突きつけ
「動くんじゃねえぞ!!テメエら楽に死ねると思うな!!」
あろうことかふらつきながらもこっちに向かってきた。・・・バカなのか?
「それ、安全装置かかったままだぞ?」
「!?」
その上キンジのブラフにあっさりと引っかかり銃に目が行ったスキを突いてキンジが銃を掴むと顎めがけて掌底を入れると同時に氷牙が後頭部めがけて延髄切りを入れた。
「ごぁっ!?」
銃を取り上げて離れるとそのまま膝から崩れ落ちて倒れた。顎と後頭部に同時に喰らったのだ立ってるどころか意識を保つのもやっとだろう
そして取り上げた銃を二人で困ったように眺めると
「ってなんだよこれ?安全装置は外れてるけど薬室に弾入ってないぞ?」
「ったく素人が・・・で?どうすんだそれ?このままポケット入れて鹵獲ってわけにもいかないだろ?」
「問題ない・・・どうやら引き取りに来てくれたみたいだ」
いつの間にか校門前の車道にすべての窓ガラスに黒スモークを貼った黒塗りの高級車が停まっており。その後部座席のドアが開き、そこから現代風のアレンジが入った和服を着た俺達と変わらない歳の美少女が降りてきた。
「・・・・・・・・・」
少女は無言のまま俺達の元に来ると
「すまなかったな。兄さん達」
そう言って深く頭を下げた。
その口調はまるで今日初めてキンジと会ったかのように。まるでキンジの事など知らぬと言わんばかりに。
「うちの組の名を勝手に名乗っている輩がいると聞いて来てみればこのありさま。来るのが遅かったせいで兄さん達に迷惑かけっちまったね」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
「詫びと言っちゃあなんだがそいつも玩具みたいだけどこっちで処分するから渡してもらえるかい?」
キンジも意図を察したように
「・・・じゃあ頼むよ。俺だってこんな物いらないからな」
大人しく銃を差し出すと少女は受け取る際にキンジの耳元で囁いた。
氷牙も読唇してその言葉を聞き取った。
『今夜8時、紅寶玉で』
そして銃を受け取ると少女はそのまま踵を返し車へと戻ってゆくが
「それともう一つ、こいつらが勝手に組の名前名乗ったのはあんた達にとっては許されることじゃないだろうけど頼む。今回ばかりは大目に見てやってくれ」
そう言って今度はキンジが頭を下げると少女は先程からずっと土下座し続けてる不良たちを睨み
「・・・お前ら、そいつ連れて失せな。それと・・・次はないよ!!この兄さん達に感謝するんだね!!」
「「は、はいぃっ!!!!」」
2人はレオンを担ぐと一目散に逃げていき。少女も車に乗り込むとそのまま走り去っていった。
「なあキンジ?もしかしてあいつが・・・」
「ああ、鏡高菊代。鏡高組の現組長で・・・俺の中学時代の知り合いだ」
「あいつがか・・・いい手腕じゃねえか。ここじゃ人目があるからあえて他人のフリしてこの騒動、あいつらが勝手にヤクザ名乗っていただけって事にして俺達も巻き込まれただけって事にして銃までただの玩具って事にしてあっという間に収めっちまった」
「けどあいつが出てきたって事は・・・」
「ああ、この学校、間違いなくクロだな。裏側調べたら面白いもんが見えてきそうだな」
「余計な詮索は後にしろ。俺達の仕事はヤクザとのつながりが無いか調べて。もしあるなら内密に処理する事だ」
「わかってる。だけどだ。一部が真っ黒ならそこだけを取り除くけど・・・もし全てが真っ黒なら・・・」
「それでもだ。この学校には何も知らない奴だっているんだ」
「まあ、1か10かは今夜わかる事か。俺も行くぞ?お前一人じゃハニートラップ仕掛けられた挙句、あの組長手籠めにして持って帰ってきそうだからな」
「2から9までの筋書きが飛んでるみたいだが・・・断じてそれはねえよ!!」
そうして俺達は萌を始めとする唖然とする一般生徒達に見送られながら、まるで先程の乱闘など無かったかのように校門をくぐり帰路へと付いた。