緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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一般高校編終了です。
長かった・・・


122話<ダークヒーロー>

いくつもの修羅場や死線を超えてきたキンジも凜香からあの少女が孫悟空、神であること。

キンジや氷牙、二人にも決して引けを取らない金三があっさりと返り討ちにされた事実に唖然とするほかなかった。

いくら金三が人造人間であったとしても胸に風穴を開けられたんだどう考えたって・・・

 

だが氷牙は銃を抜くこともせず

「諸葛・・・もう一度聞くが戦う気はないんだな?」

「はい。今のはGⅢさんが有無を言わさず襲い掛かってきたので止む無く応戦しましたが今日はこちらから仕掛ける気はありません」

「・・・わかった。ならさっさと失せろ。次に会う時までには殻金忘れるなよ」

「ええ、それでは失礼します」

諸葛達は赤い目の少女、孫悟空を宥めながら屋敷の奥へと消え、やがて屋敷内からも気配が消えていった。

 

そして・・・

 

「で?地獄の門は開けられたか?金三?」

「いやぁ?お前のためにぶっ壊してやろうとしたんだが閻魔の野郎に二度と来るなって追い返されっちまったよ」

氷牙が何食わぬ顔で尋ねると金三も何てこと無いといった感じで返答した。

「なっ!?金三!?お前なんで生きてるんだよ!?」

「何言ってんだ?こんなのかなめの時にも見慣れたもんだろ?」

「人にやれることを自分にやれねえわけがねえだろ?撃たれても致命傷にならないように内臓や筋肉の隙間を通すなんて造作もねえ。さすがにレーザーでやったのは初めてだがな」

「すぐに応急処置するよ。急所は外れてるみたいだけど重傷なのは変わりないからしばらくは絶対安静だね」

凜香も手早く金三の応急処置を行い傷を塞ぎ

「そうだな。それが終わったら俺たちもここを出よう。あれだけ派手にやったんだ。もうじき警察が準備と手続き終えて踏み込んでくる。一応、金三も病院に連れて行かないといけないしな」

「必要ねえ。もう迎えが着た」

 

 

「GⅢ様!!!!」

声とヘリのホバリング音が聞こえ、上を見上げれば軍用ヘリが俺たちの真上に滞空してそこから金三の配下たちが降下してきた

「ああ・・・なんとお痛わしや・・・すぐに手当てを・・・」

配下たちの後を追うようにストレッチャーが下りてきたので俺たちもそこに金三を寝かせ

「わりいがしばらく留守にするぜ。車は置いてくから女どもを送ってやんな」

「ああ、ゆっくり養生するんだな。帰ってくる頃にはあの神ぶっ飛ばしてお前に借り作っといてやるよ」

「へっ、返り討ちにされたら死んでも笑いのネタにしてやらぁ」

そう言い残すと金三はヘリに回収されていった。

 

「超能力者に吸血鬼、人造人間ときて今度は神と来たか・・・その次は何が来るんだろうな?宇宙人でもくるのか?」

「なんだっていいさ・・・何が来ようとぶっ飛ばすことには変わりないんだからな」

「そうだな・・・ま、色々あったが何にせよこれで任務は完了だ。あとは・・・」

「ああ、あとは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、短い間でしたがお世話になりました」

翌日、東池袋高校のHRにて俺とキンジは武偵校へと戻るためこの学校から転校、つまりは皆に別れの挨拶をした

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

だが周りは何も言わない。それどころか唯一事情を知っている萌以外は全員この世の終わりかという顔をしていた。それもそうだろう・・・なにせ・・・

「皆さんも察してるとは思いますが俺達は転校生なんかじゃありません。とある依頼のためにこの学校に潜入捜査に来た武偵なんです」

俺たちが転校してきてからというもの、ヤクザを名乗るヤンキーの横暴、それに伴うご本人登場、クラスメイトの拉致事件、その直後にヤクザの本家内での謎の内部抗争、挙句の果てには突然の解散宣言という話が流れたんだ。俺達やこの高校周りで立て続けに起きた出来事を見れば俺達が何者でどんな捜査でここにいるかなんてどんな馬鹿でも察しが付く・・・

やがてクラスの一人が意を決したように口を開いた。

「・・・前々からこの学校ってヤクザと癒着があるって噂はあったんだ・・・やっぱり本当だったんだね・・・」

ヤクザとの癒着。このことが公になればこの学校はもちろんここに通っている生徒だってただじゃすまない。ましてや今は受験シーズン、まともな就職はおろか進学なんてもはや絶望的だろう

 

だが・・・

 

「ヤクザとの癒着?何の話だ?」

「え?」

「確かにそんな噂はあったらしいな?けど噂は所詮根も葉もない噂でしかないし。仮に癒着があったとしてもそのヤクザは解散しちまったんだろ?ならたとえ警察が調べたって今更もう何も出てこないんじゃないか?」

氷河は何喰わない顔で答えるがそれもそのはずだ。昨日のうちにこの学校と鏡高組の癒着につながるような証拠は菊代が全部抹消したんだからな。今更警察が調べても何も出てはこない事なんてこいつが一番よくわかってる

 

「な、何言ってるんだよ!?昨日望月さんはそのヤクザに誘拐されたんだろう!?九狂君達は望月さんを助けにそのヤクザの事務所に乗り込んだんだろう!?本当のことを知っているんだろう?とっくに全部調べ尽くしたんだろう!?だからこうして僕らに正体を明かして・・・」

「誘拐された?何の話?私、昨日は友達の家に遊びに行ったくらいで特に変わった事はなかったよ?」

萌も何食わぬ顔でそう答えるとみんな固まった。

萌はあの後、菊代を責めることも咎めることもしなかった。俺達も一応「誘拐と暴行で被害届出せるぞ?」と聞いたが萌は「私は友達の家に車で迎えに来てもらって遊びに行ってそこでちょっと悪ふざけしてただけ」と主張して本当にすべてを水に流したのだ。

 

「誘拐されたらしい本人がそう言ってるんだが?それに勘違いしてるようだが俺達がこうして正体を明かしたのは依頼がキャンセルされたからだ。ならこれ以上調べる義務もないし調べたって何の得にもならない。途中で依頼をキャンセルされて中途半端で不確かな情報しかないんじゃ警察に情報提供したって何の価値もない。そんな一円にもならない事をするなんて時間の無駄だ」

氷牙の言う通り依頼は昨日の時点でキャンセルされた。ならこれ以上捜査する義務も無いし。警察から情報提供を求められても俺達は武偵だ。一円の得にもならないことをする義務はないし、仮に教務科を経由して「捜査で得た情報を警察に提供しろ」なんて命令が来ても途中でキャンセルされた依頼だ。中途半端で不確かな情報しかなくたって仕方ないだろう。

つまりはどうなろうと俺達や萌が口を開かない限りは真相は全て闇の中というわけだ。

クラスの連中も俺達が真相を闇に葬るつもりだと気付いたのか戸惑っているようだが

「それともそんなの間違ってると、綺麗ごとでも述べるか?だけどその間違った事をしなきゃここにいる全員が泥を被ることになる。そういえばお前らはかつて俺をヒーローだとか言ってたな?確かにヒーローってのは皆に代わって泥を被って傷を負って手を汚す役割に手を挙げるのが仕事だ。だけどヒーローは正義のために手を挙げるが俺達違う。ただ金のために手を挙げる薄汚いクズだよ。けど、そんなのどっちでもいいじゃねえか。1人を犠牲にすれば1000人が助かる状況で「自分が犠牲になる」と手を挙げる奴がいるなら誰だっていい。我が身が助かるならそれで十分だろ? 」

皮肉を込めて答えると俺の目の前にいた男子生徒が顔を伏せて泣き出してしまった。

 

「どうした?なんで泣く?」

「クズなのは僕だ・・・九狂君の言うとおりだ・・・強くなりたいって言ったばかりなのに・・・結局また九狂君が1人犠牲になるところを・・・我が身可愛さに何もできずに見て見ぬふりだ・・・僕は・・・何もしないクズ以下の・・・口だけのクズだ・・・」

「・・・自分がクズだって自覚して悔しがる事ができるならまだ救いようはある。本気で変わりたいなら今から変わり始めろ。そして恩に報いたいと思うならいつか俺に「手を汚した甲斐があった」って思わせるような人間になれ」

「・・・手を汚した甲斐があったって思わせるような人間?・・・偉くなれってこと?」

「さあな?どんな人間なのかは自分で考えて答えを探して、後はそうなれるように自分で動け!ただし口だけのクズよりも下、自分に見向きもできないクズになろうもんならその時こそ俺が本気でブッ殺す。失望だけはさせるなよ? 」

その言葉を最後に俺達はその日授業を受けることもなく教室を、学校を去った。

 

 

 

 

そして夕方

「お世話になりました」

「また時々帰ってくるよ」

「うむ、氷牙も部屋はそのままにしておく。二人共いつでも帰ってこい」

 

武偵校への復学手続きと遠山家の後片付けを終えて鐵さんに挨拶を済ませると俺達はキンジの実家を後にし、駅で電車に乗り込み発車を待っていると

「遠山君!九狂君!」

萌が俺たちの元へと駆け寄ってきた。

「萌!?なんでここに?」

 

萌は電車のドアの前に立ち止まると

「二人の見送りだよ。私達、二人にはたくさん助けられたのにお礼の一つも言えてないんだよ?菊代ちゃんにだって「お礼、いらないからあげる」って柿右衛門のお皿とストラディバリウス渡されて・・・あんなの恐れ多くて受け取れないし・・・私、ただ人質になっていただけで何もしてないんだよ?」

「そんなことないさ。お前は菊代を救ったじゃないか。菊代に誘拐されて利用されようとしたのにそれを咎めることも攻めることもせず全部許して手を差し伸べたんだぞ?そんなの簡単にできることじゃない」

「ああ、あの時萌が菊代を許して手を差し伸べなかったら菊代は今でも裸の王様のままだった。萌は間違いなく菊代を救ってくれた。俺にだって弁当作って勉強教えてくれたじゃないか。礼を言うのはむしろこっちだよ」

「そっか・・・でもそれならなおさら受け取れないよ。そんなことのために菊代ちゃんと友達になったわけじゃないし・・・そんな物よりもっと欲しいものがあるから・・・」

「欲しいもの?なんだ?」

「遠山君・・・制服の・・・第二ボタンくれませんか?」

「?別にいいぞ?もう着ないだろうしな」

そう言ってもう二度と着ることのない制服の第2ボタンをちぎると萌に渡した。

 

萌はそれを受け取り両手で握りしめると

「それと遠山君に伝えたいことがあって・・・」

そこで発車ベルが鳴り電車のドアが閉まり

 

『私・・・遠山君のことが―――』

 

ドア越しの萌の言葉をキンジは最後まで読唇しなかった。しちゃいけないと思ったからだ。

「いいのか?」

「いいさ、もう2度と会うこともないんだからな」

「どうかな?もしかしたら彼女、思ってたよりも逞しいかもしれないぞ?」

「どういう意味・・・おい氷牙!あれ見てみろ!!」

「ん?」

キンジに言われ窓の外、駅前の広場を見ると東池袋高校の生徒達、昨日までのクラスメイト達が整列して手を振っていた。

 

そして最前にいる生徒たちは即席で作ったであろう横断幕を掲げ、そこには大きく

 

『必ず報います!!ありがとうございました!!』

 

「あいつら・・・そういえば萌も最初私達って言ってたな・・・そういうことか・・・」

「なあ氷牙、普通の高校も・・・色々あったけど楽しかったな」

「ああ、二度とごめんだけど楽しかったよ」

こうしてわずかな名残を残し、俺達の普通の高校生活は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

そして武偵校に戻ると俺達はほとんど白紙の報告書と復学手続きの書類を教務科に提出すると

 

「俺、平賀ちゃんの工房寄っていくよ。ディストルもやっと直ったそうだからな」

「ああ、じゃあ俺先に帰ってるよ」

途中で氷牙と別れ、キンジは一足先に寮へと戻った。

 

 

 

数十分後・・・

 

「氷牙の奴遅いな?平賀さんの工房行っただけならそろそろ戻ってくるはずなんだが?」

「ええ、先ほど電話しても地下にいたからでしょうか?途中で切れてしまいました。すぐに向かうとは言っていましたが・・・」

キンジの自室でバスカービル全員で氷牙を待ちぼうけていると皆の携帯が一斉になった。

 

「何だ?なんで全員の携帯が一斉に?」

 

携帯を取り出して出ようとすると同時に

「キンジィ!!!!」

ドアが開き氷牙の声が部屋に響いた。

 

「ああ、やっと帰って・・・」

氷牙の姿を見たとたん全員が唖然として固まった

 

なぜなら・・・

 

氷牙は・・・「両津はどこだぁ!!!!」の部長のごとく重火器をもって完全武装していたからだ・・・

 


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