緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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124話<招かれざる客>

「なあ氷牙・・・飛行機の中で俺との会話覚えてるか?」

修学旅行Ⅱに向けて香港へと向かう道中キンジが引きつった顔で俺に訪ねてきたが

「ああ勿論、ついさっきの事なんだからしっかり覚えてるよ」

そう言って俺は飛行機内でのことを思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修学旅行Ⅱの目的地。香港行き飛行機内ファーストクラスの座席で氷牙がくつろいでいるとキンジが乗務員に案内されて入ってきた。

「あれ?お前なんでここに?格安チケットなんか買ったせいで今頃エコノミーの3列シートの真ん中に挟まれてるんじゃないかと思ってたんだが?」

「それだけならよかったよ・・・両隣が力士じゃなければな・・・見かねた機長がファーストクラスに席替えしてくれたよ。以前、ハイジャックの時の礼も兼ねての計らいだそうだ」

「安物買いは失敗の元だな。まあ結果オーライみたいだしよかったじゃねえか」

キンジは俺の隣の席に腰を下すと座席にもたれかかった。まだ始まってもないのにずいぶんお疲れのようだ。

 

「ずいぶんお疲れだな?修学旅行Ⅱまだ始まってもいないんだぞ?」

「武器の申告書類でごたついて搭乗がギリギリになっちまったんだよ・・・銃弾の数まで細かく申告する必要があったおかげで免税店を回るどころか朝飯も食えなかったよ・・・」

「そういうのは事前に書いておけよ。窓口前で銃弾の数数える奴なんてそういないぞ?」

「仕方ないだろ・・・アリアや理子、お前達と違って俺は海外に行くなんて生まれて初めてなんだ。手続きやら申告なんて慣れてないんだ」

「そうでもないぞ?俺だって正規に海外に渡航するのはこれが初めてだ」

「だからって慣れた手段が一番だって密入国の準備した時はびっくりしたよ・・・氷牙、今はちゃんと戸籍もパスポートもあるんだから正規の方法で入ろうよ・・・」

同じくファーストクラスにいた凜香が苦笑した。ちなみに今回、バスカービルのメンバー以外で同行させることができたのは彼女だけだ。ジャンヌはシンガポールと運悪く修学旅行Ⅱの目的地が違うため戦力外になり。ワトソンは万が一の拠点防衛のために残しておく必要があったからだ。

 

「武偵になって身分ができるまではパスポートも無かったからな。非正規の手段の方がずっと慣れているんだよ。自慢じゃないけどバレたことはあっても捕まった事は一度もないぞ?何ならキンジにもいくつかノウハウ教えてやろうか?いざという時役に立つぞ?」

さらっととんでもない事を言っているがキンジは聞き流すことにした・・・一番疲れることはこの男とまともに相手することなのだから・・・

 

「それに・・・菊代たちのこともあったからな・・・そのゴタゴタもようやく落ち着いたところだ」

「ああ、確かにな」

「菊代・・・先日、正式に組を解散させたそうだ。あの学校もそのまま存続するらしいぞ。校長も引き続きそのままらしいけど・・・後ろ盾もなくなって、ありゃ一生飼い殺しだな」

「まあ今までずっとヤクザ相手に甘い汁吸ってきたツケだな。これからもずっと訳ありな子供を受け入れ続けてトラブルが起きれば真摯に対応するしかない。でなければ明日の命が無いんだからな」

 

「あと・・・」

 

キンジは一度会話を止めてちらりと後ろを振り向き

「すぴー」

「すぅ・・・すぅ・・・」

シートの中でよだれを垂らして熟睡しているアリア、同じく隣の席で静かに寝息を立てているレキを確認した。

 

「二人ならさっきから寝てるぞ?アリアは搭乗するなり爆睡したし・・・レキも体力温存のために寝てるよ。むやみに近寄るなよ?気配殺したって即座に目を覚ますぞ?」

アリアが寝ているなら安心だとキンジは話を続けた。

「あと、萌の事もな・・・」

「萌?あいつがどうした?まさかお前のこと追っかけてあの学校辞めて武偵校に転校するとでも言いだしたのか?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「・・・マジか!?」

「ああ・・・俺も考え直すように言ったよ」

「言ったところで考え変えるような奴じゃないだろ・・・まあ諦めたとは思ってなかったがまさかそこまでするとは俺も予想外だったがな」

「早ければ今年のうちに転入してくるだろうな・・・菊代と一緒に・・・」

 

「本当に何かするたび女が増えるな。この修学旅行Ⅱでも何人作るかな?作っても現地妻は作るなよ?ちゃんと連れて帰れよ?まあ置いていったところで追っかけてくるだろうがな」

「だから・・・俺だって好きで作ってるわけじゃねえよ・・・」

 

――ガタッ――

 

一瞬飛行機が乱気流で揺れ、その拍子にテーブルに置いてあったアリアのパスポートが床に落ちた

 

「あ、ったくしょうがねえな・・・」

俺達は後ろを振り返ると落ちた拍子に開いたアリアのパスポートの写真を見て言葉をなくした

 

「「「・・・・・・・・・・・・・」」」

 

キンジは何も言わずにアリアの元へ行きパスポートを拾い上げるとそれを閉じてテーブルの上に置いた

「キンジ・・・忘れるなよ?あと4つ、あと3ヵ月だ・・・それまではお前に従って待とう。だが間に合わなかったらその時はもう止まらない。全面戦争だ」

「わかってるさ・・・アリアのためにも・・・お前のためにも・・・必ず全部取り返して見せるさ」

 

そうだ。一瞬だって忘れちゃいない。俺にアリアと氷牙、二人の命も人生も未来も全てがかかっている事。タイムリミットは刻一刻と迫ってきている事も。それは俺達の空気を読んで何も言わない凜香も、とっくに目を覚ましているレキも忘れてなんかいない。

 

(取り返す。絶対に全部取り返してみせるさ)

 

パスポートに写っている緋弾を受ける前、金髪碧眼だった頃のアリアの写真を前に固く誓った。

 

 

 

 

 

 

 

そして現在

 

「お前言ったよな!?待つって言ったよな!?」

「ああ、言ったな」

「なら・・・その右手に持っている人は誰だ!?」

氷牙は左手に荷物待って・・・

 

右手にはボコボコに殴られた現地人と思しき男性を引きずっていた。

香港について30分足らず、荷物を取りに行くと目を離した5分足らずの間にこの男は早速やらかしたのだ。

 

「こいつか?さっきから俺たちの事こそこそ付け回してたんでな、挨拶しに行ったら案の定だったよ」

荷物をいったん置くとポケットから写真の束を取り出した。そこには隠し撮りされたと思われる俺達の顔が写っていた。

 

「こいつが持ってた俺たちの顔写真だ。こんなもの持ってるってことは間違いなく藍幇の人間だな」

 

氷牙は男性を掴み上げると

『んじゃ諸葛のところに案内してもらおうか?それとももっと殴られたいか?』

『や、やめてくれぇ!!!俺はただあんた達を見たら報告しろって命令されただけで本当に何も知らないんだ!!』

氷牙が中国語で尋ねると男性も中国語で必死に弁明するが

「そうか、じゃあもっと殴られたいんだな」

そう言って何の遠慮もなく殴ろうとすると

 

「やめるネ。そいつは本当に何も知らない末端ヨ」

入り口からカタコトの日本語が聞こえそちらを振り向くと京劇で使うような仮面をつけた少女がこちらに向かってきた。

 

「その声・・・もしかしてお前ココか?」

「おいおい久しぶりだな?なんだその面は?雑技団に転職でもしたのか?」

氷牙がわざとらしく尋ねるとココは怒りと殺気を抑えるかのように拳を握り締めた

 

「氷牙・・・あんたわかってて言ってるでしょ・・・」

「こいつは長女・・・お前が東京駅で顔をグチャグチャになるまで殴ったココだよ・・・」

ココは拳を開くとやがてゆっくりと仮面を外した。

「・・・あの後ココ達は最先端の医学療法、そして治癒能力の使える超能力者まで呼んで治療してもらったヨ・・・その甲斐あって歩けるまでには快復しタ、顔も形こそ戻すことはできタ・・・それでも・・・・」

 

仮面の下のその顔は輪郭や鼻筋などの顔の形こそ元通りにはなっていたが。その顔を埋め尽くさんばかりの赤黒い痣や傷がいまだに痛々しく刻まれていた

 

「お前ガその右手で殴ったこの傷は呪いの如く消えないネ・・・」

「そりゃ消えないだろうな?それが呪いだっていうなら俺の怒りも憎悪も絶望もこもってるんだからよ?下手したら子供にまで遺伝して末代まで消えないんじゃね?今のうちに子供用の仮面も用意しといたらどうだ?」

 

「本当にお前なんかと関わるんじゃなかタ・・・」

 

「で?何の用だ?あの時みたいに喧嘩売りに来たってわけでもなさそうだな?」

「諸葛からの言付けを伝えに来たネ。『バスカービルの皆様、香港にようこそ。貴方達を藍幇の客人として歓迎します。今夜、あなた方との会合の場を設けてありますのでそれまでは自由に観光して香港を楽しんでください』とのことヨ」

「ああ、そうさせてもらうよ。それじゃあ・・・」

氷牙は空港エントランスの受付に先ほどから掴み上げている男性を放り投げると受付嬢を睨みつけ

「仲間だろ?そいつ片しておけ?あとカウンター下の物出したらお前も同じ目にあうぞ?」

 

「・・・ッ!」

受付嬢は何か言いたげだったが結局何も言わず男を運び出していった。

 

 

「・・・何でわかタ?あの男はともかくあの女の方は潜入のプロヨ?」

「あいつらが俺達をどう見てるかで察しはつく。何なら観光ついでに構成員見つけ次第撃ってやろうか?」

「だから止めろ・・・頼むから少しは抑えてくれ・・・殻金返してくれるなら戦う理由はないんだ」

「・・・こっちも構成員には絶対にお前たちに手を出さないように命じてあル。お前らとまた事を構えるなんて死んでも願い下げヨ」

そういうとココは電話番号が書かれた一枚のメモを差し出した。

「藍幇の緊急用の連絡先ヨ。万が一お前らに手を出すようなバカがいればいつでもすぐに連絡しロ。藍幇の名の下に叩き伏せてやるネ」

 

俺達はメモを受け取るとココの横を通り抜けて香港の街へと踏み出し

 

『客人か・・・客人は客人でもお前らは招かれざる客人だ・・・』

 

すれ違いざまにそんな中国語の呟きが聞こえ始まる前から不安だらけの修学旅行Ⅱはこうして幕を開けた

 

 

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