翌朝、氷牙は昨日買った服に着替え、フードも目深にかぶってキンジを探していた。観光客はカモにされるようだから無用なトラブルを避けるためにあえて現地で買った服を着てレッドクィーンはケースにしまっておいた。
あれから朝になってもキンジは戻らず。諸葛も有力な情報は得られなかった。
だがそれでも諦めることはなくレキと凜香も屋上から探し続けているし理子も白雪もホテルで必死に情報を集めている。氷牙とアリアもできることをしなくてはと二手に分かれレキや理子の目が届かない場所、そんな場所の一つである盗品市場に氷牙は直接出向いて探すことになった。
そして市場を回っているとある露店の前で立ち止まりそこで売っていた携帯電話に気付いた。
あの型と色、それにあのストラップまさか・・・キンジの携帯か!?
「おい!この携帯何処で仕入れた!?」
店主に尋ねるもやる気のなさそうに新聞を読みながら答えた
「はぁ?知らねえな?知っていても教える義理はガッ!?」
俺は店主の顔面に鉄拳を入れると頭を掴んで
「何処で仕入れた?」
「し・・・知らねバボッ!?」
とぼけようとしたので店主の頭を机に叩きつけ
「よく見ろ、この携帯電話だ、これは俺の知り合いの物だ・・・何処で仕入れたか言え」
「さ・・・最近忘れぽくてがぁぁぁぁ!!!!!」
店主の顔面を机に擦り付けた、ささくれた木で出来た机だからよくおろせるな
「思い出したか?思い出せないなら今度は反対側も行くか?」
「や、やめてくれ!!わかった!!言う!!その携帯のことなら覚えてるよ!!間抜けな日本人からすったんだ!!」
「何処で?」
「灣仔だ!!路面電車降りる時にこれ見よがしに財布と携帯見せてたからな!ありゃすってくれって言ってるようなもんだったぜ!!」
あのバカ・・・平和ボケし過ぎだ・・・ここは日本じゃねえんだってあれほど・・・ん?まてよ・・・
「財布と携帯を?てことは財布もすったのか?」
「―――!!い・・いや・・・すったのは携帯だけでぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
反対側もおろしてやった
「財布は?」
「わかった!!返す!!返すから!!!机の下にある!!中にはまだ手は付けてない!!本当だ!!だからもう勘弁してボガッ!?」
再び机に頭を叩きつけて店主は昏倒した
「ったく・・・面倒なことしやがって・・・」
キンジは灣仔か・・・あのバカの事だ・・・連絡手段もなしに無一文で中国語は読めない話せないくせにじっとしてる訳がねえ・・・恐らく闇雲に歩き回ってるだろうから・・・周辺を手当たり次第に探すしかねえ!!
そう決めると俺はキンジの携帯と財布を取り返し灣仔へ向かった
・・・が、立ち止まり
――バァンッ――
銃弾が氷牙の目の前を横切り飛んできた方向を向けば
「おいテメェ・・・こんな真似してただで帰れると思ってるのか?」
いかにもなガラの悪い人達に囲まれていた
「・・・そいつをぶっ放したってことは俺に対する宣戦布告ってことでいいんだな?後悔するなよ?」
そうケンカ腰で対応したらこの市場の頭目らしき男が
「ああ!?なめてんじゃねえぞ!!お前ら!遠慮はいらねえ!!ぶっ――ドォォォォン――!!こ・・・ろ・・・」
最後まで言い切る前に氷牙はディストルをぶっ放してビルを一つぶっ壊した。
そして氷牙はフードを脱いで背負っていたケースからレッドクィーンとMP5Kを取り出すと
「悪いけどストレス溜まって加減ができそうにない・・・恨むなら俺にケンカ売った自分とあいつ等を恨め」
「なっ!?お、お前イ――バァン――がはっ!?」
頭目が何か言っていたが言い切るよりも前に氷牙は銃をぶっ放して攻撃をはじめ
盗品市場の連中が売ってきたケンカを・・・法外な値段で買い取った・・・
同じ頃、キンジは朝食を食べるとユアンに大通りに案内された。
「ほら、あれがあんたのお仲間がいるビルでしょ?」
そういってユアンが指を指す先、ヴィクトリア湾の向かいにあるひときわ高いビル、ICCビルが見えた
「ああ、本当に助かったよ。目で見えるならここからでも歩いてだって帰れ――ドォォォォン――!!
突如、遠くの方で爆発が聞こえ。立て続けに銃声が響き続ける
「え!?何か事故かしら?」
「これは・・・まさか・・・」
遠くで響き続けるとても聞き覚えのある銃声にキンジの頭には一人の親友の姿が頭に浮かんだ。
兎にも角にもすぐさま向かおうとする直前。大通りの製麺所、そこから出てきた少女にキンジは目を見開いた。
名古屋女子校特有の丈がかなり短くなっている防弾制服。大きな赤い目。スカートから伸びた尻尾。見間違うわけもない!!あいつは――
「孫悟空!?」
キンジがそう呼ぶと向こうも気づいたようでこちらを振り向きキンジと目が合うと
「ぴ、ぴゃぁ!!!」
奇声を発して一目散に逃げていった
「な!?ま、待て!!」
キンジもベレッタを抜いてすかさず追いかけてゆき
「え?ち、ちょっと!?」
ユアンも少し遅れて二人の後を追いかけた
「ったく・・・面倒かけさせやがって・・・」
十数分後・・・盗品の溢れる盗品市場は瓦礫の溢れる廃墟と化し、盗人達の活気溢れる声はその全てが呻き声に代わり辺りに響き渡り、氷牙は市場の真ん中で血塗れになって立っていた
「さて・・・灣仔だったな・・・道草食っちまったが急ぐ―――」
「おいおい何だこりゃ!?爆撃でもされたのか!?」
「ここじゃ、ケンカや暴力沙汰は日常茶飯事ですが・・・ここまでの規模は珍しいですね・・・」
後ろから突如聞こえてきた声、その声には気のせいかどこか聞き覚えがあり何故か猛烈な怒りが沸きあがってきた
そして後ろを振り返ればそこにいたのは・・・
「おい?こりゃいったい何が―――ってありゃ?」
短髪赤髪にバンダナを巻いたくわえタバコのチャラい男と・・・
「おや?貴方は・・・」
長髪黒髪ポニーテールのモノクルをかけた細い糸目の少女・・・
忘れるわけがない・・・こいつらは・・・
「てめぇら・・・久しぶりだな・・・修学旅行Ⅰじゃ世話になったな・・・」
こいつら、修学旅行Ⅰの帰りに俺に喧嘩を売ってきた連中だ
「おお!お前か!?久しぶりじゃねえか!!元気だった―――」
赤髪男が相変わらずなフランクさで話してきたが黒髪少女が手で制した
「悟浄・・・悠長に挨拶してる場合じゃありません・・・どうやらこの惨状は彼の仕業のようですよ・・・」
「あ?別にいいだろ?どうせこいつらがあいつにケンカ売るとかしたんだろ?自業自得じゃねえか」
悟浄と呼ばれた赤髪男がそう言うが黒髪少女が首を横に振ると
「それだけじゃありません・・・彼・・・とても機嫌が悪い上に私たちの事もただで済ます気はなさそうです・・・」
そう言われて悟浄は氷牙を見ると・・・
目を真っ赤に光らせて口元には笑みを浮かべておりいつの間にか右手に闇魔刀を出現させていた
「喜べよ・・・あの時は相手できなかったけどよ・・・今日はお望み通り・・・とことん相手してやるよ!!!」
そう言って氷牙は二人に向かって突っ込んだ
「は?ち、ちょっと待て!?」
「ま、待ってください!!もうあなたと戦う気は―――」
「シャアァァァァァァァァァ!!!!!!!」
氷牙は一気に間合いを詰めると問答無用と言わんばかりに闇魔刀の居合い斬りを繰り出した
「悟浄!飛んで!」
「――――ッ!!!」
二人は飛び上がって居合いを紙一重で躱すと背後の雑居ビルがまるで伐採された木のように倒れた
「おいおい!?マジかよ!?」
「逃げましょう!!どうやら話しても通じなさそうです!!」
そう言って二人は一目散に逃げてゆき、そして氷牙はその二人を追いかける。追う側と逃げる側、あの時とは全く逆の立場になってしまった
「待ちやがれ!!ゴラァ!!」
「待てと言われて待つ奴はどの世界探してもいないと思うぜ?」
「お願いですから一度話し合いませんか!?恨まれても仕方がないのは分かりますがあの時は私たちも雇われの身だったんですから・・・」
「知るか!!お前らのせいで俺は1度ならず2度まで散々な目にあってきたんだ!!4分の3殺しで勘弁してやるからおとなしくやられろ!!」
そう叫び、二人を追いかけながらディストルとMP5Kを乱射した
「うわっと!?こりゃダメだ・・・」
「参りましたね・・・聞く耳持ってませんよ・・・」
「まだあいつも見つかっていねえってのによ・・・面倒なことになっちまったぜ・・・」
同時刻アリアは
『アリア!!キンジの目撃情報が入ったよ!!昨日湾仔で見かけた人がいたって!!』
「ホントに!?」
『まだ近くにいる可能性がある!!すぐに向かって!!』
「了解よ!!すぐに向かうわ!!」
『この後氷牙にも伝えるよ。一度氷牙と合流して情報共有して!!』
「わかったわ!!氷牙は―――」
――ドゴォォォォォン――!!!!
遠くで大きな爆発音が起きた。それも立て続けに起こり、ついでに銃声も聞こえる・・・
「・・・今どこにいるか言わなくていいわ・・・もうわかったから」
『・・・うん、間違いない』
『方角と位置から見て盗品市場の中心でしょう。もしキンジさんも動けるならこの戦闘音が氷牙さんがらみと気付いて向かっていてくれると思いますが・・・』
「どちらにせよバカが1人いるか2人いるかよ!!とにかくすぐに向かうわ!!」
アリアはこうしてはいられないと爆音と銃声がする方角へと走り出した
――ガチャン――
悟浄と黒髪少女は近くの寺院に駆け込むと門を閉め閂をかけた
「ふう・・・これで少しは時間を稼げんだろ・・・」
「ええ・・・この隙に早く離れましょう・・・」
「ったく・・・本当にアイツどこ行きやがった・・・」
「お使いに行かせただけですからそう遠くに入っていないはずなんですが・・・おや?あれは・・・」
黒髪少女が何かに気付いたと同時にその向こうにいた人物もこちらに気付いたようで
「あ!うわぁぁぁぁん!!八戒!!助けてぇ!!」
そう言いながら何か小さな影が黒髪少女、八戒の胸に飛び込んだ
「あ!こんな所にいたのか!?このバカ猿!」
「どこ行ってたんですか?探しましたよ?」
「う・・うん・・・えっとね・・・」
「待て!!孫悟空!!」
「ぴぃ!?」
そう叫び声が聞こえて見てみれば・・・向かいの寺の正門からはキンジが走ってきていた
「って・・・おいおい・・・お前も追われてたのかよ・・・」
「そ、そうなの!!助けて!!」
孫悟空は涙目に叫ぶが・・・
「あー・・・済まないんだがな・・・」
「実は私たちも・・・」
「ふぇ?」
――ドゴォォォォォン――!!
「待ちやがれってんだゴラァァァ!!!」
裏門からは二人が閉じた門を吹っ飛ばして氷牙が突っ込んできた
「ぴぇぇぇぇぇぇ!!??」
「もっとおっかないのに追われていてな・・・」
そして前門からはキンジに、後門からは氷牙に挟み撃ちにされてしまい孫悟空達は逃げ場を無くした
「オラ!観念しろ!!って・・・はぁ!?」
「よし!動くな!!って・・・え!?」
キンジと氷牙はここでようやくお互いの存在に気付いて目を見開いた
「キンジ!?テメェ何処ほっつき歩いて・・・ってそれは後だ!!今は目の前の敵を仕留めるぞ!!!」
「え?あ、ああ!!後でちゃんと話す!今は弟の仇取らせてもらうぞ!って死んでないけどな・・・」
そう言って銃を向けて詰め寄ってゆくと
「くそ・・・もう腹括るしかねえか・・・おいバカ猿、お前は下がってろ」
「仕方ありません・・・手を出すなと言われてますが・・・やむを得ないでしょう・・・」
やるしかないと判断したらしい悟浄は刃と鎖の付いた錫杖を、八戒はバクナグを出して構えた
「いいじゃねえか!やっとやる気になりやがったな!!しかも猿まで連れてきたのか!!でかしたぞキンジ!!こいつらぶっ殺すのが俺がここに来た目的だったんだからよ!!」
「氷牙!こいつ等や藍幇にはレキや金三がやられて恨みがあるのは分かるけど・・・殺すなよ!?」
そして一触即発な空気の中
「う・・・うぇぇ・・・ふぇぇぇえぇん」
どういうわけか孫悟空は泣き出し
それを見て氷牙は余計に殺意を沸かせた
「オイコラ・・・今さら泣いて謝れば許してもらえるとか思ってねえよな?俺はキンジと違ってそこまで甘くねえぞ・・・」
「待て氷牙!どうも様子がおかしい!なにかあるぞ!」
「関係ねえよ・・・全員まとめてぶっ殺してやるよ!!」
そう言って氷牙が突っ込み
「ああくそっ!!殺すなって言ってるだろ!!」
キンジもそれに続き
「こうなりゃやけだ!!やってやるぜ!!」
「こちらも死にたくありません、全力で行かせていただきます!」
悟浄と八戒も迎え撃つように突っ込んできた
「ラアァァァァァァ!!!」
「おっしゃぁぁぁぁぁ!!!」
そして先陣を切った氷牙と悟浄がぶつかる直前
――バッシャーーーン――!!
突如別方向から大量の水をぶっかけられた
「ぶはっ!?冷てぇ!?」
「がはっ!?なんだ!?」
そして水びだしになった氷牙と悟浄が一度止まり横を見ると
「「うお!?眩しい!?」」
バケツを持った坊主頭がとてつもなく眩しい坊さんが何やら中国語で怒鳴っていた
そして中国語が分からないキンジは
「ええと・・・怒ってるのは間違いないみたいなんだが・・・なんて言ってるんだ?」
そう聞くと八戒が
「・・・『寺で武器を出すな!!』だそうです・・・」
と通訳してくれた
「あ・・・そうか・・・」
寺や神社、教会は聖域、どんな悪党が逃げ込んでもドンパチやっていい場所じゃない
キンジと八戒・悟浄は一度顔を合わせて戦うのをやめようとしたが・・・
「ああ!?知ったことかよ!!邪魔しやがって・・・何ならお前から神のもとに送ってやろうか!?」
機嫌最悪で怒れる魔王状態な氷牙は当然収まるわけもなく坊さんにつかみかかろうとして
「お、おい氷牙落ち着け!!その人は一般人だぞ!!」
「ま、待て待て!!わかった!!俺達が悪かった!!これまでの事謝るから!!いったん落ち着こうぜ!?な!?」
「お願いですから落ち着いてください!!これまでの私達香港人の非礼は心からお詫び申し上げますから!!どうかここは抑えてください!!」
後ろからはキンジが
前からは悟浄と八戒が大慌てで抑えかかり完全に戦いどころではなくなってしまった・・・