時間はさかのぼって600便が空き地島に着陸した直後
「ん?これは・・・」
俺はボスの首にぶら下がっているドックタグを引きちぎるとそこから敵の意外な素性が判明した
「な!?・・・こいつ・・・アメリカ軍の兵士だぞ!?」
「何!?」
ラッシュもドックタグを見ると顔を驚愕の色に染めた
「こいつらテロリストなんかじゃない・・・」
「敵は俺と同じ・・・アメリカ兵だっていうのか・・・」
・・・コイツもファング絡み・・・だとしたら・・・
「まさか・・・ファングの野郎・・・アメリカ軍まで飼い慣らしてるのか・・・」
「ファング?まさかワイルド・ファングのことか!?なぜ君がやつがこの件に絡んでいるのを知っている!?」
「・・・それは」
『ッ!?大尉、VSSEから情報です!そちらの氷牙武偵・・・かつてマッド・ファングと呼ばれた少年です!』
「なっ!?まさか君が!?」
『今こそ放免され武偵になっていますがかつてはファングの影としてドッグのもとで共に生きていました』
「・・・ああ、その通りだ」
「そうか・・・いや、これは幸いと呼ぶべきなのか・・・ベス!氷牙君は今回の事件の証人になるぞ!」
「証人?」
『大尉、本部からは氷牙武偵、レキ武偵両名に他言無用との条件付きであれば大尉の一存で話すことを許可されました』
「了解した、順を追って話そう、まず空港で何度も襲ってきた虫、あれの正体は我が軍が極秘に開発した生物兵器・・・通称「テラーバイト」だ」
やっぱりあれの正体知っていたのか・・・
「既に一部が流出して奴らに悪用されている。俺の任務は流出したテラーバイトの取引の阻止・・・だったというべきか・・・」
まあ、そりゃあ話せないよな・・・自分の国が作った兵器が盗まれて悪用されて世界中に被害被らせているんだ・・・その上、横流しした犯人が同じアメリカ兵ときた、こんなの公になれば自国の面子は丸つぶれだ・・・極力秘密裏に処分したいに決まっている・・・
「どうやら状況が少しややこしくなってるようだな」
「ああ・・・さらなる調査が必要だが・・・申し訳ないが君にもとことん付き合ってもらうある必要があるみたいだな・・・安心してくれ、俺達が責任もって―――」
「ん?」
一台の車がこちらに向かってくる
「誰か来るぞ・・・」
そして車からスーツを着たインテリ風な男が屈強な男達を連れて降りてきた
なんというか・・・いかにもいけ好かないやつだな・・・
「九狂武偵だな?」
「・・・そうだがあんたらは?」
「・・・防衛庁と言えばわかるか?」
防衛庁・・・600便を・・・キンジたちを見捨てた奴らか・・・
「・・・今更何しに来た?」
「羽田の通信中継機を破壊したことについて君を拘束させてもらう」
「・・・・・」
「君が中継機を破壊したせいで我々は600便と連絡が取れなくなり危うく墜落させてしまうところだったのだ」
「――は!?」
こいつら・・・600便を見捨てた言い訳を俺の妨害のせいにするつもりか・・・
こいつらは俺をスケープコートに・・・生贄にするつもりだ!
金一さんの時と同じように!
「ふざけんな!600便を・・・俺の仲間を見捨ててどの口がいいやがる!」
だがインテリはそんなんことは知ったことかと
「君に拒否権はない!連れていけ!」
部下が氷牙を拘束しようと向かってくる
「氷牙さん!!」
「レキ!お前は手を出すな!」
手を汚すのは俺だけでいい・・・俺は銃を抜くが・・・
「抵抗するな!仲間がどうなってもいいのか?」
「・・・・・・っ」
こいつ・・・抵抗するなら仲間たちに危害を加えるってか・・・
「あんたらの方がよっぽどの悪人だな・・・」
「悪く思うな、それがこの世界での賢い生き方だ」
こいつら・・・完全に俺達武偵を消耗品扱いしてやがる・・・
「武器を捨てろ、君には我々のために犠牲になってもらう」
インテリは勝利を確信してるのか口元を歪ませていた
そんな中・・・
「残念だがそう思い通りにはいかなさそうだな」
突如ラッシュが口を開いた
「え?」
ラッシュは道路の向こうを見ると
「迎えが来たな」
そう言い、俺たちもラッシュが見た方を振り返ると
また別の車が来た
あれは・・・外交官ナンバーの車だぞ!
そして初老の男性が降りてきたなんというか・・・紳士という言葉がぴったりな男だ・・・
「防衛庁の皆様、申し訳ありませんが彼をこちらに引き渡していただきます」
「なんだお前らは!?」
「米軍統合監察部といえば理解していただけますか?」
「な!?」
インテリが顔をしかめた
「彼を重要証人として身柄を保護させてもらいます」
「だが・・・こいつは・・・」
「いいのですか?我々は世界中から目的遂行のためにならあらゆる障害の排除を認可されています。もし我々の障害になるようでしたら・・・たとえあなた方であろうと、この場で排除、最低でも国際問題になりますよ?」
「クッ!!」
インテリがまるで苦虫を噛み潰したような顔になる
それもそうだ、せっかく体のいい身代わりを見つけたというのにそれを掠め取られたのだ
そうなれば今回のことは全部自分たちで責任を取るしかない、つまりはこの先氷牙に味わせるはずであった絶望を自分たちで味わう結果になってしまったのだから、それがどれだけの苦痛か自分たちが一番よくわかっているだろう・・・おまけに言い訳を捏造したことまで明るみになればその苦痛は計り知れない
でもなんでこんなタイミングよく?・・・もしかして・・・
「大尉・・・」
俺はラッシュを見ると
ラッシュは微笑んで
「この事件には君の協力が必要だからな、それに言っただろ?借りは返すぞと」
そう言った
「では、九狂武偵、レキ武偵、どうぞこちらへ、医者を待機させておりますのですぐに診ていただきましょう。」
「ああ、行くぞレキ」
「はい」
そう言って外交官ナンバーの車へ乗り込もうとすると
「待て!」
インテリは顔を伏せ呼び止めてきた
「まだ何か?これ以上邪魔するならば排除に移させていただきますよ?」
「そうか・・・ならばキサマらを・・・正当防衛で排除するだけだ!」
そう言って銃を抜く
なっ!?あのインテリ野郎ヤケになりやがった!
米軍側も銃を抜いた
防衛庁と米軍が銃を向け合う・・・
まずい・・・このままお互いに殺し合えば後々両者関係は泥沼になって
最悪第3次世界大戦の引き金になりかねないぞ・・・
だが下手に動けば一触即発な空気に火がつく・・・どうすれば・・・
「おやおや・・・穏やかじゃありませんね・・・」
突然横から場違いなほどに穏やかな声が聞こえてきた
皆が一斉に声をした方向を見ると
男がいた、
本当にそうとしか言いようがなかった
なぜならその男、本当に、男、以外の特徴がなかったからである
そして男の前にある車・・・武偵校の車じゃないか
って運転してるの・・・車輌科の江戸川先生!?
「誰だ・・・あれ・・・」
「わかりません・・・どこかで見たようなそうでないような・・・」
そうすると男はこちらを見て
「ああ、九狂くんとは初対面でしたね、初めまして、東京武偵高校長、緑松武尊です」
「なっ!?」
あれが校長!?・・・初めて見た・・・
武藤達が言ってたとおり、本当に・・・男で・・・って特徴しか無い・・・
すると防衛庁のインテリが
「貴方が校長か、そちらの九狂武偵は重要参考人だ!身柄の引渡しを要求する!」
と要求し
それに続くように米軍の紳士が
「申し訳ありませんがそちらの九狂武偵は大事な証人です、保護を要求します身柄をこちらにあずけてもらいます」
と要求してきた
どちらも武偵校の立場を考えれば無下にはできない要求だ
だが片方の要求に答えればもう片方には答えられない。
すなわちどちらかを選べばもう片方を敵に回すことになる
そんな正解のない二択を迫られたというのに緑松は動じることもなく
「まあ、積もる話は一度武偵校に行って話し合いましょう、一名、手当てが必要な人もいますからね」
そう言って緑松は俺の後ろにいるレキを見た
「・・・・・・」
誰も反論する者はいなかった、いや、出来なかった
本能が告げている・・・こいつを敵に回してはいけない・・・と
そしてハイジャック事件から一夜明けた朝
「ハァ・・・」
教務科、綴は取調室の机の前でタバコを消しながらため息をついた
原因はもちろん向かいに座っている武偵、九狂氷牙だ
あの後俺たちは全員武偵校へ向かい、レキは負傷者ということで武偵病院へ運ばれ、俺は事情聴取という形で取調室に連れて行かれた
確かにこうすれば俺をここに留めておける言い分は立つ・・・
そして綴も緑松から「できるだけ時間をかけて取り調べてください」と言われこうして2人して取調室にほぼ軟禁状態になっていた
「九狂ぉー・・・お前の行動、目に余るぞぉー・・・」
「・・・・・・」
言われてみれば無理もなかった、この数ヶ月で氷牙は
犯罪者だけではなく一般人や新聞記者まで片っ端から病院送りにして、
いくつものクエストを正規の手続きを踏まずに無断でこなして
羽田空港の一角半壊させて使用不可能にさせて
挙句の果てには防衛庁の中継機にRPGー7ぶちかまし破壊したのだから
とはいえ綴・・・というか武偵校からの本音を言ってしまえば・・・
「まぁーそんなことは別にどうでもいいんだけどぉー・・・」
それより問題なのは隣の部屋で言い争っている連中・・・
防衛庁の幹部、そして米軍の幹部が軍将校連れて訪れており
校長の緑松の前で氷牙の処遇について未だに揉めているのだ
「防衛庁はお前を重要参考人として身柄の引渡しを要求してるらしいし・・・米軍はお前を重要証人だからって身柄の保護を要求してるらしいし・・・お前ホントに何やらかしたんだぁ?」
「・・・・・・・・」
「おい九狂ぉー?聞いてるのかぁ?」
「・・・・・・・」
氷牙は俯いたまま答えない
「・・・九狂ぉ?」
綴が氷牙の顔を覗き込むと
――ガタンッ
氷牙がいきなり机に突っ伏した
「九狂ぉ?どうしたぁ?」
――グゥウウウウー
「・・・へ?」
突然聞こえてきた唸り声のような音の後
「腹・・・減った・・・・」
氷牙はそうつぶやいた
そう言えば氷牙はここ数日ろくに食事も睡眠も取っていなかった
「・・・・・・ハァ・・・」
綴は携帯を取り出し
「あーもしもしぃ?教務科の綴だけどカツ丼2つ取調室まで持ってきてぇ」
氷牙は突っ伏したまま右手を上げて
「あ、1つ・・・大盛りで・・・」
「・・・・・・」
銃床で殴ってやろうかと思ったが・・・
「2つとも大盛りでぇ、大至急なぁ」
面倒なのでやめた
携帯をしまうと綴は銃の代わりにタバコを取り出して一服して
「お前・・・いい根性してるよぉ・・・」
そう言って煙を吐き出した
「はぁ・・・やっと終わった・・・」
氷牙が解放されたのはその日の昼過ぎのことだった
結局、綴とカツ丼食った後今回のことを一切他言しないことを条件に解放、
というか結局平行線のまま決着がつかず『全てを無かったことにしよう』という形で決着がついた。
なので俺は今回のことを一切他言しないという誓約書にサインしてようやく解放されたのだ。
ラッシュ大尉も「君には手が出せなくなったがこの任務には君の協力が必要だ。今後調査が進めば君に依頼という形で協力を要請しよう」と言われいずれ特別依頼としてまた俺の元へ来るそうだ・・・
ちなみにカツ丼の代金は2つとも俺持ちだった
でもよ・・・カツ丼2つでなんで代金が6桁いくんだよ!?
頼んだの絶対カツ丼だけじゃねえだろ!
しかし今回のことで色々後始末をしてもらっているためNOとは言えなかった・・・
最後に、無断で勝手にこなしたクエストについてはお咎めはなし、ただし報酬は無し・単位は半減して付与という形でまとまった。
ちょいと聞いた話じゃどうやら報酬の総額7桁いってるらしいが・・・それはいったい誰の懐に入るんだろうな?
そして教務科を出ると
「お疲れ様です氷牙さん」
レキがいた
俺が壊したからかヘッドホンはしておらず
右腕は吊っていたが・・・
「レキ?どうしてここに?」
「貴方を待っていました」
「俺を?」
そう言ってレキが俺に刀を差し出してくる
そういえば添え木がわりにしてそれっきりだったな
「あ、これ俺の刀か・・・わざわざありがとな」
そう言って刀を受け取る
「それと・・・悪かったな・・・俺に付き合ってもらったばっかりに腕・・・怪我させっちまって・・・」
「あなたが気に病む必要はありません、あの時言ったようにこれは私の不注意です」
「・・・そうか・・・ありがとうな・・・」
「構いません」
「じゃあ・・・俺帰るわ・・・」
「はい」
そして俺は寮へと向かう
―トコトコ・・・
とりあえず帰って寝よう・・・
考えればここ数日まともに寝ていない・・・眠すぎて頭がまともに働かない・・・
―トコトコ・・・
でもその前にキンジとアリアの所に顔出すか・・・
―トコトコ・・・
あーでもあいつらも事後処理と反省文で大変そうだからな・・・なんか差し入れ持ってくか・・・
―トコトコ・・・
・・・・・・
―トコトコ・・・
―ピタッ
俺は足を止める
―ピタッ
後ろも止まる
「・・・・・・」
―スタスタ
少し早足で歩く
―スタスタ
後ろも早足になる
「・・・・・・」
―スタスタ・・・ピタッ
急に止まってみる
―スタスタ・・・ピタッ
後ろも寸分たがわず止まる
「・・・・・・ハァ」
俺はため息をつき、後ろにいる人物に・・・
「・・・なあレキ?」
レキに尋ねた
「はい、なんですか?」
「どうして付いてくるんだ?」
どういうわけか教務科からレキがずっと付いてきていた
RPGのパーティじゃねえんだから・・・気配抑えて無言で後ろをついてくるなよ・・・
それを聞いてレキは淡々と
「私は貴方の物ですから」
と爆弾発言をした
「は?」
・・・寝不足で俺の耳がいかれてるのかな・・・今レキはなんて言った?
「レキは・・・俺の物?」
レキはこくりと頷き
「ええ、それにしても驚きでした」
「え?」
「氷牙さんがウルスの契の義に精通してるなんて思いませんでしたので」
「え?契の義!?それって・・・」
「あなたは言いました。その命は俺の物だと。そして私はそれを承諾しました。」
いや・・・確かに言ったけどさ・・・それは命はって意味でそれ以外は別・・・
「だから私は掟に従い氷牙さんに仕えます。貴方は私の銃をあなたの武力として、私の身体をあなたの所有物として、自由にお使いください」
「・・・お、おい・・・」
「花嫁は主人の言うことにならなんでも従います。貴方に仇為す者には一発の銃弾となり、必ずや滅びを与えんことを誓います」
あ・・・それなら、そんなことしてもらわなくても自分で滅ぼすから・・・ってそういう問題じゃなくて・・・
「ウルスは一にして全、全にして一。これからは私たちウルスの47女、いつまでもあなたの力になりましょう」
そう言ってレキは決められた文言を暗唱するように淡々と述べ
そして俺を見つめたまま直立不動で微動だにしなくなった
えーとだ、今の話を要約すると・・・
つまり俺は・・・知らぬ間にレキにプロポーズしちまったのか!?
そしてレキはそれを承諾しちゃったのか!?
「ま、待てレキ・・・俺はそんなつもりで言ったんじゃなくて・・・」
「・・・それとご存知かと思いますが花嫁に対する裏切りは死をもって償っていただきます」
レキはすっとドラグノフを構えてきた
なるほど、ベルトを肩にかけたまま腰だめに構えれば片手でも撃てるし、この距離なら問題なく当てられるな・・・
って、そんな冷静な判断してる場合じゃねえだろ!
「・・・え、ええっとだな・・・」
ヤバイ・・・このままじゃ俺はレキの主人になっちまう・・・
だけどいまさら断れば俺は撃たれる・・・
俺は寝不足の頭を必死で動かし言葉を選ぶ
「・・・俺はホントのこと言うとウルスとかについては全く知らなかった。いきなりレキを花嫁にとか自分の所有物にしろとか言われても無理―ジャキッ―だ、だからさ・・・恋人から始めてくれないか?」
・・・・・・あれ?今俺なんっつった?
そんな意味が分からない疑問の中、レキはというと
「・・・わかりました」
といってドラグノフを下ろした
「あなたがそう望むなら結婚を前提のお付き合いから始めましょう」
え?なんか成功しったぽいよ?
「あ、ああ・・・なんつーか・・・よろしくお願いします・・・」
どうやら結婚とか物扱いとかは逃れたが俺はレキと恋人になったようだ・・・
いや・・・もういいや・・・いきなり結婚するとか所有物にするとかよりはずっとマシだし・・・もう頭が動かん・・・考えるのが辛い・・・
「でも・・・ほんとによかったのか?こんな半ば強引に付き合い始めて・・・」
「構いません、それに・・・私自身・・・」
「え?」
「・・・なんでもありません」
そう言ってレキは顔を逸らした
その時の俺の目にはレキは少し顔を赤くしていたように見えた気がした
ツーか寝不足で頭が回んないのは作者の方だ・・・