別の人の視点でお送りします
氷牙と喧嘩別れしてから翌日
キンジはプールサイドで寝そべっていた
蘭豹は昨日綴と朝まで綴のタバコ(らしきもの)を吸いながら酒盛りしたせいで二日酔いでダウンして自習になったため皆適当に遊んでいる中キンジはデッキチェアに寝そべりながら携帯をいじっていた
だが今のキンジには携帯の画面などまるで目に入っていなかった
今月末に受けるクエストの事で頭がいっぱいだったのだから
(これが俺の最後の仕事・・・これが終わればすぐにでも武偵を辞められる・・・)
半年も早く待ち望んだ時が来たんだ・・・いいことばっかりだ・・・
ばっかりなはずなのに…どうしてか・・・喜べない・・・
(これでいい・・・これでいいはずなのに・・・)
俺の中に・・・本当にこれでいいのかと悩んでいる自分がいた・・・
(なんでだよ・・・ずっとこの時を待っていたはずなのに・・・どうして・・・こんなにも悩んでるんだよ・・・これでいいんだろ?俺は・・・武偵を辞めたかったんだろ?なら・・・これでいいじゃないか・・・何も悩む必要なんかないじゃないか・・・)
そう自分に言い聞かせていると
「おーい!みんなプールからどけ!今から入水するぞ!」
「『ボストーク』発進なのだ!!」
何やら騒がしい声が聞こえてきてプールを見れば・・・装備科の平賀が武藤と一緒に潜水艦を浮かべて遊んでいた
平賀か・・・そういえばあいつに改造してもらったM92F・・・3点バーストが不調なんだよな・・・2発しか出ないしその2発がほぼ同時に出る・・・近いうちに修理してもらわないとな…でないといざとゆうとき・・・
(って・・・何考えてるんだ・・・もう武偵を辞めるのにそんなこと考える必要もないだろう…武偵を辞めれば銃ともおさらばだ・・・ならもうメンテする必要もない・・・)
そう思いちらりと武藤と平賀さんを見る
(とゆうか平賀さんも・・・無邪気に授業サボって男の集団に遊びに来るなよ・・・この授業一応男女別なんだぞ・・・)
まあ平賀さんは女性というより子供だからヒスる心配は無いがな(とゆうかもし平賀さんでヒスったりしたら俺は自分の頭を銃でぶち抜くぞ・・・)
そう言えば水泳の授業は男女別になっているがアリアはどうしてるだろうか…
アイツ確か泳げないんだよな・・・浮輪に加えて手足にミニ浮輪を付けても溺れかけている姿が目に浮かぶな…
俺がいなくなったら・・・アイツどうなるのかな・・・新しいパートナーに氷牙あたりでも勧誘すんのかな?
でも今の氷牙は・・・武偵とゆうよりは傭兵だ・・・それにあいつにはレキもいる・・・
アリアの奴…俺がいなくなってもちゃんとしたパートナー見つけられるのかな・・・
アイツ…意地っ張りで何でも一人で抱え込もうとするからな…
やっぱりちゃんとした奴が見つかるまでは・・・
(って・・・だから俺は何を考えてるんだ・・・俺は武偵を辞めるんだろ…なんでそんな余計なことまで考えちまうんだよ・・・)
何か考えるたびに未練がましいことを考えてしまう・・・これじゃあ氷牙の言う通り本当に武偵を辞める気があるのかも怪しいものである
(クソッ!もう寝ちまおう!そうすりゃ何も考えなくて済む!!)
そう思いキンジは携帯を閉じて目を腕で覆うと
「ようキンジ、どうした?浮かない顔して?」
武藤が声を掛けてきた
「武藤か・・・別に・・・なんでもねえよ・・・」
「なんでもないことないだろ?どうせあれだろ?アリアと喧嘩でもしたんだろ?」
「・・・そんなんじゃねえよ・・・」
そう言ってキンジは武藤に背を向ける
「・・・お前ってホントめんどくさいけどわかりやすい性格してるよなー」
「は?何の話だよ?」
「さっきからお前の全身から「何かありました、構ってください」ってオーラが溢れ出てるぜ?」
「なんだよそれ・・・」
「ったく、お前もアリアも似た者同士なんだからお互いの事はよくわかってんだろ?そんな難しく考えなくても当たって砕けりゃたいていの事は水に流せる中じゃねえかよ」
「お前、さっきから何言いってんだよ・・・」
「ああ、要はだな・・・うだうだ考えてんじゃねえよ!こうゆうときはいっぺん遊びにでも誘って仲直りすりゃいいんだよ!こんな風にな!!」
そう言って武藤はキンジから携帯を取り上げ・・・
「カチカチカチッと、ほい送信!」
「な!おい勝手に何してんだ!!」
そう言って武藤から携帯を取り返すが画面には
『送信しました』
と無慈悲な画面が現れていた
慌てて送信ボックスを確認してみる
メールの差出人は・・・もちろんアリア
そして内容は・・・
『親愛なるアリアへ、この前は済まなかった。お詫びと言っては何だが今度、二人っきりで七夕祭りに行かないか?七日の七時に上野駅のジャイアントパンダ前で待っている。PS,可愛い浴衣着てきてくれたらうれしいな』
だった・・・
お前・・・あの数秒でこの文章作成したのか!?
あらかじめ考えていなけりゃとてもできない文章だ・・・さてはこいつ初めっからこうするつもりだったな!!
「もう後には引けねえぞ!さあキンジ!観念して夏をエンジョイして来い!」
「できるかぁー!!」
そう叫び俺は武藤をプールに投げ飛ばしミニチュア潜水艦に叩き付けた
だが武藤は満足そうな顔で親指を突き上げながら潜水艦ごと沈んでいった。お前はどこのターミネーターだ!二度と戻ってくるな!
「し、進水直後で撃沈・・・ここまで再現するとは遠山君も通なのだ・・・」
平賀さんが何か言っていたが今の俺にはもうそれどころではなかった
最悪だ…
ただでさえ頭の中がパンク状態なのに・・・
悩みの種が余計に増えた・・・
同時刻、強襲科射撃場
アリアは水泳の授業を抜け出して射撃場にいた
―――バキュン、バキュン、バキュン、バキュン、バキュン――
アリアは朝からずっとガバメントを構えて休むことなく一心不乱に的を撃ち続けていた
何発も何発も何発も・・・装弾がなくなればすぐにリロードして撃ち続け・・・
アリアの足元には大量の空薬莢やマガジンが散乱していた・・・
―――バキュン、バキュン、バキュン、バキュン、バキュン――
何かに取憑かれたように打ち続けるさまはまるで修羅のようでとても近づける雰囲気ではなかったためか・・・射撃場にはアリア以外は誰もいなかった
だがそんな雰囲気に物怖じしない人間が一人入ってきた
「やあ神崎さん」
不知火だった、アリアに近づいて声を掛けるが
「・・・・・・・・・」
アリアは何も返さず聞く耳を持たずに撃ち続ける
―――バキュン、バキュン、バキュン、バキュン、バキュン――
「神崎さん?」
「・・・・・・・・」
―――バキュン、バキュン、バキュン、バキュン、バキュン――
「・・・・・・・ふぅ」
不知火は腰から銃を抜くと
――ダァン――
先ほどからアリアが一心不乱に撃っているターゲットにめがけて発砲し撃った弾丸は・・・
――バキン――
ターゲットを吊っている金具を撃ち壊しターゲットを落とした
「え?」
ターゲットがなくなったことによりようやく我に返ったアリアは真横を見ると
「やあ、神崎さん」
銃を構えながらもさっきのことなどまるでなかったように声を掛ける不知火がいた
「不知火・・・」
「ずいぶん荒れた射撃だね、何かあったのかい?」
アリアはガバメントを台の上に置くと言った
「ええ・・・あったわよ・・・それに・・・アンタ本当は知っていたんでしょ?」
「知っていた?何の事だい?」
「とぼけないで!キンジと氷牙とレキ・・・『ゴールド・フェンリル』が解散した本当の理由をよ!」
「・・・・・・・九狂君から聞いたのかい?」
「ええ・・・」
「そうか・・・九狂君もそれに関することは思い出したんだね」
「―――ッ!?なんであんたがそれを!?」
氷牙が記憶喪失になったことは混乱を避けるためにキンジやレキといったごく一部の人間しか知れされていないはずなのに・・・
「ああ・・・やっぱり九狂君は記憶を失っているんだね」
「――!!あんた・・・」
どうやらカマをかけられたようだ・・・
「すまないね、言いふらす気はないから安心していいよ、それに一方的に情報を提供させられるのはフェアじゃないからね・・・それでさっきの質問対する答えなら・・・イエスだ。あの時僕も事件の一部始終を目撃していた・・・だが徹底した情報操作のあと教務科からは一切の口外を禁じられた・・・だから相手が誰であろうと解散した理由については知らぬ存ぜぬを通すしかなかったんだ・・・」
確かに・・・本来ならば徹底した情報操作と緘口令の下に闇に葬られてゆくはずの事件だ・・・あと2年もすれば当事者たちは全員卒業して、やがてはすべて過去の出来事になり時とともに忘れ去られてゆく手はずだったのだろう・・・
その証拠に4月から転校したアリアはあの事件については氷牙から聞くまでは何も知らなかったし今の一年生にだって「『ゴールド・フェンリル』を知っているか?」と聞いても「今は解散した武偵校始まって以来の最強の一年生コンビと呼ばれた伝説のコンビ名」としか答えないだろう。
「じゃあその活動詳細は?」と尋ねたら「ええと・・・確か高難易度の任務を数多くこなしていたって聞いてる」としか答えられないだろう。
「なんで解散したか知ってる?」と尋ねても「知らないよ」か、いいところでも「三角関係のもつれじゃなかった?」と答えるのがやっとだろう。
そう考えていると突然アリアの携帯が鳴る
「ん?メール?誰かしら?」
そう言ってアリアは携帯を開く
「な!?な、ななな・・・・」
そして見る見るうちに顔が赤くなっていった
「どうしたんだい神崎さん?」
「な、何でもないわ!ほら!もう用件は終わりでしょ!ならさっさと行きなさいよ!!」
「ふふ、そうだね。じゃあ僕はこれで失礼するよ」
何かを察したらしい不知火はそう言って射撃場を後にしようとするが
「あ!やっぱちょと待ちなさい!」
出ていこうとする所でアリアに慌てて呼び止められた
「アンタに氷牙の情報を提供したんだからこっちも情報を提供してもらうわよ!一方的ってのはフェアじゃないんでしょ!?」
「ああ、確かにそうだね。それじゃ僕は何を教えればいいんだい?」
「ええと・・・その・・・」
アリアはしどろもどろになりながらも尋ねた
「このあたりで・・・浴衣売ってるところ知らない?」
「へぇ・・・浴衣かい?もしかしてさっきのメールは遠山君からデートの誘いかい?」
「な!なん――ってまたカマかけようったってそうはいかないわよ!!2度も同じ手に引っかかるアタシじゃないわ!い、言っとくけど警備の練習に夏祭りに行くだけだからね!アイツが二人っきりで七夕祭り行こうとか、カワイイ浴衣着て来いよとか言うからお洒落しようってわけじゃないからね!」
完全に語るに落ちていた
「そうかい・・・そういうことなら、いい店があるよ」
「ホント!?」
「その代わりと言っては何だけど神崎さんに頼みがあるんだ…」
「頼み?何よ?」
「遠山君を助けてあげてくれないか?」
「キンジを・・・助ける?」
「あの事件を境に遠山君は塞ぎ込んで戦えなくなってしまった・・・それなのにここまで立ち直れたのは九狂君や・・・神崎さんがいてくれたからだ・・・でもまだ駄目だ、遠山君は今でも武偵を辞めるつもりでいる、今尚全てから目を背けている・・・完全に立ち直らせるには彼のことを理解できる誰かが手を差し伸べて背中を押してあげる必要がある・・・」
「だからって・・なんであたしが・・・それなら氷牙でも・・・」
不知火は首を左右に振ると
「見た目ではかつてと変わらない関係を装っていたけどあの事件以来遠山君と九狂君の間には深い溝ができてしまったんだ・・・互いに信頼はしてるけど壁一枚を隔てている・・・そんな一線を引くようになってしまったんだ・・・その上今の九狂君は記憶喪失になっている・・・そんな人間の生半可な声なんて届くわけがない・・・」
「・・・・・・・・・」
「九狂君はずっと遠山君が立ち上がることを信じていた・・・だから・・・その意思は誰かが継がなくちゃいけないんだ・・・そして今の彼に声を届かせることができる人間がいるとすれば神崎さんしかいないんだ・・・」
そう言われてもアリアは迷っていた
そんな事言われても氷牙から真実を語られるまで何も知らなかった自分が二人の間に何て口出ししていいのか・・・
それが今アリアが荒れている理由でもあったからだ・・・
だが・・・
「そんなの・・・どうだっていいわよ・・・アイツが本当に武偵を辞めるならアタシは止めないわ・・・」
「でも・・・」
アリアは不知火を見据えると
「アイツはあんなところで腐っていい奴じゃないわ!俯いて迷ってるだけなら・・・迷ったままでもアタシが首輪つけてでも前に引っ張ってやるわよ!!」
いつだってそうだ、アリアは・・・キンジとは違って考えるよりも先に行動する真っ直ぐな奴だった。
だがアリアはハッとすると
「べ、別にアイツが心配だからじゃないわよ!本当にこんな中途半端なところで武偵を辞めるような意気地無しならアタシが止めるような価値もないわ!ただ・・・アイツはアタシの奴隷よ!奴隷の面倒は最後まで見るのが主人の務めよ!」
と顔を赤くしながらもそっけないふりをして言った
本当にこういうところはアリアもキンジと同じで面倒くさいが分かり易い性格である
「ああ、それで十分さ、二人の事頼むよ。それで浴衣を売ってる店だったね、それなら―――」
そう言って不知火はデート向けの浴衣を売っている店を紹介した
その後、不知火が強襲棟を出ると一本の電話がかかってきた
『よう不知火!こっちの仕込みはばっちりだぜ!』
「こちらもだよ武藤君。ターゲットにも効果はてきめんだ」
『ああ!しっかしこんな計画立てるなんてお前もなかなか悪だな!ま、楽しんでる俺も人のこと言えないけどな!!』
「何、ちょっとしたおせっかいと冷やかしさ。まあ、あとは二人にゆっくりと楽しんでもらうか。言っておくけどこっそり尾行とかして邪魔しちゃだめだよ?」
『・・・それはやめとくよ・・・たぶんあいつらにそんなことしてもすぐにバレてとっ捕まるのがオチだ・・・』
「そうだね、そういうわけだから僕たちはここらで一旦引き下がることにしよう」
『そういやよ、もう片方のもどかしい奴らの方はいいのか?』
「ああ、そっちは大丈夫さ。遠回りしながらも何だかんだで進行はしている。今は何もせずに見守るのが最善だろう」
『了解!覚悟しろよ・・・夏休み終わったらどこまで行ったか根掘り葉掘り問い詰めた後装甲車で轢いてやるぜ』
「ははは、殺さない程度にね」
そう言うと二人の電話は切れた
「遠山君も九狂君も神崎さんもレキさんもこんな所で立ち止まっていい器じゃない・・・何としてでも立ち上がってもらわないとね・・・」