ちょっと伏線も張ります
8月31日
夏休み最終日にして・・・
「やっと正面から堂々とここから出ていける日が来たぜ!」
そう言って氷牙は患者服から私服に着替えていた
「ああ、今日で一応退院だからな・・・」
「ホント一応ね・・・」
アリアとキンジはあきれながらも突っ込んだ
氷牙は今日で病院を退院だ・・・だが夏休み終盤に至っては毎日のように脱走していたもんだから本当に今更って感じだ・・・
「まあ、矢常呂先生もあきれ果てて「もう出ていってください!」って言ってたしな・・・ならこっちもお望み通り喜んで退院させてもらうさ」
「・・・本当にお前、一ヶ月前は死にかけの重症患者だったんだよな?一ヶ月足らずで脱走できるまでに回復して、本当に夏休みが終わるまでに退院したんだからお前本当に人間なのかって疑いさえあるくらいだぞ・・・」
「傷の直りは人何倍も速いのが取り柄だからな!どうだ?この後強襲科棟行って久しぶりに二人で暴れるか?お前も探偵科で腑抜けてナマッた体にはちょうどいい運動だろ?」
「お前、激しい運動は禁止だって釘刺されたばっかりだろ!この前の放しの時だって、暴れまわったせいで最後辺りで傷口開いて緊急手術室に担ぎ込まれてたじゃねえか!」
「そうよ!キンジの調教はアタシがやっておくから!バカな事言ってないでアンタはまだ大人しく生活してなさい!それに・・・今日は用事があるんでしょ?」
そう言われて俺はハッとして
「ああ、そうだな。確かにお前達と喧嘩してる場合じゃなかったな・・・」
そしてアリアに説教された後、氷牙は病室を後にして病院入り口に向かうとそこに誰かいた
「よう、今日で退院やってな?」
「蘭豹先生?何でここに?」
「ほれ九狂、お前に届けもんや」
そう言って蘭豹が渡してきたのは・・・
「これは・・・武偵手帳?」
「開けてみや」
そう言われて手帳を開いてみると・・・
そこに写っていた顔写真は白髪で赤目、顔の左側には大きな傷がついている男、見間違うわけもなく氷牙であった
「お前のや、やっと再発行されたで」
「俺の・・・武偵手帳・・・ハ・・・ははっ・・・」
氷牙は突然笑い出した
「氷牙?どうした?」
「どうしたもあるかよ・・・」
そう言うと氷牙は手帳を見せてきた
「見ろ・・・めでたく・・・Eランク武偵に就任だ・・・」
そう・・・再発行された武偵手帳のランクには・・・Eと記入されていたのだ・・・
「一年Sランクの三人全員・・・これで全員仲良くEランクに都落ちだな・・・」
「にしてはスッキリした顔してるぞ?」
「・・・まあな・・・なんか・・・肩の荷が降りた気分だよ・・・」
「ほら、アンタこんなとこで思いふけってる場合じゃないでしょ?」
「っとそうだった!んじゃありがとな!」
そう言うと氷牙は寮へと走っていった
そして・・・
「それと遠山?おまえにも校長からこいつ預かってたで?」
そう言って蘭豹はキンジに一枚の書類を渡した
それは・・・
「俺の退学届け・・・ですか・・・」
「後はそいつにサインすりゃすぐに武偵を辞めれるそうや」
それを受け取ったキンジは・・・迷わず書類を破り捨てた
「すみません、やっぱり退学の話は無かったことにしてください」
そう言うと蘭豹は特に驚いた様子もなく
「そうか、んじゃ校長にはウチから伝えといたる」
と面倒くさくも嬉しそうに言った
「はい、お手数をおかけしました」
「別にええ、そんかわり・・・もうケツまくるなや?」
そう言って蘭豹は戻っていった
「ああ、上等だ!もう逃げるもんか!!」
そして氷牙が寮に戻ると自室のドアを開けて呼びかけた
「レキ!今すぐ準備し「もう終わってます」あ・・・」
そこには先日ヴィーナスフォートで買った浴衣を着たレキがいた
「まだ何も言ってないんだけどな・・・」
「夏祭りに行くのではないのですか?」
「・・・ああ、約束したからな・・今日で夏休みも終わりだ・・・だから最後に一緒に行こう・・・」
「はい」
そう言って二人は自然に手を繋ぎ出かけて行った
そして祭り会場に到着すると
「それじゃあ花火が上がるまで時間があるし、屋台を回ってみるか?」
「はい」
方向が決まると二人は屋台へと歩いて行った
だが屋台通りに着くと・・・
「お、おい・・・あの二人・・・」
「ああ・・・間違いない・・・七夕祭りで屋台の景品を根こそぎ取り尽くしたカップルだ・・・」
「マズいぞ・・・ただでさえさっき・・・」
「ああ・・・もうだめだ・・・俺達はもうおしまいだ・・・」
そんな嘆きの声がしてきた
「なんか俺達・・・警戒されてるな?」
「無理もありません、先月の七夕の際は屋台を荒らしまわりました、そう言った危険人物はすぐに手配書を回して同業者に通知するのがこの業界の鉄則です」
「てことは出禁も解けてないのかな・・・」
そんな心配をしながら店を回ってみると・・・
型抜きに行けば・・・
「やめてくれ!さっき銀髪のひょろい兄ちゃんに連続で抜き取られて大赤字なんだ!!」
くじ引きに行けば・・・
「許してくれ!!さっき赤毛の兄ちゃんにイカサマ見破られて高額景品持って行かれたばっかりなんだ!!」
射的に行けば・・・
「カンべンしてくれ!!さっき中学生の男女に景品取り尽くされたばっかりなんだ!!」
金魚すくいに行けば・・・
「勘弁してくれ!ついさっきイケメンな中学生に金魚取り尽くされたばっかりなんだ!!」
案の定遊戯系の屋台は根こそぎ店主に土下座されて門前払いを喰らった・・・しかも、どうやら先客がいて痛手を喰らっていたようだが・・・何があったんだ?
「遊戯系は根こそぎ門前払い喰らっちまったな・・・」
「どうしますか?食べ歩くのでしたらいくらでもお付き合いしますが?」
「いや・・・それも何か気になることがあって食う気にならないんだ・・・」
飲食店の屋台の店員・・・よく見たら似たような顔ばかりな気がする・・・
しかも気のせいかその店員なんかブレて見えるような・・・なんというか・・・残像がそこにあり続けているような・・・いや・・・きっと気のせいだろう・・・
「さて・・・本当に出来る事が無いがどうするか・・・ん?」
祭りの一角を見れば何かステージが出来ていて先程から騒がしい
何かと見てみれば・・・
「なになに・・・夏のカラオケ大会、飛び入り参加歓迎?」
看板を読んでいると案内役らしき人が声を掛けてきた
「よろしければ出られますか?審査員にはレコード会社やアイドル事務所のスカウトも来ていますからもし彼らの目に留まればデビューも夢ではないですよ?」
「そうだな・・・別にデビューとかには興味は無いけど・・・他にできる事も無いし・・・出てみるか・・・レキはどうする?」
レキも少し考えて・・・
「私も・・・出てみたいです!」
とやる気満々な声で言った
「そっか、なら決まりだ!二人飛び入りします!」
「はい、承りました」
そして俺とレキはそれぞれ飛び入りして歌うことにした
『次は飛び入り参加の方です』
司会がそう言うとまずは氷牙がステージに出た
『それでは――ッ!?』
司会は一瞬ギョッとしたが
「どうしました?片腕片目なの気になりますか?」
氷牙がそう言うと我に返り
『い、いえ!失礼しました!それでは自己紹介と意気込みをどうぞ』
「九狂氷牙、多分今年17歳」
(多分!?)
だって俺自分の生年月日知らねえし・・・
「例え神に逆らってでも自分の思うがままに生きよう、そんな思いを込めてこの歌を歌います」
そしてイントロが流れ
「The time has come and so have I I'll laugh last cause you came to die (その時が来た、そう私にも お前が死にいたる原因を 最後に笑うのは私)」
俺は流調にメタルロック系の洋楽を歌った
「すげぇ・・・流調に歌ってるぞ・・・」「雰囲気と曲が見事にマッチしてるよ・・・」「アイツプロのミュージシャンか何かか?」「彼・・・なかなかの逸材だな・・・磨けば光るぞ・・・」「ビジュアルもあるし片腕片目なのも特徴としてのインパクトがある・・・ロックアイドルとしても売り出せるぞ・・・」「これは何としても引き入れたい逸材だな・・・」
何やら審査員から黒い視線が突き刺さる・・・
この人たち・・・この大会の審査じゃなくて人材発掘のオーディションしてるよ・・・
ま、仮にスカウト来ても全部断るだけだがな・・・
そして俺がステージから降りると次はレキの出番になり・・・
『では自己紹介と意気込みを』
司会が再び先程と同じ質問をしてマイクを向ける
レキはマイクを受け取ると
「私はレキ、この歌は・・・私を変えてくれた人のために歌います」
とだけ言って目を閉じると息を吸い
イントロが流れると
「そっと耳を澄ませればいつも教えてくれたのに、遠い彼方この街じゃ君の声が小さすぎて―――」
レキの声は音量こそ慎ましやかだが本物の歌手のようにとても綺麗な声と正しい音階で歌っていた
そして会場はレキの小さな声を聴き逃がすまいと静まり返り観客の中には涙を流しながら聴き入っている者さえいた
(レキって・・・こんなに綺麗な歌声で歌えるんだ・・・)
気が付けば・・・俺も右目から涙を流して聞き惚れていた・・・
そして歌が終わると
「すいません!私レコード会社の者ですがどこかに所属してますか!?」「あ、てめえ抜け駆けすんな!!」「おい!二度とない原石だ!絶対逃がすな!!」「芸能界に興味ありませんか!?」「もっと大きなステージで歌ってみない!?君なら絶対頂点に立てるよ!!」「何としてもうちの事務所に引き入れろ!!」
レコード会社やアイドル事務所からのスカウトが我先にとレキに詰めかけパニックになりかけている
『ちょ、ちょっと!ステージに上がらないでください!!』
スタッフが慌てて止めるが皆聞く耳持たずだ・・・
「ったく・・・」
俺はレキに向かって駆け出し
「氷牙さん?」
「レキ!逃げるぞ!!」
そう言って手を伸ばすと
「はい!」
レキも俺の手を掴んで走り出した
『え!?ちょっと!?まだ結果発表してない・・・』
そんな言葉を背に俺達は手をつないだまま逃げ出した
そして逃げ回った果てに着いた先は・・・
「ったく、やっと撒いたか・・・」
「ええ、もう追ってくる気配はありません」
俺達は少し高台に上った所にある神社にまで逃げていた
見晴らしはいいが会場から少し離れているため人が来ないので今は俺達しかいない
「ステージに参加して逃げ回って結果的に時間も潰れたな・・・何だかんだでもうすぐ打ち上げ花火の時間だし・・・見晴らしもいいし、このままここで見物するか」
そう言って氷牙がどこか落ち着ける場所を探そうとすると・・・
――パサリ――
氷牙のポケットから何かが落ちた
「氷牙さん?何か落とし――ッ!!」
レキはそれを拾い上げると言葉を止めた
氷牙が落としたのは・・・あの時、七夕祭りの時に書いた短冊だった、それよりもそこに書いてあった願い・・・これは・・・
「氷牙さん・・・これ・・・」
「・・・ああ・・・見られちまったな・・・これ・・・ずっと肌身離さず持ってたんだ・・・必ず自力で叶えるという決心の証にな・・・」
「ですけど・・・この時は確か・・・」
俺は短冊を受け取ると語りだした
「ホントはさ・・・あの日・・・七夕祭りに来ていた日・・・レキに対する想いは思い出したんだ・・・」
「え?」
「危なっかしくて心配で放っておけなくて、だからなのか・・・ずっと守ってやりたかった・・・ずっとそばにいて欲しいって思ったんだ・・・今思えば・・・きっと俺はあの時からレキが好きだって想いは取り戻していたんだ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「あの時・・・自分の意思で俺のそばにいてくれるって言った時は・・・正直嬉しかった・・・何でいてくれるかなんて本当はどうでもよかった・・・レキがそばにいてくれて・・・それだけで十分だったんだ・・・」
「それなら・・・そばにいてくれと言えば・・・たとえあの時の・・・記憶が全て戻っていなかった貴方であっても・・・私は喜んで一生貴方の傍にいました・・・なのにどうして・・・」
氷牙は首を振り
「ダメなんだ・・・あの時の俺はレキの知っている俺じゃない・・・そんな俺がそんな事言う資格なんて無い・・・だから決めたんだ・・・絶対に記憶を取り戻そう、記憶をすべて思い出すまではこの想いは胸にしまっておこう・・・そう決めたんだ・・・」
そう言うと悲しげに短冊を握りしめた
そしたらレキは
「私と同じですね・・・」
「え?」
そう言って同じように短冊を出した
「それは・・・レキも持って来ていたのか・・・」
「はい・・・私もずっと肌身離さず持っていました・・・自分で叶えるという決心の証として・・・」
そう言ってレキも俺に自分の書いた短冊を見せた
「な!?おい・・・これって・・・」
「私も・・・自分が氷牙さんが好きなんだという事は氷牙さんが帰ってくる前に気付いていました・・・ですが氷牙さんが記憶を失くして私の事も忘れてしまって・・・私はこの気持ちをずっと伝えられずにいました・・・だけど本心では貴方に打ち明けたかった・・・だから決めたんです・・・氷牙さんは私にこの気持ちを芽生えさせて私を救ってくれた、だから今度は私が氷牙さんを助けよう、絶対に氷牙さんの記憶を取り戻させよう・・・そして記憶を全て取り戻すまではこの想いは伝えないでおこう・・・そう決めていました・・・」
「・・・そっか・・・ホントお互いそっくりだな・・・相手の事を想い過ぎて・・・自分の事なんてそっちのけにして・・・」
「ええ・・・そっくり過ぎて・・・ずっと背中を合わせてばかりでしたね・・・」
「そして・・・その代価がこれだ・・・二人ともEランクに落ちて・・・俺は片腕と片目を失った・・・」
「でも・・・生きています・・・私も氷牙さんも・・・生きています・・・」
「ああ、そして俺は記憶を取り戻した・・・そしてやっとお互い伝えたい想いを伝えられた・・・この願いも・・・叶った・・・」
そう言うと二人はお互い笑顔になり、氷牙は・・・
「なあ、レキ・・・」
「何ですか?」
「もう一度・・・今度は俺から言わせてくれ・・・俺はレキが好きだ・・・俺が一生守る!だから・・・一生傍にいてくれ・・・」
ずっと言いたかった、けど言えなかった・・・そして先に言われてしまった言葉を今度こそ伝えたい相手に伝えた
「はい・・・私も・・・氷牙さんが好きです・・・愛しています・・・だから・・・一生傍にいさせてください・・・」
そしてレキもずっと伝えたかった言葉と想いを伝え合った
そう言うと二人は抱きしめあい
「・・・レキと会えて・・・本当によかったよ・・・」
「・・・私も・・・氷牙さんと会えて・・・本当によかったです・・・」
そして空に・・・8月の・・・夏休み最後の花火が上がり始め
花火が照らす中、二人は口づけを交わした
『この想いがレキに伝えられる日が来ますように 九狂氷牙』
『この想いが氷牙さんに伝えられる日が来ますように レキ』
次回から2学期入ります
新要素も入れる予定ですので宜しくお願いします