今後とも寛大な心でお付き合いください・・・
9月1日
今日から二学期で俺達は真っ黒な制服を着て始業式に出ていた
この日はこの黒ずくめの制服を着るのが慣例になっているので黒服の生徒が方陣状に並べられたパイプ椅子にズラリと座っている光景はどこぞの軍隊かヤクザの葬式みたいだ・・・
ただ始業式と言っても出欠は取られないためほとんど自由参加なので参加するのは真面目な奴かキンジみたいに内申を下げられたくない奴か・・・
「Zzzzzzz・・・・」
氷牙のようによっぽど暇な奴くらいだ・・・
その証拠にキンジの隣にいる氷牙は足元に寝そべっているハイマキと共に校長の長い演説を子守唄に椅子に横たわって爆睡していた・・・お前何しに来たんだ・・・
「おい氷牙・・・蘭豹がこっち睨んでるぞ・・・寝るなとは言わないからせめてちゃんと座れ・・・」
そう言いながら氷牙をゆすって起こそうとすると
「遠山君、隣いいかい?」
「ようキンジ、無事ダブらずに済んだみたいだな」
反対側に真面目な不知火と同じく暇な武藤が座ってきた
「・・・なんだよ・・・うるせえな・・・」
そして氷牙も起きてようやく椅子に座った
「やあ九狂君・・・話は聞いてるよ・・・いろいろ大変だったみたいだね」
「ったくよお・・・何も教えてくれないなんて水臭えじゃねえかよ・・・」
「・・・不知火に・・・武藤か・・・ああ、仕方がなかったとはいえ何も話せなくて悪かったな・・・しかし・・・」
不知火はパリッとしたシャツとスーツで清潔感あふれる格好で出ているが武藤は無精ひげに・・・
「ところで武藤?お前ずいぶん焼けてるな?海水浴にでも行ったのか?」
真っ黒に日焼けした顔と全く対照的な格好で出ていたのだ・・・
すると武藤は苦い顔をして
「いや・・・ちょっとボートで事故ってな・・・沖合を漂流したんだ・・・」
「へぇ、そりゃあ災難だったな」
「ああ・・・原因はお前の彼女なんだけどな・・・」
あの日、レキと告白した日に冷やかしに来たクラスメイトたちはその後、スランプを乗り越えたレキに一時間足らずで一人残らず狩り尽くされ、その際にレキは宣言通り絶対半径を書き換え約2500メートルの狙撃をやってのけたのだ・・・
そのために武藤はボートで沖合まで逃げたのにもかかわらずエンジンキーを撃たれ漂流する羽目になったのだから・・・
「そう言えばレキはどこ行ったんだ?」
「レキなら始業式の後のマーチングバンドに出るからその控室にいってるよ、俺も後で行かないとな・・・」
マーチングパレード・・・少しでも武偵校のイメージアップを図ろうと行っているセレモニーで大抵は女子があてがわれるのでレキもその当番のようだ
「へえ?やっぱり彼女の晴れ姿は見逃せないのかい?」
不知火が冷やかし気味に聞くと
「いや?俺は見張りだ・・・睨み聞かせなきゃな・・・」
「はぁ?睨みって―――」
キンジが問いかけたところで
『オラそこのガキ共!!いい加減静かにせんと叩き出すで!!』
堪忍袋が切れかけた蘭豹の怒声により会話は切れ
数分後氷牙は再び夢の世界へ向かった
そして始業式後
講堂前の通路では女子たちが突撃銃や狙撃銃をバトン代わりにマーチングバンドを始め、その中にはレキもいてドラグノフ狙撃銃をクルクルと回していた
曲に合わせて時折空に向かって空砲弾を発砲もしてるのが何とも武偵校らしいな・・・
でだ・・・
「どうしたキンジ?さっきから目閉じたままだけど催涙ガスでも喰らったのか?」
「お前・・・俺にはこの光景が目の毒なのは知ってんだろ!」
キンジは叫ぶが当然である、女子たちは皆、短いブリーツスカートをひらめかせながら足を高く上げて行進しているのだ・・・お陰でひらめくスカートの奥が今にも見えそうで仕方がない・・・もし見えたりでもすれば一気にヒステリア直行だ・・・
そして違う方向を見てみれば近隣住民やマスコミがバズーカ砲みたいなカメラを構えて女子たちを撮り続けていた
「あんたら騙されてるんだよ・・・見た目は可愛らしい女子かもしれないがそいつらは普段からその手に持っている銃や本物のバズーカ砲を平気でぶっ放す連中なんだぞ・・・」
「まあ夢くらいは見させてやれよ?オイタさえしなきゃ手出しはしないさ」
「オイタ?そう言えばお前さっき睨みきかせるって言ったけど何の事だったんだ?」
「ああそれは――っとそこのお前!」
氷牙はいきなり後ろにいたカメラ小僧に銃を突き付けた
「ひっ!?」
「お、おい!?氷牙!?」
「靴に仕込んでるカメラは外せ?それともその足ごと没収されたいか?」
と言って睨みつけると
「ひ、ひぃ!?すみませんでした!!」
男は靴ごと置いて逃げていった
そして脱ぎ捨てて言った靴には・・・本当に隠しカメラが入っていた・・・
「ったく、油断も隙も――」
――ドキュン――
今度は前にいたカメラマンの足元に発砲
「ひぃ!?」
「ローアングル撮影は禁止だ!どうしてもというなら俺が地獄まで落としてやるからそこから撮るか?」
「い、いえっ!結構です!」
「お、おい氷牙!?一般人に発砲は―――」
――ドキュン――
続いて発砲し別のカメラマンのカメラレンズを破壊
「ひっ!?」
「おいてめえ!赤外線カメラは禁止だ!!テメエの血でレンズ真っ赤にしてやろうか!?」
「ご、ごめんなさい!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
そして最後にその光景を見て唖然としているカメラマン達に銃を向け
「いいかテメエら!俺の目が光ってる内は一枚だろうとレキを盗撮なんざ出来ると思うな!!」
そう言ってカメラマン達を睨みつけた・・・
なのにレキを撮っていないローアングラーは完全に無視していた・・・
「睨みって・・・こうゆうことかよ・・・しかもレキ限定で・・・」
結局この後、氷牙は盗撮犯4人、ローアングラー6人を検挙したパレード終盤あたりで血相を変えた蘭豹が「このドアホ!!一般人に向けて発砲するなや!!何のためにこんな事しとると思うとるんや!!」とドツきに駆けつけた事により・・・氷牙のレキ限定警備は強制的に終わった
そしてパレードが終わると
「たく・・・人様の彼女盗撮しようなんて不届きな奴等だったよ・・・」
「それを言うなら・・・一般市民に平気でぶっ放すお前も相変わらずとんでもない奴だよ・・・」
とぼやきながら氷牙とキンジは帰路についていた
「そう言えばよ?お前見張りしてばかりだったじゃねえか?お前自身はレキの事見なくてよかったのか?」
「ああ、それは大丈夫。昨日の夜にじっくり見せてもらって写真も撮らせてもらったから」
「ああ、そうか・・・ん?」
近道をしようと講堂脇の路地を通ると前からシャボン玉が飛んでくる
「ん?」
氷牙はそれをなんとなく避けるがキンジは避けずに胸元に当たり、ぱち、ぱち、と弾けた
「お前今死んだ、もう一人は巻き添えネ」
頭上からそんな訛りのある声が聞こえ上を見れば清朝中国の民族衣装をアレンジしたような服を着たチビッ子が建物の排水パイプに腰を掛けていた
「なんだお前?何か用か?」
「もしかしてあれか?登ったはいいが怖くて降りられなくなったのか?」
「マジか?待ってろ?今梯子持って・・・」
「バカにするなネ!!ココは猫じゃないヨ!!」
そう怒鳴るとくるりと体を回して俺達の前に着地した
「私、ココ言うネ、お前たちも名乗るネ」
そう言われたので・・・
「遠山キンジ」
「九狂氷牙」
と二人とも名前だけ言ったら
「知ってるネ」
と少女(ココ)はそう返してきた
「・・・じゃあなんで聞いた?」
「てかお前なんか酒臭いぞ?小学生が酒飲んでんじゃねえよ」
「小学生違うネ!ココは昨日で14歳ネ!」
「どっちにしろ日本じゃ未成年の飲酒は違法だよ・・・」
「いや、こいつ中国人だろ?日本の法律なんざ通用しないし、それに日本でも酒なんて今時、高校生でも飲んでるぞ?」
「それは社会に反抗的な奴だけだよ・・・」
「そうなのか?蘭豹だって確か19だろ?なのに授業中でも平気で酒かっくらうし俺やキンジや武藤、特に強襲科の連中なんて一緒に居酒屋に連れて行かれて潰れるまで飲まされた挙句、奢らされた事なんてしょっちゅうあるだろ?」
「それはそうだけどよ・・・」
「オイ・・・」
「しかも後日、強引に連れてって、奢るっつーから付き合ったのにこっちが払わされたことに気付いて問い詰めに行けばあーだこーだ言って払おうとしないし、酔って店ぶっ壊した時の弁償金も払わさせたのにそれを請求しようとすれば逆ギレして武器振り回して踏み倒そうとして絶対に払わないし、一度どっかのバカが匿名でチクったことがあった時には強襲科全員で魔女裁判も真っ青な取り調べなんていう名の八つ当たり――6発中3発のロシアンルーレットやって当たれば有罪――やらされたんだぞ!」
「知ってるよ・・・たしかそれでお前に回ってきた時、お前自分の頭じゃなくて蘭豹に向かって撃ったんだろ?」
「オイ・・・」
「ああ、俺その時ちょうどクエスト帰りでな、狂牙モードになったままだったからよ。そしたら偶然にもそれが当たりでな。だから言ってやったんだ「アンタが有罪だったな」ってよ」
「また火に油ぶっこむことしたな・・・」
「ま、当然蘭豹もまた逆ギレして俺を犯人扱いして有無を言わさず襲い掛かってきやがったけどな」
そう思い出話に(するには少々バイオレンスだが)花を咲かせていると・・・
「オイ!!ココを無視するなヨ!!」
ココが俺達に叫んできた
「ああ、すまんすまん、つい忘れてた」
「それで・・・結局俺達に何の用?」
ココは俺達を指して
「キンチとヒョウカ、二人を試しに来たヨ!」
「えーと・・・試すって・・・俺達と勝負したいって事?」
「え?じゃああれか?お前水投げの挑戦者?」
水投げ――元は始業式の日は誰が誰にでも水をかけてもいいという行事だったのだが・・・今ではどこをどう間違ったのか素手でなら誰が誰に喧嘩を吹っかけても構わないという何とも血の気が多い武偵校らしく歪曲して伝播しているため今日はそこら中でケンカや殴り合いが勃発している。
キンジや氷牙も去年は上勝ちをやってのけたSランクだったため先輩からも同級生からも挑戦者が絶えなかったが、今日、二人は一度も戦ってはいない
キンジは例年通り極力人目につかないように動き、万が一喧嘩を売られても「そんな大義名分も無い喧嘩受ける義理は無いし・・・逃げるが勝ちだ」と本人はカッコよく言ってるつもりだろうが何ともカッコ悪い理由で避けていたため戦ってはいない・・・
逆に氷牙は今までは売られたケンカはきっちり買い尽くしすべて救護科送りにしていたが今となっては皆「今更片腕片目になったお前を倒したとしても虚しいだけだ」と言うだけで誰も勝負を挑もうとはしなかった
だがそれも最もだ・・・氷牙は確かに弱くなった・・・一月に近い入院生活で鈍った体にシャーロックとの死闘で限界を超えて酷使した肉体への後遺症、そして片腕と片目を失ったハンデ、今の氷牙は下手をすれば本当にE、いいところでもCランク武偵程度の実力しかないのだ・・・
「腑抜け上りと牙の折れた狼、期待はしてないガ弱いなら―――」
ふらりふらりと千鳥足から倒れる動作から側転を繋げ・・・
「いらないネ、殺すヨ!!」
俺達に飛び掛かってきた
「な!?」
キンジは慌てて応戦体制に入るが
「なめんなよ?」
氷牙が割って入り左ストレートを突き出すが
「キヒッ、牙の折れた狼がまだ嚙み付くネ?」
ココの足が氷牙の手に蛇のように絡みつきそのまま背中にへばりつくと髪と手を首に絡ませ締め付けた
「なっ!?裸締め!?」
柔道の徒手技の一つで一度極まると素手では絶対に外せない
しかも髪まで使った変則技・・・こいつ・・・本気で殺す気だ!!
「キヒッ、ほれ、何も出来ないカ?牙の折れた狼は死ぬだけヨ」
ココはギリギリと氷牙の首を絞め続けてゆく
「氷牙!!」
キンジはココに銃を向けた
「ココ!氷牙を放せ!」
「キヒッ、お前は女を撃てるのカ?撃てないネ」
そう言ってキンジの事など無視して氷牙を絞め続けた
ヒステリアモードでなくともキンジは女には甘い、そして女には絶対に手は上げられない。たとえそれが敵だとしてもだ
「クッ・・・」
その証拠にキンジはどうやって”できるだけココを傷付けずに”引き離そうかなどという前提が間違った考えを巡らせてしまい動けずにいた
「キヒヒッ、撃たないと仲間が死ぬヨ?」
そう言ってさらに氷牙を締め付け首の骨を外そうとすると
「・・・ホント、女には甘いな・・・」
そんな低い声が聞こえ・・・
――ドォン――
氷牙は背中から壁に突っ込んだ
「ガハッ!?」
その衝撃でコンクリートの壁に亀裂が入りココが肺から息を吐きだし拘束が緩む
その隙に氷牙は抜け出し赤く光る眼でココを睨むと
「今度はこっちの番だぜ?」
そう言ってすくい上げるような蹴り上げで体の上下を入れ替えると両足を揃えてココめがけてドロップキックを入れた
――ドゴォン――
そのキックにより後ろのコンクリートの壁は粉々に粉砕して壁の向こうから煙が舞い上がった
「チッ・・・」
「お、おい氷牙!!何してんだ!!」
「は?殺そうとしてきたやつを叩きのめしただけだが?文句あるのか?仲間が殺されそうになったのに助けてくれなかった薄情で女に甘いたらしキンジさんよ?」
そう言って嫌味と怒りが混じった殺気をキンジに向けた
「そ、それは悪かったよ・・・だけどコンクリート破壊する程のキック入れて・・・ココの奴死んだんじゃ・・・」
「死んでねえよ・・・上見ろ・・・」
氷牙の視線の先を見ると
「キヒッ、参ったね、牙が折れても力は健在ネ?」
ココは先程ぶら下がっていた排水パイプに腰かけていた
「いつの間に!?」
「直前で逃げやがった・・・引き際は心得てやがるな・・・」
「だけど二人とも弱いネ、キンチ0点、ヒョウカ20点ヨ」
そう言ってココは二人に舌を出し、アカンベーとしてきた
「私は『万武』のココ、『万能の武人』ネ。お前ら追試ヨまた採点に来るネ。再見」
そう言い残すとココは去っていった
「・・・何だったんだあいつ・・・」
キンジがそう言うと氷牙は首をグキ、グキッと鳴らしながら立ち上がり路地から出て去っていくココの背中を見た、どうやら追うつもりは無いようだ
「さあな・・・ただ・・・今言えることは・・・二つある」
「なんだ?」
「一つは、また一波乱も二波乱も起こりそうだって事だ、それもイ・ウー並みのな」
マジかよ・・・とキンジは顔をしかめ
「ちなみににもう一つは?」
と聞くと
「間もなくその一波乱が始まる、今すぐそこから逃げた方がいいぞってことだ」
クイ、クイッと親指で先程氷牙が砕いたコンクリートの壁を指したのでキンジは壁の向こうを見てみるとやがて煙が晴れてその向こうには・・・
『・・・・・・・・・・・・・・・』
シミ一つ無いほんのり赤みを帯びた健康的な肌色の体に水滴だけを纏った少女たちがこちらを見て固まっていた
「なっ!?なあ・・・これって・・・」
「どうやらそこはマーチングパレードの女子たちのシャワー室だったみたいだな」
しかも幸か不幸か(キンジにとっては不幸なことに)使用の真っ最中に壁をぶっ壊してしまったようだ
なのに壁をぶっ壊した張本人の氷牙は煙が晴れる前にしっかりと女子たちの死角へ逃げている・・・
これ・・・どう考えても俺だけが犯人だと思われてるよな・・・
「ま、頑張れよキンジ?お前女は傷付けられないようたが・・・今もこれからも、生きたいなら四の五の言ってる場合じゃねえぞ?」
そう言って氷牙は大通りへと消えた
取り残されたキンジは頭を抱え
「本当にその通りだな・・・勉強になったよ・・・高い授業料になったがな・・・」
やがて固まっていた女子の一人が手に持っていたシャワーを落とすと
――ガシャン――
その音を合図に
「キャアアアアアアアアア!!」「覗きよ!!!」「アイツキンジよ!!」「たらしだわ!!」「この出歯亀武偵!!」「誰か銃持って来て!!」「今日こそあの女の敵の息の根を止めるのよ!!」「撃って!!欠片も残さず撃って!!」「この壊し方・・・まさか・・・見たいなら言ってくれればいつでも・・・」
後ろから悲鳴と銃弾が飛んでくる中、軽くヒスッていた俺は全速力で逃げた・・・
一方氷牙は・・・
「キンジの奴・・・あれで少しは甘ちゃんが治ればいいんだがな・・・」
少し離れた場所で再び路地裏に入り壁に寄りかかりそうぼやいていた
腑抜けが治ったと思えば今度は女には敵だろうと手をあげないという甘ちゃんっぷり・・・あれではこの先まだまだ心配である・・・
「キンジ・・・さっさと一人でもやっていけるように・・・アリアを守れるように強くなってくれ・・・でないと―――ッ!!」
突如氷牙が膝を着きその場に倒れた
「グ・・・ガ・・・ァ・・・」
痛い・・・全身に激痛が走って呻き声以外の声が出ない・・・体を動かす事さえできず、立っていられない・・・
(クソッ・・・1分足らずでこれか・・・)
シャーロックとの死闘以来・・・本気で戦おうとすれば全身に激痛が走る・・・普通に動かす程度なら問題は無いが先程のように手練れと戦おうと狂牙の力を使おうとすれば数分後には気が狂わんばかりの激痛に悩まされてまともに立つことさえ出来なくなる・・・
(俺の体は・・・どうなっちまったんだ・・・)
しばらく悶えていると
「やっぱりこうなっていたんだね・・・まあ短い期間の間に2度も全開で力を振えばそうなるよ・・・」
前からそんな声が聞こえ俺の目の前に誰かがしゃがみこんだ
「誰・・・だ・・・」
顔を見ようと辛うじて動く首を上げて声の主を見上げると
「私のこと忘れちゃったの?もしかしてまだ思い出してないのかな?」
氷牙の前には武偵校の女子制服を着た桜色の髪を肩まで伸ばした優しげな母性的な顔をした少女がしゃがみこんでいた
「思い出してない?・・・記憶喪失になる前の知り合いか?でも記憶は全部思い出したはずだ・・・アンタ・・・一体誰なんだ?」
「私が誰かは・・・答えは君の中にあるよ・・・でも今考えるべき事はそんな事じゃないでしょ?どうして狂牙の力を使おうとすると体に激痛が襲い掛かるか知りたいんでしょ?」
「アンタ・・・知っているのか?いや・・・何で知っている?」
「それも今は重要な事じゃないでしょ?私は君に君が知りたい事を教える。今はそれだでけで充分でしょ?」
と少女はこちらの質問にはまるで答えず一方的に話しかけてきた
(こいつ・・・会話のイニシアチブを取って譲らないつもりか・・・)
ならばと思い氷牙は・・・
「そうかよ・・・じゃあ俺からも一つ教えてやるよ・・・」
「何?」
「今日はアンタの髪と同じ色なんだな?ただでさえ短いスカートで倒れている俺の目の前でしゃがんでいるもんだから中身が思いっきり丸見えだぞ?」
「え?・・・ッ!?」
少女は見えてることに気が付くと顔を真っ赤にしてスカートを押さえた
「情報は交換し合うものだからな・・・そっちが俺について知っている事を教えてくれるならこっちも君について知っている事を教えなきゃな・・・」
この状態で会話の主導権を奪い取るのは不可能だが握られっぱなしなのは癪だったのでそう言って一矢報いてやると
「え、えーと・・・できればこれは知らないままでいて欲しかったかな・・・」
少女は困ったように苦笑して流した。手強いな・・・
「それじゃあ話を戻すけどまず君の狂牙の力について説明するよ?君が持つ狂牙と呼んでいる力は確かに戦意と殺意を向上させる力、だけどこの力の本来の機能はね・・・向上させた戦意と殺意によって脳内リミッターを一時的に解除する力なんだよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「今まで君は無理のない範囲でリミッターを外して戦ってきた、でも先の戦闘では自分の体どころか命さえも顧みずに力を開放して肉体を限界以上に酷使した・・・その反動で君の体はもうボロボロ・・・もうその体では狂牙の力は使えず、片腕と片目を失くした君は弱くなってしまった・・・次ココのような手練れが来れば・・・間違いなく君は勝てない・・・」
「分かってる・・・もうこの世界に生まれた役目を終えた俺にキンジ達の力にはなれない・・・だから一刻も早くキンジには強くなってもわないと・・・」
少女は首を振ると
「それは違うよ・・・君の役目はまだ終わっていない、それに君の中に眠る力は狂牙の力だけじゃない」
「え?」
「よく考えて?君は力を得るためにはどんな覚悟があるの?そして、何のために力を望むの?その答えこそが・・・眠れる力を呼び起こす鍵なんだよ・・・」
そう言うと少女はスカートを押さえながら立ち上がり去っていった
そして数分後
「ぐ・・・」
ようやく立ち上がれるまでに回復した氷牙は辺りを見回すが・・・あの少女はもうどこにもいなかった・・・
「あの子が誰か・・・答えは俺の中にあると言ってたな・・・まさか・・・俺がこの世界に生まれる前の事も知っているのか?」
その可能性は高いし、あの子が誰なのか気にはなるが・・・確かに今考えるべき問題はそんな事じゃないか・・・
「どんな覚悟を決めて何のために力を望むのか・・・か」
答えは出ないが迷いながらでも進むしかない・・・次の波乱はすぐそこまで来ているのだから・・・
56話時点での氷牙のスペック
九狂 氷牙 17歳?
強襲科2年 Eランク
外見
白髪・赤目 175センチ
右腕、肘から先欠損
左目、欠損
顔の左側に2本の大きな傷
戦意と殺意が昂ると目が赤く光る体質
実力こそ落ちたが脚力は健在で水上を走ったりビルの4階まで跳んだり1トンコンテナを蹴り飛ばすことは今でもできる
強襲科最強の肩書は消えたが武偵校一の問題児の肩書は相変わらずで一般人だろうと危害を加えるものには平気で殺意を向け、発砲し、手をあげる
レキとは夏休み終盤に正式に恋人同士になりお互い相思相愛のバカップル
狂牙モード・・・氷牙が自分の意志で自分の戦意と殺意を向上させ脳内リミッターを一時的に解除する一種の自己催眠、元々名前などはなかったのだが後々キンジに勝手に名付けられたのを知って「それいいな」と気に入って自分でもそう呼んでいる。
現在はシャーロックとの死闘の際の限界を超えた体の酷使による後遺症により無理に使えば数分で全身に動けなくなるほどの激痛が走るため使えなくなっている
武器
MP5K X1
コルトパイソン X1
折れた日本刀 X2