「俺が・・・悪魔?でも・・・俺は今まで自分が悪魔だなんて自覚すらなかったんだぞ?」
唐突に告げられたずっとわからなかった自分の素性・・・まさか自分が人間外の家系だったなんて・・・流石の俺も困惑していた・・・
だが風雪は冷静に話をつづけた
「九狂様は悪魔の血を濃く出していますが実際に流れている悪魔の血はごく僅かです。おそらくどんなに近くても曾祖父母の一人が純粋な悪魔といったところですね。そして九狂様の中にある魔力は失った腕や眼を自身の血を媒体に構築できる程の濃密で膨大な魔力を有していますが実際にはその大半を引き出せていません。今まではせいぜい身体能力が人より多少抜き出てるとか、傷の直りが人の数倍速いとかそんなレベルでしか引き出せなかったのでしょうね。」
なるほど・・・今までほとんど使うことができなかったから気付けなかったってわけか・・・
「ならどうして今になって腕を作れる程の魔力を引き出せるようになったんだ?」
「はい、それについて説明するにはもう一つ伝えなくてはいけないことがあります」
そう言って今度はレキを見ると
「あの時レキ様は撃たれて重傷を負って意識不明に陥っていました。そして手術中、一度は心肺停止状態にまで陥っていたそうです」
「―――っ!!」
「ですが次の瞬間には息を吹き返し、傷は跡形もなく消えており出歩けるまでに回復していたそうです。その後遠山様の話ではレキ様は九狂様の所へ、5キロ以上離れた場所に立て続けに超長距離狙撃を行なったそうです」
「ッ!?本当なのか!?」
キンジと白雪を見ると二人とも無言でうなずいた
「ああ・・・それも何十発も一度も休むことなく・・・次の狙いを定めるまでほぼ間が無く・・・それどころか・・・一度もリロードさえする事も無かった・・・」
「なっ!?一度もリロードしてない!?ドラグノフのマガジンは10発しか入らないんだぞ!一度もリロードしていないなんてわけないだろ!!」
そう問い詰めると風雪はまた俺達の前に和布にくるまれた何かを差し出した
「こちらをご覧ください。レキ様の銃に込められていた弾丸です」
風雪が和布を広げるとそこには一発の黒い銃弾があった
その弾丸は・・・形状こそ7.62㎜X54R――狙撃銃の実包だったが色はまるで暗闇が形を持ったかのように真っ黒で禍々しいオーラさえ感じられた
「これはただの弾丸ではありません。これは魔弾です。レキ様は無意識にこの弾丸を生成して銃に直接送り込んでいたんでしょう。そんな事が出来ると言う事はこちらも間違いありません。レキ様は九狂様と契約しています」
「契約って・・・悪魔に魂と引き換えに願いをかなえてもらうってやつか?」
「願いを叶えるというのは歪曲しています。本当は契約によって経路のようなものを繋ぎその悪魔の力が分け与えられるんです。そして契約にはまず代価と誓いが必要です」
「代価と誓い?」
「はい、まず誓いについてですがこれは契約の内容、なぜ悪魔と契約を望むのか・・・その目的、つまりは契約者の願いというところです。
次に代価ですがこれは悪魔によって様々です。人間のように金や食料を要求する事もあれば、おとぎ話のように生贄を要求したり、契約者の寿命だったりと悪魔個人の遺志によりけりです。
そして契約者は悪魔の望む代価を支払い続ける限り、契約が結ばれその悪魔の力が分け与えられ、悪魔は契約者の誓いを果たし続けるんです。
その常軌を逸した力によって強靭な肉体を手に入れたり、万巻に通じる知識を得たり、神の如く腕前の技能を持ったりして結果的には契約者の願いが叶ったから願いを叶えると伝えられたんでしょうね。ですが悪魔と契約して願いを叶えたその先に待っているのは破滅のみです。悪魔は決して安くはない代価を求めます。そして契約者は誓いが果たされる限りはその代価を払い続けなければなりません。多くの人はやがてその代価を払う事が出来なくなり、全てを失い身を滅ぼしてしまうのです」
「だけど・・・俺は契約した覚えなんて・・・」
「契約には様々な方式があります。例えば書面によるお互いの署名、魔法陣の中での言の葉による誓い、そして血の契約、これらに何か心当たりはありませんか?」
え・・・
一つ、引っかかる用語が出てきた
「なあ・・・血の契約ってのは?」
「はい、お互いの血を交えて誓いと代価を立てることにより成り立つ契約法の一つです」
互いの血を…
「なあ・・・ちなみに血の摂取方法は・・・何でもいいのか?」
「ええ、大抵は指先を切って出た血を互いに飲むことで契約しますが摂取方法は何でも構わないはずです」
「「・・・・・・・・」」
俺とレキは顔を合わせ・・・そして一緒に顔を赤くして俯いた
「レキ様?九狂様?もしかしてお互いの血を交わした覚えはあるんですか?もしそうならその時から契約が交わされようとしていた可能性が高いです」
あるよ!!すげーあるよ!!
昨日・・・レキは俺の肩嚙み付いて血を吸ってますよ!!そんで俺は・・・レキの血を・・・・・・粘膜摂取してますよ・・・
「そして血を交わした後、24時間以内に代価と誓いを立てれば契約は成立します。これにも何か心当たりはありませんか?」
ありますよ・・・
「・・・あの時・・・力が目覚める直前・・・俺はレキと『共に生きたい』と強く願った・・・俺が求めた代価は・・・間違いなく『共に生きる』ってところだろうな・・・」
そしてレキは・・・
「レキ・・・お前は・・・手術室で目が覚める直前に何て願ったか覚えてるか?」
「・・・はい・・・貴方と・・・氷牙さんと共に生きたいと・・・そう強く願ったら・・・氷牙さんに呼ばれた気がして・・・気が付けば目が覚めて体が動いていました・・・」
「・・・マジかよ・・・誓いも代価も『共に生きる』ってか・・・」
契約の内容が判明すると風雪は話を戻した
「九狂様は今まで自分の中にある魔力を引き出せてはいませんでした。ですが契約を交わせば経路が繋がれそこから魔力が契約者へと供給されます。それが呼び水になり今まで引き出される事のなかった九狂様の魔力が呼び起こされたんです」
だから契約が成立した瞬間に俺の力が目覚めて、二人共傷が全て消えて俺にはこの腕と眼が・・・レキにはあの眼とこの魔弾が出てきたんだ・・・共に生きるための力として・・・
「ちなみにその契約って悪魔側からなら破棄とかは・・・」
「残念ですがたとえ悪魔でも一度結んだ契約からは決して逃げられません。代価が払われる限りは誓いを果たす義務があります」
代価って・・・『生きている』ただそれだけで支払っていることになってるんだぞ・・・なら死なない限りこの契約は一生破棄される事は無い・・・それどころか俺が死なないとレキは死ねない、レキが死なないと俺は死ねない・・・下手したら不死が出来上がってるぞ・・・
・・・なんてことだよ・・・俺はレキまでも巻き込んじまったのかよ・・・俺のせいで・・・レキまでも人間辞める事になったのかよ・・・
「レキ・・・俺は・・・むぐっ!?」
俺がレキに話しかける前にレキは手で俺の口をふさいだ
「・・・氷牙さん・・・貴方が言う前に、私に一つだけ先に言わせてください。私は貴方に出会った事も、貴方とパートナーになった事も、貴方と恋人同士になった事も、貴方に傷つけて貰った事も、貴方と契約した事も、貴方と人間を辞めた事も何一つとして後悔はしていません。例えどんなことになろうとも貴方と共に生きて、貴方のそばに居られて、貴方の力になれるならば私は本望です」
そう言ってレキは真っ直ぐ氷牙を見据えた
レキは氷牙が何を言おうとしてるのかは察しがついていた、でもレキはそれを聞きたくはなかった。だからこそ・・・先に返答をしたのだ
そしてレキは手を離すと・・・
「それで・・・貴方は・・・何でしたか?」
そう言ってわざとらしく聞いてくると・・・
「いや・・・やっぱり何でもない・・・」
俺もそう答えた
本当に・・・何て愛しくも頼もしい人なんだ・・・
そう思っていたらアリアが一つ疑問に思っていたことを問いかけてきた
「待って?そういえば・・・氷牙?レキ?因みに二人共その力って使い方わかるの?」
「え?そう言えば・・・こんな力使い方なんて知らないはずなのに・・・どうしてか使えてるし使い方もわかる・・・」
よく考えれば腕を構築して具現化したと言うが、人体という物は骨、筋肉、神経、血管、皮膚等が複雑に入り組んでおりそれら一つ一つが脳からの電気信号を正確に受けて初めて自在に動かせるものだ・・・だが氷牙の腕を見ればとてもそんなものがあるようには見えない・・・なのに思うがままに動かせる・・・左目も遠くまでが鮮明に見える・・・
「この腕・・・電気信号とかじゃなくて腕を構築している魔力を操作して動かしているんだ・・・感覚もまたそうなんだろうな・・・右腕の触覚も左目の視覚も感じたり見えたりするっていうよりは流れ込んでくるって感じだ・・・多分触れた物の感覚や眼に写っている光景をそのまま脳に送り込んでいるんだ・・・レキはどうだ?」
そう聞くとレキは目を閉じて一呼吸置くと
次に目を開いた時にはその瞳は金色から瑠璃色になっていた
「はい・・・私も・・・使い方なんて知らないはずなのに・・・どうしてか当たり前に使い方がわかります・・・」
そう言うとすぐに瞳を元の金色に戻した
「ああ・・・まるで呼吸をするのにいちいち、やり方や理由を考えたりしないのと同じように・・・当たり前に使えるんだ・・・」
「ええ、そのあたりは私達超能力者と変わりません。私達も力を使い方を考える事も無く当たり前に使えます。九狂様やレキ様も目覚めた時点で当たり前に使いこなせているはずです」
「契約と同時に自然に使いこなせるようになるって訳ね・・・すごいじゃない!それならアタシたち全員アンタと契約すればこれ戦力UPになるんじゃないの!?上手くいけばアタシの中にある緋弾の力も引き出せて・・・」
「神崎様、残念ですが悪魔は二人以上の人間とは同時に契約は結べません」
「あ・・・そうなの・・・」
風雪が否定するとアリアは残念そうに消沈した、アリアさん・・・俺をドーピングみたいに扱わないでください・・・
「それに確かに九狂様は膨大な魔力を有していますがまだ完全には引き出せていません。実際に戦闘で使うとなれば九狂様はこの魔刀を抜刀しているだけでも、レキ様もその力を発動してるだけでも魔力を消耗していきます。今の九狂様の魔力量ではお二人が同時に発動させれば10分程度で魔力切れを起こしてしまうでしょうね」
「・・・因みに魔力切れを起こしたらどうなるの?」
「扱いに慣れてくれば自然と最低限の余力は残せるようになりますのでしばらく力が使えなくなる程度で済みますが慣れないうちは体に眩暈、脱力感、睡魔等の症状が現れて気絶してしまいます」
「・・・ってことはだ・・・もしかしてココとの乱闘の時倒れたってのは・・・」
「はい、十中八九魔力切れによる気絶です」
・・・・・・・・・・・・あの時・・・ギリギリセーフだったってことかよ・・・・
「せっかくの力なんだ・・・慣れるのは実際使っていけばいいけど・・・数分しか使えないんじゃ話にならないぞ・・・どうにかして俺の魔力もっと引き出せないの?」
「それに関しては私達超偵と同じく修行あるのみです。使いこなせていけば徐々に魔力量も増えていきます」
何事も日々精進あるのみってか・・・楽は出来ないってことだな・・・
「後はこの魔刀のように魔力を引き出す触媒があれば飛躍的に引き出せるはずです」
「触媒?」
「例えばオリハルコン、クロノスの鍵、セイレーンの涙、アイギスの楯等です」
どれもこれも空想レベルの代物じゃねぇか・・・ホント、楽は出来ないってことだな・・・
まあ・・・いいか・・・今は・・・眼と腕が戻ったことを・・・生きていることを喜ぶことにしよう・・・
・・・・・・次の戦いのために・・・
そして話を終えると氷牙は少し考えて・・・
「なあ風雪ちゃん・・・ここでしばらく修行させてくれないか?」
「ここで・・・ですか?」
「ああ、いくらこの力の使い方がわかるとはいえ俺はまだ目覚めたばかりの駆け出しだ。なら早いうちにちゃんと専門の所で修業を積んだ方がいい」
氷牙が弟子入りを志願したが風雪は首を横に振り
「申し訳ありませんが今の私達では力にはなれません。最近、日本中・・・いえ世界中で超能力者の力が弱まる原因不明の現象が起きているんです。我々星伽もまた力が不安定になり術の成功率が低下しているんです。そんな私達ではとても超能力の師事などできません」
「え?超能力者の力が?・・・でも今、氷牙とレキはなんて事も無く使えてたぞ?」
「それは・・・おそらくは私が璃巫女・・・璃璃色金の影響を受けた存在だからでしょう・・・」
レキがそう言うと氷牙は顔を驚愕に染めた
「なっ!?おい!?いいのかレキ!?」
「構いません・・・ここ待て来たのならば・・・話すべきでしょう・・・」
「・・・・・・そうか・・・そうだな・・・」
「おい氷牙?どういうことだ?」
「これから説明するよ・・・レキの素性についてもな・・・」
「レキの・・・素性?」
「九狂様・・・もしやご存じだったのですか?」
「ああ・・・レキが俺に教えてくれたよ・・・自分が源義経、チンギス=ハンの末裔であることも含めてな・・・もっともレキは俺がマッド・ファングってことはずいぶん前に知っていたらしいけどな・・・」
そう言ってレキと氷牙はレキの素性も含めて超能力者が弱体してる理由、レキと氷牙がその影響を受けない理由を語り出した
「超能力者の力が不安定なのはアリアさんの体内にある緋弾・・・緋緋色金が目覚めた事によって私の故郷で・・・私が仕えていたウルス族に伝わる色金、璃璃色金が呼び起こされて超能力者の能力を弱らせる目に見えない粒子を撒きちらしたため・・・その粒子は世界中に蔓延して世界中の超能力者を弱体化させているのです・・・」
「世界中に粒子を・・・まるで超能力者にだけ感染する病原菌みたいね・・・でもなんで二人は何ともないの?」
そう聞くと次は氷牙が説明した
「ここからは憶測でしかないが・・・レキは幼少期そんな璃璃色金に長年仕えていた璃巫女だ・・・たぶん長年そばに居て影響を受ける内に・・・今アリアが言ってたように粒子を病原菌に例えるならレキの体にはその抗体が出来ていたんだろうな・・・そして契約によって結ばれた経路によって俺にもその抗体が送られたんだろう・・・」
「ってことはだ・・・二人は・・・」
「ああ、多分世界で唯一・・・璃璃色金の影響を受けない超能力者だろうな・・・」
「・・・そういう事です、二人を除いた世界中の超能力者が弱体してる中で二人を師事できる超能力者はこの世に存在しないでしょう」
そう言って風雪は改めて自分たちが師事出来ない理由を説明した
「まあ、師事が受けられないんじゃ仕方がない・・・なら悪魔や超能力について資料とか文献とか無いか?」
「はい、この分社にも資料や文献も残っていますが・・・いくつかお持ちしますか?」
「ああ、あるだけ全部、持って来てくれ」
「あるだけ全部ですか?蔵一つ分の膨大な量になりますが・・・」
「構わない、今の俺は悪魔や超能力について知らないことが多すぎる、なら情報はたくさんあればあるだけいい、それにここ以上にそう言う事について情報がある場所なんてそうないだろうからな」
「・・・わかりました、客室を一室ご用意します。そこに全ての資料を運ぶように手配しておきます」
「ああ、ありがとう」
風雪と話が決まると氷牙はキンジ達を見て
「そういうわけだ・・・これから俺は長期戦になる・・・お前たちは先に東京に帰れ」
「え?だけど・・・」
「本当なら昨日の夕方には帰る予定だったんだろ?なのに俺が丸一日寝ていたせいで帰るの遅れたんじゃねえか、それに・・・かなえさんの裁判近いんだろ?」
そう言うとアリアも同調して
「・・・そうね・・・これ以上アタシ達がここにいても出来る事なんてないわ・・・なら今は出来る事をするのが最善よ」
「・・・そうだな・・・すまん・・・」
「ああ、まあ心配するな・・・月末・・・チーム申請締め切りまでには武偵校に戻るさ・・・」
「わかった、お前のバイクは置いていくよ。今のお前なら運転できるだろ?」
「ああ、そうしてくれ」
俺一人だけ残る事になる、そう思っていたらレキは俺の袖を掴んで
「私も残ります・・・私は氷牙さんの契約者です・・・」
と、俺を真っ直ぐ見つめてきた
「・・・ああ・・・ありがとう・・・」
そうだな・・・レキが俺の契約者であるなら可能な限りそばに居てもらったがいいな・・・
そして話がまとまると星伽のお抱えの運転手、蒔江田さんが前に出て
「では皆様は私が京都駅までお送りします、車をご用意いたしますので少々お待ちください」
と言って車の用意とキンジ達の案内をしてくれて
「では九狂様、レキ様、離れの客室へご案内しますのでそちらを使ってください。資料や文献もそちらへ運ぶように手配いたします」
風雪は俺達の案内をしてくれた
「ああ、頼む・・・それとだ・・・もう一つ頼みがある・・・」
「何でしょうか?」
――グゥゥゥゥゥ――
氷牙の腹が鳴った
「丸一日以上何も飲まず食わずだったからさ・・・何か食べる物も用意してくれないか・・・」
これには流石の風雪も呆れ気味に
「・・・膳殿にどうぞ・・・お食事をご用意いたします・・・」
と言って案内先を変更してくれた
・・・何とも緊張感の欠片もない出だしになってしまったが
こうして俺とレキは星伽分社に残り悪魔についての資料を漁ることになった
だが・・・この時は誰も思うはずもなかったが・・・氷牙達が星伽分社を後にしたのは・・・
それからわずか半日後の事だった・・・