「何だよそれ・・・俺達に・・・氷牙を殺せっていうのかよ!!」
突如言い渡されたケースZ9の発令、そして氷牙の抹殺命令、それを聞いて・・・キンジは納得できないといわんばかりに反論した
『最悪の場合はね・・・何があっても責任は教務科がとるそうだ!!』
「ふざけんな!!コイツは俺達の仲間で俺の大事な親友だぞ!!」
『僕らだって九狂君を殺す気なんて毛頭無い!だけど教務科の話じゃ公安0課にも出動要請を掛け合っているそうだ!!彼らが到着すればもうお終いだ!間違いなく九狂君は即刻射殺される!!そうなる前になんとしても九狂君を止めるんだ!!』
キンジは氷牙と向き合うと
「氷牙!今の話聞いたか!?」
「ああ・・・ついに公安0課まで動いたか・・・今度こそ俺もこれまでだな・・・」
「今ならまだ間に合う!!アリアを放して投降しろ!!このままじゃお前殺されるぞ!!」
「そうだな・・・他の誰かに殺されたら困る・・・俺はお前たちに殺されたいんだからな・・・」
「え?」
「・・・キンジ・・・もう時間がない・・・お前が俺を撃てよ・・・お前が俺を殺してくれ・・・お前が俺をレキのところに連れていってくれ・・・」
「お前・・・何言ってんだよ・・・殺すなんて出来るかよ・・・親友を・・・殺せるわけないだろ!!」
「・・・0課相手でも俺はむざむざ殺される気はない・・・アリアを殺したら後は一人でも多く道連れにして死ぬつもりだ・・・今ここで殺さなきゃその親友が殺人鬼になるぞ?」
「――っ氷牙!!頼むから自棄を起こすな!!俺が憎いなら俺を殺せ!!死ねと言うなら死んで詫びる!!」
「お前は殺さない、死なせない・・・お前には俺と同じように絶望を味あわせてやる・・・それに・・・俺はもう壊れっちまったんだよ・・・レキが死んだと同時にな・・・」
「氷牙・・・頼む・・・止めてくれ・・・アリアは関係ないだろ・・・」
「・・・・・・・・・ならキンジ・・・お前にアリアを助ける選択肢をやる・・・アリアを助けたいならどちらか選べ」
「・・・選択肢?」
「俺がアリアを殺す前に、お前が俺を殺して止めるか、それとも・・・」
――ガッ――
氷牙は足元に落ちていたアリアのガバメントを蹴り上げた
そして蹴り上げた銃はアリアの太もものホルスターに入った
「・・・え?」
「アリアに俺を殺させて止めさせるかだ」
「「――――ッ!!」」
要はアリアを助けたいならキンジかアリア、どちらかが氷牙を殺せという選択肢を突き付けたのだ
「ふざけるな!そんなのどっちも選べるわけが―――」
当然それを聞いてキンジまた納得ができないと反論したが
「・・・キン・・・ジ・・・いいわ・・・わたしが・・・やるわ・・・」
氷牙に右腕一本で首をつかまれ宙吊りになっていたアリアは震えながらもガバメントを抜いて氷牙の頭に突き付けた
「なっ!?アリア!?」
「へぇ・・・自分からキンジの代わりに手を汚す選択を選ぶのか?まあ・・・それもいいかもな・・・それはそれでキンジを苦しめられそうだ」
そう言って氷牙は抗う素振りを一切見せなかった
「やめろ・・・やめるんだ!!アリア!!」
「キンジ・・・アンタに・・・氷牙は・・・人は殺せないわ・・・レキが自分を撃った時も・・・そして今も・・・アンタは・・・そうやって叫ぶだけで何も出来なかったじゃない・・・」
「だな・・・もう逃げないって誓ったくせに・・・お前はまた選択することから逃げた・・・また俺を失望させて・・・また仲間を見殺しにして・・・また金一さんの期待を裏切って・・・結局お前は口だけだったな・・・」
そう言うと氷牙もアリアもキンジを一瞥した
「氷・・・牙・・・ごめん・・・ね・・・レキの・・・ために・・・も・・・アン・・・タを・・・人殺・・・し・・・には・・・させた・・・くない・・・から・・・」
「・・・別にいいさ・・・恨みはしないよ・・・」
そしてアリアが泣きながらも引き金を引こうとした直前に
「・・・キンジの奴に・・・箔を付けてやりたかったけどな・・・」
「――――――ッ!!」
その言葉を聞いてキンジのフル回転中のヒステリアモードの頭で駆け巡っていた疑念はやがて一つに繋がり一つの推測を導き出した、まさかコイツ―――
その推測が出てくると同時にキンジは何もできない、何もしない自分に対して猛烈な怒りが沸いた
(ちくしょう!何やってんだよ!遠山キンジ!!このままじゃアリアが氷牙を殺しちまうだろ!お前が二人を止めろよ!!お前が二人を助けろよ!!でなきゃ・・・俺はこの先一生後悔するだろ!!一生自分を憎み続けるだろ!!一生自分を責め続けるだろ!!そこまでわかってるなら今何をするべきかなんてとっくにわかってるだろ!!突っ立ってる場合じゃないだろ!!難しいことなんて後で考えろ!!今はただ仲間を―――)
(俺の大事なパートナーを・・・そして、こんな時でも俺の事を思ってくれる親友を・・・助けてやれよ‼‼‼‼‼‼‼‼‼)
そう強く思った瞬間、キンジの中で・・・熱く煮えたぎる何かが一気に目を覚ました
――バチィンッ――
そしてキンジは左手でベレッタを発砲しその弾丸はアリアのガバメントの弾丸を弾き、弾丸は氷牙の頬を掠めて後方へ飛んで行った
「・・・え?」
「・・・・・・・邪魔もこれで4度目だなキンジ・・・いい加減俺の頭を撃てよ・・・」
「氷牙・・・お前・・・・・・正気だな?」
「・・・正気?こんな俺が正気だっていうのか?殺し合うのが楽しくて仲間さえも平気で笑って殺そうとしてる俺が?そう見えるならお前が正気か?それとも今度は現実から逃げ出したのか?」
「とぼけんな!お前が本当にブチ切れてるなら今こうしてまともに会話できる事があり得ねぇだろ!!暴走してリミッターが外れてるお前ならとっくにココも俺達も八つ裂きにしているだろ!!何より・・・」
「何より・・・なんだ?」
「お前・・・右目・・・元に戻ってんじゃねえか!!」
アリアもキンジに言われてよく見てみればその通りだった。本当にブチ切れて暴走してるなら会話もできないはずだ。それに先程見たときは左目と同じ様に白い部分が真っ黒に塗り潰されていた右目がいつの間にか元に戻っていたのだ
「お前・・・こうなる事を・・・ケースZ9が発令することを狙ってたんだな・・・初めから俺にお前を殺させるつもりだったんだな!!だから最初から手を抜いていたんだな!!」
「キン・・・ジ?どういう・・・」
「あの時と同じだよ!!こいつは・・・アリアを餌に俺を焚き付けたんだよ!!アリアを殺そうとしたのも全部俺を追い詰めるための嘘だったんだ!!俺に氷牙を殺させて俺に箔を付けるためにな!!」
武偵の世界は弱肉強食、生きるためにはやられる前にやるしかない
だがキンジの様に平和ボケした日本人にはたとえ自己防衛とわかっていても人を傷付けることには躊躇がある
相手が女性なら尚更・・・キンジはそれが強く出ている種類といえよう・・・
それが敵にも向くようならばそれは足枷、弱点以外の何ものでもない
そんな人間がその足枷を捨て去るには・・・躊躇なく人を傷つけられるようになるには・・・人を殺すという体験をするのが一番だ
そうすれば「人を殺してるのに今更人を傷付けるのに何の躊躇がある?殺すことに比べれば軽いものだろう?」と一線を越えて考えるようになり人を傷つけることにも次第に躊躇が無くなってゆく
しかし武偵は原則いかなる理由があっても人を殺すことが禁じられている
武偵である限りはこのしがらみからは一生逃げることはできない・・・
武偵である限りはこの足枷は一生外すことができないのだ・・・
だがどんな事にも突破口があるようにこのしがらみにも突破口はあった・・・
ケースZ9・・・それは武偵が唯一、人を殺すことを許される時
この時ならば武偵のまま人を殺せる・・・一線を越えられる・・・
この時は・・・武偵のままこの足枷を外すまたとないチャンスだった・・・
氷牙はこれを狙って自らを犠牲にしてキンジに自分を・・・人を殺させて箔を付けようとしていたのだ・・・
「・・・お前の・・・こういう時だけ勘のいい所は・・・嫌いだよ・・・」
「・・・肯定と受け取っておくよ・・・俺の推理力はシャーロックも太鼓判を押したんだぜ?」
「氷・・牙・・・アン・・・タ・・・初めから・・・正気だった・・・のね・・・」
「・・・キンジが俺を止めたあたりからな・・・3度止めてくれたあたりである程度の理性は取り戻せた・・・けどそれも一時的にだろうな・・・今でも頭の中で声が響いて仕方がないんだ・・・『殺せ・・・邪魔するものは・・・歯向かう者は・・・すべて殺せ・・・容赦なく殺せ・・・』ってな・・・気を抜けば・・・今にも頭の中がまた殺意と狂気で塗り潰されそうなんだ・・・」
そういわれ氷牙の右目を見ていると目が少しずつ黒く染まり始めていた
「・・・・・・・・・・・・」
「俺はレキがいたからこの殺意も狂気も抑えていられた・・・レキがいたから生きようと思えた・・・レキがいたからどんなことがあっても頑張れた・・・・・・でも・・・もうレキはいない・・・もう俺の中にあるこの殺意も狂気も抑えられない・・・もう俺に生きる意味はない・・・もう俺は・・・頑張れない・・・」
「・・・・・・・・・・」
「わかっただろキンジ・・・俺を親友だと言ってくれるなら・・・お前が俺を殺してくれ・・・お前が俺を止めてくれ・・・お前が俺を・・・レキのところに連れて行ってくれ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「急げ・・・早くしないと0課が到着するぞ・・・それに・・・この右腕も・・・もうほとんど俺の意思で動いてないんだ・・・殺意と狂気の本能のままに動いている・・・このままじゃ俺はまた正気を無くす・・・そうなったらその瞬間この右腕は容赦なくアリアの首をへし折るぞ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
キンジは両手の銃を手放した
「――?」
そして銃が床につくと同時に背中のスクラマサクスを抜いて氷牙の右腕を斬りつけた
――ザシュ――
「がぁっ!?」
そして剣はすんなりと腕を斬りそのショックで氷牙はアリアを放し、キンジはすぐさまアリアを奪還すると下がった
「げほっ!げほっ!」
「アリア!大丈夫か!?」
「キンジ・・・それって確か・・・お爺様の・・・」
「ああ・・・この剣・・・確か氷牙を拒んだ剣だったからな・・・なら斬るのは無理でも触れれば何かしらの影響は出るかと思って試してみたが・・・弾丸も止める腕をこんな簡単に斬れるなんて予想以上だったよ・・・」
だが斬ることは出来てもやはり血は流れていないし傷もすでに目に見える速さで塞がり始めてる、この剣なら一時的に傷つけることは出来てもこのままではあと数秒で元通りになるだろう・・・
「・・・やってくれるな・・・キンジ・・・忘れもんだぞ?」
そういって氷牙は右腕の斬られた場所を抑えながらも足元に落ちていたベレッタとデザートイーグルをキンジに向けて蹴り渡した
だがキンジは
「・・・いらねえよ」
そのまま横に蹴り飛ばした
「・・・何の真似だ?」
「改めて決意が固まったよ・・・お前は絶対殺さない!絶対に生かして止める!だから銃は使わない!!これ一つで十分だ!!」
そういってキンジは氷牙にスクラマサクスを向けて突っ込んだ
「ああ・・・・お前本当に馬鹿だな・・・この・・・甘ちゃんがァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
そして氷牙も再び右目が真っ黒に染まると理性を失いコルトパイソンを抜いてキンジの額に向けた
「―――ッ!!」
それを見てキンジは頭の中で対策を講じた
これを避ければ後ろにいるアリアに当たる!!だがアリアは先ほどのダメージでまだ動けない!この銃弾は俺が止めなくてはならないがこの間合いでは発射はもう止められない!
だがどうする・・・銃が無いから銃弾撃ちは出来ない・・・
弾丸斬り・・・ダメだ・・・弾は防げても攻め手がない・・・すぐに次弾を撃たれるだろうし・・・連射されたら防ぎきれない・・・
銃弾噛み・・・これもダメだ・・・マグナム弾相手にそんなことやったら脳震盪どころか顔が半分吹っ飛ぶぞ・・・
ならば・・・ヒステリアモードの頭でたった今、思いついたこの技・・・一か八かでやってやるしかない!!
本当に咄嗟の思いつきだ・・・出来るかどうかわからない、しくじれば間違いなく死ぬ・・・それにこれだって人間がやっていい技じゃない・・・もし出来たら・・・俺も人間辞める事になる・・・・・・けど仲間を・・・親友を助けるためなら・・・俺たちは・・・俺はなんだってしてみせる!!
それに・・・
肝心な時にすら命懸けになれない奴が―――――理想論なんか吠えてんじゃねえ!!!
――ドォン――
氷牙が発砲するとキンジはスクラマサクスを宙に放り投げると両手の指を#の形になるように構えた
そして・・・・
(なんだよ・・・これ・・・)
キンジは今の状態に驚愕していたがそれも当然だった・・・キンジの目には飛んでくる銃弾が鮮明に見えたのだ
それだけではない、先ほどから頭は凄い冴えて氷牙の思惑さえも手に取るように見透かすし、もう息が切れてヘトヘトな筈なのに体も奥底から燃えるように熱く力が溢れてくるし、感覚も冴え渡り超音速を超える弾丸さえも止まって見える・・・
(これは・・・ヒステリアなのか?でも・・・ノルマーレだけじゃない・・・かといってベルゼでもない・・・アゴニザンテでもない・・・この力はいったい何だ?)
この時キンジ自身も自覚はしていなかったがキンジは2つなっていたのだ
通常のヒステリア・ノルマーレに加え・・・
自分のせいでアリアを傷つけた事、レキを死なせたこと、そして何よりも親友を狂わせてしまったことで・・・
(わからない・・・けど・・・)
今のキンジは王者のHSS、ヒステリア・レガルメンテが発動していたのだ
(そんなことはどうでもいい!!今確かなのは・・・これがあいつを助ける最初で最後のチャンスなんだ!!)
そして極限まで強化された動体視力と身体能力を駆使しキンジは交差した指の真ん中で銃弾を挟み
――バゴンッ――
両手の指で銃弾を反らし、銃弾はキンジの頬を掠めると後ろの広告ポスターに写っていたタレントの顔を吹っ飛ばした
できた・・・出来っちまった・・・両手の指で少しずつ銃弾の軌道を逸らして外させる技・・・名付けるなら・・・
「銃弾逸らし(スラッシュ)!!」
そしてキンジは左足で落ちてくるスクラマサクスの柄尻を蹴り
――ドガッ――
剣は氷牙の右腕に突き刺さり驚くほどにすんなりと右腕を貫通してそのまま後ろの柱に磔にした
「グガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
氷牙は引き抜こうとしたがあの剣は氷牙に触られる事すら拒まれた剣だ、触れる事すら叶わぬままもがくほかなかった
その隙にキンジは氷牙の左腕も押さえつけると体を密着させて0距離体制になった
こうすればアイツお得意の蹴り技も使えない!後は・・・根競べだ!!
「氷牙・・・お前すげぇよ・・・俺は兄さんを・・・大切な人を失った時・・・何もする気にもなれなかった・・・ただ全てから目を背けて逃げ出したくなって・・・復讐してやろうとか仇を討ってやろうとかなんてすら考えもしなかった・・・それに引き換え・・・お前は全てを捨ててでも仇を討とうとして・・・それどころか俺達の事までも考えてくれてんだな・・・自分から凶悪殺人犯になって・・・俺にお前を殺させて箔をつけて・・・俺の甘ちゃんを直そうっていうんだからよ・・・」
「でもよ・・・こんな結末・・・レキが・・・お前以外の誰かが望んでるとでも思ってんのかよ!!!」
そう言ってキンジは体をのけぞらせると
「戻って来い!!この・・・大馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」
――ガスッ――!
渾身の力で氷牙の頭に頭突きをかました
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
――ガァン――!
だが氷牙も負けじと頭突きを頭突きで応戦してきた
「面白れぇ!!俺に石頭で勝てると思ってんじゃねえぞ!!」
そして二人は頭突きをぶつけ合った
何発も何発もお互い全力で頭突き合い、何度も繰り返すうちに皮は破け血が飛び散り頭蓋骨で直接ぶつけ合っている感覚さえあった
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「ラァァァァァァァッッ!!!」
――ゴガァン――!!
そして最後の一撃がぶつかると
「がぁっ!!」
キンジは後ろに倒れた
「キンジ!!」
アリアはキンジに駆け寄ると氷牙に銃を向けた
「しっかりして!一度引いて立て直すわよ!!」
だがキンジはアリアのガバメントを手で押さえると
「必要ない・・・俺の勝ちだ・・・」
「え?」
氷牙は・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
こちらを睨み付けたまま・・・立ったまま気絶していた
修学旅行Ⅰも間もなく終盤です